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漂流した教室編
殺戮のテーネ
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「何があった!」
俺達は急いで花街の中まで向かった。魔物が侵入したってんなら倒さなきゃいけない。だが状況としては単なる火事らしい。単なる火事といえばそれまでだが、大きな劇場が包まれるほどの大火。ボヤなどでは決してない。
「急に劇場の一つが燃えて……」
「俺が来たのとは別のか」
俺がシンジを引き取ったのとは違う劇場だが、周囲には木造の建物があり延焼の危険が大きい。
「中に逃げ遅れた人が……忽ち燃え広がって……」
「私がいく。バスターの加護なら多少の火くらいどうってことない」
夜の仕事をしてるだけあり、まだ中では寝ていただろう従業員が避難出来ていない。フィルセが中へ助けに行くことにした。
「テーネくんも中へ入ったが……」
「あいつだけには任せられん。行ってくる」
テーネの名を聞くと、フィルセはもの凄い速度で火災現場に突入していった。流石に人命優先の状況で戦いをおっぱじめはしないだろう。
「リュウガ、バケツできた」
「バケツ? え?」
俺が少し目を離していると、ゼヴォが木でバケツを作っていた。早い。箱組の木を縄で固定して水が漏れない様にしたのか。面のサイズ取りが正確じゃないと漏れるぞ……。なんて芸当だ。
ともあれこれでバケツリレーだ。縄で取っ手も作ってある。
「普通持って来た方が早いんだが……ここにあるんならそっちのがいいか。はい」
「リュウガは?」
俺は斧を手に、あることを考えた。これだけ大きい火だとバケツリレーにも限界はある。延焼を食い止めるのも並行しないといけない。
「周囲の木造建築を倒して延焼を食い止める。建物の状態じゃ焚火の組み木だ。潰せば多少マシになる」
建物の状態では空気が通る分、燃えやすい。同じ量の木材でもぺしゃんこにしてしまえば少しは時間が稼げるだろう。俺は斧を振るって周囲の建物を分解し始めた。建てるのは苦手だが、倒すのは得意だ。
俺は一心不乱に建物を倒した。どれだけ効果があるか知らないが、何もしないよりはいいはず。
「どうなった?」
気づけば、周囲を一通り倒して一周し戻ってきた。火の手は収まらないが、水をかけているのが幸いして周囲に燃え広がってはいない。
「リュウガ!」
劇場の三階辺りからフィルセが数人を抱えて飛び出してくる。無事着地したが、助け出した人は煙を吸ったのか意識が怪しい。
「建物がバラバラになってるんだけど……おかげで飛び降りやすくなったけど」
「ああ、燃え広がらない様に倒した」
「早いわね……まだいるみたいだし、もう一回行ってくる」
フィルセは俺に助けた人を預け、もう一度火災現場に踏み込もうとした。
「テーネは?」
「見なかったけど。せめて血は残して死んでほしいわ……」
テーネとは遭遇しなかったらしい。しかし俺は回復魔法が使えないんだよな……誰か他にいればいいんだが。
「あ、バスターいるじゃない」
「ん、ああ」
ふと近くを見ると、バスターが来ていた。バレッタの少女、ウォールバイターの件で出会った奴か。そういえばあいつがラベルのこと聞いたんだっけ。まぁ今は火事が優先だ。
「あんた、回復魔法使えるか? 人手が欲しい」
回復魔法が使えるなら御の字。負傷者を任せて俺とフィルセが現場に助け行けるからな。だが、俺が瞬きした瞬間にバレッタの少女とフィルセが剣を交えていた。
「何?」
「こいつ……助けた奴を殺す気か?」
「なんだって?」
レイピアではロングソードを抑えるのに限界があるのか、フィルセは弾き飛ばされてしまった。
「うわっ!」
「フィルセ! こいつ……!」
看破しても、烙印があるわけではない。バスターの能力で火付けや物盗り、殺人をしたらそれが周囲にバレる様になるはずだ。だがこいつにはそれがない。
「おいおい、バスターが人殺しする気かよ! どうなるか分かってんだろうな! 街に入れなくなるぞ!」
烙印持ちは魔物と同じ。エンタールの様な魔物を判別する設備がある場所では、門前払いだ。
「烙印を受けてもある程度魔物を倒せば罪を雪げる」
「んな罰金払って遅刻するみてーな……!」
確かにそうだが、めちゃくちゃだ。罰則を受けるんで犯罪しますって、洒落にならねーぞ。
「リュウガ! 逃げろ!」
「つってもこいつら殺されちまうぞ!」
俺が逃げれば、せっかくフィルセが命懸けで助けた劇場のスタッフが殺されてしまう。あいつが攻撃を防げたのも彼らへの殺気を察知したからだ。明らかに目的は、劇場スタッフ。罪の無い一般人だ。
「何でこんな真似を……!」
「答える必要はない!」
バレッタの少女は剣を振り上げる。俺はどうするべきか分からず、一か八かに賭けて斧で防ごうと試みる。だが、剣は俺の斧に当たることはなかった。
「テーネ!?」
鋭い剣で肉を断たれ、鮮血を吹き出したのはテーネ。まさか、俺を庇ったのか?
「人斬りの加護か……、まあいい!」
「フェンサーの加護を与えし神よ! 無辜の民を襲う愚者へ刃を突き立てることを許したまえ!」
再度攻撃を仕掛けようとするバレッタの少女に向かって、飛ぶ様にフィルセが襲い掛かった。鋭い一撃が彼女の肩に刺さり、後退させることに成功した。
「う、ぐぁああっ!」
「許しが、下りたぞ!」
フィルセはバスターを攻撃してしまったが、犯罪者の烙印が刻まれる様子はない。テーネの顔にあるのとは違うが、バスターの力を悪用すれば印がつけられると聞いたことはある。
「フィルセ! いいのか?」
「いいもなにも、抵抗する手段がないとバスターがやられ放題でしょ? こういう時の為の解禁措置があるの」
「へぇ」
確かに、こういうのないとバスターが攻撃出来ないことをいいことに加護を持たない人間にやられたい放題になってしまう。
「そうだ、テーネ! 大丈夫か?」
テーネは地面に膝を付き、蹲っている。出血が酷く、周囲に血だまりが出来ているほどだ。
「早く回復を……」
手持ちの回復薬の瓶を開け、口にねじ込んで飲ませる。これで多少マシなはず。レベルは俺らより高いし、ちょっとやそっとで死ぬまい。
「逃げ遅れは……もういないよ……」
「そうか、ここはフィルセに任せて逃げるぞ!」
俺はテーネと助けた人を連れてその場を離れようとする。だが、バレッタの少女がしつこく斬りかかってはフィルセに止められる。
「うお!」
「一撃で肩持ってったのは幸いだったな」
先ほどと違い、肩を負傷させたおかげで吹き飛ばされることはなく防御出来た。
「命までは奪わないが……ネメアクラウンネオ、フィルセ・ゼノリウムがお前を倒し沙汰の場へ引きずり出す! この愚行に正義があると言うのなら、お前も名乗り上げろ!」
フィルセは敵に名乗る様告げる。そうか、あのラベルを辞めさせるってことは少なくとも個人ではないはずだからな。相手の勢力は探る必要がある。
「世界是正協会……、キャティス! 苗字持ちのボンボンじゃあ……我々の正義は分かるまい」
苗字持ちは実家が太い、と言いたいが俺は落ちぶれた家だしフィルセは孤児院の名前だし、そうでもないんだがな。バレッタの少女、キャティスは剣を構えてフィルセを睨む。世界是正協会、妙に仰々しいぜ。
「お前と戦う意味はない!」
「わぁこっち来た!」
キャティスは周囲の残った建物を蹴り、フィルセを避けて俺達の方まできた。そこをテーネが剣を抜いて防ぐ。魔物との戦い以上に生きた心地がしない。言葉が通じるのに話が通じないのがこれほど恐ろしいとは。
「た、助かった……」
「フィルセさん、リュウガさん、二人は皆さんを守って!」
テーネは俺達に生存者の護衛を頼んだ。
「指図するな!」
「守るのはバスターの得意技でしょ! 殺すのは、ボクの仕事だ!」
フィルセは拒絶するが、キャティスが執拗に彼女を避けて生存者を狙うので防戦一方になっていた。
「うわ! 増えた!」
どうにか凌いでいたが、キャティスと似た様な服装の少女達が増える。看破すると既に犯罪者なのか、烙印持ちと分かる。
「おおおっ! マジでヤベーぞ!」
こんな殺意マシマシの相手と俺が戦えるわけもなく、必死に生存者をテーネの背後に引っ張って守ってもらう。だがこれがいつまで持つか。襲撃は仕掛ける方が有利なんだ。
「フィルセ、ここはテーネに任せよう! こいつら、魔物より危険だ!」
魔物は少しでも傷を負って勝ち目が薄くなれば逃げてくれる。だがこいつはマジで殺す気だ。イカレてやがる。マジで掛からないと犠牲が出ちまう。
「チッ、沙汰の場に出すんだからな、殺すなよ!」
「殺せるということは、逆も然り!」
そうか、殺すのに慣れているってことは殺さない様にすることもできるのか。しかしテーネは手負い、そんな手加減させて大丈夫か? 沙汰に出した方がこいつらの組織とか目的も明らかになるだろうが、そこまで考える余裕はなさそうだ。
「我こそはクラウンネメアネオの審問官、リュウガ・アークライド! 貴様らの罪を明かせば温情もあり得るかもしれんぞ!」
とりあえず隠せないことを明かして、自白を促そう。上手くいくかは知らんが、もしこいつらから得られる情報が無くなったら遠慮なく戦えるだろうし。
「罪? 我々は正義だ」
だがキャティスは自らを正義と定めて憚らない。
「アッキ族のみんなが楽しみにしてるラベルを無くすのが正義かよ! 笑わせる!」
「そんなもの、お前達に気を使っているか差別されていることに気づいていないだけだろう?」
くーっ、こいつああ言えばこう言うタイプかよ! 嘆願書持ってっても『無理矢理書かせた』とか言いそう!
「ていうかなんで劇場のスタッフの命狙うんだよ! 犯罪ならお沙汰で裁けばいいだろうが! これじゃあ私刑だ!」
そもそもラベルとこの件とじゃもうやってることの格が違う。積極的に殺しに来てる。
「この劇場は、否、この街は性搾取の温床。その共犯を殺すことに何のためらいがある?」
「おいおい、バスターなら聖娼の加護を知らないとは言わせないぞ!」
キャティスの言うことは的外れもいいところ。風俗で働く者はバスターの加護の内、聖娼の加護を受ける必要がある。原初の職業の一つで、バスターなら知識くらいはある常識の一つだ。
「もし、その加護を受けていないものを働かせていたとしたら?」
「何?」
しかし何事にも例外はある。加護を受けていない者を働かせる違法な風俗もないことはない。それはテーネも否定しない。
「確かに、この街には過去にそうした劇場があった」
「あったのか」
たしかに評判が良くなったが、そういうことだったのか。でも過去ってことは改善されたんだろう?
「その時は助けにも来なかったくせに……!」
「うわ、何が世界是正だよ」
テーネの証言によるとそんな悪徳業者がはびこっていた頃には、後ろ盾が怖いのかいっちょ噛みもしてこなかった様だ。クソだな!
「そもそも、私達は聖娼の加護なんて認めない。搾取を肯定するためのお手盛りのシステムだからだ」
「あー、もう! ルールが気に入らないんなら暴力じゃなくて手続き踏んで改正しろっての!」
いくらルールが気に喰わないからといって、末端を脅かすのが正しいのかは甚だ疑問だ。彼らはあくまで、現行のルールに従って生きている。非はないのだから。
「まさかこれ、火事場に駆け付けて殺そうってんじゃなくて劇場に火ぃつけたのてめぇらか?」
「そうだが、それが?」
「何一つ悪びれねぇ!」
なんと、キャティスは自分で劇場に火をつけたと自白した。それも全く隠すことさえなく。イカレポンチめ……。悪さってのはする時に悪いって思うから隠したり誤魔化したりするもんだが、サナトリ村のジジイが封印を壊した時みてーに悪さを悪さと認識してねぇから大ぴらにやりやがる。
「さぁ、死ね!」
「今の聞きましたね?」
「あ、ああ……」
敵が三方向から飛んで来る。テーネは俺にキャティスの自白を聞いたかの確認だけ取ると、剣を輝かせる。
「うお、眩し!」
「エスパド・ブラシュ!」
虹色に光る剣が視界を塞ぎ、先行した二人を切り裂く。だがキャティスは仲間の犠牲もあって技を見極めて剣を防いだ。
「よくも仲間を……烙印持ちめ!」
「殺すということは、殺されるということだ!」
仲間の二人は即死とはいかなかったのか、血溜まりが出来る中を苦しそうに蠢いていた。
「し、死んだ……のか?」
「人斬りめ……、バスターの前で堂々と……」
回復魔法を持たない俺達には、彼女らをどうすることも出来なかった。フィルセはせめて楽に、と介錯をする。
「し、死んだ……バスターが人間に殺された……」
圧倒的な力を持つ魔物ならともかく、見た目が完全に俺達と同じ人間がバスターを殺した。その事実に動揺を隠せない。
「あれは人間じゃないわ。魔物よ」
「う……だがな……」
「話の分かる魔物とおしゃべりしていると感覚が麻痺するけど、あれは人を殺すことに特化した加護を与えられた、人間の姿をした魔王の作りし殺人兵器。生物の延長にいる類の魔物より、よほど魔物なの」
たしかに光るだけの剣でバスターが死ぬなんて前代未聞だ。フィルセは勝った方が敵になるとみて、俺達を守る様に構える。
「だが、その程度で!」
「くっ!」
キャティスはテーネの剣を弾き飛ばした。とりあえず逃げたいが、人数が多くて抱えて動くのも難しい。少しでも隙を見せればキャティスがテーネを抜いてこっちに来る。足を止めて守りを固めた方がマシだ。
「まずはお前からだ!」
「……っ!」
人斬り、則ち剣士から剣を落とせば勝ったも同然。キャティスは剣を振り上げ、テーネに迫る。だが、彼は手から何か風の様なものを飛ばす。それは至近にまでしか届かないが、嵐を凝縮したかの様な暴風の塊であった。
「なっ……」
空気が爆ぜる様な音と共に、肉を裂き血が吹き出す。キャティスは身長の何倍も弾き飛ばされ、宙を舞う。
「あれは、魔法? 人斬りなのに?」
フィルセは予想外の技に警戒を強めた。人斬りは魔法が使えないってのが定説らしい。キャティスは地面に叩きつけられ、トレードマークのバレッタがはじけ飛んで髪が乱れた。
「かはっ……剣、剣は……」
全身に血が滲む状態で剣を探す彼女であったが、それが大きな隙になった。同じく剣を弾かれているテーネは拳による肉弾戦を挑んできていた。
「降伏しろ!」
「誰が!」
一応、停戦の意志だけは確認する。しかしその気はないと分かり、弱らせる作戦にでも出たのだろう。金属の義手でテーネはキャティスの顔面を殴り付ける。
「ぐっ……!」
義手の右腕だけで胸部や胴体にも拳を突き立てる。遠くからでも骨が軋み、折れる音が聞こえた。
「がふっ……」
「まだ、やるか?」
「私は……まだ……」
どす黒い血を吐き出すも、キャティスは止まる気配がない。拳は身体にめり込み、手首まで見えなくなっている。あれでは内臓が破裂しているだろう。
「ならば……」
「ぐふっ……あぁッ!」
拳を抜くと、テーネは義手で彼女の左肘を掴んだ。そして握りしめると、キャティスの左腕は力が入らなくなりダランとぶら下がる。
「ぎゃぁああああっ!」
「これでもか?」
テーネは最初の二人こそ余裕が無かったが、かなり気を使って戦っている。なんども降参する隙を与えている。
「おい、テーネの言う通り降伏しろよ! 死ぬぞ!」
「私は……死なない、お前らが死ね!」
しかしキャティスは引く気なし。これではせっかくの温情も意味がない。その時、彼女の腕が飛び、びちゃりと生々しい音を立てて落ちる。肘を掴んでいたテーネの義手から光の刃が飛び出し、彼女の腕を切断していた。
「い……ぃ……」
「これでも、か?」
「いやぁああああああっ、腕、うでぇえええっ!」
キャティスは非常に取り乱していたが、自分が人を殺そうとしていたことや仲間が死んだことなんてのは忘れてしまったのか? 身に痛みが迫らないと理解できないほど愚かだというのか。だがさすがにこれで懲りただろう……。
「この、死ねぇえええ!」
だが、最後のあがきと言わんばかりに彼女はナイフを何本も投擲する。俺に向かって。
「うおおおおっ!」
急にこっちへ攻撃が来たので対応しきれない。腕をわたわたして目を瞑るしかもう方法がない。冷えた脂汗が一気に噴き出す。
「馬鹿っ! 油断して……」
「くっ……」
肝は氷点下。痛みはないが、ナイフが何かに突き刺さる音がした。即死って痛くないらしい。さすがの俺もここまでか……。
「テーネ!」
ゆっくり目を開けると、俺の前にフィルセが、その前にテーネが割り込んでナイフを身体で受け止めていた。
「お前、なんで……」
「ぐぅ……いっ……たぁ……」
フィルセはテーネの行動を理解できないのか、困惑していた。彼は痛みに悶えつつも、なんとか踏ん張ってキャティスを睨む。
「もう、後戻りできないぞ!」
何度も降伏を呼び掛けた結果が、俺への不意打ち。となればテーネも情けをかけられないのだろう。
キャティスは痛み止めらしき薬を首筋に打ち込み、戦闘を続行する。向こうも退く気なしか。
「それはお前だ!」
いつの間にか剣を拾い、左手でキャティスは振りかぶる。だが、テーネは剣を拾えていない。そんなことは彼にも分かっているが、その状態で戦う術を持っている。
「おおおおお!」
義手の手に発せられた雷を握りしめ、剣を殴り返す。同時に雷鳴が轟き、キャティスの全身を駆け抜けて焼き尽くす。
「うぁあああっ!」
左腕が何か所も裂け、眩い光と共に焦げ臭い匂いが周囲に漂う。その一撃で吹き飛ばされ、キャティスは地面を転がった。
「くっ、ふぅーっ、ふぅーっ……」
「おいおい、今ので負けときゃ言い訳もつくだろ」
しかし彼女は剣を口に咥えてまだ戦う気でいた。それにはさっき打った痛み止めが関係していた。
「多分、あの薬の影響ね。私も使ったことあるけど、あれダメージ負ってるほど思考が鈍くなる副作用あるのよ」
「経験者の談は説得力が違うぜ」
「うるさい。もう足洗った」
フィルセも使っていたという薬は、自身が窮地であればあるほど冷静さを奪って死へ引きずり込む蟻地獄みてーな代物だった。
「これで、終わりだ!」
景色が歪むほどの魔力が義手の拳に集まり、それでテーネはキャティスの腹部を打ち据えた。相当な威力なのか、身体を貫くことこそなかったが口や鼻から彼女は真っ黒な血を吹いて上空に打ち上げられた。
「ぐ……ふっ……」
その後は、着地はおろか、受け身すら取れずに地面へ落下するキャティス。どちゃ、と血を撒いて倒れ、開いたままの瞳からは輝きが失われていく。
「これが、高レベル帯の人斬りの力……」
何度も致命的な攻撃を受けながら、三人を倒してのけた。俺はこいつが善人の類でよかったと心から思うのであった。
俺達は急いで花街の中まで向かった。魔物が侵入したってんなら倒さなきゃいけない。だが状況としては単なる火事らしい。単なる火事といえばそれまでだが、大きな劇場が包まれるほどの大火。ボヤなどでは決してない。
「急に劇場の一つが燃えて……」
「俺が来たのとは別のか」
俺がシンジを引き取ったのとは違う劇場だが、周囲には木造の建物があり延焼の危険が大きい。
「中に逃げ遅れた人が……忽ち燃え広がって……」
「私がいく。バスターの加護なら多少の火くらいどうってことない」
夜の仕事をしてるだけあり、まだ中では寝ていただろう従業員が避難出来ていない。フィルセが中へ助けに行くことにした。
「テーネくんも中へ入ったが……」
「あいつだけには任せられん。行ってくる」
テーネの名を聞くと、フィルセはもの凄い速度で火災現場に突入していった。流石に人命優先の状況で戦いをおっぱじめはしないだろう。
「リュウガ、バケツできた」
「バケツ? え?」
俺が少し目を離していると、ゼヴォが木でバケツを作っていた。早い。箱組の木を縄で固定して水が漏れない様にしたのか。面のサイズ取りが正確じゃないと漏れるぞ……。なんて芸当だ。
ともあれこれでバケツリレーだ。縄で取っ手も作ってある。
「普通持って来た方が早いんだが……ここにあるんならそっちのがいいか。はい」
「リュウガは?」
俺は斧を手に、あることを考えた。これだけ大きい火だとバケツリレーにも限界はある。延焼を食い止めるのも並行しないといけない。
「周囲の木造建築を倒して延焼を食い止める。建物の状態じゃ焚火の組み木だ。潰せば多少マシになる」
建物の状態では空気が通る分、燃えやすい。同じ量の木材でもぺしゃんこにしてしまえば少しは時間が稼げるだろう。俺は斧を振るって周囲の建物を分解し始めた。建てるのは苦手だが、倒すのは得意だ。
俺は一心不乱に建物を倒した。どれだけ効果があるか知らないが、何もしないよりはいいはず。
「どうなった?」
気づけば、周囲を一通り倒して一周し戻ってきた。火の手は収まらないが、水をかけているのが幸いして周囲に燃え広がってはいない。
「リュウガ!」
劇場の三階辺りからフィルセが数人を抱えて飛び出してくる。無事着地したが、助け出した人は煙を吸ったのか意識が怪しい。
「建物がバラバラになってるんだけど……おかげで飛び降りやすくなったけど」
「ああ、燃え広がらない様に倒した」
「早いわね……まだいるみたいだし、もう一回行ってくる」
フィルセは俺に助けた人を預け、もう一度火災現場に踏み込もうとした。
「テーネは?」
「見なかったけど。せめて血は残して死んでほしいわ……」
テーネとは遭遇しなかったらしい。しかし俺は回復魔法が使えないんだよな……誰か他にいればいいんだが。
「あ、バスターいるじゃない」
「ん、ああ」
ふと近くを見ると、バスターが来ていた。バレッタの少女、ウォールバイターの件で出会った奴か。そういえばあいつがラベルのこと聞いたんだっけ。まぁ今は火事が優先だ。
「あんた、回復魔法使えるか? 人手が欲しい」
回復魔法が使えるなら御の字。負傷者を任せて俺とフィルセが現場に助け行けるからな。だが、俺が瞬きした瞬間にバレッタの少女とフィルセが剣を交えていた。
「何?」
「こいつ……助けた奴を殺す気か?」
「なんだって?」
レイピアではロングソードを抑えるのに限界があるのか、フィルセは弾き飛ばされてしまった。
「うわっ!」
「フィルセ! こいつ……!」
看破しても、烙印があるわけではない。バスターの能力で火付けや物盗り、殺人をしたらそれが周囲にバレる様になるはずだ。だがこいつにはそれがない。
「おいおい、バスターが人殺しする気かよ! どうなるか分かってんだろうな! 街に入れなくなるぞ!」
烙印持ちは魔物と同じ。エンタールの様な魔物を判別する設備がある場所では、門前払いだ。
「烙印を受けてもある程度魔物を倒せば罪を雪げる」
「んな罰金払って遅刻するみてーな……!」
確かにそうだが、めちゃくちゃだ。罰則を受けるんで犯罪しますって、洒落にならねーぞ。
「リュウガ! 逃げろ!」
「つってもこいつら殺されちまうぞ!」
俺が逃げれば、せっかくフィルセが命懸けで助けた劇場のスタッフが殺されてしまう。あいつが攻撃を防げたのも彼らへの殺気を察知したからだ。明らかに目的は、劇場スタッフ。罪の無い一般人だ。
「何でこんな真似を……!」
「答える必要はない!」
バレッタの少女は剣を振り上げる。俺はどうするべきか分からず、一か八かに賭けて斧で防ごうと試みる。だが、剣は俺の斧に当たることはなかった。
「テーネ!?」
鋭い剣で肉を断たれ、鮮血を吹き出したのはテーネ。まさか、俺を庇ったのか?
「人斬りの加護か……、まあいい!」
「フェンサーの加護を与えし神よ! 無辜の民を襲う愚者へ刃を突き立てることを許したまえ!」
再度攻撃を仕掛けようとするバレッタの少女に向かって、飛ぶ様にフィルセが襲い掛かった。鋭い一撃が彼女の肩に刺さり、後退させることに成功した。
「う、ぐぁああっ!」
「許しが、下りたぞ!」
フィルセはバスターを攻撃してしまったが、犯罪者の烙印が刻まれる様子はない。テーネの顔にあるのとは違うが、バスターの力を悪用すれば印がつけられると聞いたことはある。
「フィルセ! いいのか?」
「いいもなにも、抵抗する手段がないとバスターがやられ放題でしょ? こういう時の為の解禁措置があるの」
「へぇ」
確かに、こういうのないとバスターが攻撃出来ないことをいいことに加護を持たない人間にやられたい放題になってしまう。
「そうだ、テーネ! 大丈夫か?」
テーネは地面に膝を付き、蹲っている。出血が酷く、周囲に血だまりが出来ているほどだ。
「早く回復を……」
手持ちの回復薬の瓶を開け、口にねじ込んで飲ませる。これで多少マシなはず。レベルは俺らより高いし、ちょっとやそっとで死ぬまい。
「逃げ遅れは……もういないよ……」
「そうか、ここはフィルセに任せて逃げるぞ!」
俺はテーネと助けた人を連れてその場を離れようとする。だが、バレッタの少女がしつこく斬りかかってはフィルセに止められる。
「うお!」
「一撃で肩持ってったのは幸いだったな」
先ほどと違い、肩を負傷させたおかげで吹き飛ばされることはなく防御出来た。
「命までは奪わないが……ネメアクラウンネオ、フィルセ・ゼノリウムがお前を倒し沙汰の場へ引きずり出す! この愚行に正義があると言うのなら、お前も名乗り上げろ!」
フィルセは敵に名乗る様告げる。そうか、あのラベルを辞めさせるってことは少なくとも個人ではないはずだからな。相手の勢力は探る必要がある。
「世界是正協会……、キャティス! 苗字持ちのボンボンじゃあ……我々の正義は分かるまい」
苗字持ちは実家が太い、と言いたいが俺は落ちぶれた家だしフィルセは孤児院の名前だし、そうでもないんだがな。バレッタの少女、キャティスは剣を構えてフィルセを睨む。世界是正協会、妙に仰々しいぜ。
「お前と戦う意味はない!」
「わぁこっち来た!」
キャティスは周囲の残った建物を蹴り、フィルセを避けて俺達の方まできた。そこをテーネが剣を抜いて防ぐ。魔物との戦い以上に生きた心地がしない。言葉が通じるのに話が通じないのがこれほど恐ろしいとは。
「た、助かった……」
「フィルセさん、リュウガさん、二人は皆さんを守って!」
テーネは俺達に生存者の護衛を頼んだ。
「指図するな!」
「守るのはバスターの得意技でしょ! 殺すのは、ボクの仕事だ!」
フィルセは拒絶するが、キャティスが執拗に彼女を避けて生存者を狙うので防戦一方になっていた。
「うわ! 増えた!」
どうにか凌いでいたが、キャティスと似た様な服装の少女達が増える。看破すると既に犯罪者なのか、烙印持ちと分かる。
「おおおっ! マジでヤベーぞ!」
こんな殺意マシマシの相手と俺が戦えるわけもなく、必死に生存者をテーネの背後に引っ張って守ってもらう。だがこれがいつまで持つか。襲撃は仕掛ける方が有利なんだ。
「フィルセ、ここはテーネに任せよう! こいつら、魔物より危険だ!」
魔物は少しでも傷を負って勝ち目が薄くなれば逃げてくれる。だがこいつはマジで殺す気だ。イカレてやがる。マジで掛からないと犠牲が出ちまう。
「チッ、沙汰の場に出すんだからな、殺すなよ!」
「殺せるということは、逆も然り!」
そうか、殺すのに慣れているってことは殺さない様にすることもできるのか。しかしテーネは手負い、そんな手加減させて大丈夫か? 沙汰に出した方がこいつらの組織とか目的も明らかになるだろうが、そこまで考える余裕はなさそうだ。
「我こそはクラウンネメアネオの審問官、リュウガ・アークライド! 貴様らの罪を明かせば温情もあり得るかもしれんぞ!」
とりあえず隠せないことを明かして、自白を促そう。上手くいくかは知らんが、もしこいつらから得られる情報が無くなったら遠慮なく戦えるだろうし。
「罪? 我々は正義だ」
だがキャティスは自らを正義と定めて憚らない。
「アッキ族のみんなが楽しみにしてるラベルを無くすのが正義かよ! 笑わせる!」
「そんなもの、お前達に気を使っているか差別されていることに気づいていないだけだろう?」
くーっ、こいつああ言えばこう言うタイプかよ! 嘆願書持ってっても『無理矢理書かせた』とか言いそう!
「ていうかなんで劇場のスタッフの命狙うんだよ! 犯罪ならお沙汰で裁けばいいだろうが! これじゃあ私刑だ!」
そもそもラベルとこの件とじゃもうやってることの格が違う。積極的に殺しに来てる。
「この劇場は、否、この街は性搾取の温床。その共犯を殺すことに何のためらいがある?」
「おいおい、バスターなら聖娼の加護を知らないとは言わせないぞ!」
キャティスの言うことは的外れもいいところ。風俗で働く者はバスターの加護の内、聖娼の加護を受ける必要がある。原初の職業の一つで、バスターなら知識くらいはある常識の一つだ。
「もし、その加護を受けていないものを働かせていたとしたら?」
「何?」
しかし何事にも例外はある。加護を受けていない者を働かせる違法な風俗もないことはない。それはテーネも否定しない。
「確かに、この街には過去にそうした劇場があった」
「あったのか」
たしかに評判が良くなったが、そういうことだったのか。でも過去ってことは改善されたんだろう?
「その時は助けにも来なかったくせに……!」
「うわ、何が世界是正だよ」
テーネの証言によるとそんな悪徳業者がはびこっていた頃には、後ろ盾が怖いのかいっちょ噛みもしてこなかった様だ。クソだな!
「そもそも、私達は聖娼の加護なんて認めない。搾取を肯定するためのお手盛りのシステムだからだ」
「あー、もう! ルールが気に入らないんなら暴力じゃなくて手続き踏んで改正しろっての!」
いくらルールが気に喰わないからといって、末端を脅かすのが正しいのかは甚だ疑問だ。彼らはあくまで、現行のルールに従って生きている。非はないのだから。
「まさかこれ、火事場に駆け付けて殺そうってんじゃなくて劇場に火ぃつけたのてめぇらか?」
「そうだが、それが?」
「何一つ悪びれねぇ!」
なんと、キャティスは自分で劇場に火をつけたと自白した。それも全く隠すことさえなく。イカレポンチめ……。悪さってのはする時に悪いって思うから隠したり誤魔化したりするもんだが、サナトリ村のジジイが封印を壊した時みてーに悪さを悪さと認識してねぇから大ぴらにやりやがる。
「さぁ、死ね!」
「今の聞きましたね?」
「あ、ああ……」
敵が三方向から飛んで来る。テーネは俺にキャティスの自白を聞いたかの確認だけ取ると、剣を輝かせる。
「うお、眩し!」
「エスパド・ブラシュ!」
虹色に光る剣が視界を塞ぎ、先行した二人を切り裂く。だがキャティスは仲間の犠牲もあって技を見極めて剣を防いだ。
「よくも仲間を……烙印持ちめ!」
「殺すということは、殺されるということだ!」
仲間の二人は即死とはいかなかったのか、血溜まりが出来る中を苦しそうに蠢いていた。
「し、死んだ……のか?」
「人斬りめ……、バスターの前で堂々と……」
回復魔法を持たない俺達には、彼女らをどうすることも出来なかった。フィルセはせめて楽に、と介錯をする。
「し、死んだ……バスターが人間に殺された……」
圧倒的な力を持つ魔物ならともかく、見た目が完全に俺達と同じ人間がバスターを殺した。その事実に動揺を隠せない。
「あれは人間じゃないわ。魔物よ」
「う……だがな……」
「話の分かる魔物とおしゃべりしていると感覚が麻痺するけど、あれは人を殺すことに特化した加護を与えられた、人間の姿をした魔王の作りし殺人兵器。生物の延長にいる類の魔物より、よほど魔物なの」
たしかに光るだけの剣でバスターが死ぬなんて前代未聞だ。フィルセは勝った方が敵になるとみて、俺達を守る様に構える。
「だが、その程度で!」
「くっ!」
キャティスはテーネの剣を弾き飛ばした。とりあえず逃げたいが、人数が多くて抱えて動くのも難しい。少しでも隙を見せればキャティスがテーネを抜いてこっちに来る。足を止めて守りを固めた方がマシだ。
「まずはお前からだ!」
「……っ!」
人斬り、則ち剣士から剣を落とせば勝ったも同然。キャティスは剣を振り上げ、テーネに迫る。だが、彼は手から何か風の様なものを飛ばす。それは至近にまでしか届かないが、嵐を凝縮したかの様な暴風の塊であった。
「なっ……」
空気が爆ぜる様な音と共に、肉を裂き血が吹き出す。キャティスは身長の何倍も弾き飛ばされ、宙を舞う。
「あれは、魔法? 人斬りなのに?」
フィルセは予想外の技に警戒を強めた。人斬りは魔法が使えないってのが定説らしい。キャティスは地面に叩きつけられ、トレードマークのバレッタがはじけ飛んで髪が乱れた。
「かはっ……剣、剣は……」
全身に血が滲む状態で剣を探す彼女であったが、それが大きな隙になった。同じく剣を弾かれているテーネは拳による肉弾戦を挑んできていた。
「降伏しろ!」
「誰が!」
一応、停戦の意志だけは確認する。しかしその気はないと分かり、弱らせる作戦にでも出たのだろう。金属の義手でテーネはキャティスの顔面を殴り付ける。
「ぐっ……!」
義手の右腕だけで胸部や胴体にも拳を突き立てる。遠くからでも骨が軋み、折れる音が聞こえた。
「がふっ……」
「まだ、やるか?」
「私は……まだ……」
どす黒い血を吐き出すも、キャティスは止まる気配がない。拳は身体にめり込み、手首まで見えなくなっている。あれでは内臓が破裂しているだろう。
「ならば……」
「ぐふっ……あぁッ!」
拳を抜くと、テーネは義手で彼女の左肘を掴んだ。そして握りしめると、キャティスの左腕は力が入らなくなりダランとぶら下がる。
「ぎゃぁああああっ!」
「これでもか?」
テーネは最初の二人こそ余裕が無かったが、かなり気を使って戦っている。なんども降参する隙を与えている。
「おい、テーネの言う通り降伏しろよ! 死ぬぞ!」
「私は……死なない、お前らが死ね!」
しかしキャティスは引く気なし。これではせっかくの温情も意味がない。その時、彼女の腕が飛び、びちゃりと生々しい音を立てて落ちる。肘を掴んでいたテーネの義手から光の刃が飛び出し、彼女の腕を切断していた。
「い……ぃ……」
「これでも、か?」
「いやぁああああああっ、腕、うでぇえええっ!」
キャティスは非常に取り乱していたが、自分が人を殺そうとしていたことや仲間が死んだことなんてのは忘れてしまったのか? 身に痛みが迫らないと理解できないほど愚かだというのか。だがさすがにこれで懲りただろう……。
「この、死ねぇえええ!」
だが、最後のあがきと言わんばかりに彼女はナイフを何本も投擲する。俺に向かって。
「うおおおおっ!」
急にこっちへ攻撃が来たので対応しきれない。腕をわたわたして目を瞑るしかもう方法がない。冷えた脂汗が一気に噴き出す。
「馬鹿っ! 油断して……」
「くっ……」
肝は氷点下。痛みはないが、ナイフが何かに突き刺さる音がした。即死って痛くないらしい。さすがの俺もここまでか……。
「テーネ!」
ゆっくり目を開けると、俺の前にフィルセが、その前にテーネが割り込んでナイフを身体で受け止めていた。
「お前、なんで……」
「ぐぅ……いっ……たぁ……」
フィルセはテーネの行動を理解できないのか、困惑していた。彼は痛みに悶えつつも、なんとか踏ん張ってキャティスを睨む。
「もう、後戻りできないぞ!」
何度も降伏を呼び掛けた結果が、俺への不意打ち。となればテーネも情けをかけられないのだろう。
キャティスは痛み止めらしき薬を首筋に打ち込み、戦闘を続行する。向こうも退く気なしか。
「それはお前だ!」
いつの間にか剣を拾い、左手でキャティスは振りかぶる。だが、テーネは剣を拾えていない。そんなことは彼にも分かっているが、その状態で戦う術を持っている。
「おおおおお!」
義手の手に発せられた雷を握りしめ、剣を殴り返す。同時に雷鳴が轟き、キャティスの全身を駆け抜けて焼き尽くす。
「うぁあああっ!」
左腕が何か所も裂け、眩い光と共に焦げ臭い匂いが周囲に漂う。その一撃で吹き飛ばされ、キャティスは地面を転がった。
「くっ、ふぅーっ、ふぅーっ……」
「おいおい、今ので負けときゃ言い訳もつくだろ」
しかし彼女は剣を口に咥えてまだ戦う気でいた。それにはさっき打った痛み止めが関係していた。
「多分、あの薬の影響ね。私も使ったことあるけど、あれダメージ負ってるほど思考が鈍くなる副作用あるのよ」
「経験者の談は説得力が違うぜ」
「うるさい。もう足洗った」
フィルセも使っていたという薬は、自身が窮地であればあるほど冷静さを奪って死へ引きずり込む蟻地獄みてーな代物だった。
「これで、終わりだ!」
景色が歪むほどの魔力が義手の拳に集まり、それでテーネはキャティスの腹部を打ち据えた。相当な威力なのか、身体を貫くことこそなかったが口や鼻から彼女は真っ黒な血を吹いて上空に打ち上げられた。
「ぐ……ふっ……」
その後は、着地はおろか、受け身すら取れずに地面へ落下するキャティス。どちゃ、と血を撒いて倒れ、開いたままの瞳からは輝きが失われていく。
「これが、高レベル帯の人斬りの力……」
何度も致命的な攻撃を受けながら、三人を倒してのけた。俺はこいつが善人の類でよかったと心から思うのであった。
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