妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由

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二十五話 騎士団員視点

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 「そっちは終わったか?」

 「あぁ、終わったよ」

 赤いオーガまでの道のりは順調に進んでいた。

 道中でゴブリンやコボルド、オークと出くわしたりしたがゴブリンやコボルドの数はそう多くなく新米と言えど騎士二人の敵ではなかった。
 オークに関しても道中に一匹現れただけだったので、二人でかかればどうということはない。

 だが、俺は道中での魔物との戦闘に違和感を覚えていた。
 
 いつもよりも身体が動きにくい。
 もしかすると、ここ最近警備ばかりでまともに魔物との戦闘をしていなかったからでは? とも思ったが訓練を怠ったつもりはない。ここまで動きが鈍るわけがない。
 騎士といえど人間なので日によって身体の動きがいい日もあれば悪い日もある。それにしてもこれは身体が動かなさすぎではないか。

 まさか、緊張しているなんてこともないだろうし。

 俺は何故こんなにも違和感があるのか、結局分からずに進むことになった。

 それから小一時間ほどで、目的の場所に到着した。

 報告ではここから歩いて十数分の位置に赤いオーガが確認されている。

 馬車から降りた副団長を先頭にして、その後ろを騎士、魔導師、予備の剣などの荷物を持った俺とルデウスがついていく。

 少し歩くと、前を歩いていた魔導師が止まる。
 俺たちの位置からでは分からないがおそらく赤いオーガを見つけたんだろう。

 固まっていた討伐隊はすぐに散開し、魔導師は自分が短時間で放てる出来る限り強力な魔法を放てるように準備する。

 「……はぁ…はぁ…はぁ…」

 散開したことで俺たちの位置からでも赤いオーガが見えるようになった。
 幸いまだ俺たちのことには気がついていない。

 思い出すだけでも怖かった化け物だ。
 目と鼻の先にそれがいるとなれば怖くないはずがない。
 心臓は今にも破裂しようなほどに鼓動を早くし、それほど疲れているわけでもないのに息が乱れる。
 それに加えて頭の中が恐怖一色に染まるような感覚。今にも倒れてしまいそうだ。

 「カイル、大丈夫さ。きっと勝てるよ」

 ルデウスが俺の心中を察してか小声でそう言ってくる。

 そうだよな。この討伐隊は今の王国の戦力で作れる最強の討伐隊のはずだ。
 負けるはずがない。
 それに、今こんなところで倒れたら俺の目的が果たせなくなる。
 絶対にエレナの元に帰るんだ。

 俺の今までの決意を心の中で再確認し終えると同時に魔導師団の魔法が放たれる。

 赤いオーガの近くで長々と魔法を準備するわけにはいかないから、短時間で放てる魔法にしたとはいえ、ここにいる魔導師なら致命傷を与えることも難しくはない。
 それが、副団長の見解だった。

 放たれた二十の魔法は一発も外れることなく赤いオーガを捉えた。

 赤いオーガがいた場所に大きく煙が立つ。

 そして、次の瞬間に出てきた赤いオーガの身体には少々の傷がついている。だが、この程度の傷では致命傷と呼ぶには程遠い。
 一つ目の作戦は失敗だ。

 しかし、そんな事は予想の範囲内。
 前衛の騎士は構えていた剣に力を入れ赤いオーガを迎え撃つ。後衛の魔導師は再び魔法を放てるように魔力を操り、準備を開始する。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」

 赤いオーガが一人の騎士に向かっていき、騎士も雄叫びをあげながら迎え撃つ。

 だが、騎士の力強い雄叫びはすぐに聞こえなくなった。
 赤いオーガが片手に持っていた大剣の横なぎが騎士の身体に直撃したからだ。
 避けられないと思い剣でガードはしたものの、身体は横に折れ曲り、明らかに生きている状態ではなくなっていた。

 一気に討伐隊に絶望の雰囲気が漂う。

 「おい! 何を諦めようとしている!
 やれる事はまだまだあるだろ! 私たちが国民の運命を背負っていること、忘れるな!
 全力を尽くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」

 副団長が赤いオーガに向かっていく様子を見て、他の騎士も続く。

 そこから、前衛も後衛も死力を尽くして戦った。
騎士が死のうと、魔導師が死のうと誰一人として諦めることなく立ち向かった。
 それでも赤いオーガにつけられる傷は切り傷が精一杯。

 この後、本当に勝てるのか。
 そう思っている時、ルデウスが俺の名を呼んだ。

 「カイル!」

 「なんだ?」

 俺の方に駆け寄ってきたルデウスに問う。

 「今がチャンスだ。お前妹のとこ行くんだろ?」

 騎士も魔導師も死力を尽くして戦っている今、隊列も何もないし、常に動いているから誰が死んだか、いなくなったなんて正確に把握できない。
 討伐隊の意識は全て赤いオーガに向けられている。確かに今がチャンスだろう。

 「お前のことは後で適当に言っといてやるから」

 「本当に助かる。最後までありがとな。
 また何処かで会おうな。死ぬなよ」

 「死なねぇよ。俺だって勝てないって分かったら、頃合いを見計らって逃げるからよ。
 さっさと行け」

 「また何処かでな」

 俺は荷物を捨ててネケラスに向かった。
 親友が生きて帰れることを願って。
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