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第一章 白線
イレギュラーバウンド④
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「は……?辞めた…、何を……」
『何度も言わせんなよ。俺は野球を辞めたんだよ。』
岬が野球を辞めた、野球を辞めた―――。
颯の頭にで岬の言葉が突き刺さった。それからしばらくの間颯は何も言えないどころか、思考する事すらままならない状態に陥った。
「……な、何で…嘘、だろ……?」
二人の間に続いた沈黙を破ったのは、颯がやっとの思いで絞り出した声だった。
『何で?――――そんなの、野球が嫌いになったからに決まってんだろ。』
「嫌、い……」
『……あぁ、そうだよ。
―――野球なんて、俺は大嫌いだ。』
何で、どうして。
『もう無理なんだよ。あんなの続けるなんてさ。』
嘘だ、そんなの嘘だ。
『嘘なんかじゃねえよ。』
だって、だって、約束したじゃねえか。
『約束?……あぁ、あの事か。』
俺はその為にこの高校に、この野球部に来たのに。
『―――お前、まだそんな事に固執してんのかよ。……くだらねえ。』
「……っ、ふざけんじゃねぇよ!嫌いになった?だから辞めた?……そんなの毎日俺だって思ってんだよ!」
―――だけどな。
「でもお前とのあの約束…、甲子園で会いたいって、ライバルとして会いたいって約束!この約束の為に全部全部かけてきたんだよ!…っ、それをお前は、くだらねえとか、そんな事とか、抜かしやがって…!」
颯の頭の中では警鐘が鳴り響いていた。これ以上は言ってはならない、あいつにも、岬にも何か訳があるんだと。でもその警鐘は、颯自身の感情のままに溢れ続ける言葉と共に次第にかき消されていった。
「何も知らねえくせに!知った様な口きいてんじゃねえよ!お前に俺の何が分かんだよ!
――――お前なんかどっか行っちまえ!二度と俺の前に姿見せんな!」
『―――言われなくてもそうするよ。』
子どもみたいな捨て台詞を吐いた颯に対して、岬の言葉と声はとても冷静で大人だった。昔からそういう奴だったが、今のこの自分の心理状態としては何故だか負けた気がして、とても悔しかった。
颯自身、その後の事はよく覚えていない。はっきり言って、最後の方、自分は何を言ったのかすら怪しい。
それでも颯の心の中には、後悔の念と岬の最後の言葉だけが鮮明に残っていた。
『何度も言わせんなよ。俺は野球を辞めたんだよ。』
岬が野球を辞めた、野球を辞めた―――。
颯の頭にで岬の言葉が突き刺さった。それからしばらくの間颯は何も言えないどころか、思考する事すらままならない状態に陥った。
「……な、何で…嘘、だろ……?」
二人の間に続いた沈黙を破ったのは、颯がやっとの思いで絞り出した声だった。
『何で?――――そんなの、野球が嫌いになったからに決まってんだろ。』
「嫌、い……」
『……あぁ、そうだよ。
―――野球なんて、俺は大嫌いだ。』
何で、どうして。
『もう無理なんだよ。あんなの続けるなんてさ。』
嘘だ、そんなの嘘だ。
『嘘なんかじゃねえよ。』
だって、だって、約束したじゃねえか。
『約束?……あぁ、あの事か。』
俺はその為にこの高校に、この野球部に来たのに。
『―――お前、まだそんな事に固執してんのかよ。……くだらねえ。』
「……っ、ふざけんじゃねぇよ!嫌いになった?だから辞めた?……そんなの毎日俺だって思ってんだよ!」
―――だけどな。
「でもお前とのあの約束…、甲子園で会いたいって、ライバルとして会いたいって約束!この約束の為に全部全部かけてきたんだよ!…っ、それをお前は、くだらねえとか、そんな事とか、抜かしやがって…!」
颯の頭の中では警鐘が鳴り響いていた。これ以上は言ってはならない、あいつにも、岬にも何か訳があるんだと。でもその警鐘は、颯自身の感情のままに溢れ続ける言葉と共に次第にかき消されていった。
「何も知らねえくせに!知った様な口きいてんじゃねえよ!お前に俺の何が分かんだよ!
――――お前なんかどっか行っちまえ!二度と俺の前に姿見せんな!」
『―――言われなくてもそうするよ。』
子どもみたいな捨て台詞を吐いた颯に対して、岬の言葉と声はとても冷静で大人だった。昔からそういう奴だったが、今のこの自分の心理状態としては何故だか負けた気がして、とても悔しかった。
颯自身、その後の事はよく覚えていない。はっきり言って、最後の方、自分は何を言ったのかすら怪しい。
それでも颯の心の中には、後悔の念と岬の最後の言葉だけが鮮明に残っていた。
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