勇者 転生した世界がクソだったので覇道を目指してみた

田布施月雄

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第5話 天野の誘惑

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 剣持と力石のスポーツ特待については、歩の指導のおかげで何とか維持することができた。
 歩は元勇者で全職業オールマスターというチート属性があったため、剣術系や格闘系についても対応可能である。また天野と力石も、転生したとはいえど今も剣道や空手で鍛えており基礎は出来ている。
 あとは失った自信をつけさせるだけで用件は済む。
 
 そもそも、歩が彼らを叩いた理由は、ちょっかいを掛けてきた報復というのもあるが、本音を明かしてしまえば、真緒までちょっかい掛けられては困るからである。
 だからその辺を念頭に置きつつ、自身を取り戻す作業をした。
 
 その結果、生徒会室には優勝旗2本が掲げられている。

 「よく頑張りましたね」

 何故か馬鹿一人だけが生徒会長から激励の一言を掛けられた。

 「いやぁ、日比谷先生のおかげです。あの方に私は大変失礼な事をしましたが、素晴らしい御仁でした」

 剣持が語る…が、なぜか死んだ魚の様な目である。
 何かの術でも掛けられているのか?
 白黒コンビは彼らの特訓をこう語る。

 「今回は意地悪抜きで教わっていましたね」

 「ただ、後ろの圧が凄かったです…」

 黒井がいう『後ろの圧』とは、真緒のことだろう。
 彼女らが変な挑発しないよう『コーホー…』とどこかのヘルメットプロレスラー超人の様に睨みを利かせていた。

 「全くあの馬鹿女真緒……ホントに死ねばいいのに」

 天野は苦み潰した表情で呟いた。

 「ところで、力石さんは?」

 ――この場所には力石の姿はなかった。

 「アイツ馬鹿だから自信を取り戻した途端、日比谷先生に『また構ってくれよな』なんて調子に乗って肩を叩いたもんだから…マウンティングポジションでタコ殴りにされてました。今はブルって引きこもっています」

 剣持が死んだ目をしていた理由はそれである。

 「別に悪意ある言葉ではなかったわよ」

 「でも、あの男は人をイラッとさせる天才かも」

 白黒コンビは『私には関係ありません』とばかりに他人事の様に言う。

 「それでは、剣持君の方は大丈夫なのですね」

 「おかげさまで。あとは先生の逆鱗に触れないよう大人しくしていますよ…」

 なぜかさみしそうな表情で顔を下に背けた。

 「とりあえず話は出来る様になっても、良好の関係までは構築できていない……ということですか」

 「………」

 剣持はそれについては何も語らなかった。
 そういうことなのだろう。
 だが、剣持が歩の事で違う話を切り出す。


 「でも、懐かしい感じがしたんだよなぁ……昔、ああやって誰かに剣術教わったような気がする。もしかして、うちらが忘れていた人って日比谷先生のことなのかな」

 その言葉に天野がすぐに食い付いた。

 「やっぱりそう思いますか? 私もずっと気にはなっていたのです。色々と話を聞こうとコンタクトをとろうとすると、あなた方がイジメちゃうし……それにあのビッチが間に入って来ちゃうし」

 「この前はホント、ご迷惑を掛けました。でも、あの二人は仲がいいですよね?」

 「――――」

 今、天野からピキッと音みたいなものが聞こえた気がする。
 顔が微笑んだまま引きつっていた。

 「剣持君、ちょっとお願いを聞いてくれます?」

 「なんですか?」


 「あの馬鹿真緒のところにいって?」


 「お安いご用――じゃなくて……えっ? 今なんと?」

 「歩君にしたことを馬鹿真緒にしてくれればいいのです」

 天野はニコニコしたまま、エラいことを言い出した。
 剣持は頭がフリーズして茫然としていた。言葉は理解したが、その言葉の意味は頭に入ってこない…というか自分の本能が『絶対受け入れてはいけない』とインプット要求を拒否している。
 逆に白黒コンビがパニックを起こしている。

 「ダメです。あの人、ある意味日比谷先生よりヤバいっす」

 「あの人、いつも『花壇の肥料って何がいいのかしら…』って言って私らを舐めるように上から下まで見るんですよ! それって何かしたら私らをバラして肥料にするって脅しているんです!」

 「何なの意気地ないわね………いいでしょう、私が行ってきます!」

 「いや、マジでやめておいた方がいいですよ、俺止められませんからね」

 「会長、やめてください!」

 「私らは逃げますから!ホント、関係ありませんから」

 天野は止める3人を振り切り、単身で美化委員のところに乗り込んだ。


 …………………………


 美化委員がある空教室ではキャッキャ、ウフフと真緒が楽しそうに誰かと談笑している。

 「だからここをこう…そうそうそう」

 「でも、これ擦れて痛いんだぜ」

 「大丈夫、本当に痛いのは私なんですもの」

 壁向こうで何か話しているのが聞こえる。真緒と歩が話しているのがわかった。

 「俺も初めてなんだよ」

 「私も初めてよ、こんなのバレたらちょっとしゃれにならないので…」

 「そんなに初体験って慌ててやるものなのか?」

 「いや、じっくり感じてやるほど私らまだマニアックじゃないから」

 「じゃあ、今回お試しってことでいいのか?」

 「私も覚悟決めたからバコバコやってくれる?」

 何の話をしているのだろう。
 初体験、じっくりやるほどマニアックじゃない、今回お試し、覚悟を決めた、バコバコ…
 そのキーワードが天野の頭に入ったとき、天野の脳みそが血圧を上げて頬をピンク色に染めろと命令を下した。
 今、天野の頭の中では真っ裸な二人その場におり、歩が男のシンボルを真緒のそれ専用の鍵穴に挿入しようとしているイメージが浮き上がる。

 (あの子らここで結合するつもりなの?!)

 そう考えてくると、真緒に対して殺意に似た何かが湧いてきた。
 天野は教室の入口をガラララ…と音を立て開けると大声を真緒に張り上げた。


 「あんたら、ここをどこだと思っているの! こんなところでイヤらしいことしないでくれます!」


 だが、教室にいたのは、真っ裸…ではなく制服着ている歩と真緒。
 しかもパコパコと生殖行為していたわけではなく、バコバコと叩くと音がするハリセンを構えた歩が、真緒の頭に叩き付けようとしていた。
 天野の怒声に歩は驚き、ハリセンを振るタイミングと角度が変わってしまった。
 その上、真緒は目をつぶってハリセンの痛みに耐えようとしていたが、突然の来訪者に目を開けてしまう。
 

 バッシーーーーン


 ――そしてハリセンは目を開けた真緒の顔面にぶち当たる。

 「目が~ぁ、目が~ぁ!」

 真緒が予定外の場所を叩かれたものだから鈍痛で床を転がり回る。

 「あぁ、真緒さんゴメン!」

 慌ててハリセンを放り投げて、真緒の頬を両手で抑えると切れたり内出血していた場所を確認する。特に異常はなさそうだ。
 

 「――あなたたちなにやってますの?」


 ハプニングを作ってくれた女がしれっと言うものだから、真緒が大激怒。

 「ちょっとぉ! ハリセンの使い方研究していたのに、びっくりさせないでよ!」

 しかし、真緒の顔面に赤い棒状のハリセン殴打痕が残っているので、『怒っているぞ』というオーラがすべて『笑い』のオーラに変わってしまった。

 「ププププッ…」

 天野は笑いを押し殺すのに顔を背けて堪えたが、当然我慢できるものではない。

 「あはははははっ!」

 結局耐えきれずお腹を抱えて大笑いされてしまう。
 当然、真緒は「喧嘩売っているのか」と大激怒する訳であるが、一方で歩はこの様子を冷静に見ていた。

 「――なるほど、こうやって笑いをとるのか…」

 「いや、それはそれで正解なんだろうけど、なんでこの女の笑いを取らなきゃならないわけ? これって『笑わせる』じゃなく『失笑』だよね!」


 
 ――それから5分後


 机が一つに対面する椅子が2つと1つ。机の上にハリセンが置かれ、天野から尋問を受ける形で対面に二人が座らされていた。

 「……なにやってるのあんたたち?」

 「見ればわかるじゃん。ハリセン漫才の研究」

 「なんで美化委員会でハリセンなの?」

 「別にいいでしょ。それにこのハリセンは美化委員の予算で買ってないから。私の自費だから」

 そう真緒が反論しているが、普通に考えても美化委員会でハリセンはありえない。
 だから歩がもう一つの理由を述べた。

 「美化委員会の仕事が終わったので、息抜きしていたんですよ」

 「へぇそうなんだ…って、そうじゃありません。なんで美化委員会とハリセンが結びつくのですかっと聞いているのです!」

 「馬鹿な会長だこと。そんなプライベートなこと一々言わせないでくれます?」

 真緒はそう言って天野の追及を打ち切った。
 だが、逆に天野が美化委員会に赴いた理由は何か? ――歩はそこを尋ねる。

 「ところで、会長さんは何でうちの委員会に来たんです? それも慌てて」

 もちろん天野の頭の中では歩と真緒がズコバコやっていたから…と言えるわけでもなく、顔を赤く染め「なんでもありません」と言うしかなかった。
 でも、彼女が考えていることを直感した真緒がすぐに切り返してきた。

 「会長さん、あんた私と歩君がエッチな事しているって勘違いして乗り込んできたんでしょ? うわぁ…エロい」

 「誰だって『初体験、じっくりやるほどマニアックじゃない、今回お試し、覚悟を決めた、バコバコ』って聞こえれば普通そっちの意味ですよね?」

 歩はそのワードを告げられると、今頃気がついたようで『えっ?』と動揺している。
 一方で真緒はにったりと北叟笑む。

 「おーぉ、会長たらやらしいこと。バカじゃないの? そんなところでするはずないじゃないの? ねぇ、歩君」


 真緒は勝ち誇った笑みを浮かべながら、歩に同意を求めた――が、肝心の歩はドン引きしながら二人を白い目で見比べる。

 「あんたら……すげえなぁ……」

 エロい事と誤認して乗り込んできた天野。
 そして、天野に対して恥を掻かせようとわざわざ手ぐすね引いて待ち構えていた真緒にもその視線は向けられた。

 「ち、違う、わ、私は!」

 「な、なんで私まで白い目で見られているの!」

 「二人とも、エロすぎ……」
 

 「あぁああああああああぁぁぁぁん…」


 天野は嗚咽をあげ部屋から飛び出していった。
 横で真緒は必死に弁解しているが、歩の「あ、そうですかぁ」と棒読みの相槌で完全に天野と同一視されているとわかると。


 「わぁあああああああああぁぁぁん…」


 真緒は泣きながら部屋から逃げ出した。
 そして一人残される歩。


 「これって、何なの?」


 静まりかえる教室。しょうがないので後片付けして部屋を出た。
 帰る際に、廊下に掲示されていた「伊勢海いせうみ高校生徒会総選挙」のポスターがチラリと目にした。

 (生徒会長、これの投票依頼で俺のところにでも来たのか?)

 さて、そもそも歩には直接関係のないハズの総選挙であるが、真緒が「生徒会のやり方が気に入らない」みたいな事を言っていたのを思い出した。

 (そういえば、前に生徒会に立候補しろって話したよな)

 真緒を選挙に担ぎ出すにはもう少し人間が必要である。
 ところが、今の人員のは歩と真緒の2人のみである。
 そうなると、どこかで人員を募集しながら、天野の支持者を切り崩す工作をとるしかない。
  
 (真緒さん以上のカリスマ性が高い人っているのか?)

 汚いやり方として賄賂っていう手もあるが、金子きんすは高校生が用意できる物でもない。

 (むしろ、天野を立候補させない方法もあるよな)

 歩はそんなことを考えていたのだが、その壁向こうから「もう、知りません!」と女性の大声が聞こえてきた。そして豪快にドアを開閉させ、声の主が退出した。
 完全に眉間にしわが寄っている。
 よく見るとその場所は生徒会室であり、部屋から出てきたのは会計の財前遥である。

 「どうかしましか?」

 声を掛けると、彼女は歩の事を覚えていたらしく「あら、あなたは」と立ち止まる。

 「この前は大変すみませんでした。あなたを助けられなくて」

 財前がぺこりと頭を下げた。

 「いえいえ。俺のこと気にしてくれている人って真緒さん以外にもいたんですね」

 「ところで…あのスポーツ特待生に、また訓練と称して暴行を受けたと風の便りに聞きました」


 (風の便り? 天野から何も話を聞いていないのか?)
 

 「あっ、それは誤解です。彼らに対しては円満解決しましたから」

 「えっ、どういうことですか?」


 (やはり彼女と天野の関係はうまくいっていない様だな)


 「細かいこと知りたいですか?」

 歩はそう言うと、美化委員の教室へ指差し場所を変えて話す旨申し出た。


 ――再び、美化委員室


 「へぇ、ここが美化委員の部屋なんですね」

 財前は後ろの棚に整然と並べられた花や樹木、野菜の栽培本を手にする。

 「これ見れば季節的にどういうのが植えられるのか分かるわけね。あっ、こうやって育てていくのね」

 「真緒さんの私物だけど、結構細かく記されているよね」

 「すごい、あっ、野菜の本まであるぅ」

 結構前のめりに本を読み漁る。
 そして、なぜか置かれたハリセン。

 「――何、これ?」

 「真緒さんが美化委員によるコメディ研究会なるものを立ち上げたんです」

 「会員は?」

 「美化委員は真緒さんと申請中の俺だけ。当然コメ研も2人だけです」

 「それ、もはや同好会すら作れないレベルの人員ですけど」

 「だから、美化委員兼コメ研という訳です。でもちゃんと美化委員としての仕事はしていますから」

 歩はそういうと、彼女に椅子を差し出す。

 「あらありがとう、それであの4人とはどうなったの?」

 歩は今までの経緯を話した。
  そして、財前から天野との関係がうまくいっていない話を聞いた。

 「財前さんが悩んでいることって、もしかして選挙がらみですか?」

 「まあ、それもあるんですけどね。あの人、暴走しますから…」

 「なんとなく分かる気がします。でも、うちの真緒さんも暴走しますよ。それ以上に俺の方が暴走しますけど」

 「そうですか、でもそちらは楽しそうでいいですね?」

 財前はその場ではクスクスと笑っていたものの、本当は真緒と歩との関係みたいに天野とうまく関係を取りたかったと思っていた。

 「もし、よかったら遊びに来て下さい。真緒さんいるときに美味しいお茶一緒に飲みながらお花の話や野菜の話でもしましょう」

 「コメ研はどうするんですか?」

 「あっ、あれは…疲れるからやめておいた方が良いですよ」

 「ぜひ見てみたいです」

 「やめておいた方がいいですよ。俺の天然に彼女が突っ込みまくるだけの話だから…多分、あれは自己満足ですよ…ところで――」


 歩は選挙のことやその他のことについて情報を交換した。

 話は概ね5分程度。細かいことについてはSNSや電話の連絡先を交換し、後日やりとりすることになった。
 さて、要件も済んだことなので、彼女と別れ校門まで進むと、



 「――おい」



とジト目で睨む真緒がいた。彼が来るまでずっと校門で待っていた様だ。

 「私を放っておいて、何機嫌良さそうに間抜けな顔して歩いているんだよ」

 「いや、真緒さんが真っ赤になっているところを想像しただけです」

 「はぁ? そういえばアンタ、わたしまでエロ女認定したでしょ!」

 「違うのか?」

 歩はケタケタ笑うに対して、真緒は彼の背中をポカポカと叩いて抗議する。

 「ゴメンゴメン、お詫びにアイスごちそうするよ。ハリセン顔面にぶちかました件もあるし」

 「――私、今日は肉まんがいい」

 「はいはい。ソレ食べながら帰りましょう。色々と報告したいこともあるので」

 「じゃあ、予定変更。ファミレスで」

 「……値段上がっていきません?」

 「顔面痛かったし、まさか君からエロ認定されるとは思わなかったし」

 真緒は顔をぶぅっとむくませている。

 「……はいはい。ハンバーグセットぐらいなら奢りますよ」

 「ポテトもたべたいな」

 「――太るよ?」

 歩がボソリと呟いた途端、真緒から羽交い締めにされたのは言うまでもない。
 そんな馬鹿話をしていたら、丁度ファミレスの前に通りがかった。
 そこは低価格で有名な全国展開の大手ファミレスである。
 真緒は「私、もっと美味しいところがいい」と拗ねてわがまま言っていたが、歩は素直に財布の中身を見せると、彼女も渋々納得した。

 「高いところに行くと一番安いものしか食べられないわね」

 真緒はそう毒吐いていたが、実際注文する際には安い部類のメニューを探して注文していた。

 「私ら、この世界に生まれてきたけど…何かね」

 珍しく真緒が弱音を吐いた。

 「――真緒さん、そう思うのなら、することあるでしょ?」

 「漫才?」

 「違う、この世界を変える戦い」

 「あっ、そう言う時期もあったわよね…」

 真緒はお冷やのグラスの縁を指で回しながら呆然としている。かなりブルーな気分になっている様だ。

 「何だよ、もう嫌になったの?」

 「ん?ちょっとね…」

 完全にかつての敵が腑抜けになってしまっている。
 それは向こうの世界では良いことなのだろうが、こっちの彼女にしてみればそれはそれでかわいそうな気がする…かという歩もそうである。
 
 (この世界では平和すぎてやることがないということなのか?)
 
 だが、彼女の場合『やる気がない』というで締めくくるには疑問点が残る。
 馬鹿話している彼女は生き生きしていたという点である。
 そう考えると、違う点でうんざりとしてるのか?

 (ここはちょっと探っておくか)
 
 「何? 天野と何かあったのか?」

 「はぁ?」

 真緒は一声一発で声を荒げ反応した。

 「ここで何で天野の話になるのよ! あんたもむっつりスケベなの?」

 「じゃあ、なんでそんなにうんざりしているの?」

 「…いや別に」

 真緒はそう言いつつ、自分の胸をチラリと見る。
 小さくもなく大きくもなく標準である。
 小さな声で「勝てないもん…」と自虐的な事を言っている。

 (あぁ、天野と比較しているのか)

 この前の生徒会でのバトルで、胸の大きさを馬鹿にされたのがよほど悔しかったのか、トラウマスイッチが入っている。
 これは下手に「触り心地なんでしょ?自信もちなよ」なんて言えるわけもない。

 「真緒さんは天野さん、嫌いなんだ」

 「当たり前! 人の嫌がること平気でするもん」

 「じゃあ、いっそのこと仕返しするか?」

 「どうやって?」

 歩はそっと自分のスマホを差し出す。
 そのSNSには財前の連絡先が記されている。

 「内通者ゲットした」

 「ふーん……」

 (あれ、思ったより反応薄い)

 そのうち頬を膨らませてきた。

 「――歩君」

 「何?」

 「どつき漫才しようか?」

 「はぁ?」

 真緒は歩の頬を平手で『バチン!』とひっぱたくと無言で頬を膨らませへそを曲げている。その理由は歩は知らない。

 「電話番号……いくつ?」

 「財前さんは080…」

 「違うわよ、あなたの! 私知らないんだけど!」

 「えっ、教えてなかったけ?」

 「聞いてない…教えなさい」

 素直に電話番号を教える。すると知らない電話番号の着信が掛かってきた。当然、真緒である。真緒はスマホを耳に当てながら無言で顎を突き上げ『出ろ!』と示している。
 電話に出ると


 「馬鹿――っ!」


とファミレス中、響き渡る大声で怒鳴り電話を切りぷいっと顔を背けた。
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