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ずっと同じ道を。
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あたしが金髪にして学校へ行った日、楓は銀髪になって学校へ来た。
「はっ!?どういうこと?」
「そっちこそ。何そのタイミング」
「あたしが言いたい、それ」
いつもそうだ。あたしと楓は偶然が重なりやすい。
今回もまたそれだけなのだけれど、こうも何回も起きると不思議な気持ちになってくる。
「てか桜、ヤバくない?絶対怒られるよ、それ」
「楓だって人のこと言えないでしょ。あたしが怒られるなら楓も怒られるからね」
「はー、だる」
校門前で出会ったあたし達はダラダラと校舎に向かっている途中、すぐに教師に捕まった。
「お前たち2人とも指導室に来い!」
「はあい」
指導を面倒くさいと思うあたし達よりもまた面倒くさいことになったと思っているのは教師の方だろう。
何せあたし達はこの学校の「問題児」だから。
華蓮高校という名前がついたこの学校はその名の通り優美な雰囲気の女子校だ。
制服が可愛い上に偏差値も高く、都会に近い場所に立地している為、毎年人気が高い。
あたしがここに入った理由もやはりそれだった。
それなりに頭が良かったあたしは高い倍率の中、するりと華蓮高校へ入学した。
中学の頃からギャルというジャンルにいたあたしがお嬢様学校と呼ばれる高校に合格したことは中学校内でちょっとした噂になった。
「桜は絶対数日で辞める」とか「桜にお嬢様なんて似合わない」とか。
気持ちは分かるだけに反論の余地はなかったし、一緒に笑っていたぐらいだった。
逆にそれだけ言われていたからこそ絶対辞めないと思えたのかもしれない。
あたしは負けず嫌いで、言われれば言われるほど燃えるからだ。
正直なところ入学式の時の自分の浮き具合といったら半端なかった。
中学の友達が1人もいない挙句、絵に描いたような「お嬢様」ばかり並んでいたからだ。
当時いい子ぶって真っ黒な髪の毛に戻していたものの、取り繕った感が否めなかった。
初日から「マジで辞めるかもしんない」と思ったあたしを救ったのが楓だった。
自分みたいな存在が1人ぐらいはいるはずだと探して──目に付いたのだ。
入学式で姿勢正しく座る子が多い中、1人だけだるそうに座っているのを見逃さなかった。
式が終わってすぐ声を掛けに行く。
「ねぇ、初めまして。あたし桜っていうんだけど」
「知ってる。有名だから」
「え?あたしのこと?」
「そう。うちの学校で有名だった。隣の中学だよ。よく知ってるでしょ?」
「あー、まぁ。うん、知ってる」
隣の中学と言えば元カレが通っていた学校だ。
大分前に喧嘩別れしたことを思い出し、嫌な記憶だとすぐに封印した。
「私は楓。よろしくね。ところで何で私に声掛けてくれたの?」
「よろしく!えっと、入学式だるそうにしてたから。何となく合いそうだなって思ったの」
「なにその基準。でも分かるよ。想像通りこの学校は行儀良くて真面目な子ばかりだったもんね。桜は異質に見える」
「1人ぐらいギャルいるでしょって思ったらいなくてビックリしちゃった。こんなの友達出来るわけないって思ってたとこに楓が見えたの」
「ギャルではないけどね」
確かに楓はギャルではない。けれどお嬢様というジャンルにも入らなそうだ。
少し高めの身長とクールな目元と短髪は明らかに女子にモテそうで、ボーイッシュという言葉がピッタリだった。
「てかイケメン。女の子にモテそう」
「その通り。今まで付き合った子全員女の子だから」
「へぇ。ここでもモテそうだね。楓のファンクラブ出来そう」
「桜もモテると思うよ。ファンクラブ出来るかもね」
「あたしは有り得ないでしょ」
冗談のように言っていたこの言葉がその後現実になるなどあたしたちには知る由もない。
それよりも学校に慣れる方が先決だった。
偶然にも同じクラスだったあたし達はその日から一気に仲良くなった。
とにかくあたしと楓は相性がいいのだ。それに似ている。
例えば春生まれのあたしの名前が桜で、秋生まれの彼女の名前は楓。由来もほぼ変わらなかった。
身長や体型も似ているし、思考も雰囲気も似ていた。
華蓮高校で浮いている存在だというのも気が合う理由のひとつだったのかもしれない。
少なくともあたしはそうだった。
パッと見てピンと来たのだ。楓と気が合いそうだと。
そしてあたしと楓は入学初日から仲良くなった。
友達を超えて親友を超えて──恋人のような関係になったのはたった1ヶ月後。
今はもう楓なしの人生なんて考えられない。
それぐらいあたしにとって大切な存在になっていた。
「で、何で銀髪にしたの?」
指導室からやっと解放されたあたし達は当然のように屋上へ向かう。
どうせ1限は始まってしまったし、途中から入るほど真面目なわけでもない。
5月の風はとても爽やかで気持ちが良かった。
ベタッと地面に座ると楓もあたしの真似をして地面に座った。
「ずっとやりたいと思ってたの。ゴールデンウィーク明けにやっていこうかなって。銀髪ショートヘアってカッコ良くない?」
「超カッコイイ。楓に似合うし。茶髪の時よりカッコ良さ増したと思う」
「でしょ?私は銀色が似合うと思ったんだよね。だから銀髪にした。桜の金髪もすごく似合ってるよ。ってか地毛かなってぐらいしっくり来てる」
「そうなの。中学の時もほぼ金髪に近い茶髪だったし、むしろ高校入った時の黒髪の方が異様だったんだよね。だから気分的には元に戻したって感じ」
楓が自分には銀髪が似合うと言ったようにあたしは自分には金髪が似合うと思っている。
昨日までの黒髪は違和感しかなかった。地毛のはずなのに、どうも昔から黒髪は似合わない気がする。
早く金髪にしたいとは思っていたのだが、考えたままズルズルとゴールデンウィークになり、最終日にやっと金髪にすることが出来た。
家で自分でやったブリーチは慣れているおかげで綺麗に色が抜けてくれた。
それにしても楓まで髪色を変えてくるとは思わなかった。それも同じ日に。
「へぇ。いいじゃん。可愛いよ、桜。まさか同じ日に髪色変えるなんて思わなかったけど。本当私達って似てるよね」
「あたしもビックリしてる。楓、全然そんな素振りなかったじゃん」
「ちょっと桜のこと驚かしたかったんだよね。だから言わなかったの」
ふふっと笑った楓はあたしの肩に寄りかかった。
出会った時のクールな雰囲気からは想像出来ないが、最近の楓はかなり甘えてくれるようになった。
この1ヶ月で大分距離が近くなった。
あたしにだけ見せてくれる姿に嬉しくなる。
「でもあたし達ますます目立っちゃうね。ただでさえ周りの子から憧れみたいな恐怖心みたいなよく分からない視線向けられるのに」
「そうだね。本当に私にも桜にもファンクラブ出来ちゃったから凄いよね。この学校の子たちは真面目で礼儀正しい子ばかりの所為かそういう所も律儀な気がする」
「まぁ好意向けられて悪い気はしないけど」
ガサガサとカバンからお菓子を取り出す。
甘い物が大好きなあたしは毎日何かしらのお菓子をカバンに潜ませている。
今日はポッキーだ。1本取り出して楓の口に持っていくと嬉しそうに食べてくれた。
あたしが甘い物を好きならば当然楓も好きなのだ。
双子並に似ているあたしたちはこういう嗜好もそっくりだった。
チョコレートはビターよりミルクが好き、リンゴジュースよりオレンジジュースが好き、ご飯よりパンが好き、目玉焼きには塩を掛ける派──食べ物に関してだけでも相当意見が合う。
たまに自分の分身なのではないかと錯覚するぐらいだ。
もう1本取り出し、今度は自分の口に入れる。
「てか反省文だるくない?書かなくてもいっか」
「流石に書かないとやばいでしょ。私は書く」
「えー、楓が書くならあたしも書く。いつも通り定型文書くだけだよね?」
「勿論。考える時間が無駄だから」
「なにそれ。楓、カッコイイ」
さらりと言い退ける楓の潔さに惚れ惚れする。
毎日一緒に過ごしているはずなのに毎日ときめくのだから不思議だ。
「ちょっと。こんなことでカッコイイなんて」
「だってそう思ったんだもん。あたし多分楓のこと好き過ぎて何でもカッコ良く見える病に罹ってるんだ」
「桜が言うとそれっぽいわ。本当にありそう」
肩に寄りかかったままの楓は指で2を作る。
すぐに意味を理解したあたしはポッキーを2本取り出して楓の口元に持っていく。
2本同時に食べ切った楓は「サンキュー」と短く言ってから立ち上がった。
そして屋上の柵に頬杖をついて景色を眺め始めた。
そのさり気ない所作すら絵になるのは楓だからこそ。
追い掛けるように立ち上がり、隣に並んだ。
ぶわっと5月の風が舞い上がる。
制服のリボンがぱたぱたと揺れた。
「この学校に来て良かったよ。桜に出会えたから」
真正面を見つめて呟く楓の顔を横から盗み見る。
とても嬉しそうに笑っていた。
「あたしもそうだよ。女の子に恋するとは思わなかったけど」
「確かに。桜がそういう意味で好きになってくれるとは思わなかったな。私は一目惚れだったけどね。入学式で声掛けてくれた時、運命かと思ったぐらい」
楓の短い銀髪が風に靡く。
「だから好きになってもらえて嬉しいの。ありがとう。それに桜の内面まで知ったらますます好きになったから」
「そう?あんまり自分にいい所ないと思ってたけど楓が好きになってくれただけで幸せ」
にっこり笑うと楓も同じような笑みを浮かべた。
「桜ってそういうとこあるよね。自分で自分の良さ分かってないっていうか。もっと自信持っていいのに。可愛いし頭良いし優しいんだからさ」
「ありがと。めちゃくちゃ嬉しい。これでもあたしマシになったんだよ。楓のおかげ。中学の時なんてもっと酷かったから」
「そうだと思った。1ヶ月前、そんな感じだったもん。私のおかげで良い風に変わったなら良かったよ」
楓はあたしの頭を撫でた。
代わりにあたしは楓の頬を撫でる。
似ているあたしたちは出会うべきだったのだ、きっと。
1限をサボり2限から授業に出たあたしたちは昼休み、遂にクラスメイトや同級生に囲まれた。
突然2人してイメチェンをしてきたのだから当然だ。
ファンだと名乗る子たちは写真を求め、クラスメイトは珍しい物を見つけたかのように質問をしてくる。
真面目でお嬢様な同級生にとってあたし達のような問題児は新鮮なのだろう。
金髪と銀髪に目を輝かせていた。
ちょっとした騒ぎになり、対応が面倒くさくなったあたし達は昼休みが終わると同時に学校を抜け出した。午後の授業などどうでもいいと思えるぐらい疲弊していたからだ。
「はああああ、疲れた」
「分かる。お嬢様の力強すぎるね」
ドサッと楓の家のソファに顔から突っ伏して倒れ込む。行儀の悪さなど気にしていられない。
楓はあたしの顔の横に腰を下ろした。
「少し経ったら起き上がるから待ってて」
「いいよ。桜がそうしたいならそうしてて」
「優しいなぁ、楓は」
楓はこの家で一人暮らしをしている。
ただのワンルームではなく綺麗な一軒家。
ご両親は有名なブランドのトップに立っていて楓は真性のお嬢様なのだ。華蓮高校にピッタリのお家柄だと言える。
本人はお金持ち扱いされるのが嫌で隠しているらしいが、あたしには全て教えてくれた。
「こんなこと言えるの桜だけだからね」と言われた時は特別だと言われているようで嬉しかった。
実際あたしは楓にとって特別なのだろう。
あたしにとって楓が特別であるのと同じように。
それ以来、あたしは楓の家にしょっちゅう泊まりに来ている。私物は沢山置いているし半同棲と言っても過言ではない。
あたしはあたしで自分の家のように過ごしているのだけれど、それが楓的には嬉しいらしい。
「でも夕飯作る時には手伝ってよ。今日はホワイトシチューにするつもりだから」
「ホワイトシチュー?最高だね。あたし大好き」
「だと思った。私も大好きだから」
ふふっと笑う楓のことを見つめる。
銀髪になった楓は以前よりも悪そうでカッコイイ。
あたしが見つめていることに気付いた楓は大きく微笑んだ。
「そんな可愛い顔で見ないでよ」
「楓がカッコイイ所為だから。銀髪すごく似合うよ」
「ありがとう。私も金髪の桜が見れて嬉しい。やっと素が見れた気がする」
「まぁそれはそうかも」
長い金髪はあたしのトレードマークとも言える。
この色に戻した瞬間、やっと自由になれた気がした。
「これから毎日のように先生に怒られると思うけど出来る限りは金髪でいたいな」
「じゃあ桜が金髪辞めた時に私も銀髪辞めるわ」
「また同じだね」
のそっと起き上がり楓に抱き着くように体重を預けると、同じように体重を掛けられた。
「そう、同じ。私、桜と同じでいたいから」
「うん。いようね」
だってもう知ってしまったから──楓と同じでいれらることがこんなにも嬉しいと。
だから違うなんて考えられない。
同じ思いを抱いて、同じ時間を2人で過ごす。
それが今のあたしの幸せだ。
「少し休んだら作ろっか」
「オッケー。任せて。あたし野菜切るね」
「お願い」
こうして楓とくっついて下らない話を繰り返して、2人でご飯を作って、食べて。
何気ない日常があたしには何よりも大切だから。
そんなことを考えて目を瞑ったら眠ってしまったらしい。
「おやすみ、桜」という楓の声に答えようとするが睡魔には勝てなかった。
目覚めたらまた楓と笑い合ってじゃれ合って──幸せはずっと続いていくのだろう。
いつまでもこんな日が続きますように。
夢の中でもあたしはこんなにも貴方のことを思ってる。
「はっ!?どういうこと?」
「そっちこそ。何そのタイミング」
「あたしが言いたい、それ」
いつもそうだ。あたしと楓は偶然が重なりやすい。
今回もまたそれだけなのだけれど、こうも何回も起きると不思議な気持ちになってくる。
「てか桜、ヤバくない?絶対怒られるよ、それ」
「楓だって人のこと言えないでしょ。あたしが怒られるなら楓も怒られるからね」
「はー、だる」
校門前で出会ったあたし達はダラダラと校舎に向かっている途中、すぐに教師に捕まった。
「お前たち2人とも指導室に来い!」
「はあい」
指導を面倒くさいと思うあたし達よりもまた面倒くさいことになったと思っているのは教師の方だろう。
何せあたし達はこの学校の「問題児」だから。
華蓮高校という名前がついたこの学校はその名の通り優美な雰囲気の女子校だ。
制服が可愛い上に偏差値も高く、都会に近い場所に立地している為、毎年人気が高い。
あたしがここに入った理由もやはりそれだった。
それなりに頭が良かったあたしは高い倍率の中、するりと華蓮高校へ入学した。
中学の頃からギャルというジャンルにいたあたしがお嬢様学校と呼ばれる高校に合格したことは中学校内でちょっとした噂になった。
「桜は絶対数日で辞める」とか「桜にお嬢様なんて似合わない」とか。
気持ちは分かるだけに反論の余地はなかったし、一緒に笑っていたぐらいだった。
逆にそれだけ言われていたからこそ絶対辞めないと思えたのかもしれない。
あたしは負けず嫌いで、言われれば言われるほど燃えるからだ。
正直なところ入学式の時の自分の浮き具合といったら半端なかった。
中学の友達が1人もいない挙句、絵に描いたような「お嬢様」ばかり並んでいたからだ。
当時いい子ぶって真っ黒な髪の毛に戻していたものの、取り繕った感が否めなかった。
初日から「マジで辞めるかもしんない」と思ったあたしを救ったのが楓だった。
自分みたいな存在が1人ぐらいはいるはずだと探して──目に付いたのだ。
入学式で姿勢正しく座る子が多い中、1人だけだるそうに座っているのを見逃さなかった。
式が終わってすぐ声を掛けに行く。
「ねぇ、初めまして。あたし桜っていうんだけど」
「知ってる。有名だから」
「え?あたしのこと?」
「そう。うちの学校で有名だった。隣の中学だよ。よく知ってるでしょ?」
「あー、まぁ。うん、知ってる」
隣の中学と言えば元カレが通っていた学校だ。
大分前に喧嘩別れしたことを思い出し、嫌な記憶だとすぐに封印した。
「私は楓。よろしくね。ところで何で私に声掛けてくれたの?」
「よろしく!えっと、入学式だるそうにしてたから。何となく合いそうだなって思ったの」
「なにその基準。でも分かるよ。想像通りこの学校は行儀良くて真面目な子ばかりだったもんね。桜は異質に見える」
「1人ぐらいギャルいるでしょって思ったらいなくてビックリしちゃった。こんなの友達出来るわけないって思ってたとこに楓が見えたの」
「ギャルではないけどね」
確かに楓はギャルではない。けれどお嬢様というジャンルにも入らなそうだ。
少し高めの身長とクールな目元と短髪は明らかに女子にモテそうで、ボーイッシュという言葉がピッタリだった。
「てかイケメン。女の子にモテそう」
「その通り。今まで付き合った子全員女の子だから」
「へぇ。ここでもモテそうだね。楓のファンクラブ出来そう」
「桜もモテると思うよ。ファンクラブ出来るかもね」
「あたしは有り得ないでしょ」
冗談のように言っていたこの言葉がその後現実になるなどあたしたちには知る由もない。
それよりも学校に慣れる方が先決だった。
偶然にも同じクラスだったあたし達はその日から一気に仲良くなった。
とにかくあたしと楓は相性がいいのだ。それに似ている。
例えば春生まれのあたしの名前が桜で、秋生まれの彼女の名前は楓。由来もほぼ変わらなかった。
身長や体型も似ているし、思考も雰囲気も似ていた。
華蓮高校で浮いている存在だというのも気が合う理由のひとつだったのかもしれない。
少なくともあたしはそうだった。
パッと見てピンと来たのだ。楓と気が合いそうだと。
そしてあたしと楓は入学初日から仲良くなった。
友達を超えて親友を超えて──恋人のような関係になったのはたった1ヶ月後。
今はもう楓なしの人生なんて考えられない。
それぐらいあたしにとって大切な存在になっていた。
「で、何で銀髪にしたの?」
指導室からやっと解放されたあたし達は当然のように屋上へ向かう。
どうせ1限は始まってしまったし、途中から入るほど真面目なわけでもない。
5月の風はとても爽やかで気持ちが良かった。
ベタッと地面に座ると楓もあたしの真似をして地面に座った。
「ずっとやりたいと思ってたの。ゴールデンウィーク明けにやっていこうかなって。銀髪ショートヘアってカッコ良くない?」
「超カッコイイ。楓に似合うし。茶髪の時よりカッコ良さ増したと思う」
「でしょ?私は銀色が似合うと思ったんだよね。だから銀髪にした。桜の金髪もすごく似合ってるよ。ってか地毛かなってぐらいしっくり来てる」
「そうなの。中学の時もほぼ金髪に近い茶髪だったし、むしろ高校入った時の黒髪の方が異様だったんだよね。だから気分的には元に戻したって感じ」
楓が自分には銀髪が似合うと言ったようにあたしは自分には金髪が似合うと思っている。
昨日までの黒髪は違和感しかなかった。地毛のはずなのに、どうも昔から黒髪は似合わない気がする。
早く金髪にしたいとは思っていたのだが、考えたままズルズルとゴールデンウィークになり、最終日にやっと金髪にすることが出来た。
家で自分でやったブリーチは慣れているおかげで綺麗に色が抜けてくれた。
それにしても楓まで髪色を変えてくるとは思わなかった。それも同じ日に。
「へぇ。いいじゃん。可愛いよ、桜。まさか同じ日に髪色変えるなんて思わなかったけど。本当私達って似てるよね」
「あたしもビックリしてる。楓、全然そんな素振りなかったじゃん」
「ちょっと桜のこと驚かしたかったんだよね。だから言わなかったの」
ふふっと笑った楓はあたしの肩に寄りかかった。
出会った時のクールな雰囲気からは想像出来ないが、最近の楓はかなり甘えてくれるようになった。
この1ヶ月で大分距離が近くなった。
あたしにだけ見せてくれる姿に嬉しくなる。
「でもあたし達ますます目立っちゃうね。ただでさえ周りの子から憧れみたいな恐怖心みたいなよく分からない視線向けられるのに」
「そうだね。本当に私にも桜にもファンクラブ出来ちゃったから凄いよね。この学校の子たちは真面目で礼儀正しい子ばかりの所為かそういう所も律儀な気がする」
「まぁ好意向けられて悪い気はしないけど」
ガサガサとカバンからお菓子を取り出す。
甘い物が大好きなあたしは毎日何かしらのお菓子をカバンに潜ませている。
今日はポッキーだ。1本取り出して楓の口に持っていくと嬉しそうに食べてくれた。
あたしが甘い物を好きならば当然楓も好きなのだ。
双子並に似ているあたしたちはこういう嗜好もそっくりだった。
チョコレートはビターよりミルクが好き、リンゴジュースよりオレンジジュースが好き、ご飯よりパンが好き、目玉焼きには塩を掛ける派──食べ物に関してだけでも相当意見が合う。
たまに自分の分身なのではないかと錯覚するぐらいだ。
もう1本取り出し、今度は自分の口に入れる。
「てか反省文だるくない?書かなくてもいっか」
「流石に書かないとやばいでしょ。私は書く」
「えー、楓が書くならあたしも書く。いつも通り定型文書くだけだよね?」
「勿論。考える時間が無駄だから」
「なにそれ。楓、カッコイイ」
さらりと言い退ける楓の潔さに惚れ惚れする。
毎日一緒に過ごしているはずなのに毎日ときめくのだから不思議だ。
「ちょっと。こんなことでカッコイイなんて」
「だってそう思ったんだもん。あたし多分楓のこと好き過ぎて何でもカッコ良く見える病に罹ってるんだ」
「桜が言うとそれっぽいわ。本当にありそう」
肩に寄りかかったままの楓は指で2を作る。
すぐに意味を理解したあたしはポッキーを2本取り出して楓の口元に持っていく。
2本同時に食べ切った楓は「サンキュー」と短く言ってから立ち上がった。
そして屋上の柵に頬杖をついて景色を眺め始めた。
そのさり気ない所作すら絵になるのは楓だからこそ。
追い掛けるように立ち上がり、隣に並んだ。
ぶわっと5月の風が舞い上がる。
制服のリボンがぱたぱたと揺れた。
「この学校に来て良かったよ。桜に出会えたから」
真正面を見つめて呟く楓の顔を横から盗み見る。
とても嬉しそうに笑っていた。
「あたしもそうだよ。女の子に恋するとは思わなかったけど」
「確かに。桜がそういう意味で好きになってくれるとは思わなかったな。私は一目惚れだったけどね。入学式で声掛けてくれた時、運命かと思ったぐらい」
楓の短い銀髪が風に靡く。
「だから好きになってもらえて嬉しいの。ありがとう。それに桜の内面まで知ったらますます好きになったから」
「そう?あんまり自分にいい所ないと思ってたけど楓が好きになってくれただけで幸せ」
にっこり笑うと楓も同じような笑みを浮かべた。
「桜ってそういうとこあるよね。自分で自分の良さ分かってないっていうか。もっと自信持っていいのに。可愛いし頭良いし優しいんだからさ」
「ありがと。めちゃくちゃ嬉しい。これでもあたしマシになったんだよ。楓のおかげ。中学の時なんてもっと酷かったから」
「そうだと思った。1ヶ月前、そんな感じだったもん。私のおかげで良い風に変わったなら良かったよ」
楓はあたしの頭を撫でた。
代わりにあたしは楓の頬を撫でる。
似ているあたしたちは出会うべきだったのだ、きっと。
1限をサボり2限から授業に出たあたしたちは昼休み、遂にクラスメイトや同級生に囲まれた。
突然2人してイメチェンをしてきたのだから当然だ。
ファンだと名乗る子たちは写真を求め、クラスメイトは珍しい物を見つけたかのように質問をしてくる。
真面目でお嬢様な同級生にとってあたし達のような問題児は新鮮なのだろう。
金髪と銀髪に目を輝かせていた。
ちょっとした騒ぎになり、対応が面倒くさくなったあたし達は昼休みが終わると同時に学校を抜け出した。午後の授業などどうでもいいと思えるぐらい疲弊していたからだ。
「はああああ、疲れた」
「分かる。お嬢様の力強すぎるね」
ドサッと楓の家のソファに顔から突っ伏して倒れ込む。行儀の悪さなど気にしていられない。
楓はあたしの顔の横に腰を下ろした。
「少し経ったら起き上がるから待ってて」
「いいよ。桜がそうしたいならそうしてて」
「優しいなぁ、楓は」
楓はこの家で一人暮らしをしている。
ただのワンルームではなく綺麗な一軒家。
ご両親は有名なブランドのトップに立っていて楓は真性のお嬢様なのだ。華蓮高校にピッタリのお家柄だと言える。
本人はお金持ち扱いされるのが嫌で隠しているらしいが、あたしには全て教えてくれた。
「こんなこと言えるの桜だけだからね」と言われた時は特別だと言われているようで嬉しかった。
実際あたしは楓にとって特別なのだろう。
あたしにとって楓が特別であるのと同じように。
それ以来、あたしは楓の家にしょっちゅう泊まりに来ている。私物は沢山置いているし半同棲と言っても過言ではない。
あたしはあたしで自分の家のように過ごしているのだけれど、それが楓的には嬉しいらしい。
「でも夕飯作る時には手伝ってよ。今日はホワイトシチューにするつもりだから」
「ホワイトシチュー?最高だね。あたし大好き」
「だと思った。私も大好きだから」
ふふっと笑う楓のことを見つめる。
銀髪になった楓は以前よりも悪そうでカッコイイ。
あたしが見つめていることに気付いた楓は大きく微笑んだ。
「そんな可愛い顔で見ないでよ」
「楓がカッコイイ所為だから。銀髪すごく似合うよ」
「ありがとう。私も金髪の桜が見れて嬉しい。やっと素が見れた気がする」
「まぁそれはそうかも」
長い金髪はあたしのトレードマークとも言える。
この色に戻した瞬間、やっと自由になれた気がした。
「これから毎日のように先生に怒られると思うけど出来る限りは金髪でいたいな」
「じゃあ桜が金髪辞めた時に私も銀髪辞めるわ」
「また同じだね」
のそっと起き上がり楓に抱き着くように体重を預けると、同じように体重を掛けられた。
「そう、同じ。私、桜と同じでいたいから」
「うん。いようね」
だってもう知ってしまったから──楓と同じでいれらることがこんなにも嬉しいと。
だから違うなんて考えられない。
同じ思いを抱いて、同じ時間を2人で過ごす。
それが今のあたしの幸せだ。
「少し休んだら作ろっか」
「オッケー。任せて。あたし野菜切るね」
「お願い」
こうして楓とくっついて下らない話を繰り返して、2人でご飯を作って、食べて。
何気ない日常があたしには何よりも大切だから。
そんなことを考えて目を瞑ったら眠ってしまったらしい。
「おやすみ、桜」という楓の声に答えようとするが睡魔には勝てなかった。
目覚めたらまた楓と笑い合ってじゃれ合って──幸せはずっと続いていくのだろう。
いつまでもこんな日が続きますように。
夢の中でもあたしはこんなにも貴方のことを思ってる。
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