S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
25 / 724
入学編

第二十四話 現れ出る者

しおりを挟む
物凄い勢いで眼前に迫る火の玉は特大サイズだった。

ヨハンを中心とした闘技場内に激しい爆炎が広がる。
モニカ達がいる客席は結界により炎が遮られたのだが、予想もしていない範囲に広がる魔法に生徒達が一斉に動揺し騒ぎ立てた。

「――ヨハン!!おい!なんだよあれ!?ヨハンは大丈夫なんかよ!?」

レインが慌てた様子で取り乱しながら問いかけるが、モニカとエレナは探るようにじっと闘技場の様子を見ている。

「――あそこですわ!」

エレナが指差すのはヨハンがいた場所とは正反対の方向。そこには、ぺっぺっと土煙を浴びたヨハンが立っていた。

「なんだあの子?今のはかなり危なかったけど、もしかしてかなり強いんじゃないのかな?あの子相手でも全力を出したらダメなの?それって簡単には勝てなさそうだけど…………」

ヨハンが考え込んでいると影の薄い子は背後にヨハンを見つけるやすぐに追撃をする。火の玉を再び飛ばした。
次に飛んで来たのは先程よりも小さいのだが、数が多い。
その火の玉をヨハンは左右の飛んで瞬時に躱す。

「――――レイモンド先生!あの子は!?」
「い、いえ、わかりません。あのような威力の魔法は使えないはずなのですが…………」

シェバンニが魔法科のレイモンドに駆け寄り慌てて確認していた。
レイモンドはパラパラと手元の資料を見て参考資料に目を落とすのだが戸惑いを隠せない。そのような情報は一切記載されていないのだから。

「ではなぜあのような魔法を!?」
「も、申し訳ありません。ちょっとわかりません。ですがこのままでは相手の生徒が危険です!すぐに中止にしましょう!」
「そうですね……確かに、普通の生徒であれば危険です。と言いますか、そもそも普通の生徒であれば最初の攻撃で死んでいるでしょう」
「では――」
「ですが、彼は少し普通とは違いますので今はまだ大丈夫です。レイモンド先生は校長に報告してきてください。ここは私がなんとかしておきます」

レイモンドの提案に対してシェバンニは少し思案したあとに様子を見ることを決断する。

「…………よろしいのですね?
「ええ」
「わかりました。ではガルドフ校長に知らせに行きます」
「はい。早急にお願いします」

そうしてレイモンドは闘技場の外に走って行く。同時にシェバンニが他の先生に向かい叫んだ。

「先生方!見ての通り非常事態です!今すぐに生徒達を避難させて下さい」
「わかりました、教頭はどうなされるので?」
「私は現場に向かい、事態の収拾を行います」

シェバンニはそう言うと闘技場内に走って向かう。
その途中で避難する生徒の流れに逆らい闘技場に向かっていたモニカ・レイン・エレナと会った。

「シェバンニ先生!これはどういうことでしょうか!?」
「私にもわかりません。ですが、普通ではないのはあなた達もわかりますわよね?早く非難しなさい」

エレナの質問に対してシェバンニも状況の把握が出来ていない。

「先生は?」
「私は闘技場に向かいます」
「じゃあ私たちも行きます!」

モニカが勢いよく一緒に行くと発言した。シェバンニはモニカ達をきつく見る。


「危険です…………と、言いたいところですがどうやら止めたところで同じようですね」
「はい!」

しっかりとモニカの目を見るのだが、モニカは目を逸らすことはない。

「ふぅ、わかりました。まぁあなた達なら他の生徒に比べれば大丈夫ですね。裏とはいえ、最年少でもう既にBランク相当まで上り詰めているのですから」

シェバンニも呆れながらもそれなりに思うところはある。

「実は俺はちょっと怖かったりするけどな」
「何をびびっていますの。いつも通りすれば大丈夫ですわよ」
「いってっ!」

レインは少しばかり尻込みをしているのをエレナがレインのお尻を強く引っ叩いた。

「くぅー。けど、サンキュ、今ので引き締まった!ったく、相変わらずこういう時のエレナは頼りになるな。よし、行くか!」

レインが頬を両手の平でパンパンと叩き腹を括ったところで四人で闘技場に向かう。


――――四人が闘技場内に着くと、ヨハンが弾け飛ぶように凄まじい勢いで目の前に跳んでくる。

繰り出され続ける火球を躱し続けていたのだった。

「はぁ、はぁ」
「ヨハン!大丈夫!?」
「――あっ、みんな来たんだね」
「怪我はないですか?」
「はい、いまのところは。ねぇ先生、これ僕どうしたらいいんですか?」

爆炎と土煙が立ち込めるなか、なんとか魔法攻撃を躱し続けていた。
しかし、ヨハンがシェバンニ達のところに着いたと同時にまた炎が飛んでくる。

「――くっ!」

即座に水の防御壁を張る。ジュワッと音を立てて水蒸気が巻き起こる。

「あっつ、あっつ!
「うるさいっ!」
「っつぅ!――いったぁ!」

直接的ではないとはいえ、熱気を受けたレインは熱さを堪えられずにぴょんぴょんと跳ねる。そこへモニカが黙らせるために頭をはたいた。

いつもと変わらないやりとりに苦笑いをするしかなかった。
そんな中、シェバンニはヨハンの魔法の発動の速さに防御壁の強固さ、そして即時対応に対して感心している。

「はぁ、まったく、あなたという子はどこまで。それで?審判をしていた先生は?」
「あの先生なら気を失ったのと、傷を負っていたのでちょっとだけ回復魔法をかけてあっちの闘技場の入口に運んでおきました。あと、ついでに強めの魔法障壁も張っておいたからたぶん大丈夫だと思うんですけど…………」

「……そんなことまで」

平然と言ってのける姿に呆れてしまう。

「あのですね、よく聞いて欲しいのですけれど、今のこの状態は普通ではありませんので少し確認したいことがあります。そのため、すぐに事態を収拾するために相手の魔法障壁を突破していくらかダメージを負わせる必要があります」
「つまり、それで僕はどうしたらいいのですか?」

「――思いきり魔法を放ちなさい!」
「!?」

はっきりと言われた。

「…………いいんですね?」
「ええ。私の見立て通りならそれで……」
「あの、先生?それはいったい?」
「よーし、いくぞー! 

どういうことなのかとモニカが尋ねようとしていたのだが、タイミングを逃した。既にヨハンは勢いよく走り出している。

「――よくも好き勝手にしてくれたな!お返しだ!!」

魔法を放ち続けていた相手に向かい、相手よりもさらに大きい火球を放った。
ヨハンの手から放たれた火球は影の薄い学生が放った火球を飲み込み凄まじい轟音と共に相手に直撃する。

「げぇえええ!」

あまりの光景にレインが驚愕し「お、おい、あれ、死んだんじゃね?」と周囲を見ながら続けて言い放つ。

「…………先生?」

エレナも青ざめた様子で後ろを振り向きシェバンニに確認した。

「安心しなさい、死んでなんていませんよ。慌てなくてよろしいです。ほら見てみなさい」
「見て、あそこ!」

冷静に状況を見ていたシェバンニがそう言いモニカが爆煙を指差す。

「……いえ、むしろ慌てる必要があるのかもしれませんね」

モニカが指したところはヨハンが火球を当てたところだ。
煙が晴れようとするところには影の薄い学生の姿はなく、代わりに黒い翼を大きく羽ばたかせる何者かが立っていた。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...