white&white.

空々ロク。

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「悠李!いるかー?これやるよ」
ノックもせず部屋に入ってきた人物を軽く睨む。
けれどそんな視線を気にするようなタイプではないし、そもそも気にするようならノックもせずに入ってくるわけがない。
「兄貴、ノックぐらい……」
「お前の大好きなホワイトチョコレートだぜ」
「え!いいの?」
注意しようと思っていたのに好物をチラつかされ、思わず食い付いてしまう。
つくづく自分は甘い。
「おう!沢山あるからな。全部やるよ」
「ありがとう。わ、これ高級ホワイトチョコじゃん。こっちは見たことないブランドのやつだ」
机の上にドサッと置かれたチョコレートは数え切れない程沢山ある。
全てがホワイトチョコレートなのか尋ねようとして──先を越された。
「全部ホワイトチョコだからな」
「へ、へぇ。すごいね。全部貰って良いの?」
「勿論。俺のバレンタインデーは悠李の為にあるからな」
ニシシと笑う兄の言葉でやっと気付いた。
これはバレンタインデーのチョコレートなのだと。
つまり誰かが兄に対して好意と共に渡したプレゼントだということだ。
途端に貰うのが申し訳なくなる。
「遠慮すんなよ。俺が甘いもの好きじゃないって知ってるだろ?そんで悠李が甘党で、特にホワイトチョコ好きなんだからちょうどいいってわけ」
「まあ……そうだけど」
「ちゃんとお返しはするから気にすんな。俺は悠李が喜んでくれればそれでいいんだよ」
「ありがと」
わしゃっと頭を撫でられる。
5歳上の兄は贔屓目なしにカッコイイ。
外見もそうだが、中身も爽やかで優しく、いかにもモテそうな性格をしていた。
年々増えていくチョコレートの量を見れば兄がいかに人気者か分かる。
それに対し弟である自分はと言えば「冴えない」という言葉がピッタリな見た目と地味で面白みのない性格だった。
初見で兄弟と思われることはまずない。
比べても仕方がないことだとは分かっているが、たまに比較しては落ち込んでいた。
勿論兄が悪い訳では無い。どちらかと言えば僕が悪い。
昔は兄のように明るく自信に満ちた性格だったのに、今となってはその欠片もない。
何か切っ掛けがあったわけではない。
ただ他人と関わることが面倒になって孤独が好きになってそのうちに性格が変わっていっただけだ。
パクッとホワイトチョコを食べ、気を紛らわせる。
食べている僕を見て兄は嬉しそうに笑っていた。
「皆にホワイトチョコが好きって言いふらしておいて良かったぜ」
「思いっきり嘘だけどね。兄貴が甘い物好きって思われたわけでしょ?良かったの?」
「勿論。悠李が喜んでくれるなら嘘でも何でもつくっての」
「……そっか」
容姿端麗、頭脳明晰、人気者の兄に唯一問題があるとすれば僕だ。
何故か兄は僕のことが好きなのだ。
それも、尋常じゃなく。
自他ともにブラコンだと認めている兄は只管僕に愛を注いでくれる。
チョコレートの一件もそうだ。
甘党で常にホワイトチョコを欲している僕のことをよく知っている兄は、バレンタインデー前からホワイトチョコが好きだと言い回ることでこんなにも多くのホワイトチョコを貰ってきた。
モテる兄だからこそ出来る荒業とも言えるが、確かに兄の言うように合理的ではあった。
チョコレートをプレゼントしてくれた方々には申し訳ないが。
「美味いか?」
「うん。すごく美味しい」
「そっかそっか!皆にそう言っとくな」
「兄貴が食べた風にして?」
「勿論。俺が弟好きなことは皆知ってるから言っちまってもいいけど、一応俺にくれたもんだしな。横流ししてることは隠さねぇと」
意地悪く笑う兄もカッコ良く見える。
こんな風に颯爽として尚且つ狡猾に生きられたら、と思わなくもない。
きっと毎日明るくて楽しい人生になっていただろう。
兄のように生きることは僕の憧れとも言えた。
「そうだね。兄貴が悪口言われたら嫌だもん。僕の所為で悪口言われるなんてもっと嫌」
「仮に言われたとしても全く気にしないけどな。俺は悠李にさえ嫌われなければ誰に嫌われても気にしねぇの」
「僕が兄貴を嫌いになることはないけど……もしそうなったらどうなっちゃうの?」
5個目のホワイトチョコを口に入れながら尋ねると兄貴は悲しい顔をした。
「身投げする」
「……本当にしそうで怖いよ」
「だって生きていけねぇもん」
兄は僕に寄り掛かるように抱き締めてきた。
一回り小さい僕は兄の身体にスッポリ収まった。
「はいはい。絶対ないから安心してね」
「それ、信じるからな」
「当たり前でしょ。僕は兄貴に憧れてるんだから」
「そっか。それは嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい」
にっこりと笑った兄は僕を解放し、満面の笑みを見せた。
「お前に憧れられ続けられるよう立派なお兄ちゃんでいないとな」
「充分過ぎると思うけど」
「優しいな、悠李は」
これ以上何処を直す必要があるのかと思うぐらい完璧な兄。
それでも僕の為だけに上を目指してくれるという。
いつだって兄は僕の為に生きている純粋で真っ白な人。
大した取り柄もない僕を見捨てないでいてくれる兄には感謝しかなかった。
「……兄貴ほどじゃないよ」
「俺はお前にしか優しくしないから」
「そうなの?意外」
「言っただろ?悠李以外には嫌われても良いんだって」
そんなスタンスだからこそ兄は周りから愛されるのかもしれない。
自分の思うがままに生きて、他人の目を一切気にしない。
それは僕だけでなく誰もが理想とする生き方と言えた。
「ありがと。兄貴のお陰で毎日幸せ」
「そう言って貰えて俺の方が幸せだって!」
くしゃっと僕の頭を撫でる。
僕はその手の大きさにいつも安心するのだった。

冴えなくて地味な僕と派手で明るい兄。
──正反対だからこそ、こうして惹かれあっているのかもしれない。
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