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第7話 宣戦布告と天野の動揺

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 「チェストー!!!」

 大声と共に生徒会室の引き戸のドアがぶっ飛ぶ。
 真緒が鬼の形相で乱入してきた。
 彼女は現役魔王の魔闘気みたいな禍々しい気を帯びながら、若干焦げ気味の天野にズガズガと歩み寄る。
 
 「何でかなぁ……何でこの女は人のちょっかいだそうとするのかなぁ……」

 天野も負けてはいない。

 「転生のせいで記憶が途切れているのをいいことに人のもの横取りしないでって何回言ったらわかるのかな…」
 
 「横取りなんてしていません~。転生したので関係性オールクリアですぅ」
 
 真緒は天野を小馬鹿に挑発を続ける。

 「なんですって!」

 このままでは現世においても女神様と魔王様がブチ合いの喧嘩になってしまう。
 4馬鹿の男2人は口を開けてぽかーんとしている。

 「先生、これどうしましょう…」

 「止めてくださいよ」

 黒白コンビが歩に何とかしろと言わんばかりに丸投げしてきた。
 こうなっては止める手段は限られている。
 どちらかを立てて、どちらかを切り捨てるしかない。
 当然、歩は今は真緒サイドの人間である。

 「今、俺に止められるとしたら真緒さんを連れて帰ることぐらいだ。そうなると…あとはお前らの仕事だ」

 「えっ…天野先輩やさぐれますよね」

 「まぁ、そうなるだろうね」

 「天野先輩はどうにかならないんですか」

 「何度も言う。今の俺に出来ることは殴られる覚悟で真緒さんを止める――後はおまえらが……」

 「それってつまり…」

 「そうだ。俺が真緒さんを抑えるから、お前らが天野さんを抑えてくれる?」

 歩は彼女らにそう告げたところ、黒白コンビは即座に拒絶反応を示した。

 「無理ですっ!」

 「あの人怖いんですぅ!」

 「他に方法はない……あとは俺がこの場から逃げ――じゃなかった、立ち去れば被害はもっと低くなる」

 歩はそう言った後で「特に俺の被害はね」と呟いた。

 「そんなぁ…見捨てないで下さいよぉ」

 「先生が無理だって言うなら、いっそのこと天野先輩と彼女を夕方まで封印してくださいよ!」

 今、白石がさらっととんでもない事を提案してきた。
 ここで言う『封印』っと言う意味は『彼女らだけを部屋に閉じ込める』ことを意味している。
 裏を返せば『そこで本人らが納得するまで好きなだけブチ合いさせておく』のである。

 確かに封印すれば当事者は冷静になるだろう。でもそれって誰も止めずに放っておいたという酷い仕打ちである。
当然、2人共やさぐれるのは目に見えている。

 「それは今回却下! 俺が後で酷い目に遭うから」

 (さて、どうするべきかな)

 歩がそう考えていたとき、意外なことからトラブルが回避される。


 「あのさ、あんた歩君がこいつらに酷い目に遭ったときにあんた何もしなかったよね!」
 

 真緒が天野の胸ぐらを掴みあげながらがなり散らす。

 「私だって、仕方がなかったんです。こんなことあったら彼らが、彼らがスポーツ特待取り消されてしまう! 何とかしようと私は私なりに考えていたんです」

  「あんたは考えていたんでしょうし、私もブルってなにもできなかったわよ。でも倒れている人を介抱することぐらいは出来るでしょ? あんたそれすらしなかったじゃん。結局はあなたは見守っているっていうだけの傍観者なんだよ!」

 「――それは……」

 真緒の指摘に天野は何も反論できなかった。

 いつも傍観していた。
 自分から手を下すことはなかった。
 傷だらけの勇者に手を差し伸べることはせず、ジッと見ているだけだった。
 挙げ句、その勇者は、彼女の存在に気付いてもらえなかった。
 その彼女が「いくら気づいてよ」と叫んでも彼の心には響かない。

 だから天野は沈黙せざる負えなくなった。
 

 「真緒さん、お見事。勝負あり」
 

 歩は直ぐさま真緒を天野から引き離し、「よくできました」と頭をワシャワシャなでた。

 「ちょ、髪型乱れる」

 真緒は照れくさそうに髪の毛を整えてちょっとうれしそうに大人しくしている。

 「ここからは俺の出番だね」

 真緒が勝負を決めた。歩は真緒を天野から引き離す。
 後は戦闘員である歩が啖呵を切るだけである。
 彼は大きく深呼吸した後――大声で見栄を張った。



 「我々美化委員は、生徒会に対し宣戦布告する!」



 「えっ……な、何を……言っているの?」

 「我が狙うはこの場所、その玉座!」

 歩はビシッと人差し指を彼女を示した後、指先を生徒会会長の席にずらした。        
 天野は言葉を失い何が起こったか理解出来ない、いや理解したくなかった。


 「弱者を見殺しにした生徒会の対応、我々異議あり! また生徒会方針に不満を抱く生徒も多いことから、我が委員長『蛭谷真緒』を候補者として、この俺『日比谷歩』推薦者としてこの場に名乗り出る!」


 歩は再度天野に指差し高々と宣言した。
 これは真緒の心にビビッときたが、これで完全に現生徒会喧嘩を売ったことになった。

 「せ、先生……折角昔の事を思い出したのに、そりゃないよ」

 剣持が泣きそうになりながらどうしていいかわからず狼狽えている。 

 「これは俺からのお前らへの卒業試験だ。お前らはその女神を守って戦うといい。俺はその魔王を守って戦うから!」

 「えっ、真緒さんって魔王…の転生なの?!」

 剣持がパニックを気味に真緒と歩に視線を往来させる。

 「魔王を守る勇者って……」

 力石が呆然と歩を見ていたが、ハッと自分らがそう仕向けた事に気付き「――うちらが原因なのか……」と頭を抱えた。

 「また敵に回るのぉ…」

 黒井が呆然とその場にしゃがみ込む。

 「私達どうしていいかわからない」

 白石は半狂乱な表情で頭を抱え、尻餅を突いた。

 そう――彼らは倒した魔王が復活していた事実を知らされていなかった。そしてまさか倒した相手の勇者が魔王と結託するとは想像もしていなかった。
 もちろん、天野もまさか影で慕っていた歩から啖呵を切られるとは全くの想定がである。

 「天野さん、そういう事だからその2の話は済んだでいいよね」

 歩はそう言って話を打ち切った。
 天野は「――はい」というしかなかった。


 「これ以上の審議不要とし、これにて我々は退室する、以上!」


 そう言い切ると歩は真緒の手を手に取り生徒会を悠々と後にするが、肝心の真緒さんがぽぉ~と意識が飛んでしまい椅子とかドア枠にぶつかりまくりイマイチ格好の付かない退室劇となった。



 ――それから放課後



 真緒と歩は美化委員の教室にいた。

 「あんな啖呵切ったゃったけど、何か策あるの?」

 そう言いつつも、完全に猫のようにスリスリと頬擦りしてくる真緒。

 「一応ね」

 歩は真緒を両手で引き離しつつ、腕時計を見る。時間は午後4時ジャスト。

 「こんにちわーっ!」

 美化委員の教室をガラガラ戸を開けて入ってくる女生徒がいる。
 財前である。
 真緒は歩の胸ぐらを掴み「どういうことだ?」と不機嫌な表情で睨み付けた。

 「せ、選挙スタッフ」

 歩は真緒の手を振り払い彼女に手で挨拶をする。
 財前は「どうもぉ」と言いながら一枚の紙を彼に手渡した。

 「これ、私の最後の生徒会としての役目ね。これに名前書いて」

 この紙は生徒会長立候補届出票である。
 紙がいくらかポツポツと濡れており、端の方がいくらか、しわくちゃになっている。
 ここで想像出来るのは彼女が無言で財前に書類を託した場面だ。
 彼女は涙を浮かべながらぎゅっと握り締めた書類を震わせながら財前に託した――という情景が湧いてくる。

 「…天野の奴、どんな気持ちで財前先輩に託したのか…なんとなくかわいそうになってきた」

 真緒の心が若干揺れ動く。
 すぐに歩が彼女の両肩を掴み、「しっかりしてくれ!」と檄を飛ばす。
 
 「真緒さん、敵に情けを掛けるのは今ではない。情けは強者の奢りだ。俺らは弱者、挑戦者だ。あえて胸を借りよう。もし勝てたら情けを掛けよう。負けたら、俺らで慰め合おうよ」

 「……うん。そうだね」

 「まずは彼女らに勝つことだ!」

 「わかったわ」

 そう言って彼女は両肩を掴む彼の両手首を掴み挙げると、若干強めに――いや、だいぶギュッと握る感じで腕をねじあげる

 「ん? 真緒さん――ちょっと痛いんだけど」

 真緒はニコニコした表情のままどす黒いオーラを吹き出し淡々と尋ねた。

 「――ところで疑問が2つあるんだけどいいかな?」

 「あ……ど、どうぞ」

 「1つ目だけど――」

 歩はゴクリと唾を飲み込み、真緒の言葉を待つ。
 そして彼女が尋ねてきたことは――実に馬鹿らしい事であった。
 

 「……『慰め合おう』って言うのは…か、勝ったらぁ…か、か、体で払えってことでいいってこ…事かし…ら?」


 真緒が動揺も隠さず恥ずかしそうに尋ねてきた。
 歩は首を傾げながら逆に淡々と答える。

 「ん? 普通『慰労会』の事でしょ。ファミレスで残念パーティするでしょ」

 真緒はその回答を聞いてホッとするが――と同時にイラッとする言葉を思い出し、ちょっと突っかかる様に切り出した。

 「ところでもう一つ確認…『あえて胸を借りよう』って何? 天野のおっぱい借りて何かしたいわけ?」

 真緒としては真剣に彼に尋ねたつもりだったが、歩にしてみれば『馬鹿らしい質問』であり、それを回答をする自体躊躇う位に嫌そうな表情で呆れている。

 「真緒さん、ひょっとしてスゲー馬鹿な人なの?」

 「な、なによぉ」

 「胸晒しだして『好きにして良い』っていう敵います?」

 「わ、わかんないでしょうよ。あの天野、何か歩君に気があるみたいだし」

 「それだったら、敵対する前にそうするでしょうよ! そんなことよりも、真緒さんって思春期真っ盛りで妄想大好き『むっつりさん』だったりする?」

 「違うっ! 違います、そんなこと言っているわけじゃないくて…ほ、ほら、なんでそこをボケて返さないのよ!」

 真緒は必死に歩の呆れた問いかけに顔を赤らめながらも必死で返してきたが、それが逆に(この人、図星突かれて反論の余地なくボケツッコみでごましたな)と看破されてしまい『むっつりさん』と不名誉な称号をあたえられることになる。
 なお、あえてこれ以上『むっつりさん』にツッコみ入れても仕方ないので本題に戻す。
 歩は財前に天野の現状況について尋ねた。

 「こんなこと聞くのはマナー違反なのかもしれないけど、彼女どうでした?」

 「いやぁ…あのあと大変でしたよ。授業も出ないで『あのクソ女ぁ…腐れ○○○』とワンワン泣き続け…書類渡してくるからと言って書類を持って行こうとすると『もう少し待って…あと半年くらい』なんて言って往生際が悪い事悪い事――あと、黒白から伝言です。『ごめんなさい、やっぱりやさぐれた天野先輩私らでは無理です』『怖い…私、今日帰りま…いや、帰して…いやああああっ放せ、放せーっ』」

 財前はモノマネが巧いのか、まるで歩がその場にいる様に天野と白黒コンビを演じて見せた。

 「――うん、状況がよくわかった……つまり聞かなきゃよかった」

 呆れる歩だが真緒にして見れば腹立たしい状況である。

 「あの女ぁ…また言ってはいけないことを言いやがったぁ! よし、歩君。勝ったらその言葉、公然であの女の前に浴びせてあげましょう!」

 「いや――それやったら次期生徒会の品位が疑われるでしょ? ちょっとあなたは『むっつりさん』を封印しないさい」

 (宣戦布告したはいいが、演説だよなぁ。むっつりさんの場合は漫才やって湧かせようという戦術をとろうとするだろうから、それを封じなければこの先勝ち目がない…とりあえず各部や委員会にて情報収集するしかないか)
 
 真緒が『むっつりさん』に反応する前にさらに話を進める。

 「演説原稿をまとめる必要があるから、真緒さんはそれを仕上げてあとでみせてくれ」

 「えっ、一緒にやらないの?」

 「演説は推薦人演説と候補者演説と別々なの」

 彼はそう言っているが、もちろんそういう規定はない。
 あくまでも生徒会長を決める選挙であり、その陣営の選挙スタイルによって変わる。
 歩の言うそれは漫才演説をさせないための方便である。
 なお総選挙といっても、副会長・書記・会計は選挙で選ばれる訳ではなく当選した会長が指名する方式となっている。

 「私一人で演説するの? あがっちゃうなぁ…」
 
 「とりあえず、原稿書く。見直し、練習、そして本番。いいね?」
 
 「他にすることは…」

 「とりあえずうちらスタッフに任せてくれ」

 (彼女は演説専門にさせて、あとは俺と財前先輩で動くか。)

 「先輩、お願いして良い? 各部お呼び各委員会との水面下のセッティングが必要です。その為、現生徒会の活動計画と実績及び問題点と予算決定権が誰にあるのか配分方法が知りたい」

 「要は活動結果報告書が必要なのね、その点わかったわ」

 「合わせて校外活動内容及び活動結果も次に欲しい」

 「多分、活動結果報告書で間に合うと思う」

 「ちなみに、天野先輩は予算関係はどうしていた?」

 「基本的は例年どおりなんだけど、教師の意見も反映されるわ」

 「なるほどね――よし、天野先輩には公開討論を申し立てよう。その辺をどう考えているのか聞いてみたい。次に生徒会の裁量権についても知りたいかな」

 「その辺は教師職員の意見が先にきてそれを追認する形。つまり生徒会は学校裁量権の一部貸与という形で行われているから顧問の先生の助言と承認が必要になるから」

 「形だけの自主性か…まぁ、生徒会が暴走した場合にそれをコントロールするのにそういう形にしているんだろうな。逆にいうと生徒会が暴走しても影響力がない部分のものはこちら側で有していても問題はないと言うことで理屈上では委譲させることも可能と言うことだね」

 「そうね、学校側が許可すれば可能だと思う」

 「ならば生徒会に介入できる先生に関する情報を生徒会で入手できる範囲でいいから、口頭で良いからあとで教えて欲しい」

 「――えっ、生徒会顧問の情報も?」

 「その先生が生徒会に存在意義のある人か否か判断するのにネタが欲しい」

 「それって」

 「その先生と親睦を深めるためだ…仲良くなれば執行するのが楽になる、仮に衝突しても交渉材料にはつかえるはずだ」

 「うわ…エグい…なんか乙女とはやり方が全然違う…」

 「我が蛭谷真緒政権は決断力とスピーディーを売りにしたいと思う」

 「あぁ、もう生徒会選挙じゃなく国政総選挙みたいな勢いでやるのね…」

 「そのためには多少汚いこともする。もちろんそれは俺の専門だ。真緒さんや先輩はクリーンな選挙でお願いしますよ」

 「何か、もう――日比谷君を生徒会長にした方がいいかも…そのまま国会議員にさせちゃってもいいかもね…もっとも被選挙権や選挙権があればの話だけど…」

 「政治家って秘書が動きますからね。最後の決断は政治家ですから」

 ちらりとその候補者を見るが…演説内容に苦しんでいる感じである。とても最終決断を下せずに頭を抱えている様にしか見えない。
 歩は「あははは…演説も草案作っておこうかな」と苦笑いで誤魔化した。


 ――次の日の朝、教室にて…


 「先生、酷いですぅ…」

 「あれ、大変でした…」

 黒白が顔色悪くげっそりとした表情で歩に文句を言ってきた。
 天野のことだ。

 「しょうがないよ、運動員は候補者のご機嫌でもとりなさいね」

 「普通逆じゃないですか? 選挙中は候補者が運動員にごまするんでしょ?」

 「あのヤンデレ女、ホントにマジで困るんですけど『歩さ~ん』て昨日の朝からずっと泣きっぱなしなんですけど」

 「――知らん。お前らの大将だ、おまえらがなんとかしろ。ところで剣持らはどうした?」

 「剣持は逃げました。『同性に任した!』と歯を輝かせて一目散に」

 「まだ剣持はいいでしょうよ、その後フォローしてくれるんだもの。力石の奴は『怖い怖い…』ってビビって昨日早退するし今日は学校休んじゃったのよ」

 (うん…ちょっと恐怖心を植え付けすぎたか?)

 「先生、何とかして下さいよ!」

 「ホントですよ!」

 黒白コンビがまた訳のわからんキラーパスで歩を責め立てる。

 「んじゃ、こうするか? 俺が天野さんをなだめる代わりに、真緒さんをなだめてくれる? 多分、俺が天野さんのところにいって慰めようものなら、間違えなくブチ切れるだろうし…」

 歩のキラーパス返しで、二人は完全に凍り付く。

 「いや…それはもっと嫌…」

 「あの人、間違いなく殺しにかかるから…」

 「――そうだなぁ。じゃあ頑張ってくれ!」

 歩はそう言って見放し教室から離脱しようとすると、彼女らが逃がさないとばかりに両手を掴んで離さない。

 「見捨てないでくださいぃ」

 「助けて下さいぃ」

 必死に俺に助けを求める彼女、丁度いいところに助っ人が現れた。

 「――げっ、先生…」

 遅れてきた剣持である。

 「おい、ガル公。これなんとかしろよ」

 「む、無理です!」

 「じゃあ、真緒さん呼んでこいっ!」

 「何て言って呼べばいいんですか?」

 「そうだな……では『2人の女生徒に襲われています』って言えば必ず来る。早く行け!」
 
 それから5分後

 黒白コンビは頭にたんこぶを作ってその場で正座させられていた。
 正面には真緒仁王様が魔闘気を帯びて睨みを利かせている。
 そして何故か横でたんこぶを作って立たされている歩。

 「なぜ、俺が殴られる?」

 「ムカついたから」

 「でも、ちゃんと報告したぞ」

 「――だからこれで許す」

 無茶苦茶である。

 「蛭谷さん、助けて下さいよ」

 「こっちまでおかしくなりそうです」

 黒白が真緒にまで救いを求めている。
 歩が渋々「真緒さん、助けてあげたら?」と助け船を出すが、当然真緒は聞く耳持たない。

 「嫌よ。なんで天野の馬鹿を慰めなきゃならないのよ」

 「だって俺が動くと真緒さんが凄く怒るでしょ」

 「当たり前じゃん、いい気味ざまぁって気分」

 「そんなこと言わないで次期生徒会長の度量を示してくれる?」

 「――なんで私が?」

 「困った人助けるんでしょ? 倒れた人介抱するくらいできるんでしょ?」

 「歩君みたいに倒れてないじゃん――ってか、そもそもこいつらの所為だし」

 真緒はギロッと黒白コンビを睨むと彼女らは気まずそうに慌てて目をそらした。

 「それじゃあその謝礼として俺のおごりでファミレスのポテトでどうだ?」

 「……うぅ…」

 真緒の気持ちが僅かに揺れる。

 「ほら、お前らも真緒さんその気になってきたぞ。白黒なんかないか? 真緒さんが機嫌をよくなる方法を」

 「ならば『お食事券』ありますよ」

 黒井が財布からレストランで使える3000円分のジェフグルメ券を差し出した。
 歩はそれを見て、手に取ろうとするが、何かに気付きそれを手にすることはやめた。

 「あ~ダメだわ。これ受け取れないわ~」

 真緒が勿体ないとばかりに歩に一考するよう促す。

 「えっ、私的にはタダ券あるんだたらそれもらえれば少しはやる気が起きるんだけど」

 「真緒さんダメだよ。『お食事券』…言い方変えると『汚職事件』だよね。アウトだよ。まだ役員になっていないから賄賂にはならないとは思うけど…選挙するのにいらぬ嫌疑はそれは大きな失策だよね」

 「あら、面白い言葉遊びね。なるほど。でも選挙って面倒くさいのね…これで天野助ける口実なくなったじゃん」

 真緒は『フフン♪残念ね』と言わんばかりにふんぞり返っている。

 「しょうがない真緒さん、俺ちょっと天野さんみてくるわ」

 「――何で。それはダメだから。君は私の相方だから絶対にダメ!」

 「絶対にダメ?」

 「君が行くくらいならば私が行くわよ…あっ」

 いつものノリでつい引き受けてしまった。『今のなし!!』と取り消したところで時既に遅しである。

 「…んじゃ、真緒さん僕の代わりによろしくお願いします」

 お笑いの何とか倶楽部さんみたいなノリで真緒の背中を押して生徒会に連れて行った。

 「ちょ、ちょっと他に方法なかったの? ねえ、私も正直嫌なんだけど!」
 
 「ありません。あとはよろしくおねがいします」

 彼は生徒会のドアを開ける。
 生徒会室のソファーに憂鬱な表情の天野がいたのは見えた。
 嫌がる真緒を天野に方へと放り込み、「戻ってきたらご飯ごちそうしますから」とドアを閉じるとドアに封印魔法を掛けた。


 「コラ~開けろ!」

 「何してくれますの!」

 真緒と天野が大声でどんどんドアを叩く

 「大丈夫です。二人が仲直りするまでここで待っていますから」

 「何言っているのよ、なんで私がこんな馬鹿を慰めなきゃならないわけ?」

 「馬鹿とは何よ馬鹿とは!」

 ドアを叩く音が収まる代わりに激しい言い合いが始まる。

 そのうち、口論から『ドカッ』、『バキッ』…等の激しい音に変わる。

 中で派手にやり合っている様だ。
 お互い喧嘩っ早く、他になだめる手段がなかったとは言え、彼女らの不仲の原因の男が『解決してこい』とあえて一緒の部屋に閉じ込めて喧嘩させている訳だ。
 最低の解決方法である。
 ただ荒療治が効いたのか、10分もしたら効果音が収まった。

 
 ――そして放課後


 何故か天野と真緒が同じ洋食系ファミレスで同じテーブルで高そうなハンバーグを無言でパクパク食べていた。
 2人とも生徒会室から出たときにはタンコブだらけだったのが、彼女らも再生リジェネレーションを掛けたようで、今では傷跡無く黙々と食べ続けていた。
 とりあえずは和解したという形で生徒会室から出てきたが、真の和解ではない様だ。時折目を合わせてしまうようで、そのたびに「ふんっ!」といって同時に顔を背けてしまう。歩の他に剣持と黒白コンビがそれぞれの財布を気にしている。

 「おぃ、お前ら。そっちは天野さんの飯代なんとかしろよ」

 「もう食券分、超えちゃった…」

 黒井が大きくため息をつく。

 「何言ってるんだ、うちの大将だって3000円分喰っちゃったんだぞ。おまえ等は良いよな~っ、食事券で足らない分人数で分けられるからいいだろ。俺は1人で1人分だぜ負担率考えてみろ!」

 とりあえずは、天野も元気が出た。真緒の闘志もあがった。あとは自分らのお財布がどれだけ持つか…が今の課題である。
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