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第44話 ファーストコンタクト 後編
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「痛い痛い!」
頭をぐりぐりされているクロはじわじわとくる痛みを訴えるようにアスカに言う。だが、すこーしだけ力を弱めるだけでぐりぐり自体はやめない。
「昨日何したのかを教えてくれれば止めてやるよ」
「鬼! 悪魔! この人でなし!」
「はいはい、勝手に言ってろ。だけど、話すまでは逃がさないからな?」
「わかった、話すからそれ止めて!」
その言葉を聞くと、アスカは1度ぐりぐりを止める。うーっとクロは頭を抑える。余程痛かったのだろう。
「えっと……お姉ちゃんの意識がなかったから代わりにお姉ちゃんとして動いてました」
「代わりにっていうなら普通こういう騒ぎは起こさないよな?」
「仕方ないじゃん。皆に対してのお姉ちゃんの話し方なんてわからないんだから」
「……それもそうだな。でもそれならお前が皆の名前を知らない時点でおしまいじゃないか?」
「あ、その辺はお姉ちゃんの記憶を頼りに……あ」
瞬間、クロはしまったと言わんばかりに顔を青ざめた。
「ほぉー、記憶を頼りにか。それなら俺の話し方も記憶からわかるはずだよな?」
「ま、まあ、急に話し方変えるのは無理があるから……」
「お前さては、俺の事より遊ぶことに集中してたな」
「ギクッ」
何故こうも皆ギクッとした時に声を出すのか。この世界にそういう風習でもあるのかと言うくらいに口に出してくる。
「ま、確かに急に話し方を変えて演技をしたところでボロが出るのは当然だしな。クロの言い分も正しい」
「許してくれる?」
「今回だけだ」
「ありがとう!」
よく仏の顔も3度と言うが、アスカにとってはそんな3度も許すなんてことはない。というか、許す許さないかはその時の気分だったりしたことによって変わってくる。
もしも今回のように、ちゃんと辻褄が合っていたのならば最初のみ許す。人からの軽いいたずらも許す。
だが、何度もしつこかったり人としてやってはいけないことをした場合は許さない。人を殺すなんてことなどは尚更許すことができない。
「まあなんだ。理由を聞かずに頭をぐりぐりしたのは悪かった。すまない」
「いいよ、これでお互い様だから」
お互い様だと言っているが、やってしまったことと言えばアスカよりもクロの方が大きい気がするが、ここは黙っておこう。そう考えるアスカであった。
****
それからアスカはソニアの部屋に戻り朝食を食べた後、支度をしてレンとフレアと共に宿を出た。勿論、クロもアスカの体の中に戻っているので存在は勘づかれてはいない。
トイレから戻る途中にユノスに遭遇し、今日はどうするのかと聞いてみると……、
「ギルドマスターから連絡が来るまでこの街でゆっくりしておく」
と言っていた。しかし、変異種というあまりにも未知な存在を調べるとなるとそれなりに時間はかかるであろう。アスカ達が以前倒したディアボロスの変異種がまだ調べきれていないのが何よりの証拠だ。
「さてと、俺はちょいとここでお別れだ」
セヴィオルナの中を歩いているとフレアが突然そう言う。何か用事でもあるのだろうか。
「何かあるの?」
「ああ。少し父さんの仕事の手伝いがな」
「そう。頑張ってね」
「おう」
そう言ってフレアはアスカ達が進んでいた道とは別の方にある道を歩いて行った。
しかし、父親の手伝いとはなんとも親思いなのだろうか。きっとフレアの父親はフレアが最も尊敬し、感謝している人間なのだろう。
「それじゃあ私は行きましょう」
「そういえばソニアさん、俺達ってどこに向かってるんですか?」
「そういえば、僕も聞かされてませんが……」
何も聞かされずにとりあえずついて行っていたアスカは今自分達がどこに向かっているのかに疑問を持った。
そしてそれはレンも同じようで、ソニアはあ、と先程まで忘れていたかのような反応をしてアスカ達の方に振り向いた。
「えっとね、アスカちゃん達って明日が何の日か知ってる?」
「明日……アスカさん何知ってますか?」
「いや、何も」
「明日はダンジョンのお宝換算日よ」
お宝換算日──それはダンジョンで取れたお宝や古代武器などを換算する日である。そして同時に、そのお宝と古代武器が証拠となりダンジョン攻略に参加したということで報酬金が支払われる。その額は5万コルだ。
これだけでは少ないと感じるかもしれないが、ここからボーナスが入ってくる。そのボーナスは到達した階層によって5000コルずつ増えていく。それとお宝を合わせればそれなりの額にはなる。
「でも、どうして今日向かうんですか?」
「……アスカさん、流石にそれまで忘れているのならば少し心配です」
「え?」
アスカは何故今日向かう必要があるのかをもう1度考える。
──確かこの街に来たのは2日前。そして、村を出たのは………あれ、いつだっけ?
何故かナチュランの村を出た日と時間を思い出せない。それと、この街に着くまでにかかった時間もだ。
とにかく、わからないということは逆算して考えるしかない。レンとソニアに心配をかけさせたくない。
換算日が明日だとして、ソニアは今日に村に戻ると行った。それはつまり、ここから村まではある程度時間がかかる距離ということだ。だが、そんな2日もかかるような距離ではない。それならばもう昨日のうちに出ているはずだ。
つまり、村を出たのはこの街に着く前日だ。
「村を出たのは3日前ってことぐらいは流石に覚えてる」
「……少し間がありましたが、覚えているのならば安心です」
レンは少し先に歩き始めたソニアの後ろについて行った。そしてアスカも、何故最近のことを忘れていたのかに疑問を持ちながらついて行く。
『それは多分私との契約が影響してるね』
「……クロ」
「突然黒なんて言い出してどうかしたんですか?」
「あ、いや、えっと……そうだ、俺のイメージカラーってなんなのかなーなんて……」
「……確かに黒っぽいかもですが、どちらかと言えば群青色ですね」
「そ、そっか」
突然聞こえたクロの声で反応してしまい、その反応のした時に出た声がレンに聞かれてしまう。
一応適当に誤魔化すことができたが、これ以上妙なことをすれば本当に心配されてしまう。
『大丈夫、お姉ちゃんの心の声は聞こえてるから』
『さっきから心読まれてるのはそういうことか』
『うん。だから、他の人に聞かれる心配もなく話ができるよ』
『それは便利だ。ところで、契約の影響って?』
心の声で会話ができることがわかると、すぐに先程クロが言ったことについて質問する。できれば早いうちに手を打っておきたいからだ。
『言ったでしょ。私の力を使うと精神が傷つくって』
『言ってたっけ』
『言ったよ。それで、精神が傷つくってことはお姉ちゃんの魂が傷つくのと同じ。記憶が1部消えているのは魂が傷ついた部分を治そうとしたからね』
『消えるってことはちゃんと治らないのか?』
『それも言った。1度傷ついた魂はもう治らない。唯一できる治療方法は、その傷ついた部分を切り取ってそれ以上傷を広げないってことくらい。記憶が無いのはそれが理由』
『でも、思ったよりも消えてるのは少しだけだな』
『多少は私が抑えてるからだけど、消えた部分はわからない。もしかすると特に使わない記憶が消えたのかもしれないわ』
クロが抑えているから少ししか消えない。これだけ聞けばそこまで問題ないと思うだろう。
しかし、それは問題はそこではなくその先にある。塵も積もれば山となるという言葉があるように、使う度少し記憶が消えていくということは、何度も使えば大きく記憶は消えていくということだ。
「アスカさん、そろそろ馬車に乗りますよ」
「……ん、あー、すまん。ぼーっとしてた。それで、なんだって?」
「そろそろ馬車に乗ります。というか、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。だから心配するな」
「それならいいですけど……」
そしてアスカ達はセヴィオルナの馬車専用の出入口に着き、ナチュランに向かう馬車に乗せてもらった。なお、この時の支払いはいつも払わせては悪いということで、ソニアではなくアスカが行った。
馬車が出発してからしばらくすると、アスカがはっと何かを思い出し、早速クロに質問する。
『そういえば、まだ力使った覚えないぞ』
『……それは。私があの刃翼竜を殺すために使いました』
『その力って、この俺の体で使うと傷つくのはどうして俺の精神だけなんだ』
『私の力は私の力です。自分自身が耐性を持ち操れなければじめつするためにあるようなものでさ』
要するに、クロの力を使った代償はアスカだけに現れクロには何も起こらないということだ。力の持ち主なのだから当たり前である。
自分が寝ていた時に勝手に使われていたことに少し不満気だっだが、刃翼竜を討伐するために使ったというのならば仕方がない。それに、そうしなければ契約したというのにまたも死んでしまっていたであろう。
この力の使用については仕方がないということと、1度目ということで、次からは要相談という条件をつけて許すことにしたアスカであった。
頭をぐりぐりされているクロはじわじわとくる痛みを訴えるようにアスカに言う。だが、すこーしだけ力を弱めるだけでぐりぐり自体はやめない。
「昨日何したのかを教えてくれれば止めてやるよ」
「鬼! 悪魔! この人でなし!」
「はいはい、勝手に言ってろ。だけど、話すまでは逃がさないからな?」
「わかった、話すからそれ止めて!」
その言葉を聞くと、アスカは1度ぐりぐりを止める。うーっとクロは頭を抑える。余程痛かったのだろう。
「えっと……お姉ちゃんの意識がなかったから代わりにお姉ちゃんとして動いてました」
「代わりにっていうなら普通こういう騒ぎは起こさないよな?」
「仕方ないじゃん。皆に対してのお姉ちゃんの話し方なんてわからないんだから」
「……それもそうだな。でもそれならお前が皆の名前を知らない時点でおしまいじゃないか?」
「あ、その辺はお姉ちゃんの記憶を頼りに……あ」
瞬間、クロはしまったと言わんばかりに顔を青ざめた。
「ほぉー、記憶を頼りにか。それなら俺の話し方も記憶からわかるはずだよな?」
「ま、まあ、急に話し方変えるのは無理があるから……」
「お前さては、俺の事より遊ぶことに集中してたな」
「ギクッ」
何故こうも皆ギクッとした時に声を出すのか。この世界にそういう風習でもあるのかと言うくらいに口に出してくる。
「ま、確かに急に話し方を変えて演技をしたところでボロが出るのは当然だしな。クロの言い分も正しい」
「許してくれる?」
「今回だけだ」
「ありがとう!」
よく仏の顔も3度と言うが、アスカにとってはそんな3度も許すなんてことはない。というか、許す許さないかはその時の気分だったりしたことによって変わってくる。
もしも今回のように、ちゃんと辻褄が合っていたのならば最初のみ許す。人からの軽いいたずらも許す。
だが、何度もしつこかったり人としてやってはいけないことをした場合は許さない。人を殺すなんてことなどは尚更許すことができない。
「まあなんだ。理由を聞かずに頭をぐりぐりしたのは悪かった。すまない」
「いいよ、これでお互い様だから」
お互い様だと言っているが、やってしまったことと言えばアスカよりもクロの方が大きい気がするが、ここは黙っておこう。そう考えるアスカであった。
****
それからアスカはソニアの部屋に戻り朝食を食べた後、支度をしてレンとフレアと共に宿を出た。勿論、クロもアスカの体の中に戻っているので存在は勘づかれてはいない。
トイレから戻る途中にユノスに遭遇し、今日はどうするのかと聞いてみると……、
「ギルドマスターから連絡が来るまでこの街でゆっくりしておく」
と言っていた。しかし、変異種というあまりにも未知な存在を調べるとなるとそれなりに時間はかかるであろう。アスカ達が以前倒したディアボロスの変異種がまだ調べきれていないのが何よりの証拠だ。
「さてと、俺はちょいとここでお別れだ」
セヴィオルナの中を歩いているとフレアが突然そう言う。何か用事でもあるのだろうか。
「何かあるの?」
「ああ。少し父さんの仕事の手伝いがな」
「そう。頑張ってね」
「おう」
そう言ってフレアはアスカ達が進んでいた道とは別の方にある道を歩いて行った。
しかし、父親の手伝いとはなんとも親思いなのだろうか。きっとフレアの父親はフレアが最も尊敬し、感謝している人間なのだろう。
「それじゃあ私は行きましょう」
「そういえばソニアさん、俺達ってどこに向かってるんですか?」
「そういえば、僕も聞かされてませんが……」
何も聞かされずにとりあえずついて行っていたアスカは今自分達がどこに向かっているのかに疑問を持った。
そしてそれはレンも同じようで、ソニアはあ、と先程まで忘れていたかのような反応をしてアスカ達の方に振り向いた。
「えっとね、アスカちゃん達って明日が何の日か知ってる?」
「明日……アスカさん何知ってますか?」
「いや、何も」
「明日はダンジョンのお宝換算日よ」
お宝換算日──それはダンジョンで取れたお宝や古代武器などを換算する日である。そして同時に、そのお宝と古代武器が証拠となりダンジョン攻略に参加したということで報酬金が支払われる。その額は5万コルだ。
これだけでは少ないと感じるかもしれないが、ここからボーナスが入ってくる。そのボーナスは到達した階層によって5000コルずつ増えていく。それとお宝を合わせればそれなりの額にはなる。
「でも、どうして今日向かうんですか?」
「……アスカさん、流石にそれまで忘れているのならば少し心配です」
「え?」
アスカは何故今日向かう必要があるのかをもう1度考える。
──確かこの街に来たのは2日前。そして、村を出たのは………あれ、いつだっけ?
何故かナチュランの村を出た日と時間を思い出せない。それと、この街に着くまでにかかった時間もだ。
とにかく、わからないということは逆算して考えるしかない。レンとソニアに心配をかけさせたくない。
換算日が明日だとして、ソニアは今日に村に戻ると行った。それはつまり、ここから村まではある程度時間がかかる距離ということだ。だが、そんな2日もかかるような距離ではない。それならばもう昨日のうちに出ているはずだ。
つまり、村を出たのはこの街に着く前日だ。
「村を出たのは3日前ってことぐらいは流石に覚えてる」
「……少し間がありましたが、覚えているのならば安心です」
レンは少し先に歩き始めたソニアの後ろについて行った。そしてアスカも、何故最近のことを忘れていたのかに疑問を持ちながらついて行く。
『それは多分私との契約が影響してるね』
「……クロ」
「突然黒なんて言い出してどうかしたんですか?」
「あ、いや、えっと……そうだ、俺のイメージカラーってなんなのかなーなんて……」
「……確かに黒っぽいかもですが、どちらかと言えば群青色ですね」
「そ、そっか」
突然聞こえたクロの声で反応してしまい、その反応のした時に出た声がレンに聞かれてしまう。
一応適当に誤魔化すことができたが、これ以上妙なことをすれば本当に心配されてしまう。
『大丈夫、お姉ちゃんの心の声は聞こえてるから』
『さっきから心読まれてるのはそういうことか』
『うん。だから、他の人に聞かれる心配もなく話ができるよ』
『それは便利だ。ところで、契約の影響って?』
心の声で会話ができることがわかると、すぐに先程クロが言ったことについて質問する。できれば早いうちに手を打っておきたいからだ。
『言ったでしょ。私の力を使うと精神が傷つくって』
『言ってたっけ』
『言ったよ。それで、精神が傷つくってことはお姉ちゃんの魂が傷つくのと同じ。記憶が1部消えているのは魂が傷ついた部分を治そうとしたからね』
『消えるってことはちゃんと治らないのか?』
『それも言った。1度傷ついた魂はもう治らない。唯一できる治療方法は、その傷ついた部分を切り取ってそれ以上傷を広げないってことくらい。記憶が無いのはそれが理由』
『でも、思ったよりも消えてるのは少しだけだな』
『多少は私が抑えてるからだけど、消えた部分はわからない。もしかすると特に使わない記憶が消えたのかもしれないわ』
クロが抑えているから少ししか消えない。これだけ聞けばそこまで問題ないと思うだろう。
しかし、それは問題はそこではなくその先にある。塵も積もれば山となるという言葉があるように、使う度少し記憶が消えていくということは、何度も使えば大きく記憶は消えていくということだ。
「アスカさん、そろそろ馬車に乗りますよ」
「……ん、あー、すまん。ぼーっとしてた。それで、なんだって?」
「そろそろ馬車に乗ります。というか、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。だから心配するな」
「それならいいですけど……」
そしてアスカ達はセヴィオルナの馬車専用の出入口に着き、ナチュランに向かう馬車に乗せてもらった。なお、この時の支払いはいつも払わせては悪いということで、ソニアではなくアスカが行った。
馬車が出発してからしばらくすると、アスカがはっと何かを思い出し、早速クロに質問する。
『そういえば、まだ力使った覚えないぞ』
『……それは。私があの刃翼竜を殺すために使いました』
『その力って、この俺の体で使うと傷つくのはどうして俺の精神だけなんだ』
『私の力は私の力です。自分自身が耐性を持ち操れなければじめつするためにあるようなものでさ』
要するに、クロの力を使った代償はアスカだけに現れクロには何も起こらないということだ。力の持ち主なのだから当たり前である。
自分が寝ていた時に勝手に使われていたことに少し不満気だっだが、刃翼竜を討伐するために使ったというのならば仕方がない。それに、そうしなければ契約したというのにまたも死んでしまっていたであろう。
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