残念女の異世界紀行

LEKSA

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CHAPTER Ⅰ

04 一般常識

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 斬殺した脱死蛇だっしほだを全部ポーチに詰め込んで、再び太陽に向かって歩き始める。
 斜め75°にあった太陽が、心なしか地平線に近づいたように見える。あの太陽は朝日ではなく、夕日だったようだ。
 一面の草しか見られないこの状況で、夜を過ごすのは勘弁したいところだが、一向に草原を抜け切れる気がしない。地平線には相変わらず爽やかな若草色だけが広がっている。

(…これ…まさか何百㎞もこの景色続いてんちゃうやろな!?)

 まだ1時間も歩いていないのだろうが、体感的にはもうずっと歩いてる気になる。
 何せ景色が変わらないのだ。辺り一面生えている草に対して「壮大やな!!」と感動できたのはほんの最初だけ。悪夢のような場所だ。

(そうや。この世界をしながら歩こう。)

 無知であるというのは、余計な厄介事を招くものだ。
 何でも知っている必要はないと思うが、常識くらいは身につけておくべきだろう。

 目覚めてから今までの経緯でお察しだが、“ここ”は地球ではない。地球と良く似たパラレルワールドというわけでもなく、全く別の次元の世界だ。
 宇宙や惑星という概念はあるようだが、科学という観念はないみたいだ。
 今わたしが普通に地面に接して歩いているということは“重力”が働いているのでは?と考えるわけだが、その理論でさえ、この世界では全く別の解釈がされている。

 では、わたしが知る科学の代わりに何がこの世界のことわりを担っているかと言うと……、
 “魔法”である。

 この世界は〈アシュヴァラ〉と呼ばれており、約50ヶ国存在している。地球と変わらない陸地面積だが、母星と比べてかなり少ない国数だ。
 各国の往き来は、近場では徒歩か馬車のような動物を用いた車か、遠方には魔法陣を用いた転移が一般的だ。

 この魔法陣やその基礎である魔法というのが、地球でいうところの科学の位置を占めていて、各国研究に余念がない。

 この世界のヒトのほとんどが、魔法を使えるのだが、行使するには呪文が必要だ。
 単純な魔法は身一つで出来るが、より高度な魔法には、モンスターがドロップする魔力が籠ったアイテムを媒体とした魔道具を用いなければならない。魔道具の例としては、杖や指輪といった物がメジャーだ。

 その魔道具に多用されているモンスターのドロップアイテムだが、生活に欠かせない物であると同時に厄介のタネでもある。

 ちなみにわたしがさっき殺した脱死蛇だっしほだはモンスターではなく、普通の生き物だ。
 モンスターは殺した端からアイテムをドロップして消滅する。はこの世界の生物の“歪み”が具現化したものだ。
 文明が高度になり、人口が増加すると共に、モンスターも多種多様化、大量発生するようになり、毎年郊外での被害が後を絶たない。

 とどまることを知らないモンスターの発生の抑制力に役立っているのが、全国津々浦々に設立されている冒険者ギルドだ。このギルドに国境はなく、アシュヴァラ全土にネットワークを持っている。
 登録者は主に「冒険者」や「傭人」や「探索者」と呼ばれており、彼らには国籍がなく、殆どフリーパスで世界中を行き来できる。
 特別待遇であると思われがちだが、依頼失敗の上限を超えたり、各国の法に触れたりすれば、即行奴隷落ちとなる。結構リスキーな職業だ。

(まぁけど……冒険者っていうのはハイリスクハイリターンやねんなぁ~。)

 わたしの性根にピッタリな職業だ。
 冒険者ギルドのある街に着いたら早速登録しに行こう!

 軽い足取りで進んだ先に、赤く火照った太陽と深い緑の木々が生い茂っていた。
 草だらけで辟易していた気分が少し上昇した。
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