ナチス最終兵器 サメ人間

名無しの東北県人

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第三章(過去編)

◆チャプター20

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「土星にぃ……っ! 土星に牧場ができちゃうぅぅぅううっ!」
 午後八時を回った頃――豪邸内の廊下を一人進んでいた日本人傭兵の空野は、開けっ放しのドアから漏れてきた嬌声を耳にした。
「失礼します」
 いつも通り返答はなかったが、ソフィアの自室の前に到達した空野はそれでも五秒程待ってから中に足を踏み入れる。
「入りますよ」
 すぐに濃い汗の臭気が彼の鼻腔を突く。
「全くソフィアったら、こんな恰好をして……」
「あ、アノニマ様ぁっ……」
 室内のベッド上ではソフィアの恰好をしたアノニマが、アノニマの恰好をしたソフィアの両足を鏡の前で大きく広げていた。
「兵士達からいやらしい視線を浴びて、いつも興奮しているんだろう?」
「ち、違いますぅ……っ」
 鏡に股間を大映しにしているソフィアは顔を真っ赤にして否定する。
 ジャンヌ・ダルク宜しく常に先頭に立って手練の兵士達を率いるソフィアは、当然ながら常人を遥かに上回る凄まじいストレスを抱えていた。
「嘘ばっかり。本当にいけない子だ」
「はいっ……ソフィアは悪い子です……っ」
 その解消策こそがアノニマと主従を逆転した上で行うこのような夜伽であり、銀髪のスペクターもまたそれを報酬をしている部分があるため、歪んではいるが双方ウィンウィンの関係を構築できていた。
「はぁ……」
 今日もそれを一メートル程の距離で目撃した空野は、フラットな感情で天井を見上げる。
 ソフィアとアノニマ双方を心から尊敬しているし、個人の時間に何をしようが各々の自由である。
 問題なのはそれをどうしても部下が入室せねばならない時に、二人があたかもこの世界には自分達しか存在していないことを前提にして諸々を行う点であった。
「わぁぁぁぁぁぁっ!」
 五分後……流石にこれ以上は待てなくなった空野が一咳入れると、アノニマは絶叫しながら上官の両足を離してベッドを降り、そのすぐ横で直立不動となる。
「何かあった?」
 一方のソフィアは特段取り乱す様子もなくシーツ上から離れた。
 そして、つい先程まで少女のそれだった顔をアイアンランド王のそれに変えて空野を見る。
「今日はJD様への定期報告日です」
「ああ、そうだったわね」
 ソフィアは報告にやってきた伝令に頷きを返した。
 猫耳とマイクロビキニという、心底ふざけた格好のまま――。
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