夜は俺たちの時間。

空々ロク。

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夜は俺たちの時間。②

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「レビィ!」
名前を呼ばれて振り返る。そこには親友のジュキの姿があった。
ジュキは俺よりも目付きが悪く、凶悪そうに見える。
歪んだ笑みを浮かべるから尚更だ。
「人間界行ったってマジ?」
「あぁ、マジ。つかお前に行くって言ってから行っただろ?」
「言ってたけどマジだと思わねぇじゃん。何で俺も一緒に連れて行ってくんなかったんだよ」
俺の首に腕を回したジュキは耳元で文句を言いまくる。
「毎日ここにいて退屈だって言ったじゃん。1人で面白ぇことするなんてズリィ」
「ジュキはジュキで行けばいいだろ?」
「だって1回も行ったことねぇんだもん。だからレビィに連れてってもらいたかった」
「あー、はいはい。じゃ、今度な」
パシッと乗せられていた腕を払い、ジュキを置いて歩いていく。
悪魔の世界は常に薄暗い。そして陰気だ。
少し前まで人間界にいた俺にとっては更に暗く思える。
人間界は暗い夜でも街中に明かりが灯っていて眩しく感じるぐらいだ。
(って俺、最近人間界のことばっかり考えてんな)
1人で失笑し、首を横に振る。
自分の背中に生えた黒い翼をチラッと見てから地面を蹴った。
今日はやけに背中の古傷が痛む。
こういう時、思い出してしまうのだ──片翼を失ったあの日のことを。

生まれて100年しか経っていない悪魔というのはまだまだガキだ。
だから当時の自分は間違いなくガキだった。
けれど才能があった。周囲から天才と呼ばれるぐらいには。
頭の回転が早くて運動が出来て度胸があって。
それは悪魔にとって異例とも言えた。
何故なら悪魔はその中でひとつでも秀でていれば天才と呼ばれる領域に達する。
簡単に言えば悪魔というものは馬鹿で怠惰だ。
何事にもやる気がなくて考えることすらしようとしない。
とにかく「今」が良ければそれでいい──そう考える者がほとんどだ。
ただ悪魔も気付き始める。長年生きていると「何もしない」のは退屈だということに。
そして300年経った辺りで勉強や運動に目覚める者も少なくない。
つまり普通に考えれば300年以上生きていないと天才と呼ばれることはない。
そんな中、俺は100年程度で天才と呼ばれるようになった。
だから悪魔としては異例なのだ。
(って言っても俺、何も努力してねぇけど)
恐らく周りの悪魔より早く気付いて動いただけだ──良くも悪くも。

その日、俺は朝から街中をふらふら歩いていた。
悪魔界下層部にもある程度店というものが存在し一応は「街」として成り立っていた。
ずらりと並んだ店の中から酒場兼ギルドであるその店に入った。
俺の仕事はギルドで依頼を受けてこなしていく何でも屋だ。
そのギルドで店主をしているのが後の親友となるジュキだった。
「ジュキ、おはよ」
「おぅ!今日もいい依頼来てるぜ」
「へぇ。どんな?」
「ケンカの仲裁。レビィ、得意だろ?」
「別に得意じゃねぇけど。ま、それでいいや」
「了解」
ジュキは壁に貼られていた依頼内容が書かれている紙を剥がした。
俺の名を書き、その横に自分のサインをいれる。これで契約は完了だ。
「報酬かなりいいみたいだぜ」
「仲裁程度で報酬いいなんて嫌な予感しかしねぇけど」
「天才レビィなら大丈夫だって」
豪快に笑うジュキは遠慮なく俺の腕を叩いた。
早々に依頼を進めた方が良さそうだと渡された紙を受け取りジュキに別れを告げて目的地へ向かう。
依頼内容が書かれた紙によると仲裁場所は10分程度で着きそうだった。
だらだらと道を歩いているだけで何人も声を掛けてくる。
他者に興味がない俺からすればほとんどが知らない奴だ。
一方的に知られていることはあまり喜ばしくなかった。
──どうせ勝手に期待して勝手に失望して勝手に崇拝して勝手に妬んでくるから。
適当にあしらって進んでいく。
(……と、ここか)
辿り着いたのは大きな広場だった。
騒いだり祭りを開催したりと自由に使える広場で人気も高い。
だが自由過ぎるが故に争いごとも起こりやすかった。
元より悪魔は喧嘩っ早い。だから喧嘩の仲裁は日常茶飯事だった。
広場には10人程度の悪魔がいた。
明らかに言い争っている。今にも手が出そうだ。
「おい!」
大きめに声を掛けると全員がこちらを向いた。
「喧嘩ならやめとけ。こんなことで死にたくねぇだろ?」
「あー、レビィか。面倒な奴が来たな」
「俺のこと知ってんなら話は早ぇ」
そう言って5対5に分かれていた悪魔たちの間に入る。
「喧嘩の理由なんてくだらねぇんだろ?だったらもういいじゃねぇか」
「何も知らねぇくせに決めつけんじゃねぇよ!」
リーダー格と思われる悪魔の顔は見たことがある。
ガタイが良く圧があり、逆立てた赤髪と相まって鬼のように見える。
誰とでもすぐ言い合う奴で、しょっちゅう喧嘩しているイメージがあった。
けれど話すのは初めてだ。
「知らねぇけどどうせくだらねぇことに決まってっから。お前らが言い争ってる所為でこの広場使いてぇ奴が使えねぇの。分かったらさっさと散りな」
「ガキの言うことなんて聞くわけねぇだろ」
「はっ!ならガキに注意されるようなことするんじゃねぇよ」
鼻で笑うとリーダー格の男は俺の首をガシッと掴んだ。
「うぜぇな、テメェは」
「図星だからってそう怒るなよ」
俺の安い挑発に乗った男は手に力を入れた。
首の骨が軋む──ことはなかった。
強い力を入れられる寸前に腹を蹴り上げ、その手から逃れたからだ。
「俺には勝てねぇって分かってるだろ?」
「チッ」
大きく舌打ちをし、男は仲間に合図を出す。
全員で攻撃してくるかと思ったらそうではないらしい。
思いっきり俺を睨みつけてから広場を出て行った。
残されたチームの方はホッとした顔をしている。
「ありがとう、レビィ。来てくれて感謝してる」
「依頼人はお前らだったんだな」
「あぁ。先に俺らが広場にいたんだけど言いがかりつけられてさ。言い合いになったから近く通ったジュキに依頼しといたんだ。まさかレビィが来てくれると思わなかったけど」
「あー、なるほど。だからジュキにこの依頼勧められたのか。ま、役に立てて良かったぜ」
ニイッと笑うと依頼者も微笑した。
「報酬はジュキのとこで受け取ってくれ。前払いしてある」
「そっか。ありがとな。また何かあったらよろしく」
「こっちのセリフだよ。アイツは──ゴスドは本当に厄介だからな。絡まれると面倒だって聞いてたけど本当にそうだった」
「ゴスドっていうのか。少し前から見掛けるようになったよな。最近この辺に来たのか?」
こくりと頷かれる。
「そうらしい。全くいい噂聞かないからレビィも気を付けてくれ。まぁ、お前みたいな天才なら問題ないかもしれないけどああいう奴はいつ何してくるか分からないからな」
「確かに。気を付けるわ」
ひらりと手を振ってその場を去る。
こうして依頼をこなしギルドに戻れば俺の仕事は終了だ。
ジュキの元に行くとすぐに報酬を渡される。
「お疲れ。上手くいったみたいだな」
「あぁ。誰かに聞いたのか?」
「そりゃもう周りで見てた奴がいっぱいいたからな。レビィ、腹に一発いれたらしいじゃねぇか。ゴスドのこと嫌いな連中が大喜びしてたぜ」
「あんまり目立つことしたくねぇんだけど」
今も周りから拍手喝采されて嫌だと思っているのに。
別に有名になりたいわけではない。
誰よりも天才でいたいわけでもない。
けれど世界がそれを許してくれない。
きっと贅沢な悩みだと言うことぐらいは分かっている。
けれど本当の俺はただ自由にいたいだけなのだ。
毎日だらだらと過ごしてたまに楽しいことをするぐらいで充分だと思う。質素にささやかな幸せを感じられるだけでいいのだ。
理想には程遠いけれど。
「そんなに目立つピンク髪のくせによく言うぜ」
「元からだっつの。じゃ、報酬貰ったし帰って寝るわ」
「あぁ。またな」
ニコニコと笑ったジュキに片手を上げて家に向かう。
帰る途中にも散々謝辞や褒め言葉が飛んできた。
知らない奴らに愛想笑いを返しながら歩く。
──やっぱり理想には遠そうだ。

その夜は天気が荒れていた。
窓は風でガタガタ揺れるし雨音はうるさい。
何となく不穏な気配というものは感じ取っていたのかもしれない。
(うるせぇなぁ)
とはいえ眠いものは眠い。
ベッドに潜って眠ってしまおうと目を瞑る。
そして眠りに落ちかけた時、背中に痛みが走った。
それも尋常ではない痛み。
「!?」
身体を動かそうとするが動かない。
目を開けて──意味を理解した。
俺の身体は数人がかりで押さえつけられ、目の前には口元を歪めたゴスドがいた。
「よぉ。さっきは世話になったな」
「あぁ、お前そういう奴か。弱ぇから寝込み襲うしか出来ねぇのな」
「翼切られたくなかったら黙れ」
「もう切ってんだろ雑魚が」
背中が焼けるように痛い感覚は初めてだが、翼に何か起きているだろうとは分かった。
ゴスドの言う通り切られているのだろう。
冷静にそう思うが当然背中の痛みは消えない。
それどころかキレたゴスドは更に傷を入れてくる。
「ぐっ……」
「痛ぇか?痛ぇよなぁ。翼切られるのは何よりも痛ぇって昔拷問した相手が言ってたぜ」
「昔から変わらねぇクズってことか」
「テメェ……口の利き方に気を付けろよ。無礼を謝ればこんなもんで許してやってもいいぜ」
「お前みたいなクズに謝るぐれぇなら翼切られた方がマシだな」
痛みで冷や汗が止まらない。
けれど顔に笑みを作ってみせる。
ゴスドはその顔に苛立っただろう。
自分が圧倒的優位に立っているはずなのに相手が屈しないなど屈辱以外の何物でもない。
予想通り激昂したゴスドは俺の翼をバッサリと切り捨てた。
「……っ」
「悲鳴上げてもいいんだぜ?それとも怖くて声も出ねぇか」
「はっ!お前が怖ぇなんて思うわけねぇだろ。まさか自分が俺より上になれたとでも思ってんのか?勘違……つっ!」
顔面を殴られ言葉が詰まる。
翼だけでは飽き足らず他の箇所も痛めつけることにしたらしい。
恐らく俺が泣き言を言うまでやめないだろう。
頭の回転が早い俺には最初からどうすれば助かるかなど分かっている。
けれどそちらを選ぶという選択肢はなかった。
俺が殴られ蹴られ血を吐き出した頃、状況に変化があった。
突然手足の拘束がなくなり動けるようになったのだ。
そもそも数人に押さえつけられてなければ暴れられたのだが、今更拘束が取れた所で意味はなかった。
単純に痛みで身体が動かない。想像以上にボロボロにされたようだった。
「……くっそ」
何故拘束が解けたのかもどういう状況なのかも分からないまま俺の意識は闇に消えた。

──目を覚ましたのはそれから1年後だった。
「レビィ!起きたのか!」
ジュキの声が聞こえ目を擦る。
「あー……」
「大丈夫か?待ってろ!医者呼んでくる!」
何が起きているのか全く分からない。
頭も働かないし何となくぼんやりしている。
「……医者?」
そもそも下層部に病院なんてものは存在しなかったはずだ。
再生が早い悪魔は怪我をすれば放っておくのが普通で病院という概念すらなかった。
「レビィくん!大丈夫!?」
バタバタと駆け寄ってきたのは知らない悪魔だった。
眼鏡をかけていて知的に見える。
「んー……」
「まだ起きたばかりだもんね。でも目が覚めて本当に良かった」
「てか俺、何……」
「あれから1年経ってるんだ。その辺のことは僕よりジュキくんから聞いた方がいいと思うからジュキくんに頼んでおいた」
よく分からないがこくりと頷く。
医者の代わりにジュキが俺の傍に座った。
「レビィあのな、お前がぶっ倒れた事件があってから色々変わったんだ」
そう言ってジュキは空白の1年を語り始めた。
ゴスドに襲われている俺を助けたのは近隣住民たちだった。
夜間に騒いでいる声、その前にゴスドが俺の家へ向かうのを見た者──何か起きているのではないかと大勢の人数を集めて俺の家に来てくれたらしい。
そしてゴスドたちは捕まり、俺は助け出された。
けれど全身傷だらけで左翼が切り取られている状況を見て誰もが絶望したらしい。
もう手遅れだ、と。
騒ぎはやがて悪魔界の上層部にまで広まり、魔王であるルシファーが直々に俺の家に来たという。
そして運び込まれた──病院に。
「俺もその時初めて知ったんだよな、病院っての。上層部にはあったみてぇ」
「成程。俺も知らなかった」
自分は割と何でも知っている方だと思っていた。
けれど何も知らなかった。悪魔界のことですら知らないことがあった。
「そうそう。切られた左翼も縫い合わせてくれたみたいだぜ。ただもう使えねぇかもって言ってた。一度切れた翼は神経も切れてるし使うの難しいって。見た目の為に繋げたっつってたな」
「そっか。アイツに切られてる時からもう駄目だろうなって思ってたから大丈夫。で、ゴスドはどうなった?悠々自適に暮らしてんのか?」
「処刑された」
「は?」
それは考えうる中で一番有り得ないと思っていた物だった。
悪魔界で処刑が行われるなど相当な罪人でなければ有り得ない。
俺ごときの一般人が傷付けられた程度で処刑するなど考えられなかった。
「まぁ、そう思うよな。俺も驚いた。民意が届いたってやつだ」
「どういうことだ?」
「つまりお前が愛されまくってるってことだ。レビィがやられたなんて許せないってこの辺の悪魔たちが上層部に直談判したわけ」
「……え?」
「特に翼を切られた件は重大で大問題になったんだよ。今までそんなことする奴いなかったからな。殺しはあっても生きたまま翼を切るなんて残虐なことは起きてなかった。少なくとも表面上はな。だから世界的に問題になった」
確かに俺が知る限りでも聞いたことはない。
だからどれくらいの罪になるかなど知らなかった。
「誰も知らなかったから法律が出来た。翼をもぐことは処刑に値するって」
「マジかよ」
「あぁ。当然ゴスドも怒りまくったがな。けどそもそも悪はゴスドだ。上層部にも悪名は知れ渡ってたみたいだしこう言っちゃ何だけどちょうど良かったんじゃねぇの?」
ククッと笑うジュキに釣られて笑いが零れる。
話しているうちに少しずつ身体が動くようになってきたようだ。
上半身を起こそうとする俺にジュキは力を貸してくれた。
「サンキュ。そんでアイツはすぐ処刑されたわけか」
「宣告されて半年ぐらい生かされてたぜ。その間ずっと泣き言言ってたらしい。やっぱり小物だよな」
「つかこの1年で変わり過ぎじゃねぇか?俺らにとっては医者も法律も雲の上の存在だったのに」
「そう。この1件で何もかも変わったんだ。お前きっと驚くぜ?街も変わったし」
「へぇ。見に行くのが楽しみだ」
「けどしばらくは入院だからな。無理すんな。とにかく休めるだけ休め」
ジュキに言われた通り世界は変わっていた。
長い歴史の中で悪魔界は何度か革命が起きているけれど今回も革命のひとつと言えるだろう。
それまで上層部にしか対応していなかった病院が街中でも機能するようになったこと。
法律がしっかり作用するようになったこと。
それは大きな変化と言えた。良い変化であると信じたい。
──そして俺の世界も変わった。
「レビィ!これ!」
意識を取り戻して1ヶ月。
動けるようになった俺は退院し、家に戻っていた。
流石にまだ普通の生活をすることは出来ないが軽い運動は許可されている。
家の外で身体を動かしているとジュキが焦った様子で走ってきた。
「お前宛ての手紙!」
渡された封筒を受け取る。裏面のシーリングスタンプにはルシファーの印が押されていた。
「は?ルシファー?」
「ギルドに届けられたんだけどルシファーの印ついてたから早く持って来ねぇとって思って」
「ありがとな」
手紙が届くことなど滅多にない。ルシファーから届くなど更に有り得ない。
封筒を開けて手紙を読む。
思わず驚きで目を見開いてしまった。
「……なんて書いてあったんだ?」
恐る恐る尋ねてくるジュキに紙を見せる。
「魔将として認定する……ってマジかよ!?すげぇじゃん!」
「けど意味分かんねぇから怖ぇ。手放しで喜べねぇだろ」
「まぁ、そりゃな。とりあえず書かれた時間に魔王城行くしかねぇみたいだな」
「あぁ。魔王に会えるだけで震えそうだけどな」
そして約束の日、約束の時間──俺は傷付いた黒い翼を使って魔王城へ飛び立った。
もう二度と使えないと言われていた左翼だったが幸いにも復活させることが出来た。
医者は奇跡だと言っていた。半分はそうなのだろう。
残りの半分は俺の努力だ。今まで努力などしてこなかった俺が初めて努力したこと。
それが使えなくなった翼を再び動かすことだった。
右翼と比べて感覚が全くなく、動かすことは不可能だと自分でも思った。
背中に翼がくっついているだけで何の意味もなさないように思えた。
けれど諦めたくなかった。
あまり好きなことがない俺が唯一好きだと思うことが空を飛ぶことだったからだ。
皮肉なことにそれに気付いたのはこうして翼を失ってからだった。
だから俺は入院中、翼を動かすことばかりを考えて実践していた。
どれだけ無理だと言われても諦めなかった。どれだけ背中が痛んでもやめなかった。
そして不安定ではあるが飛べるようになったのだ。
以前よりも飛ぶ速度は遅くなり、疲労しやすくなったけれど。
魔王城に辿り着いた俺を待っていたのは魔王ルシファー本人だった。
ルシファーを見るのは初めてだ。長い金髪と金色の瞳は神々しく見える。流石元大天使だ。
「まさかルシファー様が直々に会ってくれるとは思わなかったぜ」
「まぁね。普通は会わないよ。レビィのことは好きだから会っただけ」
肩を竦める。魔王に無礼を働いたらどうなるか試したくて口調を崩してみたが気にすることすらしないらしい。
咎められることがないならばこのままで良いだろうと俺は砕けた口調のまま喋り続けた。
「好きぃ?どういうことだよ」
「そのままの意味だよ。好きなの。もっと分かりやすく言うなら気に入ってるって感じかな。天才の君のことは前々から知ってたしいつか会いたいと思ってたんだ」
ニッコリ笑うルシファーは優しそうにも見える。
けれど隙がない。俺のことなど一瞬で消し去ることが出来るだろう。
こんなにも威圧感がある人物と出会うのは初めてだった。
「へぇ。で、俺を魔将にしてくれるって?」
「そう。あの一件でますます気に入ったからもう魔将の称号あげようって思って!翼切られて生きてた挙句その翼もう一度使えるようになったんでしょ?すごいよねぇ」
「まぁ、一応。けど魔将になっても俺、大したこと出来ねぇと思う。ガキだし知らねぇこともいっぱいあるし」
「そんなのどうだっていいんだよ。ボクが気に入ったから魔将にしただけだもん。ここに住んでもいいし住まなくてもいいし今まで通り自由でいていいから」
「え?」
てっきり悪魔城に連れて行かれるものだと思っていた。
上層部の情報が下層部に流れてこないのは上位についたものがここに住むようになり、下層部に帰ってくることがないからだ。
けれどルシファーは帰っていいと言う。
「昔はここに住むのを条件にしてたんだけど君の一件から全部露呈したでしょ?下層部にも上層部の話が流れるようになったからもういいかなって。それにレビィはここに住めって言ったら魔将になるの断りそうだから」
「……まぁ」
言われる前に言われてしまったけれど確かにルシファーの言う通りだった。
ここに住むことが条件だとしたら辞退しようと思っていた。
堅苦しいのは性に合わないし、あの下層部の街を気に入っているからだ。
「やっぱりねぇ。素直でいいねぇ」
「どうも」
「ってことで今日から魔将ね。呼ばれたら会議に出て欲しいぐらいかな。あとは逆にお願いがあるなら聞くけど」
「了解。じゃあ1個だけ」
「ん?何?」
「人間界ってのに行ってみてぇんだけど」
「ふふっ……モノ好きだねぇ。いいよ。手配しといてあげる」
そうして俺は「魔将」という地位についた。
帰って報告するとジュキは「すげぇ!すげぇ!」と俺以上に喜んでいた。
「けどお前が魔王城に閉じ込められなくて本当に良かった。皆で心配してたんだぜ。折角戻ってきたのに会えなくなるなんて嫌だって」
「そっか。ありがとな」
一度翼を失って気付いたことはひとつだけじゃなかった。
──自分は沢山の奴らに愛されていたということ。
そして俺は俺で街の悪魔たちを好きだったということ。
失った物もあったけれどそれ以上に得る物があった。
だからゴスドのことは憎まずに済んだ。
もう居ない奴を憎んでいる暇があったら少しでも知識を得たい。
知らないことがなくなるぐらいに勉強して勉強して勉強して──そして魔将として悪魔界を変えていきたいと思うようになったのだった。

「あれ?レビィ、帰ってたんだ。今回の人間界旅行はどうだった?」
「結構変わってたぜ。あとお気に入り見つけた」
「お、お気に入り見つけるなんて久しぶりだねぇ。400年振りぐらい?」
「まぁ……そうかもな」
魔王城でルシファーに近況報告をする。
一緒にいるようになって何百年も経つがルシファーは全く変わらない。
けれど悪魔界は変わった──恐らく良い方向に。
「あの時のレビィにも言ったけど人間って儚いよ?」
「今度は大丈夫。だってアイツ、幽霊だから」
ニイッと笑う俺にルシファーは一瞬キョトンとした顔をしてから言った。
「成程。それなら大丈夫だね」
「だからしばらく行き来するかも。会議出れなかったら悪ぃな」
「仕方ないなぁ。レビィだから許してあげる」
「サンキュ」
用件を伝えるだけ伝えて俺は魔王城を離れた。
暗い空を高く飛んでその先へ手を伸ばす。
──そこはもう人間界だ。
いつも通り夜の人間界に着いた俺はキョロキョロと左右を見回す。
「んーと……いたいた」
愛しの幽霊は今日もフェンスに頬杖をついて佇んでいる。
驚かすように隣へ降り立った。
「よっ、リューセー!待ったか?」
「待ってない。約束してないし」
「ツレねぇこと言うなよ。今日は俺の昔話しに来たぜ」
「悪魔の昔話か。それは少し興味あるかも」
「長くなるから覚悟しとけよな」
そして俺は語り出す。片翼を失くした日のことを。

──幽霊になったこの人間が少しでも退屈しないように、と。
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