普通に役立たずなので当たり前の様に追放されたんだけど明日からどうしよう

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ダンジョンで飯なんか食ってる場合か

稚拙

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「これが奴の店か……」
 俺たちは宮廷料理人の店を訪れた。この村出身であるファフはそこにも違和感を覚えていたのだが。
「このお店……たしか」
「別人のか?」
 どうも元々別の人のお店だったらしい。彼女も頷く。行列であり中にはすぐ入れなさそうである。
「飯屋にわざわざ並ぶ?」
「さぁ?」
 フィルセもそこは疑問に思っていた。俺たちの感覚だと、飯屋ってのはよほどまずくない限りさっと食えることを優先する。だってわざわざ人の金払って作ってもらうって、準備や片付けをしてもらいたいからだし……。
「有名なお店ってのはありますけど……そういうのって貴族階級で評判だったりそういう感じかと」
 旅をしてきたテーネが疑問に思ったのは客層の雑多さだ。バスターに村人、貴族。そもそも食の好みが大きく異なるグループが一斉に並んでいるのも妙だ。ハルカから聞いたが、体を動かすとエンブンだかなんだかが消費されて濃い味付けを好むんだとかなんとかかんとか。貴族の好みとバスターの好みが違う理由はそこにあるっぽいし。
「人気になるのはハッセン飯店の肉饅頭みたいに手軽なものですし」
「そのハッセン飯店を皆さんおなじみみたいに言われても困るわ」
 フィルセの苦言はともかく、確かに話題になるのは手軽な軽食だろうか。ハルカ達の世界だと飯屋に並ぶこともあるんだが、それは情報の出回り方とかそういう事情があるっぽいしこっちの感覚じゃあ無いかな。
「よし」
 俺は通りすがりの旅人のフリをして、何が有名なのか並んでいる人に聞くことにした。聞き込みは調査の基本だ。
「やぁ、飯屋に行列とはずいぶん珍しいな。何かおいしいものがあるのかい?」
「ああ、なんでもおいしいスパイス煮があるそうだ」
「カナディウス煮か?」
 スパイス煮がお目当てらしいが、それだったらカナディウス煮があるじゃないか。でもこんな行列、カナディウス煮であるか?
「カナディウス煮? なんだいそれは?」
「おいおい、カナディウス村に来てカナディウス煮を知らないとはさてはモグリだな? この村で発祥の大人気な定番スパイス煮だ」
 俺は相手をよく見る。恰好からしてこの村の人間だ。旅をするには魔物から身を守る必要があったりするし、旅装か否かはすぐにわかる。それがカナディウス煮を知らない? 一体どういうことだ?
「おじさん……」
 ファフの反応を見る限りでは確かにこいつは村人だ。何がどうなってんだ? いよいよ怪しい。これはあいつが何等かの催眠をしているとしか思えん。村人が自分の郷土料理を初耳みたいな反応するか? 俺は列を無視して店に入る。マサキから聞いた突入の作法もきっちりやっておく。
「デトロ! 開けロイト市警だ!」
「何の何の何?」
 フィルセの言いたいこともわかる。だって俺もこの言葉の意味知らないし。中にはかなり複雑なお作法がある文言もあるっぽいがこれは違うんだとか。『だが断る』なんて明らかに断わっているのに『絶対相手がこの要求飲むだろうな』ってタイミングで使うといいらしい。面倒!
「なんでしょうか?」
「加護を示せ。審問官だ、調査させてもらうぞ」
 宮廷料理人の男が出てくる。こういう時に審問官の加護は便利……でもねぇな。特に調査権限とかは無いし。
「昨日、この村で食事をした旅人が呪いを受けていた。聞くに魔物の出汁を使ったそうだな。調べさせてもらう」
「どうぞどうぞ」
 男は案外、すんなりと調査を受け入れた。昨日会った男と同じスープとメインのスパイス煮を頼んでおく。これが一番怪しい。
「とりあえず解毒剤は三本ある」
 フィルセはポーチの薬を確かめる。しれっとテーネがはぶられているが。
「あんたもデカース三回分は魔力残しておきなさい」
「教会が稼働したからな。呪い解くための聖水も四回分はある」
 昨日の前例を見る限り呪いを受ける可能性はあるから、対策もばっちりだ。
「そういえば看破スキルって、食材になった魔物は見抜けるんですか?」
「あー、試したことねぇや」
 ファフに言われて思い出す。生きてる相手限定じゃないか? と思ったがそれだと悪霊とかに近い魔物を看破できない。前のジャンヌとかがっつし死者だったわけだし。
「試すか」
 物は試しだ。やってみるだけやってみる。で、この妙な匂いはなんなんだ?
「しかしひどい匂いね」
「ええ」
 フィルセとテーネもそこに気づいている。あのフィルセがテーネに同意されてすごまないレベルの悪臭だ。
「なんというか卵の腐ったような……火山の火口とかそんな……」
「ウジの沸いた死体だってもうちょっとマシ」
 テーネもフィルセも自身の経験から可能な限り悪臭の例えを出す。この匂いが出ているであろう料理を人々が絶賛するという、果たして狂っているのは自分か周囲か分からなくなるような状態がこの店だ。
「……」
 気になるのはファフのことだ。魔物の呪いの中には記憶を消したり正気を失せさせるものがある。それに罹って親が自分のことを忘れていくのはひどくつらいらしい。まさにファフが直面しているのはそういうことなんじゃないか?
「匂いっつてもよ、ハルカ達の土地には水の中で開けないといけないレベルの食い物があるそうじゃないか。でも普通に食えるんだと」
「あー、なっとうっていうのも匂いはキツイらしいわ」
 俺はどうにか話を逸らす。臭いというのが即まずいことに繋がらないのはある様だ。
「ええ、ボクも食べた中で一番マズイものにカビたパンの吐瀉物漬けがありますけど、匂いは普通の吐瀉物でしたよ」
 テーネの食事遍歴は知らない方がよさそうだ。魔の加護ってことは買い物もろくにさせてもらえなさそうだし。
「食欲の失せるようなこと言わないでくれる?」
「二番目が虫の沸いた魚でしたかね。虫関係なく酸っぱくてマズイんですけど虫がニガイのなんの」
 フィルセが不快感をあらわにするもテーネは続ける。これ反撃だな。
「あーもう! 聞きたくない! 描写がねちっこいのよ!」
「まぁそれでも飲み込みましたけど」
 まずいもの耐性があるのは理解できた。さすがにまともな食材を……まとも? 魔物の肉ってまともか? ……まともな料理すればそこまでいかんだろ。
「そういえば、ゼノリウム園から手紙が来ててね」
「あー、フィルセの出た孤児院だっけ?」
 フィルセが話題を変えるために出したのは自分の園のこと。彼女の苗字もそこから来ている。
「ハルカ達の時に手紙を送ったんだけど、うちの園の名前の由来はこの件に関係している」
「というと?」
 そういえば妖精王、ニアから俺もハルカ達みたいにいわゆる異世界から来た例があるって聞いたことがある。もしかしたらゼノリウム園の由来って異世界にあるのか?
「どこまで本当のことかわからないんだけどね、二つの異世界へ行った人がいるみたいなの。最初に行った世界では、ゼノリウム園という孤児院があったそうよ。そして二度目はこの世界。その二度目でゼノリウム園の初代園長と出会った。その時に前の異世界で見た園の話をしたみたい」
「なんつーか、異世界への転移って嵐みてーなもんなのか?」
 孤児院の命名に影響するほどの頻度って、フツーに悪天候みたいなノリじゃないか。観測できないだけで案外行方不明者の何人かは異世界に転移していたりな。
「でも魔王の加護とか意味不明なもの持ってないじゃない、その人。それにいくら頻度が多くてもそのレベルで変なもの持ってる人が来ていたらこの世界終わるわ」
「それもそうか……」
 ただフィルセの言うこともその通り。人が移動するだけで魔王になったりするか? 船が難破して流れ着いた奴がみんなあんなんだったら混乱では済むまい。
「魔物出汁のスープとスパイス煮です」
「うっ!」
 話をしているとスープと料理が運ばれてくる。ただ見ただけでまずいとわかるこの料理! 肉に火が通ってねぇんだよ! あと魚の頭だけがなんで入ってんだ? 魚料理にはしっかり煮込んで頭まで食えるものもあるけど、なんで頭だけなんだよ! この茶色いびろびろはなんだ? まさか魚の内臓だけなのか?
「野菜食おう」
 現実逃避。しかし野菜にも逃げ場はなかった。根菜は生煮え、葉物はくたくた。俺も料理は得意じゃねーけど、土に埋まってる野菜は水から煮ることくらい知ってるぞ? フィルセとファフは見ただけで口をつける気を失っている。その一方でテーネは果敢に挑んでいる。パンに。
 あーパンっていろいろ大変だから飲食店でもパン屋に頼むんだよな。オボロガオカの奴が言ってたけど、あっちにも今出されたみたいなパンはあって材料が少ないから難しいらしい。材料が多い方が難しい気はするんだが、少ないと味のごまかしがきかないらしくてエンタールのパン屋をすごい褒めてたな。
「パンもうちのお手製です」
 しかし宮廷料理人の男は逃げ道を塞ぐ。こんなん終わりじゃねーか。パン及びお菓子ってすっごい緻密だから煮物一つ碌にできない奴がまともに焼ける気しねー。
「うっ」
 食べたテーネは案の定、顔が青い。そのまま口を抑えてどこかへ走り去ってしまうのであった。
「このパン置いておけば魔の加護持ち撃退できない?」
「一般市民も巻き添えじゃねーか」
 聞くだけでまずそうなもの食った経験がある奴にこの反応させるとかどうなってんだ。パンだよなこれ?
「監査団だ。報告を受けてきた」
 テーネと入れ替わる様に監査の人達もやってくる。まぁそうだろうな。多分昨日会った人みたいな目に遭ったのが他にもいて、連絡がいったのだろう。たしか監査の人って、サナトリ村の件でも来てたし初めて見る顔だがなんとかするだろ。
「お待ちしておりました」
「何?」
 ただ、宮廷料理人の男は監査の到着を予想していた。俺は驚いてしまう。なにせサナトリ村の時は完全抜き打ちだったんでジジイもプリプリ怒ってらっしゃった。何度思い出してもあれは滑稽だ。しかし、それが先に伝わっている。
「腕によりをかけた料理をお持ちします」
 監査の人のテーブルに出てきたのは照り焼きになった魔物。丸焼きにする時にソースを塗ったのか。これを作り置きできるスパイス煮やスープより早く出せるのか? あきらかに時間まで伝わってんじゃねーか。
「おいおい……店でやるならこれはないだろ……」
 しかも丸焼きってのは旅で保存食に飽きたりした時にやるもんだ。キッチンがある場所で、ましてや店で出すならスタイルも変わる。特に内臓は出してそこに野菜や香草を詰めるのが基本だ。
 この内臓も抜いた痕跡もないスタイルは……。胃の内容物も食えってのか? 旅だと野菜不足を補い恐ろしい病を避ける手の一つではあるがこれは店で出すものではない。
「表面のソースは? 見知らぬ味が香ばしさを引き立てている」
 信じられないことに監査の人は照り焼きのソースの味を見知らぬと表現した。ソース自体が知らないものなのか? それって大丈夫なのか?
「これが甘いという味です」
 料理人の言葉を聞いて、ますます意味が分からなくなった。甘いって……え? いや甘いくらい知ってるだろ? 山の木に生えている実を食べると甘いだろ? 何言ってんだこいつ?
「これって妖精王とか加護の神殿に報告した方がよくない?」
「ああ、なんかヤバイぜ」
 フィルセもこれは俺たち単独で手に負えないと感じていた。あの時、シンジが少しでもアクティブだったら積んでいた可能性を感じてしまう。
「話は分かった。この件は神殿に報告する」
 俺たちは一旦村を出ることにした。これをおいしいおいしいと今は絶賛していないが、いつ正気を失うかわかったものではない。そのうち『道草おいしい! 道草おいしい!』とか言う様になったらとゾっとするね。
「……」
 ファフの落ち込み様は大きかった。生まれ故郷が狂っていく様子は見るに堪えないだろう。まぁ俺の故郷最初から狂ってたんで全部気持ちがわかるわけねーけど。
 店を出た俺たちはテーネを拾う。店の前で胃の中身全部ぶちまけていたが、誰も反応していない辺り本当にここは危険だ。
「もったいない。これ食べなさいよ」
「ちょ、やめ……」
 フィルセはテーネに証拠として確保した店のパンをぐりぐり押し付ける。頬の烙印にパン粉が付く勢いだ。彼女による苛烈なテーネ弄りはフィルセの葛藤を感じずにはいられない。
その時、強い電流が走ってパンが焦げる。
「って! 何するの!」
「ボクじゃない!」
 パンはなにか膨らみ始めた。これは一体何が起きているんだ? 既にサイズは人の背丈を超えている。看破してみるも、名前もレベルも読み取れない。しかしパンは手足が生えて魔物の様に行動を始めた。
「わ、わ……」
 慌てている間にテーネはパンに押しつぶされてしまった。パンを踏んだ娘ならぬパンに踏まれた息子。似たような話ってハルカの世界にもあるんだなぁ。
「ちょっと! 何ぼっとしてんの!」
 フィルセに掴まれ、俺は意識を取り戻す。もしかして今、バカになりかけてた?
「やばいぞ、この空間は人を愚かにする!」
「ええ、マサキから聞いたけど……あまり上手くない作家は周囲の知能を下げて主人公を持ち上げるんだとか……」
 フィルセは別に、この空間の影響で馬鹿になったわけではない。魔王レベル99のシンジが、奴のいた世界に流通した物語を軸にした現象だとすれば、今回もそうなのかもしれないのだ?
 惜しむらくはハルカ達のような相手を知るこっちの味方がいないことだが……。
「あのパンなんなの? テーネが一撃でのびたんだけど? あのレベルの加護持ちを?」
「十中八九、あの野郎の仕業だ! あいつの作るパンが烙印に反応したんだ!」
 俺たちはこれをどうするか相談した。あれを放っておくと被害が出かねん。しかしテーネが倒されるような相手、俺たちが戦って勝てるのか?
「う、うわぁあああああっ!」
「ファフ!」
 ファフは槍を手にパンの化け物へ飛び出した。精神的にいろいろ限界だったんだろう。冷静な判断ができていない。
「うっ!」
 パンの化け物は手で彼女を叩き、地面に叩きつける。ファフは一度跳ね、そこをパンの化け物に突き飛ばされた。
「うあっ!」
 龍の被膜や鱗でできている防具が損傷するほど、パンの化け物は高い攻撃力を持っている。俺なんか出たら一瞬で殺されるだろう。
「この野郎……デカース!」
 これが呪いの類ならデカースで弱体化できるかもしれない。だが効果は表れない。
「ナシバ!」
 金縛りも効果がない。俺補助が効かなかったら何もできないんだけど?
「待て!」
 俺が参っていると、宮廷料理人の男が現れた。そいつはパンの化け物の前に出る。こいつがあれに殺されるとは思えないし、ぶっちゃけ自滅してくれるのが一番楽だが……。
「なんだと?」
 あろうことか、パンの化け物は料理人の男にすり寄っていった。なるほど、これもあいつの仕込みか。
「チッ、下らん」
 フィルセはそう吐き捨て、ファフに肩を貸してその場を去る。テーネを置いていくのはいつものことだが、この先の光景は見せたくないのだろう。
「おお、さすが佐藤様だ……」
 案の定、周りの人々は料理人をたたえた。本当に滑稽だ。もしかして一連の現象に黒幕がいるのだとしたら、シンジの失敗を活かして崇拝される様にしてアクティブなバカを連れてきたのか?
「あんた、名前は?」
 俺はとりあえずこのバカの名前を聞くことにした。命名規則がわかれば、ハルカ達の世界から来たのかどうかもわかる。
「佐藤セイユだ」
「もしや、前が名字で後ろが名前か?」
「そうだ」
 なんか知らんがセイユは自信満々に答える。やはりな。ハルカの世界の人間を神聖視しちゃいねぇ。なんせシンジとかいう特級のバケモンがいるんだからな。
「あんた。オボロガオカって土地は知っているか?」
「朧が丘?」
「いや、知らないならいい」
 相手に必要以上の情報は渡さない。
「もしかすると、どっか別の土地から来たとか?」
「ああ、転移してきたんだ」
「それを教えてもらっても?」
 俺の予想が正しければ、教室のような転移に巻き込まれたものがあるはずだ。
「それはちょっと……」
「なるほど」
 だが教えてはくれない。もしかすると急所なのか? シンジの場合はチート能力とやらを使ってウハウハしたかったので移動が一方通行でも問題なかったが、料理をしようとなると材料の調達も必須。行き来する必要がもしかしたらあるのかもしれない。
 おそらく、目的と与えられる能力は一致する。前例があってなんで推測なのかだが、肝心のシンジがだんまり決め込むのが悪い。
 俺はテーネを拾って移動する。すべてを知るに必要なこと。それはつまり、男が最初に見つかったカナディウス要塞の調査だ。
「行くか、カナディウス要塞」
 すべてはきっと、そこにある。人間が全員残らずバカになるのが能力であれ呪いであれ、んなもん放っておけるか。
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