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「あの……どうして会いに来てくれたんですか?」
「…………」
彼は黙ったまま答えない。
「……もしかして、もう来てくれなくなったりするんですか?」
不安になって尋ねると、彼は慌てて否定した。
「違う!そういうわけじゃないんだ。」
「じゃあ、教えてください。」
「それは――」
「――お前に伝えたかったからだ。」
「私に?何を……?」
彼は優しい眼差しでこちらを見つめていて、その視線に鼓動が激しくなるのを感じた。顔に熱が集まっていく。そんな私を見て何を思ったのか、彼は口元を緩めた後でおもむろに口を開いた。
――――――
「好きだ」
「……え?」
……今なんて言った?
「お前のことが好きだって言ったんだ。」
(好き―――私が?ザックスさんのことが?)
頭が混乱して思考停止状態に陥る。心臓だけがばくばくとうるさい。何も言えないでいると、彼はさらに続けた。
「驚かせて悪い。だが、どうしてもシノに伝えたくなったんだ。」
「……っ、わ、私は……、えと…その」
ようやく絞り出せたのは意味のない言葉だった。
「分かってる。いきなり言われても困るよな。……でも、もし少しでも可能性があるなら考えてみてくれないか?頼む。」
そう言って頭を下げる彼を見た時、咄嵯に声をかけていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「?」
不思議そうな顔をする彼を前に、私は必死に言葉を探す。そして、思い切って告げた。
「わ、私も!…………す、好きです。ザックスさんのこと。」
……言ってしまった。
恐るおそる彼の反応を見ると、零れそうなほどに目を丸くしていた。そして次の瞬間、嬉しそうに目を眇め顔を綻ばせた。
「本当に……?…夢じゃねえよな?」
「ふふ。はい、夢じゃないですよ。」
熱い視線に見つめられ、確かめるようにぎゅっと手を握られる。そのまま優しく引き寄せられて抱きしめられた。私もそっと彼の大きな背に腕をまわす。彼の体温を感じてますますドキドキしたけれど、それ以上に幸せで堪らなかった。
しばらく経ってから名残惜しくも身体を離すと、彼がぽつりと言った。
「俺みたいなのを受け入れちまうなんて、シノは本当に女神のようだな。いや天使か……」
「………」
色々ツッコみたい所はあるけれども。それより、俺みたいなのって…。この擦り込まれた価値観をどうにかしなくては。これから一緒に生きていく中で、ずっと自分を卑下し続けるなんてきっと辛い。お互いコンプレックスはあれど、想い合っているならばそれだけで良いと思うのは甘いだろうか。
「……ザックスさん。これから、お、お付き合いする上で、ひとつ約束してくれませんか?」
「?約束する。俺もシノに約束して欲しいことがあるんだ。恋人になったんだから、呼び捨てで呼んでくれ。」
「(まだ何も言ってないよ!)……分かりました。ザックス。」
「おう。シノ。で、約束ってなんだ?」
「……ええと。……私たち相思相愛になれて、それ以上でもそれ以下でもないと思うんです。だから、相手を尊重するという意味でも、容姿を理由に自分を卑下してしまうのは辞めましょう?」
「……」
言い切ると、ザックスは俯いてしまった。…やはり幼い頃から染み付いた価値観はそう簡単には払拭出来ないのだろうか。
「ザックス。」
私はそんなザックスに歩み寄ると、大きな彼の肩にそっと手を置く。
「……なんだよ。」
顔を上げたザックスに、微笑みを浮かべながら言った。
「貴方がどう思っていても、私は貴方を美しいと思ってますよ?」
「……っ!?な、何馬鹿なこと言ってんだ!俺が美しい訳……」
「あるの。」
「……」
「…少なくとも、私の目には貴方はとても綺麗に見える。カッコいいですよ。」
私は背伸びをして彼の頬を両手で包み込む。そして、そのまま彼に口付けた。
「…………」
彼は黙ったまま答えない。
「……もしかして、もう来てくれなくなったりするんですか?」
不安になって尋ねると、彼は慌てて否定した。
「違う!そういうわけじゃないんだ。」
「じゃあ、教えてください。」
「それは――」
「――お前に伝えたかったからだ。」
「私に?何を……?」
彼は優しい眼差しでこちらを見つめていて、その視線に鼓動が激しくなるのを感じた。顔に熱が集まっていく。そんな私を見て何を思ったのか、彼は口元を緩めた後でおもむろに口を開いた。
――――――
「好きだ」
「……え?」
……今なんて言った?
「お前のことが好きだって言ったんだ。」
(好き―――私が?ザックスさんのことが?)
頭が混乱して思考停止状態に陥る。心臓だけがばくばくとうるさい。何も言えないでいると、彼はさらに続けた。
「驚かせて悪い。だが、どうしてもシノに伝えたくなったんだ。」
「……っ、わ、私は……、えと…その」
ようやく絞り出せたのは意味のない言葉だった。
「分かってる。いきなり言われても困るよな。……でも、もし少しでも可能性があるなら考えてみてくれないか?頼む。」
そう言って頭を下げる彼を見た時、咄嵯に声をかけていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「?」
不思議そうな顔をする彼を前に、私は必死に言葉を探す。そして、思い切って告げた。
「わ、私も!…………す、好きです。ザックスさんのこと。」
……言ってしまった。
恐るおそる彼の反応を見ると、零れそうなほどに目を丸くしていた。そして次の瞬間、嬉しそうに目を眇め顔を綻ばせた。
「本当に……?…夢じゃねえよな?」
「ふふ。はい、夢じゃないですよ。」
熱い視線に見つめられ、確かめるようにぎゅっと手を握られる。そのまま優しく引き寄せられて抱きしめられた。私もそっと彼の大きな背に腕をまわす。彼の体温を感じてますますドキドキしたけれど、それ以上に幸せで堪らなかった。
しばらく経ってから名残惜しくも身体を離すと、彼がぽつりと言った。
「俺みたいなのを受け入れちまうなんて、シノは本当に女神のようだな。いや天使か……」
「………」
色々ツッコみたい所はあるけれども。それより、俺みたいなのって…。この擦り込まれた価値観をどうにかしなくては。これから一緒に生きていく中で、ずっと自分を卑下し続けるなんてきっと辛い。お互いコンプレックスはあれど、想い合っているならばそれだけで良いと思うのは甘いだろうか。
「……ザックスさん。これから、お、お付き合いする上で、ひとつ約束してくれませんか?」
「?約束する。俺もシノに約束して欲しいことがあるんだ。恋人になったんだから、呼び捨てで呼んでくれ。」
「(まだ何も言ってないよ!)……分かりました。ザックス。」
「おう。シノ。で、約束ってなんだ?」
「……ええと。……私たち相思相愛になれて、それ以上でもそれ以下でもないと思うんです。だから、相手を尊重するという意味でも、容姿を理由に自分を卑下してしまうのは辞めましょう?」
「……」
言い切ると、ザックスは俯いてしまった。…やはり幼い頃から染み付いた価値観はそう簡単には払拭出来ないのだろうか。
「ザックス。」
私はそんなザックスに歩み寄ると、大きな彼の肩にそっと手を置く。
「……なんだよ。」
顔を上げたザックスに、微笑みを浮かべながら言った。
「貴方がどう思っていても、私は貴方を美しいと思ってますよ?」
「……っ!?な、何馬鹿なこと言ってんだ!俺が美しい訳……」
「あるの。」
「……」
「…少なくとも、私の目には貴方はとても綺麗に見える。カッコいいですよ。」
私は背伸びをして彼の頬を両手で包み込む。そして、そのまま彼に口付けた。
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