神と穢れの紙一重

白湯の氷漬け

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邂逅

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 叔父に気づかれないよう、鳥居はくぐらず祠に辿り着いた。水面の氷に月光が反射し、祠はいっそう影を落とした。
 緊張で脚がこわばる。深呼吸してそれと対峙し、友人の日記を思い出した。椿を祠に置いておき、最初に行うはずの湖でのお清めは、最後に回して。
 手の上下をいつもの逆にして交差させ、満月にかざす。右脚でなく、左脚を後ろに引いてしゃがみ、勢いよく両腕を開いて袖をはためかせる。いつもならばここで椿を供えるのだが。

 私は祠に置いた椿を手に取り、眉間に皺を寄せ、手首をひねって花をむしり取った。花弁を千切って口に含み、上を向いてむりやり飲み込む。甘さと土の香りが鼻をついた。歯を食いしばり、次々と食べては飲み込んでいく。最後のひとかけらが済んだところで、冷ややかな風が頬を撫ぜて通り過ぎていく。

 湖の向こうから足元へ、うっすらと霧が広がってきていた。悪寒が背を走る。しかし止めるわけにはいかない。

 祠の正面に立ち、目を閉じて祝詞をそらんじる。息継ぎまで正確に、冷静にと心の中で何度も自分を宥める。冷気が肌にまとわりついている。永遠に感じるそれを終え、ゆっくりと瞼を開けて、周りの異常に気が付いた。

 霧で一寸先も見えない。ざあっと鳥肌が、腕を、首筋を襲う。あとは湖に身体を浸すだけだ、祠のある方が湖だ。手を前に突き出して下の方を探るが、祠の目の前に立っていたはずなのに何も無い。
 かひゅっと喉の奥が鳴る。嘘だ。嘘だ、手を四方に振り回し、足がふらつく。視界が暗くなっていき、ぐらりと前に倒れかけた。

 突然、目の前に手が差し出された。夢中で掴むと引き上げられ、その手首のくたびれた腕時計に爪が当たった。悴んだ自分の手よりも更に冷たい。
 立ち直し、放そうと手を緩めると、構わず力強く引っ張られた。何度も転びそうになりつつ、されるがままについていく。

 数十歩進んで、途端にふっと手が消えた。行き場のなくなった右手をそのままに固まっていると、ざあっと風が吹き荒れて、目の前の霧が晴れた。一歩先に、氷が薄く、しかし水底がどこまでも深い湖が広がっていた。

「ありがとう」

 胸にすっと入ってくる穏やかな声に息を呑む。振り向こうとした途端、とん、と押されて体勢を崩した。湖に落ちていく永遠にも感じられた一瞬、友人の今にも泣きだしそうな笑顔が、霧に包まれて消えていくのが見えた。

あつひで──」

 がぼっと泡を吐き出す。氷のかけらと共に沈み込み、淡い瑠璃色の水面がどんどん遠ざかっていく。水の冷たさが刺すように痛み、もがくほど重い装束がまとわりついて戻れない。
 遠くぼやけていく視界の真ん中で、満月が凛冽に輝いていた。



 瞼を開くと、光が目を刺した。思わず強く瞑り、滲んだ視界を徐々に広げていく。それは辺り一面の雪に反射した夕陽だった。体はコートで温かく包まれて、垣根の前に立ちすくんでいる。

 椿が目の前でぼとりと落ちた。私は彼の家へと駆けだした。
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