ひよこクスマ

プロトン

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第22話 気まずい声援

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ドラ息子のあの滑稽な「礼」の一件が終わった後も、周りの他の新入生たちからの、「侮蔑」と「感謝」が入り混じった複雑な視線が、依然として彼らの背中に突き刺さっていた。

特にクレイは、遠くない場所にいる、見るからに家柄が良く、華やかな服装をした数人の新入生が、極めて軽蔑的な眼差しでこちらを見ているのをはっきりと感じていた。その眼差しはまるで、「見ろよ、あんな気色の悪い奴とつるんで、本当に恥ずかしい」とでも言っているかのようだった。

これらの隠そうともしない、優越感に満ちた視線は、一本一本の細い針のように、クレイの敏感で誇り高い心に突き刺さった。

─ (•ө•) ─

クスマは、隣にいる「クレイ」という名の火山が、今にも噴火しそうだと感じていた。

彼が弓を握る手は、過剰な握力で関節が白く浮き上がり、まるで限界まで圧迫された、脆い白い歯のようだった。クスマは、彼の体内で、行き場のない怒りが「ぐつぐつ」と沸騰し、いつでもその傲慢な地殻を突き破り、熱い溶岩を、クスマというこの無垢で、弱々しく哀れなもやしの上に、ことごとく注ぎ込むのを、ほとんど聞き取れそうだった。

クスマはすでに、自分の頭の上のもやしを、彼に一本釣りされる覚悟を決めていた。
そして、あの「全部お前のせいだ」という理屈で、十分間にわたる、「栄誉」と「匂い」に関する説教を受ける覚悟も。

しかし、次の一瞬、火山の噴火口は、クスマが全く予想しなかった方向へと向いた。

クレイは勢いよく振り返り、クスマではなく、まだひそひそと囁いている「エキストラ共 」たちの方を向いた。

「おい!もやし!」

彼は大声でクスマへ叫びながらも、怒りに燃える両目は嘲笑者たちを射抜くように睨みつけた。

「お前を笑う馬鹿どもなんて気にするな!」

彼のこの突然の「声援」に、すでに審判を受け入れる準備ができていたクスマの脳は、一瞬にしてフリーズした。

「本当に才能のある奴は、陰でこそこそ悪口を言ったりしない。この俺様みたいにな!」

クレイは胸を張り、極めて誇らしげな口調で言った。

しかし、彼のその誇りは三秒も持たず、すぐに彼自身のひねくれた性格によって、完全に裏切られた。

「……まあ、この俺様も、お前が本当に臭いとは思うけどな、ハハハハハ!」

クレイのその矛盾に満ちた発言と、最後のあの乾いた、全く面白くない大笑いが、その場の雰囲気を、前例のない、極めて微妙で気まずいものへと陥れた。

クスマは呆然とし、隣にいるこの少年が、果たして自分を嘲笑しているのか、それとも庇っているのか、全く理解できなかった。

ふゆこはまだ状況がよく分からず、ただクレイが師匠に向かって大声で怒鳴っているのを見て、その目には困惑が満ちていた。

一方、みぞれは、どこか「安心した」ような眼差しでクレイを見ていた。彼女は、彼のあのひねくれた優しさを理解した、唯一の人物であるかのようで、その口元には、思わず、優しく、ほとんど見えないほどの微笑みが浮かんでいた。

─ (•ө•) ─

その、空気が凍りつきそうなほどの気まずさが、頂点に達しようとした時——
一つの、優雅で荘厳な鐘の音が、突然、世界樹の頂から響き渡り、まるで静かな湖面に小石を投じたかのように、その澄んだ響きが、見えない波紋となって、アカデミー全体へと瞬く間に広がっていった。

その鐘の音は、まるで人の心を安らげる魔力でも持っているかのように、広場中の全ての騒々しい、悪意に満ちた喧騒と、あのねっとりとした、良からぬ意図の視線を、この一瞬にして、静寂へと変えた。

一人の、案内役のアカデミーの先生が、魔力で自身の声を増幅させ、高らかに宣言した。

「開学式がまもなく始まります。全ての新入生は、直ちに中央講堂へ集合してください!」

この「天からの助け舟」が、ちょうど、クレイと嘲笑者たちとの間の、一触即発の対峙を断ち切った。

みぞれは、張り詰めていた肩の力が、微かに抜けるのを感じた。彼女は、ようやく新鮮な空気が吸えたかのように、そっと、音もなく息を吐き出した。

「早く行きましょう」彼女は振り返り、いつもより優しい口調で、まだ硬直している仲間たちに言った。「式に遅れてしまうわ」

この、これ以上ない正当な口実を得て、元々様子を伺っていた新入生たちも、まるで許しを得たかのように、次々と向きを変え、講堂の方向へと歩き始めた。あのねっとりとした視線も、それに伴って消え去った。

クレイは、ようやく面目を保てたかのように、軽蔑的に「ふん」と鼻を鳴らすと、もう自分を正視することさえできない奴らを相手にせず、仲間たちの後を追った。

こうして、起こるかもしれなかった、気まずさと未知に満ちた衝突は、跡形もなく消え去った。

講堂へと向かう道すがら、ずっと黙っていたふゆこが、突然、小声でクスマに尋ねた。

「師匠、さっき……クレイは、彼なりのやり方で、師匠への悪意を追い払ってくれていたのでしょうか?」

クスマはふゆこのあの澄んだ、信頼に満ちた瞳を見て、先ほどのクレイの、「お前を護りたい、でも認めたくない、だからお前ごと一緒に罵ってやる」とでも言いたげな、ひねくれた様子を思い出した。

彼は直接は答えず、代わりに、まるで何か深遠な知識でも授ける教師のような、勿体ぶった口調で言った。

「ふゆこ、覚えておきなさい。これは、単なる『私のために悪意を追い払う』ということではない」

「えっ?では、何なのですか?」ふゆこは不思議そうに小首を傾げた。

クスマの口元に、意味深長な微笑みが浮かび、ゆっくりと言った。

「そ れ は、『ツンデレ』 と い う」 

「ツン……デレ?」

ふゆこは、この、彼女にとってあまりに複雑な言葉を、一生懸命、小声で繰り返し、そして、それを心に深く刻み込んだ。
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