ひよこクスマ

プロトン

文字の大きさ
37 / 58

第37話 空間の指輪

しおりを挟む
どれほどの時間が経ったか、クスマはようやく彼の「カエルハーレム」から、魂も抜ける思いで逃げ出してきた。 

彼の羽毛はめちゃくちゃで、顔にはいくつかの怪しい、湿った跡が残っていた。

「師匠!」

ふゆこが最初に、心配そうに駆け寄り、ハンカチで彼の顔を拭こうとした。

「……ぷっ」

傍らにいたクレイは、クスマのその惨状を見て、一瞬呆気にとられたが、すぐに猛然と背を向けた。しかし、その肩は止めどなく震えていた。 

しかし、トントン導師は彼の惨状を全く意に介さなかった。

彼女はただ満足げに、自分の小さな手帳に、最後の実験データを書き留め、それから顔を上げ、まるで一つの「完璧な芸術品」でも見るかのような、称賛に満ちた眼差しで、無様なクスマを見つめた。

「悪くないわ」彼女は頷き、簡潔で、至高の評価を下した。

それから、彼女は手帳をしまい、顔の狂熱もそれに伴って収まり、周りの全てに無関心な、学者の表情へと戻った。

「さて」彼女は言った。「実験は終わりよ。これから、本題に入りましょう」

─ (•ө•) ─

クスマが、これからもっと恐ろしい実験に直面するのではないかと身構えていた、まさにその時。

意外にも、彼女は目の前のこの四人の新入生を見て、初めて、「狂科学者」ではない、どこか「困惑」に近い表情を浮かべた。

「……ごめんなさい」彼女は少し不自然に言った。「私、学生を指導したことがなくて、どう教えればいいのか分からないの」

彼女は少し間を置き、どうやって「罪滅ぼし」をしようか考えているようだった。それから、彼女の手の指輪が突然、魔力の波動を放ち、四つの、同じデザインの、名も知れぬ金属で作られたシンプルな指輪が、彼女の手の中に現れた。

「これを、あなたたちに。まあ……顔合わせの記念品よ」

彼女は四つの指輪を、それぞれまだ呆然としている四人に手渡した。

「これは空間の指輪よ」彼女はまるで道端の石でも紹介するかのような、平坦な口調で付け加えた。「まあ、中の空間はそんなに広くないけど。一立方メートルくらいで、生き物は収納できないわ」

クスマたち四人は、呆然と、手の中のこの、市場では値札さえ見かけない、伝説の、高価な魔法道具を見つめ、頭の中は真っ白になった……。

─ (•ө•) ─

しかし、これで終わりではなかった。

トントン導師は、一人一人に空間の指輪一つでは、彼女の「どう教えればいいか分からない」という謝罪の気持ちを補うにはまだ不十分だと感じたようだった。

彼女の手の指輪が再び魔力の波動を放ち、二つの、人を誘う香りを放つ、透き通った果実が、彼女の手の中に現れた。その香りは、ただ嗅いだだけで、クスマとふゆこに、思わず、ごくりと喉を鳴らさせた。

「これは秘境で手に入れた、魔力の上限を少量増やすことができる果実よ」彼女はそう言って、果実をそれぞれふゆことクスマに手渡した。「あなたたちはまだ1級を突破したばかりでしょう?早く食べて、他の新入生の進捗に追いつきなさい」

四人は再び、度肝を抜かれた。

(こ……これって、さっき先生が授業で言っていた、市場には出回らない『天材地宝』じゃないか?!)

トントン導師は続いて、クレイとみぞれに視線を向けた。

「あなたたち二人は2級になったばかりだから、今一番重要なのは実力を安定させること。果実で急激に力を上げすぎると、基礎が疎かになるわ」

そう言うと、彼女はまた指輪から、全体が漆黒で、弓本体に複雑なルーンが刻まれた高級な長弓を取り出し、無造作にクレイに投げ渡した。

「この安物のおもちゃで、とりあえず我慢なさい」

続いて、彼女はみぞれに尋ねた。「あなたはどんな武器が必要?」

みぞれは一瞬呆気にとられ、それから小声で答えた。「……小太刀、です」彼女は付け加えた。「以前、一本持っていたのですが、壊れてしまって、ずっと気に入るものが見つからなくて……」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、トントン導師は再び空間の指輪から、鞘さえも非凡なオーラを放つ小太刀を一本、取り出した。

「これはまあまあ悪くないわ。気に入るかどうか、見てみなさい。確か、少し名の知れた職人が作ったものだったはずよ」

みぞれは呆然とそれを受け取り、その手が柄に触れた瞬間、すぐに、その完璧なフィット感に心を奪われた。

「気に入ったのなら、血で主を認めなさい」トントン導師はこともなげに言った。

「血で主を?!」

クスマ、クレイ、ふゆこは、この、伝説の中でしか聞いたことのない言葉を聞いて、完全に呆然とした。

みぞれは指示通り、一滴の血を柄に垂らした。次の一瞬、小太刀全体が清らかな微かな音を立て、みぞれは衝撃を受けた。なんと、彼女は、この刀の内部に、ぼんやりとした、生まれたばかりの意識が存在するのを、感じることができたのだ!

「この刀の『器霊』は生まれたばかりなのよ」トントン導師は説明した。「一度あなたを主と認めれば、もう他の者には軽々しく使わせたりはしないわ」

手の中の空間の指輪、天材地宝、史詩級の武器を見つめ、そして目の前の、その気前の良さが常軌を逸している導師を見て、クスマたち四人の脳裏に、時を同じくして、一つの、絶望と幸福が入り混じった、荒唐無稽な考えが浮かんだ。

(僕たち……もしかして、金持ちの女に養われてるんじゃないか……!?) 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...