雇われ者の小唄

杉田杢

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その男、狂暴故に

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 不機嫌な顔から難しい顔に変わり、唸り始めた。
 七生は親切なだけの男ではない。その狂暴性が問題なのだ。
 たとえば、どちらが悪いと言えないような状況で、七生と誰かが正面衝突したとしよう。
 その誰かが、「すみませんでした」と素直に謝るなら何の問題も起きない。七生も「こちらこそすみませんでした」と頭を下げるだろう。それで終わりだ。
 だが、その誰かが舌打ちしたり、七生が謝罪しているにも関わらず知らぬ顔で立ち去ろうとしようものなら問題が起きる。七生は「ちょっと」と呼び止める。それと同時に殴りかかっている。
 七生の沸点の低さは異様だった。とりわけ筋の通らないことには。
 そして更に厄介なのは、七生は怒り散らすことを楽しんでいる節があることだ。
 救いがあるとすれば、怒りの対象が専ら無礼者と無法者に向けられていることだが、トラブルメーカーには違いなく、しょっちゅう警察の世話になっている。
 友人としては退屈しなくて良いが、仕事仲間と見ると難があった。
「……解ったよ」
 結局は何もせずに借金が減るということで納得がいったらしい。
 手のつけられない乱暴だが、妙に律儀な面もあるので、借金という言葉で負い目を意識させたのも勝因と言えた。単純で助かる。
「ま、その調子なら大丈夫そうだしな」
 気になる物言いだった。
「何がだ?」
 七生は照れて笑う。
「業平が心配してたんだよ。お前の調子がおかしいって。ま、一人で気張ろうってんなら元気な証拠だろうよ」
 照れ隠しなのか、七生はそそくさと踵を返した。
 揃いも揃ってお節介な話だ。お陰で気が変わった。
「待てよ」
 俺は写真を取り出し、七生に見せた。
「この娘を探してる。先週から行方知れずだ。武宮から聞いてるだろうがな」
 七生はにやりと笑う。
「綺麗な娘だな。……いくら?」
「一割五分、負けてやる」
「ドケチめ。まあいい。乗るよ。ここいらは俺の庭みたいなもんだ。大船に乗った気でいろ」
「お前の大船はいつも大穴か大時化とセットだけどな……」
「うるせえ」
 反射的に皮肉を返したが、実際、七生の顔の広さはちょっとしたもので、確かに頼りにはなった。
 去っていく七生を見送る俺の頬は緩んでいた。他人のことは言えない。俺も結局のところ単純なのだ。
 もう一頑張り、店を回る気になっていた。
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