43 / 81
二章ー止まない街ー
43 飛んで火に入る夏の虫
しおりを挟む
「ユズリーッ!」
「タクマっ!」
突如床からせり上がる氷壁。
離れ離れにならないよう、俺と彼女は手を伸ばすが……。
まるで絆を断ち切るかのように、巨大な氷が俺達を分断させた。
「ぐっ……!」
彼女の間を隔てる氷壁に左手を押し当て歯噛みする。
「おやおや、老骨であるとはいえ、私に背を向けるとは随分と余裕でございますな」
老人の言葉に耳を傾けず、黒剣を握る手に力を加えて振り返る。
「……じーさん。あんたを倒さないと、この先へ進めないんだな?」
俺の問いに対し、執事は頬を上げ右手を胸に置いた。
「えぇ、勿論……。ですか手合わせの前に仕来りですので名乗らせていただきます。私の名はリリバー。僭越ながら今宵は私がお相手致します」
彼の名乗りが終わる頃には、右足で床を蹴り出し黒剣を振りかぶっていた。
私の眼前には、部屋を半分に隔てる氷壁が聳えている。
この向こう側には勇者であり旅の相棒とも言える一人の少年、タクマが敵の執事と戦っている筈だ。
今更彼の実力、実績を否定する気は無いが、だからと言って加勢しない理由にはならなかった。
「待ってて……!」
向こう側にいる彼に対し氷に呟くと、即座に翻してこの部屋の出口を探す。
数秒で一つだけ扉を発見し、そこに向かって駆け出した。
しかし数歩進んだ時点で、黒いフードを被った何者かがその扉より入室する。
見たところレジスタンスでは無い。敵だ。
そう思ったが、目の前の人物がそのフードを後ろに払った。
彼の素顔を見て、私は目を剥く。
「う、そ……? テンソー、先輩……?」
そう。彼は新人時代少しお世話になった、ディッセル騎士団のテンソーその人だった。
「久しぶりだな、ユズリ」
テンソーの顔は、以前見た時とはかなり違っていた。茶髪はそのままだが、肌は色白く、緑に輝いていた瞳は今や血のような赤みを帯びている。
一体彼に、何が……?
しかし今は、彼の身の丈よりもタクマが気がかりだ。ここは強引にでも切り抜けたい。
「あの、この館に侵入捜査……なわけないですよね。……魔王軍に寝返った、つまり敵として認識して良いのですよね」
同じ騎士団の仲間として、テンソー先輩を斬り伏せたくは無い。だが、敵として現れれば個人の感情を殺して迎え撃つこともまた騎士の務めだ。
「ふむ、まぁ、お前から見たらそうなるよな……だが」
彼は考えるような仕草をしつつそう口にした後、両手を音が鳴るほど徐に広げる。
「この強大な力を手に入れれば、お前も考えが変わるぞ! なぁ、ユズリよ……俺と共に魔王軍の軍門に降らないか? ガンゾルド様からは殺害を頼まれたが、お前には特別に俺から話をつけてやる」
そんな彼の演説を聞いて、私は……。
「巫山戯ないでくださいッ!」
部屋に鳴り響くほどの怒号を放った。
「騎士としての誉れだけでなく、人としての誇りを失った貴方は……もう私の知っているテンソー先輩じゃない。だから、私は騎士として……貴方を討ちます!」
言葉を繋げつつ、剣を抜刀しその切っ先を向ける。
すると、彼の表情は見るからに曇り、直ぐに憎悪を表に出てきた。
「そうか……残念だ。残念だよ」
テンソーも抜刀し、ゆらゆらと身体を揺らしながらこちらに視線を向ける。
そして、次の瞬間。
「本当に残念だ。後輩を斬るのは」
一瞬で背後を取られたと悟った私は、その攻撃を受ける前に前方へ跳ぶ。
しかし完全には避け切れず、右肩から斜めに斬られる。急いで身体を半回転させ、テンソーに向き直った。
傷は浅いが、攻撃を受けたという事実と痛みが身体全体を緊張させる。
「そうだ、しまった……頭に血が登ってしまってつい忘れてしまっていた」
切っ先を向けあっていると、ふと彼がぶつぶつと呟き始める。
「これはパーティー……戦闘を行う前に名乗るのが仕来りだったな。では、改めて……」
彼は姿勢を正すも、隙は一切見せずに名乗り出した。
「我が名はテンソー。ガンゾルド・ホーツ・ブリッシュ様の命に依り、ユズリ……君を始末する」
彼の言葉に、部屋の温度が数度下がった気がした。
「タクマっ!」
突如床からせり上がる氷壁。
離れ離れにならないよう、俺と彼女は手を伸ばすが……。
まるで絆を断ち切るかのように、巨大な氷が俺達を分断させた。
「ぐっ……!」
彼女の間を隔てる氷壁に左手を押し当て歯噛みする。
「おやおや、老骨であるとはいえ、私に背を向けるとは随分と余裕でございますな」
老人の言葉に耳を傾けず、黒剣を握る手に力を加えて振り返る。
「……じーさん。あんたを倒さないと、この先へ進めないんだな?」
俺の問いに対し、執事は頬を上げ右手を胸に置いた。
「えぇ、勿論……。ですか手合わせの前に仕来りですので名乗らせていただきます。私の名はリリバー。僭越ながら今宵は私がお相手致します」
彼の名乗りが終わる頃には、右足で床を蹴り出し黒剣を振りかぶっていた。
私の眼前には、部屋を半分に隔てる氷壁が聳えている。
この向こう側には勇者であり旅の相棒とも言える一人の少年、タクマが敵の執事と戦っている筈だ。
今更彼の実力、実績を否定する気は無いが、だからと言って加勢しない理由にはならなかった。
「待ってて……!」
向こう側にいる彼に対し氷に呟くと、即座に翻してこの部屋の出口を探す。
数秒で一つだけ扉を発見し、そこに向かって駆け出した。
しかし数歩進んだ時点で、黒いフードを被った何者かがその扉より入室する。
見たところレジスタンスでは無い。敵だ。
そう思ったが、目の前の人物がそのフードを後ろに払った。
彼の素顔を見て、私は目を剥く。
「う、そ……? テンソー、先輩……?」
そう。彼は新人時代少しお世話になった、ディッセル騎士団のテンソーその人だった。
「久しぶりだな、ユズリ」
テンソーの顔は、以前見た時とはかなり違っていた。茶髪はそのままだが、肌は色白く、緑に輝いていた瞳は今や血のような赤みを帯びている。
一体彼に、何が……?
しかし今は、彼の身の丈よりもタクマが気がかりだ。ここは強引にでも切り抜けたい。
「あの、この館に侵入捜査……なわけないですよね。……魔王軍に寝返った、つまり敵として認識して良いのですよね」
同じ騎士団の仲間として、テンソー先輩を斬り伏せたくは無い。だが、敵として現れれば個人の感情を殺して迎え撃つこともまた騎士の務めだ。
「ふむ、まぁ、お前から見たらそうなるよな……だが」
彼は考えるような仕草をしつつそう口にした後、両手を音が鳴るほど徐に広げる。
「この強大な力を手に入れれば、お前も考えが変わるぞ! なぁ、ユズリよ……俺と共に魔王軍の軍門に降らないか? ガンゾルド様からは殺害を頼まれたが、お前には特別に俺から話をつけてやる」
そんな彼の演説を聞いて、私は……。
「巫山戯ないでくださいッ!」
部屋に鳴り響くほどの怒号を放った。
「騎士としての誉れだけでなく、人としての誇りを失った貴方は……もう私の知っているテンソー先輩じゃない。だから、私は騎士として……貴方を討ちます!」
言葉を繋げつつ、剣を抜刀しその切っ先を向ける。
すると、彼の表情は見るからに曇り、直ぐに憎悪を表に出てきた。
「そうか……残念だ。残念だよ」
テンソーも抜刀し、ゆらゆらと身体を揺らしながらこちらに視線を向ける。
そして、次の瞬間。
「本当に残念だ。後輩を斬るのは」
一瞬で背後を取られたと悟った私は、その攻撃を受ける前に前方へ跳ぶ。
しかし完全には避け切れず、右肩から斜めに斬られる。急いで身体を半回転させ、テンソーに向き直った。
傷は浅いが、攻撃を受けたという事実と痛みが身体全体を緊張させる。
「そうだ、しまった……頭に血が登ってしまってつい忘れてしまっていた」
切っ先を向けあっていると、ふと彼がぶつぶつと呟き始める。
「これはパーティー……戦闘を行う前に名乗るのが仕来りだったな。では、改めて……」
彼は姿勢を正すも、隙は一切見せずに名乗り出した。
「我が名はテンソー。ガンゾルド・ホーツ・ブリッシュ様の命に依り、ユズリ……君を始末する」
彼の言葉に、部屋の温度が数度下がった気がした。
1
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる