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漂流した教室編
何より性根が腐っている男
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「痛い……」
重傷を負ったテーネは劇場に運ばれ、治療を受けた。どうにか一命は取り留めたが酷いものだ。ちゃんと痛みも感じている様子。剣受けても平気だった魔王レベル99のシンジがどんな防御性能しているか気になったな。
「あ、そうだ。血を貰わないといけないんだった」
俺はテーネを運び込むのに必死で血を手に入れることを忘れていた。せっかく出血しているのに、もう止血してしまった。まさか血まみれの破れた服を貰うわけにもいかない。ちゃんと念のため、ニアが提示した布に沁み込ませたいところだ。
「血ですか?」
「ああ、不意にこっちへ飛ばされた奴らを元の場所に戻す為に烙印持ちの血がいるんだ。アレがあると手順を省略して精度が上がるんだとか」
テーネは出血してふらふらだろうに、布を受け取るとペーパーナイフを手に指から血を出そうとする。しかし手が震えていて恐る恐るだ。あんだけ豪快に斬られたり刺されたりしたが、やっぱ痛いのは嫌なんだな。
「む、無理にとは言わないが……」
一応こっちが忘れてなければ止血の前に手に入れられたので、無理強いは出来ない。が、フィルセは容赦なくペーパーナイフをテーネの指にぶっ刺す。
「さっさとしなさい」
「ぎゃーっ!」
布に赤い沁みが出来る。結構深々と行った気がする。やはりちゃんと痛いのか、涙目になって指を口に入れて止血している。
「しかしそんな痛がり怖がりだってのによく迷いなく助けてくれたな……ありがたいけど」
「そ、それは……あれ。なんというか」
ああ、性格か。どんな目に遭おうとも、生まれついての性格ばかりはどうしようもない。それがいい方向に出たのがテーネなのだ。
「ふぅん、少しは悪逆非道だとやりやすいんだけど」
「もしそうだったら危険極まりねーよ」
フィルセとしては戦いにくいだろうが、おかげで助かっているところもある。こんなのがシンジみたく欲望のまま暴走したら危なくてしゃーない。自制心や良心のある奴で助かった。
「おおー、ありがとう」
「困った時はお互い様よ。私達の意見もあれば多少、通りやすくなるかも」
ゼヴォが店の女性たちから受け取っていたのは、嘆願書の追加分。話を聞いてラベルの復活を訴えようと協力してくれた。
「さて……ここからどうすっか……」
エンタールに帰りたいのはやまやまだが、放火事件の処理があって動けない。俺達は重要な証人になってしまった。死んだとはいえ、キャティス達のしたことを裁かないと俺達はエンタールへ戻ることが出来ない。
「それなら、ジャンヌとハルカにこっち来てもらってるよ。材料だけ受け渡す為にね」
「あぁ、それなら安心だ」
材料だけ早めに送るべく、ジャンヌとハルカが移動をしている。この二人なら道中も魔物にやられたりはすまい。
「しかし世界是正協会ってのはなんだ?」
「さぁ? 面倒な活動家じゃない?」
キャティス達の名乗っていた組織が気になるが、聞いたこともない連中だ。最近生えてきたのか? フィルセも知らないんじゃあ、分かることはほぼないか。
「で、お沙汰にはこいつ出るの?」
「いや無理だろ」
フィルセがそれより気にしていたのは、この事件の沙汰にテーネが出るかどうか。事件の流れを正確に伝えるなら必要だが、もうややこしくなりそうだ。悪いのは十中八九キャティスであり殺されたのもあいつらが劇場スタッフを殺そうとしたのが原因だしテーネはなるべく殺さずに済ませようとはしていたが、烙印持ちが絡むとなんか面倒なことになりそうだ。話はシンプルなのに烙印持ちを裁きたいがために結果が歪みそうで。
「話としては襲われたところを烙印持ちが通りかかって倒していったってことにしましょう。口裏は合わせておくわ」
「それで行きますか」
劇場の支配人、ミリアムさんが話を合わせてくれた。匿うのも任せていいかな。そうなると心配なのはこいつ、と俺はフィルセの方を見る。
「心配するな。仁義は通す。次はないがな」
ただやはり、助けられたのを無視して復讐優先出来ない程度にフィルセも性根は真っすぐだ。
「前の件で『烙印持ちでも金を払えば遊ばせている』ことにしたのが功を奏したねぇ。半分事実ではあるけど」
ミリアムによると、前の支配人がとっ捕まった事件でもテーネが関わったのでお沙汰に影響した様だ。ただ、この花街は犯罪者の烙印を持つ者が遊び回っていた事実があるため通りすがりの烙印持ちというカバーストーリーに無理がない。
ハルカとジャンヌが合流し、素材の受け渡しは終わった。だがもう夕飯の時間というのもあって劇場の人がごちそうしてくれることとなった。
「わぁ、これビーフシチュー? 美味しそう!」
「こんな豪華な飯、いいのか?」
燻製や腸詰じゃない肉料理とは随分気前がいい。初めて見る料理だが、美味しいことが明らかな匂いが鼻をくすぐる。
「こっちきてからお肉ご無沙汰だったなぁ……ダイエットなんて愚かだったよ」
「だいえっと? まぁ肉はご無沙汰だろうな」
家畜を育てられる土地や飼藁の確保が出来る人間は限られるし、ましてや卵や乳を取る家畜をバラすなんてよほどのお祝いごとでないとありえない。雄の子牛は売りに出されちまうしな。食えて鶏だろうが、サナトリ村にいた頃はそんなものも食えなかった。
「太らない様に食事制限するの。肉や炭水化物……小麦とか控えたりね」
「んなことあるんだ……すげぇ土地だ」
食うことに困ることはあっても、食べ過ぎに気を付けることなんてまずない。ハルカ達の土地ではみんながみんな、そんな貴族みてーな食事してんのか。
「こっちじゃお肉の輸送大変なんでしょ?」
「ああ、氷魔法で痛みにくくは出来るんだが、それでもな」
肉は解体してからすぐに悪くなってしまうので、大きな牧場がある街でないと買えない。出まわるとしたら魚もだが燻製とかの加工品だ。
「氷はあるのね。でもそれだけじゃダメみたいね。やっぱ発泡スチロールとかないと」
「え、なんだいそれ?」
「凄く熱を遮断する軽い素材よ」
そんな夢みたいな素材があるのか……。
「じゃあそれで盾作って炎防ごう」
「それは無理ね。あんま熱かったり冷たいのは無理。日光や氷くらいが精々かな」
「そりゃ残念。でもそんな火をボーボー出す奴おらんだろ」
とはいえ魔物みたいに炎を吹く奴がいないんじゃそのくらいでいいのか。
「私は詳しくないんだけど、ジュンイチから聞いたのは火炎放射器っていって火のついた燃料を吹き出す武器があるんだって」
「ええ? なんじゃそりゃ?」
俺の頭には火の付いた薪を吹き出す謎の武器が浮かんだ。意味が分からない。
「燃料って吹き出せるのか? あんな堅いもん」
「あ、こっちの燃料液体なのよ。水みたいな」
「ええ?」
ハルカによると、彼女達の土地の燃料は液体。なら吹き出せるか……いやそっちは燃えているとこ想像できん。
「どういうこと? 燃える水?」
「石油っていって、化石の汁なの」
「え? は?」
もう常識が違って全く理解が追い付かない。かせき? せきゆ?
「あ、ああ……。化石ってのは、生物の骨とかが長い年月をかけて土の下で変化したもの。それがさらに変化すると石油っていう燃える水になるのよ」
「へぇ、不思議なものがあるんだなぁそっちには」
ハルカの土地には不思議がいっぱいだ。文字が鮮明に映るスマホとかいう鏡もそうだが、とにかく物の精度がいい。制服も複雑な縫製かつきっちりしたものがあれだけの人数分用意されているんだ。もう想像がつかない世界だ。
「白いパンも久しぶりね」
「そうなんだ、俺は初めてなんだけど」
ビーフシチューに添えられたパンは中が真っ白。ハルカ達の土地ではこれが当たり前らしいが、俺達は麦の殻や雑穀の混じったパンが基本だ。こんな白くて甘いパンはそれこそ高級品。
「これだけでいけるぞ」
「本当、久しぶりに食べたら美味しくてびっくりしちゃった。これが一斤80円とかで売ってるの帰ったあとに受け入れられるかしら」
えーっと、たしか700円が一時間働いてもらえる最低の賃金だっけ? じゃあ一時間で十個くらいは買えちまうのか。一時間はだいたいエンタールから俺がゴーレム倒しにいった村へ行ってすぐ戻ってくる程度の時間っぽいし、一斤ってなにか分からないけど、少なくともこのパン一個分程度と考えると……。
「すっごいな……」
「ねぇ、なんかすごいよね。こんな価値観の違う世界を見ちゃうと生き方変わるかも」
たしかに、俺もハルカ達が住んでいるみたいな土地があると知ったら、自分の見ているものへの感覚も変わるだろうな。この世界にはもっと凄いものがあるだろうし、作れる可能性があるんだろう。
「日本……私達の国は衰退しているとかどんどん悪くなるとか言われているけど、それでも幸せがないわけじゃない。じゃなきゃ、帰りたいなんて思わないもの」
「そうだな……」
ここまで豊かな国でも衰退しているのか。でも俺達なんて国がどうのなんて考えたことないし、もし自分の住んでいる国が衰退していてもそれとなく自分なりの幸せを見つけて生きていくんだろうな。国は俺達自身じゃないからだ。
「この世界も、私達の世界に比べれば苦労も多いだろうけど、幸せじゃないなんてことなかった。幸せなんて、自分で見つけるんだってわかったし、ここに来れてよかった」
ハルカはエンタールに来て何かを得た様だ。だが、その感想はまだ取っておいてほしいものだ。
「家に帰るまでそいつは取っておけ。思い出にするには、まだ新しすぎる」
「そうね」
「ということで、通りすがりの烙印持ちが殺していったと?」
「ええ、烙印持ちが来たのを街の人も見ていますし、ここは烙印持ちでも金さえあれば遊ばせていた場所ですから」
烙印持ちが絡んでいるかも、ということもありお沙汰はその日中、とはいえ夜遅くに行われた。街の人にもテーネは慕われていて、フィルセさえこの様に口裏合わせに協力してくれれば全く問題なく進んだ。
「支配人が斬られた事件でもありませんでしたか似た様なこと?」
以前もテーネが悪徳支配人を倒した事件があり、そこを突っ込まれることも予想済み
だったのかミリアムさんはすっと質問に答える。
「ええ、何せ烙印持ちが遊ぶにはここしかありませんから、違う烙印持ちが常に街へ訪れているということもありえます。経営体制が変わっても、隠れ住んでいる彼らに情報が行きわたるには時間が掛かるでしょうから今後も同様のことがあるかと」
ミリアムさんは後々も起きるかもしれない事件を見越しての発言をしている。
「警備の必要は?」
「ありません。彼らも遊びに来ているので、こちらが刺激すると却って危険です」
のらりくらりと裁判官の発言をかわし、現状維持に話をもっていく。
「ねぇ、ところで最近連れてったシンジってバカのことだけど」
フィルセは裁判官にシンジに下ったお沙汰のことを聞いた。そういえば転送魔法でぶっ飛ばされたから全く話を聞いてなかったな。
「彼ですね。たしか召喚獣やテイムされていない魔物召喚は重罪ですので、無期懲役になったかと」
「そ。だって」
最近の話で被告の特異性もあってか、裁判官は事件の担当ではないだろうに判決のことを知っていた。無期懲役か。一生牢屋の中だろうな。死刑にならないだけマシか。
「へぇ、まぁ仕方ないわね」
同郷のハルカからもこの扱い。女神像の一件といい、何度も危険に晒されれば愛想も尽きる。元々クラスとやらでも浮いた存在だったろうし。
「それよりその世界是正なんたらってどうなの? ちゃんと元締めしょっ引いてくれるんでしょうね?」
「ええ、バスターの加護の悪用は重罪ですから」
それ以上に気にしていたのはキャティスらの組織。なんてことはない馬鹿の集まりだと思っていたが、彼女にはシンジ以上に思うことがあるのだろうか。
「何か気になることが?」
「うちの世界にもいるのよ。ああやって自分の意見が正しいって思いこんでめちゃくちゃする奴」
「ああ、どこも一緒なのか」
ハルカ達の土地も大変だな……。特にバスターの加護がないってことは武器持ってる奴の天下だろうし。バスターの加護は強大な力だが、その分悪用対策もされてるわけだし。
「それよりあのバカ、魔王レベル99って意味わかんない加護なんだけど大丈夫なのその辺」
フィルセはシンジの加護をどうお沙汰側で受け止めているかを尋ねた。俺も初めて見た時は我が目とスキルを疑った。
「ええ、まさかとは思いました……。烙印持ちの判定が出ず、何人もが看破しても覆らず……。万が一を考えて有知性魔物用の監獄にぶち込みました」
とても信じられないものでこそあれ、万が一があれば多くの犠牲も出ると考えこの判断。実に正しい。
「魔物って倒すんじゃないの?」
疑問に持ったのはハルカ。確かにこれまでの話の流れなら魔物を牢屋に入れる理由はない。
「知性があって話せる魔物は群の中でも重要な役割を持っていて情報を引き出すことが出来るかもしれないんだ。だから生け捕りにする牢屋がある……って言っても魔王台頭時代の産物だがな」
「ですが、整備は怠っておらず研究も続いています。万が一魔王が再起してもいい様に、当時の性能の数十倍にまで発展しています」
魔王時代はよほどひどかったのか、昔の話にも関わらず再来してもいい様に牢屋の改良が行われていた。今まさに役立ったということか。
「しかしあれは何なんです?」
「俺に聞くな。一緒に飛んできた教室とかいうのも含めて意味わかんねぇんだから」
話は変わってその牢屋にぶち込まれたアホのこと。審問官だからって俺に聞かれても、説明できない。ニアの術式完成を待つしか俺達には方法がないんだから。
「ん? お沙汰が終わったら明日帰れるんじゃない?」
「明日は現場検証だ。明日エンタールに戻ってニアに材料渡してくれ」
ハルカは沙汰が終わったと思った様だが、まだやることは山とある。
「こういうのって被疑者死亡で不起訴にならない?」
「まぁ本人は死んだが思想を持った組織の名前を出した以上、そこが連座で裁かれるだろうしその為のお沙汰って感じだな」
ハルカ達の土地では犯人が死ぬとそこで終わりみたいだが、今回は世界是正協会そのものに罰を下すため罪を精査しないといけない。今日だけでお沙汰は終わらないのだ。
「そう。じゃあまた明日」
「おう、夕方には戻ると思う」
俺達は明日に備えて寝ようとした。が、その時遠くで爆発が聞こえた。
「人が寝ようとしてる時に爆発するんじゃねぇ!」
「奴らか?」
フィルセが剣に手をかけ、爆発のあった方を見る。お沙汰の渦中にいる組織の報復かと、裁判官たちも身構える。
「ジャンヌ! ハルカ達を頼んだ!」
「任せろ」
俺達は急いで爆発のあった方へ向かう。その場所は聖娼がサービスを行わない、女の子がお酌をしてくれるだけの酒場であった。そんなもん何が楽しいのか分からないが、歳をとると女の子がお酌をしてくれるだけで嬉しいものなんだとか。
「た、助けてくれ……」
「大丈夫か!」
店からフラフラと出て来たのは、屈強そうな体つきの店付き用心棒。リバストさんと同じ門番の加護を持っているので、そう簡単に負けるとも思えないが……。
「モグラみたいなガキっぽいオッサンが急に店の女の子を……」
「んだそりゃ、化け物か?」
目撃情報が意味不明だが、おそらく世界是正協会ではなさそうだ。単独犯だし。
「魔物尻口男だー!」
「んな魔物聞いたことねぇ」
逃げ出した客の証言も意味が分からなかったが、とりあえず看破スキルで様子を見る。すると、信じられない魔王レベル99の加護、まさかこいつは……。
「カイヅカシンジ!」
「捕まったはず!」
店でふんぞり返って座っていたのは、シンジだった。魔物用の檻にぶち込まれたはず。それも魔王全盛の頃より性能がアップしたものに。……見返すとこいつの口はどういうわけか尻の穴にしか見えないな……。
「明らかな犯罪者なのに烙印がない?」
しかし気になるのは加護の看破でも、見た目でも犯罪者の印たる烙印がないこと。人殺しはしていないが沙汰で罰が下ったなら、最低でも黄色の烙印くらいつくはずだが……。
「酒苦いだで。甘いの寄越すで」
女の子達にお酌をさせてこの態度。店の男性スタッフは軒並み昏倒させられていた。
「お前どうやって脱獄した! 王都の大魔導士が半年かけても脱出出来ない代物だぞ!」
裁判官たちは動揺を隠せない。だが、捕縛出来ないとなれば即座に頭を切り替えて戦いの準備をする。この場で処刑する気だ。
「いや、方法などどうでもいい。脱獄と加護を用いた市民への傷害、従業員女性への狼藉、十分死刑に値する!」
「ろーぜき? ろぜきならお前もやっとるやないか」
裁判官の言葉に、シンジは意味不明な返答をする。これはあれか、バカ特有の『おまえだって』で返して言い返した気になるあれか?
「は?」
「フィルセ、あまり真剣に考えるな。馬鹿の言うことだ」
そりゃこんな反応になる。シンジは聞かれてもいないのに話を続けた。
「道端でかわいい女の子とすれ違ってかわいいと思うのもろーぜきやろ?」
「?」
「?」
「あーもう全員が首傾げてんじゃねーか!」
馬鹿のくせにいっちょ前に反論なんかしようとするから事態がややこしくなる。
「ごちゃごちゃ言ってないでお縄に付け! これ以上アホやるとお前知らない土地で死刑だぞ!」
とりあえず生きていればワンチャン送り返せるだろうが、死んではどうしようもない。こんなゴミの処分うちでやりたくないのでお持ち帰り願いたいところだ。
「そもそも現行犯で店のスタッフ脅して怪我させてる時点で言い訳出来ねぇんだよ!」
「わぁああああああああ!」
詰めていると、シンジは急に大声を上げ、地団駄を踏み始めた。今までは黙り込むことの方が多かったが、それでは効果がないとダメな方に学習したのか。うちの弟みたいに叱られずに育つのもろくな人間にならないが、叱られる度に黙るか癇癪を起すかして切り抜けようとするのも同様か。
「うるせぇな! 法の下のお沙汰にガキくせぇ態度が通用すると思うな! 却って心象が悪化するだけだ!」
「……」
俺はひるまずに怒鳴るが、シンジは黙る。これは嵐が過ぎ去るのを待つ感じの沈黙ではなく、今まではこれでどうにかなっていたが通用しなくて動揺しているのだろう。
「わああああ!」
今度は再度癇癪を起し、腕を振り回してこっちへ迫る。いくら素手でも魔王レベル99のダメージは大きいはずだ。でなければ俺より屈強で加護のレベルも高い男性スタッフが倒されたりしない。だが俺にはこいつに対する油断など欠片もない。こんなバカでも数値上の強さだけは本物だと知っている。
「審問官の加護を与えし神よ! ナシバ!」
俺は審問官の加護を司る神に、攻撃の許可を取った。途中だったが力が溢れてくる。勢いのまま金縛りの魔法を使うと、今までにないくらい確実にシンジの動きが止まった。
「あびゃああああ!」
「この力は……」
審問官は一応、悪霊に特効があるってのは知ってたが犯罪者にも同様なのか? 裁判官はその説明をしてくれる。
「どういう理由で烙印を免れているのか知らないが、加護の神に伺いを立てた時点でその判定は人間ではなく神によって行われている……。誤魔化しは利かない様だ」
「なるほど、上から覗けば一目瞭然ってわけか」
神と人では視点が違う。そこに関係があるのだろう。
「そして、来い、パニッシュメントゲート!」
裁判官はシンジの後ろに魔法陣を出し、何かを召喚した。魔法陣が描かれると中の模様が一周し、床に穴が開く。その後、薄氷の様なバリアが砕けて中から俺達の背丈の倍はあろう巨大な扉が出現した。
「これは、死刑相当の重犯罪者相手にのみ召喚が許される裁判官や審問官の加護専用の召喚獣、パニッシュメントゲート……私も見るのは初めてだ」
「すげー……俺もいつか召喚できるんかな」
フィルセほどのバスターでも初見だというこの扉。鎖で巻かれており、それが解かれると今度は閂が外れ、鍵の開く音がする。相当厳重に封じられている様だ。
「開いた!」
微かに開いた扉から鎖が飛び出し、シンジの首を絞める。
「うげえええ! なんでオラがあああ!」
「牢屋の時点で大人しく罪を償っていればな……」
裁判官も溜息をつく。確かに脱獄なんてしなければ済んだ話だ。
「あの中はどこに続いているんだ?」
そうなると中身が気になる。誰も知らない様だが、突然天から声が聞こえる。
『若き審問官、リュウガ・アークライドよ。よく働いていますね』
「え?」
「誰?」
声は俺以外にも聞こえている様でフィルセも辺りを見渡す。
『私は審問官の加護を司る神……、このパニッシュメントゲートの中は個別の虚無空間となっています。部屋一つ分の、何もない、飢えも乾きも、昼夜さえない虚空』
「へぇ、お前えらいとこ飛ばされるんだな」
狭さはともかく、腹も減らない喉も乾かない、つまり体内時計が機能しない状態で延々と放置されるのか。想像しただけでゾッとする。シンジはそこに考えが至らないまま抵抗を続ける。
「どういうことだでぇええ?」
「つまり、あんた何日経ったか分からない場所に一生閉じ込められるのよ」
「どういうことだで?」
フィルセの説明でもシンジは理解していなかったが、とにかく抵抗をしている。こいつ、直に痛いとか辛いじゃないと分からないのか?
「オデは被害者だで……! チート能力を貰って異世界転生したのに、話が違う! 無双出来るじゃないんだで? 口車に乗せられた……アンチが騙したんだで!」
シンジは誰かのうまい話に乗せられたのか、そんなことを夢見ていた。現実に向き合ったハルカ達の方が、よほどこの土地を満喫していたぜ。しかし能力だけはあるので必死にゲートへ抵抗を続ける。
だが、それも虚しく痺れを切らした扉から飛び出した巨大なフォークにぶっ刺されて持ち帰られた。
「ぎぃいいいあああああ!」
聞くに堪えない断末魔に隠れ、扉から巨大な腕が見えた。シンジを連れて行くと、扉は閉まり粉々に砕け散る。血液さえも残さず、シンジがいた痕跡は消え去る。扉も無くなったということは、出す気などさらさらないということだ。
「さすがにあいつも運が尽きたか……」
「ハルカ達が見なかったのが幸いね」
いくら見放した相手とはいえ、知り合いがこんな残酷な目に遭っているところを見たらどう思うか……。あいつらいい奴だから、シンジのことをなるべく気にせずこの先も生きて欲しいし。
「しかし、信じられないくらい性根の腐った男だったわね。あんたの弟が可愛く見えるくらい」
「だな……」
俺達はその辺の座席に座って一息つくと、そんな感想を漏らした。魔物がいない安全な国に生まれようが、肉や白いパンがいつもくれる豊かな国に生まれようが、人間の性根ってのは関係ないのかな。テーネの様に過酷な状況に置かれても、根っこがビビりのくせに本能的に人を助けようとする奴だっている。
「なんというか、あいつらが来たことは俺達にも得るものはあったかもな」
「そうね」
とんだハプニングの連続だが、きっとこの世界を旅しても得られない何かを俺達はハルカ達に貰った。そんなあいつらを無事に返してやるのが、俺達に出来るお返しだ。
重傷を負ったテーネは劇場に運ばれ、治療を受けた。どうにか一命は取り留めたが酷いものだ。ちゃんと痛みも感じている様子。剣受けても平気だった魔王レベル99のシンジがどんな防御性能しているか気になったな。
「あ、そうだ。血を貰わないといけないんだった」
俺はテーネを運び込むのに必死で血を手に入れることを忘れていた。せっかく出血しているのに、もう止血してしまった。まさか血まみれの破れた服を貰うわけにもいかない。ちゃんと念のため、ニアが提示した布に沁み込ませたいところだ。
「血ですか?」
「ああ、不意にこっちへ飛ばされた奴らを元の場所に戻す為に烙印持ちの血がいるんだ。アレがあると手順を省略して精度が上がるんだとか」
テーネは出血してふらふらだろうに、布を受け取るとペーパーナイフを手に指から血を出そうとする。しかし手が震えていて恐る恐るだ。あんだけ豪快に斬られたり刺されたりしたが、やっぱ痛いのは嫌なんだな。
「む、無理にとは言わないが……」
一応こっちが忘れてなければ止血の前に手に入れられたので、無理強いは出来ない。が、フィルセは容赦なくペーパーナイフをテーネの指にぶっ刺す。
「さっさとしなさい」
「ぎゃーっ!」
布に赤い沁みが出来る。結構深々と行った気がする。やはりちゃんと痛いのか、涙目になって指を口に入れて止血している。
「しかしそんな痛がり怖がりだってのによく迷いなく助けてくれたな……ありがたいけど」
「そ、それは……あれ。なんというか」
ああ、性格か。どんな目に遭おうとも、生まれついての性格ばかりはどうしようもない。それがいい方向に出たのがテーネなのだ。
「ふぅん、少しは悪逆非道だとやりやすいんだけど」
「もしそうだったら危険極まりねーよ」
フィルセとしては戦いにくいだろうが、おかげで助かっているところもある。こんなのがシンジみたく欲望のまま暴走したら危なくてしゃーない。自制心や良心のある奴で助かった。
「おおー、ありがとう」
「困った時はお互い様よ。私達の意見もあれば多少、通りやすくなるかも」
ゼヴォが店の女性たちから受け取っていたのは、嘆願書の追加分。話を聞いてラベルの復活を訴えようと協力してくれた。
「さて……ここからどうすっか……」
エンタールに帰りたいのはやまやまだが、放火事件の処理があって動けない。俺達は重要な証人になってしまった。死んだとはいえ、キャティス達のしたことを裁かないと俺達はエンタールへ戻ることが出来ない。
「それなら、ジャンヌとハルカにこっち来てもらってるよ。材料だけ受け渡す為にね」
「あぁ、それなら安心だ」
材料だけ早めに送るべく、ジャンヌとハルカが移動をしている。この二人なら道中も魔物にやられたりはすまい。
「しかし世界是正協会ってのはなんだ?」
「さぁ? 面倒な活動家じゃない?」
キャティス達の名乗っていた組織が気になるが、聞いたこともない連中だ。最近生えてきたのか? フィルセも知らないんじゃあ、分かることはほぼないか。
「で、お沙汰にはこいつ出るの?」
「いや無理だろ」
フィルセがそれより気にしていたのは、この事件の沙汰にテーネが出るかどうか。事件の流れを正確に伝えるなら必要だが、もうややこしくなりそうだ。悪いのは十中八九キャティスであり殺されたのもあいつらが劇場スタッフを殺そうとしたのが原因だしテーネはなるべく殺さずに済ませようとはしていたが、烙印持ちが絡むとなんか面倒なことになりそうだ。話はシンプルなのに烙印持ちを裁きたいがために結果が歪みそうで。
「話としては襲われたところを烙印持ちが通りかかって倒していったってことにしましょう。口裏は合わせておくわ」
「それで行きますか」
劇場の支配人、ミリアムさんが話を合わせてくれた。匿うのも任せていいかな。そうなると心配なのはこいつ、と俺はフィルセの方を見る。
「心配するな。仁義は通す。次はないがな」
ただやはり、助けられたのを無視して復讐優先出来ない程度にフィルセも性根は真っすぐだ。
「前の件で『烙印持ちでも金を払えば遊ばせている』ことにしたのが功を奏したねぇ。半分事実ではあるけど」
ミリアムによると、前の支配人がとっ捕まった事件でもテーネが関わったのでお沙汰に影響した様だ。ただ、この花街は犯罪者の烙印を持つ者が遊び回っていた事実があるため通りすがりの烙印持ちというカバーストーリーに無理がない。
ハルカとジャンヌが合流し、素材の受け渡しは終わった。だがもう夕飯の時間というのもあって劇場の人がごちそうしてくれることとなった。
「わぁ、これビーフシチュー? 美味しそう!」
「こんな豪華な飯、いいのか?」
燻製や腸詰じゃない肉料理とは随分気前がいい。初めて見る料理だが、美味しいことが明らかな匂いが鼻をくすぐる。
「こっちきてからお肉ご無沙汰だったなぁ……ダイエットなんて愚かだったよ」
「だいえっと? まぁ肉はご無沙汰だろうな」
家畜を育てられる土地や飼藁の確保が出来る人間は限られるし、ましてや卵や乳を取る家畜をバラすなんてよほどのお祝いごとでないとありえない。雄の子牛は売りに出されちまうしな。食えて鶏だろうが、サナトリ村にいた頃はそんなものも食えなかった。
「太らない様に食事制限するの。肉や炭水化物……小麦とか控えたりね」
「んなことあるんだ……すげぇ土地だ」
食うことに困ることはあっても、食べ過ぎに気を付けることなんてまずない。ハルカ達の土地ではみんながみんな、そんな貴族みてーな食事してんのか。
「こっちじゃお肉の輸送大変なんでしょ?」
「ああ、氷魔法で痛みにくくは出来るんだが、それでもな」
肉は解体してからすぐに悪くなってしまうので、大きな牧場がある街でないと買えない。出まわるとしたら魚もだが燻製とかの加工品だ。
「氷はあるのね。でもそれだけじゃダメみたいね。やっぱ発泡スチロールとかないと」
「え、なんだいそれ?」
「凄く熱を遮断する軽い素材よ」
そんな夢みたいな素材があるのか……。
「じゃあそれで盾作って炎防ごう」
「それは無理ね。あんま熱かったり冷たいのは無理。日光や氷くらいが精々かな」
「そりゃ残念。でもそんな火をボーボー出す奴おらんだろ」
とはいえ魔物みたいに炎を吹く奴がいないんじゃそのくらいでいいのか。
「私は詳しくないんだけど、ジュンイチから聞いたのは火炎放射器っていって火のついた燃料を吹き出す武器があるんだって」
「ええ? なんじゃそりゃ?」
俺の頭には火の付いた薪を吹き出す謎の武器が浮かんだ。意味が分からない。
「燃料って吹き出せるのか? あんな堅いもん」
「あ、こっちの燃料液体なのよ。水みたいな」
「ええ?」
ハルカによると、彼女達の土地の燃料は液体。なら吹き出せるか……いやそっちは燃えているとこ想像できん。
「どういうこと? 燃える水?」
「石油っていって、化石の汁なの」
「え? は?」
もう常識が違って全く理解が追い付かない。かせき? せきゆ?
「あ、ああ……。化石ってのは、生物の骨とかが長い年月をかけて土の下で変化したもの。それがさらに変化すると石油っていう燃える水になるのよ」
「へぇ、不思議なものがあるんだなぁそっちには」
ハルカの土地には不思議がいっぱいだ。文字が鮮明に映るスマホとかいう鏡もそうだが、とにかく物の精度がいい。制服も複雑な縫製かつきっちりしたものがあれだけの人数分用意されているんだ。もう想像がつかない世界だ。
「白いパンも久しぶりね」
「そうなんだ、俺は初めてなんだけど」
ビーフシチューに添えられたパンは中が真っ白。ハルカ達の土地ではこれが当たり前らしいが、俺達は麦の殻や雑穀の混じったパンが基本だ。こんな白くて甘いパンはそれこそ高級品。
「これだけでいけるぞ」
「本当、久しぶりに食べたら美味しくてびっくりしちゃった。これが一斤80円とかで売ってるの帰ったあとに受け入れられるかしら」
えーっと、たしか700円が一時間働いてもらえる最低の賃金だっけ? じゃあ一時間で十個くらいは買えちまうのか。一時間はだいたいエンタールから俺がゴーレム倒しにいった村へ行ってすぐ戻ってくる程度の時間っぽいし、一斤ってなにか分からないけど、少なくともこのパン一個分程度と考えると……。
「すっごいな……」
「ねぇ、なんかすごいよね。こんな価値観の違う世界を見ちゃうと生き方変わるかも」
たしかに、俺もハルカ達が住んでいるみたいな土地があると知ったら、自分の見ているものへの感覚も変わるだろうな。この世界にはもっと凄いものがあるだろうし、作れる可能性があるんだろう。
「日本……私達の国は衰退しているとかどんどん悪くなるとか言われているけど、それでも幸せがないわけじゃない。じゃなきゃ、帰りたいなんて思わないもの」
「そうだな……」
ここまで豊かな国でも衰退しているのか。でも俺達なんて国がどうのなんて考えたことないし、もし自分の住んでいる国が衰退していてもそれとなく自分なりの幸せを見つけて生きていくんだろうな。国は俺達自身じゃないからだ。
「この世界も、私達の世界に比べれば苦労も多いだろうけど、幸せじゃないなんてことなかった。幸せなんて、自分で見つけるんだってわかったし、ここに来れてよかった」
ハルカはエンタールに来て何かを得た様だ。だが、その感想はまだ取っておいてほしいものだ。
「家に帰るまでそいつは取っておけ。思い出にするには、まだ新しすぎる」
「そうね」
「ということで、通りすがりの烙印持ちが殺していったと?」
「ええ、烙印持ちが来たのを街の人も見ていますし、ここは烙印持ちでも金さえあれば遊ばせていた場所ですから」
烙印持ちが絡んでいるかも、ということもありお沙汰はその日中、とはいえ夜遅くに行われた。街の人にもテーネは慕われていて、フィルセさえこの様に口裏合わせに協力してくれれば全く問題なく進んだ。
「支配人が斬られた事件でもありませんでしたか似た様なこと?」
以前もテーネが悪徳支配人を倒した事件があり、そこを突っ込まれることも予想済み
だったのかミリアムさんはすっと質問に答える。
「ええ、何せ烙印持ちが遊ぶにはここしかありませんから、違う烙印持ちが常に街へ訪れているということもありえます。経営体制が変わっても、隠れ住んでいる彼らに情報が行きわたるには時間が掛かるでしょうから今後も同様のことがあるかと」
ミリアムさんは後々も起きるかもしれない事件を見越しての発言をしている。
「警備の必要は?」
「ありません。彼らも遊びに来ているので、こちらが刺激すると却って危険です」
のらりくらりと裁判官の発言をかわし、現状維持に話をもっていく。
「ねぇ、ところで最近連れてったシンジってバカのことだけど」
フィルセは裁判官にシンジに下ったお沙汰のことを聞いた。そういえば転送魔法でぶっ飛ばされたから全く話を聞いてなかったな。
「彼ですね。たしか召喚獣やテイムされていない魔物召喚は重罪ですので、無期懲役になったかと」
「そ。だって」
最近の話で被告の特異性もあってか、裁判官は事件の担当ではないだろうに判決のことを知っていた。無期懲役か。一生牢屋の中だろうな。死刑にならないだけマシか。
「へぇ、まぁ仕方ないわね」
同郷のハルカからもこの扱い。女神像の一件といい、何度も危険に晒されれば愛想も尽きる。元々クラスとやらでも浮いた存在だったろうし。
「それよりその世界是正なんたらってどうなの? ちゃんと元締めしょっ引いてくれるんでしょうね?」
「ええ、バスターの加護の悪用は重罪ですから」
それ以上に気にしていたのはキャティスらの組織。なんてことはない馬鹿の集まりだと思っていたが、彼女にはシンジ以上に思うことがあるのだろうか。
「何か気になることが?」
「うちの世界にもいるのよ。ああやって自分の意見が正しいって思いこんでめちゃくちゃする奴」
「ああ、どこも一緒なのか」
ハルカ達の土地も大変だな……。特にバスターの加護がないってことは武器持ってる奴の天下だろうし。バスターの加護は強大な力だが、その分悪用対策もされてるわけだし。
「それよりあのバカ、魔王レベル99って意味わかんない加護なんだけど大丈夫なのその辺」
フィルセはシンジの加護をどうお沙汰側で受け止めているかを尋ねた。俺も初めて見た時は我が目とスキルを疑った。
「ええ、まさかとは思いました……。烙印持ちの判定が出ず、何人もが看破しても覆らず……。万が一を考えて有知性魔物用の監獄にぶち込みました」
とても信じられないものでこそあれ、万が一があれば多くの犠牲も出ると考えこの判断。実に正しい。
「魔物って倒すんじゃないの?」
疑問に持ったのはハルカ。確かにこれまでの話の流れなら魔物を牢屋に入れる理由はない。
「知性があって話せる魔物は群の中でも重要な役割を持っていて情報を引き出すことが出来るかもしれないんだ。だから生け捕りにする牢屋がある……って言っても魔王台頭時代の産物だがな」
「ですが、整備は怠っておらず研究も続いています。万が一魔王が再起してもいい様に、当時の性能の数十倍にまで発展しています」
魔王時代はよほどひどかったのか、昔の話にも関わらず再来してもいい様に牢屋の改良が行われていた。今まさに役立ったということか。
「しかしあれは何なんです?」
「俺に聞くな。一緒に飛んできた教室とかいうのも含めて意味わかんねぇんだから」
話は変わってその牢屋にぶち込まれたアホのこと。審問官だからって俺に聞かれても、説明できない。ニアの術式完成を待つしか俺達には方法がないんだから。
「ん? お沙汰が終わったら明日帰れるんじゃない?」
「明日は現場検証だ。明日エンタールに戻ってニアに材料渡してくれ」
ハルカは沙汰が終わったと思った様だが、まだやることは山とある。
「こういうのって被疑者死亡で不起訴にならない?」
「まぁ本人は死んだが思想を持った組織の名前を出した以上、そこが連座で裁かれるだろうしその為のお沙汰って感じだな」
ハルカ達の土地では犯人が死ぬとそこで終わりみたいだが、今回は世界是正協会そのものに罰を下すため罪を精査しないといけない。今日だけでお沙汰は終わらないのだ。
「そう。じゃあまた明日」
「おう、夕方には戻ると思う」
俺達は明日に備えて寝ようとした。が、その時遠くで爆発が聞こえた。
「人が寝ようとしてる時に爆発するんじゃねぇ!」
「奴らか?」
フィルセが剣に手をかけ、爆発のあった方を見る。お沙汰の渦中にいる組織の報復かと、裁判官たちも身構える。
「ジャンヌ! ハルカ達を頼んだ!」
「任せろ」
俺達は急いで爆発のあった方へ向かう。その場所は聖娼がサービスを行わない、女の子がお酌をしてくれるだけの酒場であった。そんなもん何が楽しいのか分からないが、歳をとると女の子がお酌をしてくれるだけで嬉しいものなんだとか。
「た、助けてくれ……」
「大丈夫か!」
店からフラフラと出て来たのは、屈強そうな体つきの店付き用心棒。リバストさんと同じ門番の加護を持っているので、そう簡単に負けるとも思えないが……。
「モグラみたいなガキっぽいオッサンが急に店の女の子を……」
「んだそりゃ、化け物か?」
目撃情報が意味不明だが、おそらく世界是正協会ではなさそうだ。単独犯だし。
「魔物尻口男だー!」
「んな魔物聞いたことねぇ」
逃げ出した客の証言も意味が分からなかったが、とりあえず看破スキルで様子を見る。すると、信じられない魔王レベル99の加護、まさかこいつは……。
「カイヅカシンジ!」
「捕まったはず!」
店でふんぞり返って座っていたのは、シンジだった。魔物用の檻にぶち込まれたはず。それも魔王全盛の頃より性能がアップしたものに。……見返すとこいつの口はどういうわけか尻の穴にしか見えないな……。
「明らかな犯罪者なのに烙印がない?」
しかし気になるのは加護の看破でも、見た目でも犯罪者の印たる烙印がないこと。人殺しはしていないが沙汰で罰が下ったなら、最低でも黄色の烙印くらいつくはずだが……。
「酒苦いだで。甘いの寄越すで」
女の子達にお酌をさせてこの態度。店の男性スタッフは軒並み昏倒させられていた。
「お前どうやって脱獄した! 王都の大魔導士が半年かけても脱出出来ない代物だぞ!」
裁判官たちは動揺を隠せない。だが、捕縛出来ないとなれば即座に頭を切り替えて戦いの準備をする。この場で処刑する気だ。
「いや、方法などどうでもいい。脱獄と加護を用いた市民への傷害、従業員女性への狼藉、十分死刑に値する!」
「ろーぜき? ろぜきならお前もやっとるやないか」
裁判官の言葉に、シンジは意味不明な返答をする。これはあれか、バカ特有の『おまえだって』で返して言い返した気になるあれか?
「は?」
「フィルセ、あまり真剣に考えるな。馬鹿の言うことだ」
そりゃこんな反応になる。シンジは聞かれてもいないのに話を続けた。
「道端でかわいい女の子とすれ違ってかわいいと思うのもろーぜきやろ?」
「?」
「?」
「あーもう全員が首傾げてんじゃねーか!」
馬鹿のくせにいっちょ前に反論なんかしようとするから事態がややこしくなる。
「ごちゃごちゃ言ってないでお縄に付け! これ以上アホやるとお前知らない土地で死刑だぞ!」
とりあえず生きていればワンチャン送り返せるだろうが、死んではどうしようもない。こんなゴミの処分うちでやりたくないのでお持ち帰り願いたいところだ。
「そもそも現行犯で店のスタッフ脅して怪我させてる時点で言い訳出来ねぇんだよ!」
「わぁああああああああ!」
詰めていると、シンジは急に大声を上げ、地団駄を踏み始めた。今までは黙り込むことの方が多かったが、それでは効果がないとダメな方に学習したのか。うちの弟みたいに叱られずに育つのもろくな人間にならないが、叱られる度に黙るか癇癪を起すかして切り抜けようとするのも同様か。
「うるせぇな! 法の下のお沙汰にガキくせぇ態度が通用すると思うな! 却って心象が悪化するだけだ!」
「……」
俺はひるまずに怒鳴るが、シンジは黙る。これは嵐が過ぎ去るのを待つ感じの沈黙ではなく、今まではこれでどうにかなっていたが通用しなくて動揺しているのだろう。
「わああああ!」
今度は再度癇癪を起し、腕を振り回してこっちへ迫る。いくら素手でも魔王レベル99のダメージは大きいはずだ。でなければ俺より屈強で加護のレベルも高い男性スタッフが倒されたりしない。だが俺にはこいつに対する油断など欠片もない。こんなバカでも数値上の強さだけは本物だと知っている。
「審問官の加護を与えし神よ! ナシバ!」
俺は審問官の加護を司る神に、攻撃の許可を取った。途中だったが力が溢れてくる。勢いのまま金縛りの魔法を使うと、今までにないくらい確実にシンジの動きが止まった。
「あびゃああああ!」
「この力は……」
審問官は一応、悪霊に特効があるってのは知ってたが犯罪者にも同様なのか? 裁判官はその説明をしてくれる。
「どういう理由で烙印を免れているのか知らないが、加護の神に伺いを立てた時点でその判定は人間ではなく神によって行われている……。誤魔化しは利かない様だ」
「なるほど、上から覗けば一目瞭然ってわけか」
神と人では視点が違う。そこに関係があるのだろう。
「そして、来い、パニッシュメントゲート!」
裁判官はシンジの後ろに魔法陣を出し、何かを召喚した。魔法陣が描かれると中の模様が一周し、床に穴が開く。その後、薄氷の様なバリアが砕けて中から俺達の背丈の倍はあろう巨大な扉が出現した。
「これは、死刑相当の重犯罪者相手にのみ召喚が許される裁判官や審問官の加護専用の召喚獣、パニッシュメントゲート……私も見るのは初めてだ」
「すげー……俺もいつか召喚できるんかな」
フィルセほどのバスターでも初見だというこの扉。鎖で巻かれており、それが解かれると今度は閂が外れ、鍵の開く音がする。相当厳重に封じられている様だ。
「開いた!」
微かに開いた扉から鎖が飛び出し、シンジの首を絞める。
「うげえええ! なんでオラがあああ!」
「牢屋の時点で大人しく罪を償っていればな……」
裁判官も溜息をつく。確かに脱獄なんてしなければ済んだ話だ。
「あの中はどこに続いているんだ?」
そうなると中身が気になる。誰も知らない様だが、突然天から声が聞こえる。
『若き審問官、リュウガ・アークライドよ。よく働いていますね』
「え?」
「誰?」
声は俺以外にも聞こえている様でフィルセも辺りを見渡す。
『私は審問官の加護を司る神……、このパニッシュメントゲートの中は個別の虚無空間となっています。部屋一つ分の、何もない、飢えも乾きも、昼夜さえない虚空』
「へぇ、お前えらいとこ飛ばされるんだな」
狭さはともかく、腹も減らない喉も乾かない、つまり体内時計が機能しない状態で延々と放置されるのか。想像しただけでゾッとする。シンジはそこに考えが至らないまま抵抗を続ける。
「どういうことだでぇええ?」
「つまり、あんた何日経ったか分からない場所に一生閉じ込められるのよ」
「どういうことだで?」
フィルセの説明でもシンジは理解していなかったが、とにかく抵抗をしている。こいつ、直に痛いとか辛いじゃないと分からないのか?
「オデは被害者だで……! チート能力を貰って異世界転生したのに、話が違う! 無双出来るじゃないんだで? 口車に乗せられた……アンチが騙したんだで!」
シンジは誰かのうまい話に乗せられたのか、そんなことを夢見ていた。現実に向き合ったハルカ達の方が、よほどこの土地を満喫していたぜ。しかし能力だけはあるので必死にゲートへ抵抗を続ける。
だが、それも虚しく痺れを切らした扉から飛び出した巨大なフォークにぶっ刺されて持ち帰られた。
「ぎぃいいいあああああ!」
聞くに堪えない断末魔に隠れ、扉から巨大な腕が見えた。シンジを連れて行くと、扉は閉まり粉々に砕け散る。血液さえも残さず、シンジがいた痕跡は消え去る。扉も無くなったということは、出す気などさらさらないということだ。
「さすがにあいつも運が尽きたか……」
「ハルカ達が見なかったのが幸いね」
いくら見放した相手とはいえ、知り合いがこんな残酷な目に遭っているところを見たらどう思うか……。あいつらいい奴だから、シンジのことをなるべく気にせずこの先も生きて欲しいし。
「しかし、信じられないくらい性根の腐った男だったわね。あんたの弟が可愛く見えるくらい」
「だな……」
俺達はその辺の座席に座って一息つくと、そんな感想を漏らした。魔物がいない安全な国に生まれようが、肉や白いパンがいつもくれる豊かな国に生まれようが、人間の性根ってのは関係ないのかな。テーネの様に過酷な状況に置かれても、根っこがビビりのくせに本能的に人を助けようとする奴だっている。
「なんというか、あいつらが来たことは俺達にも得るものはあったかもな」
「そうね」
とんだハプニングの連続だが、きっとこの世界を旅しても得られない何かを俺達はハルカ達に貰った。そんなあいつらを無事に返してやるのが、俺達に出来るお返しだ。
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