ひよこクスマ

プロトン

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第24話 求愛信号?

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トントン導師のあの不気味な視線にロックオンされ、クスマは全身の羽毛が逆立った。彼の脳は瞬時に高速回転状態に入り、警報が鳴り響いた。

(だめだ!何か手を打たないと!今すぐ彼女の俺への興味を失せさせなければ!)

危機一髪のその時、クスマの視線は、隣にいる、まだ不機嫌そうな顔をしている、完璧な「スケープゴート」——クレイ——を捉えた。

絶妙な(と本人が思っている)逃走計画が、瞬時に形作られた。

クスマは勢いよく胸を張り、迅雷の勢いで翼の先を伸ばし、隣にいる呆然としたクレイを指差すと、人生で最も大きく、最も響き渡る声で、トントン導師に向かって叫んだ。

「先生!今話したのは俺じゃありません、彼です!」

─ (•ө•) ─

クスマのあの悲痛な、そして「正義感」に満ちた告発が、空気中に響き渡った。

その場の雰囲気は、瞬時に極めて奇妙な静寂に包まれた。

彼に指差されたクレイの顔の表情は、「驚愕」から「呆然」へ、そして「お前、気でも狂ったか」へと、極めて複雑な変化を遂げた。

「……はぁ?」

クレイは喉の奥から、意味不明な単音節を一つ絞り出した。

しかし、トントン導師はクスマのその拙劣な弁解を完全に無視した。彼女の口元には、かえって、より深く、遊び心に満ちた微笑みが浮かんだ。彼女は眉一つ動かさず、まるでクスマの悲痛な叫びが、彼女にとっては、空気中のほんのわずかな面白い振動に過ぎないかのようだった。

その分厚いゴーグルの奥に隠された鋭い両目は、依然として固くクスマをロックオンしており、まるで「お前はもがけばもがくほど、面白くなる」とでも言っているかのようだった。

(終わった、責任転嫁は失敗だ!)

クスマは自分の心臓が、まるで見えない手に固く握り締められたかのように感じた。

(どうする?どうすればいい?この狂った女は全く常識が通じない!どうすれば、彼女に俺を『危険』だと思わせ、『敢えて』手出しさせないようにできるんだ?!)

第一案が完全に破綻したのを見て、一つの、「生物の警告色」に関する青い惑星の豆知識が、まるで最後の藁のように、クスマの脳裏をよぎった。

(そうだ!警戒色だ!思い出した!)

(青い惑星では、多くの弱い生物が、例えば鮮やかな色のヤドクガエルやテントウムシのように、自分のその目立つ、周囲の環境にそぐわない色を使って、天敵に『私には猛毒がある、食べたらひどい目に遭うぞ!』と警告するんだ)

(だが……俺の羽は黄色で、そんなに鮮やかでもないし、特別でもない……)

クスマの心に、一瞬の落胆がよぎった。

(違う!色が足りないなら、『動き』と『音』で補えばいい!
あのヤドクガエルたちも、敵を警告する時、喉を膨らませて、大きな鳴き声を上げていたはずだ!)

(そうだ!俺が奴らの姿と声を真似して、自分を奇妙で大声に見せれば、彼女はきっと『こいつは毒を持っているかもしれない』と思って、俺に近づこうとはしないはずだ!)

決心した後、クスマは全員の驚愕の眼差しの中、突然、彼の「パフォーマンス」を開始した。

「おい!お前、また何を企んでるんだ?!」

最初に驚きの声を上げたのは、クレイだった。

見ると、クスマは勢いよく胸を張り、深く息を吸い込み、そして、力一杯、自分の両頬を、巨大でまん丸な風船のように膨らませた。 

彼は記憶の中の、ヤドクガエルが警告を発する時の、あの「鳴嚢を膨らませる」姿を、必死に真似た。
それと同時に、彼の喉からは、一連の意味不明で、高低入り混じった「グオッ!グワッ!」という音と口笛が発せられた。

その音は、彼自身にとっては、致命的な脅威に満ちた警告のつもりだったが、周りの者にとっては、まるで喉に何かが詰まり、息も絶え絶えに、悲鳴を上げているひよこのようだった。

「師匠……大丈夫でしょうか?」

ふゆこは心配そうに、小声で隣にいるみぞれに尋ねた。

みぞれは答えず、ただ手で、そっと自分の顔を覆い、長いため息を一つ、絶望に満ちて漏らしただけだった。

周りの新入生たちは、さらに、「こいつ、本当に狂ってる」という眼差しで、無意識に彼からさらに数歩距離を取った。

しかし、トントンの顔に浮かんでいた、元々はただ「興味深い」というだけの微笑みが、クスマのこの奇妙な「威嚇」行動を見て、瞬時に、狂喜と極致の好奇心が入り混じった、科学者が新種の生物を発見した時のような、不気味な狂熱へと変わった。

「……面白い発声方法ね。地域的な威嚇行動かしら?それとも」彼女の声は興奮でわずかに震えていた。「これは、特定の異性を引き付けるために進化した、珍しい……求愛信号?」

トントンは独り言を言いながら、ポケットから小さな手帳を取り出し、猛烈な勢いで記録を始めた。その分厚いゴーグルの奥の瞳は、これまでにない、まるでクスマを内側から外側まで徹底的に解剖して研究したいとでも言うかのような、極度に危険な光を放っていた。

─ (•ө•) ─

クスマが冷や汗を流し、自分がその視線によって完全に分解されてしまいそうだと感じていた、まさにその時、隣にいた、心臓病を起こしかけていた引率の先生が、ついにこの好機を掴んだ。

「——よし!新入生の諸君、見学はここまでだ!」

引率の先生の声は、突然、オクターブが八度も上がり、それは内心の極度の恐慌を隠すために、わざと作り出した、力みすぎた大声だった。彼は一足飛びに前に出て、まるで移動する壁のように、トントンと新入生たちの間に立ちはだかった。

「トントン導師!開学式に本当に遅れてしまいます!」

彼はほとんど懇願するような、泣き出しそうな口調で言うと、トントンの返事を待たずに、すぐさま振り返り、まだ呆然としている新入生たち全員に向かって叫んだ。

「何をしてる!全員、私についてこい!急げ!」

「で、でも先生……」

「でもも何もない!早く行け!」

言い終わると、彼はまるで狼から羊の群れを避難させる羊飼いのように、押したり引いたりしながら、クスマを含む新入生全員を、大急ぎでこの危険地帯から連れ去った。

クスマは押されて歩きながら、思わず振り返った。

見ると、トントン導師は追ってこず、ただ一人、その場に立っていた。

彼女はゆっくりと、あの不気味な微笑みを収め、顔には周りの全てに無関心な、学者の表情が戻っていた。彼女は頭を下げ、まだ泡立っている、あの危険な液体の入ったフラスコを、再びいじり始めた。まるで先ほどの全てが、どうでもいい、小さな出来事に過ぎなかったかのようだった。

しかし、クスマは、あの「興味」に満ちた、まるで実体を持つかのような視線が、まだ遠くから、固く、自分の背中にロックオンされているのを、背中に芒刺を感じるように、感じ続けていた。彼の姿が、道の向こうに完全に消えるまで……。
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