S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
81 / 724
水面下の陰謀編

第八十 話 サイクロプス(後編)

しおりを挟む

「えっと、それって――」
「頼む!エレナにしかできないんだ!」
「わ、わかりましたわ」

顔を赤らめるエレナはヨハンの真剣な顔つきを見てどぎまぎして繋がれた手に目線は集中する。
命を預けるとはどういうことなのかと確認しようとしたのだが、ヨハンの顔を見ていると聞き返すよりもただ返事をすることしかできなかった。

「この身をヨハンさんにお任せします」

エレナは真剣な眼差しでヨハンに言葉を送り、続けて口を開く。

「――信じていますので」

言葉の移り変わりと共に柔らかな笑みを浮かべた。

「うん!任せて!」

ヨハンが力強く返事をする。

だが、レインだけはこれほど緊迫している状況の中、不謹慎にも脳内を巡った。

「(おい、無自覚にもほどがあるぞ?)」

と命のやり取りの中、どうしても突っ込まざるを得なかったのだった。


「それで、わたくしは何をしたらよろしいのでしょうか?」
「えっとね、僕がエレナの前を塞ぐからエレナは後ろで――」

「――――え?……え、ええ。はい。わかりましたわ!」

ヨハンの提案を聞いたエレナの表情が真剣そのものに変わる。
ギュッと胸の辺りを静かに力強く掴む。

「大丈夫よエレナ。私達がしっかりと引き付けてやるから!」

モニカがエレナの肩にポンと軽く手を置いた。

「ええ。モニカのことももちろん信じていますわ」

二人で小さく頷き合う。

「はあ……。俺は次でもう限界だから確実に決めてくれよな!」

「そういうところですわよ、レイン。少しはヨハンさんを見習って下さいませ」

「わかってるよ、ほれ」

レインはエレナに真っ直ぐに拳を突き出した。

「もうっ、レインは仕方ありませんわね」

呆れながら溜め息を吐くのだが、コツンと小さな音を立ててエレナとレインの拳が合わさる。

「えっ?僕がなに?」
「うふふっ、なんでもありませんわ。ではヨハンさん、いきますわよ!」

エレナは軽やかにサイクロプスの死角に駆けて行った。

「えっ?ちょっとエレナ!」

慌ててエレナの後ろ姿を追いかける。


「さーて、レイン、わかってるわよね?」
「あったりまえだろ?あいつらが命を賭けてるのにこれができないなんて男が廃るってもんだ!死に物狂いでやってやるよ!」

モニカとレインは一直線にサイクロプスに駆けて行った。


サイクロプスは魔法攻撃を受け続けた足を確認するように、ズン、ズン、と何度も踏み鳴らしている。

「いくわよ!」
「おうっ!」

レインとモニカが近付いて来ることを視認したサイクロプスは、目から放つ光線を使わずに再び棍棒を振り回した。

「使えないってことはないよな?」
「たぶん違うでしょ?でも、どれだけか知らないけど、こいつにもきっと限界があるのよ」

左右に振り切られる棍棒を躱しながらサイクロプスの足に魔法攻撃を続ける。

「さっきまでと一緒と思わないことね!」
「モニカ!タイミングを合わせろよ!」
「レインの方こそ失敗しないでよ!?私一人だけじゃ倒せないわよ!」
「わあってるって!」

サイクロプスが棍棒を大きく振りかぶり、上段に構えた棍棒が勢いよく振り下ろされようとするタイミングでモニカとレインは魔法攻撃を放つのをやめた。
即座にグッと身体中に魔力を張り巡らせる。

「よしっ!いいぞ!」

レインが闘気を纏ったのを確認したモニカも既に闘気を纏った状態になっており、腰から剣をスラっと抜き放った。
レインもスチャッと両手に短刀を持つ。

「いくわよ!」

モニカの掛け声に合わせてレインとモニカはサイクロプスの背後に回り込んだ。
同時に振り下ろされるサイクロプスの棍棒が大きく地面を叩くと同時に今日一番の土煙を上げる。

「「せぇーのっ!」」

モニカとレインでサイクロプスの背後、両足の膝関節部分を、闘気を纏った状態でそれぞれの武器で激しく振り抜いた。

モニカは長剣を両手で力強く、レインは短刀を両手で思いっきり叩く。

大きく振り切られたその一撃はサイクロプスの体皮を傷つけることはないのだが、関節部分に大きな衝撃を受けて上体を大きく後ろに反らした。

バランスを保てなくなったサイクロプスは上体を反らした勢いのまま激しく背中から地面に倒れる。

土煙が未だに広く立ち込める中、サイクロプスの視界の中にはキラキラと光が差しこんできた。

風に流される土煙の中を視界の端、左右からビュッと光る小さな影が二つ飛び込んで来る。
しかし、サイクロプスは小さな影の正体には気付かない。

ビュウウウウと突風が巻き起こる。

地面に仰向けに倒れたサイクロプスの顔は、突如巻き起こった突風によって土煙が晴れる中、その単眼は釘付けになった。

満天の星空が自身を包み込んでいる。

その空を――――月が――――夜空に燦々と光輝く星々が、視界を埋め尽くしていた。
これほどまでにマジマジと見ることは初めてだった。

サイクロプスは妙な、不思議な感覚に襲われ、土煙の中にあった小さな影などどうでも良くなってしまう。

しかし、突風が完全に土煙を払い除けたあと、左右から飛び込んで来たキラリと光る小さな影が月を背にした中心で一つに重なった。


それが先程まで自身と対峙していた小さな存在なのだとそこで知る。

「いくよエレナ!」
「はい!」

光る小さな影の正体はヨハンとエレナだった。
ヨハン黄色い光を纏って剣を、エレナもまた同じような状態で薙刀を手にしている。

サイクロプスはすぐに理解する。本能的に。

それが今ここに置いて己に対する圧倒的な脅威をもたらす存在だと認識した。

地面を背中にして、初めて見るその美しい空を目掛けて、単眼に魔力を練り上げる。
サイクロプスは満天の星空目掛けてその大きな単眼から光る光弾を放った。

前後に並ぶヨハンとエレナ目掛けてその単眼から魔力の塊を放つ。

迫り来るその脅威を取り除くために。


サイクロプスの目に降り注いだ二つの影、ヨハンとエレナは縦に並んでいる。
ヨハンが前でエレナが後ろ。

サイクロプスの光弾はギュウウウンと激しい音を伴い、ヨハンとエレナに直撃する。

「――ぐっ、くううううううう」
「ヨ、ヨハンさん!?」

「だ……大丈夫だから!エレナは集中しておいて!」
「は、はい!」

ヨハンは眼前に迫るその魔力の塊を闘気と合わせた目一杯の魔法障壁で防いでいた。
後ろにいるエレナへの被弾を防ぐ。


ジュッと焼ける音を立てながら皮膚を焼かれるのを感じた。

「(くそっ、まだ続くのか――)」

途轍もなく長く感じる程に光弾が襲い掛かる。
ヨハンはいくらかのダメージは負っているのだが、背後のエレナは無傷だった。


シュウウウウ――――と音を立てながら光弾が徐々に光を細めていく。

「(もう……すこ、しっ!)」

最後の魔力を振り絞った。

光が収まり、目の前がパッと開ける。

「エレナ!」
「はい!」

背後のエレナに大きく声を掛けるのだが、エレナも既に準備は整っていた。

その魔力の塊を突破した先に見えたのはサイクロプスの単眼。

エレナはヨハンと入れ替わるようにして前に出る。

「(みんなで作ってくれたこの一瞬、絶対に外せませんわ!)」

薙刀を持つ手にグッと力が入った。

この一撃の為に全ての力を込める。
その単眼に、闘気を目一杯練ったこの身体で、使い慣れたこの薙刀に全力を込める。

「(あれ……エレナ、もしかして――)」

遠のく意識の中、ヨハンははっきりと見た。

エレナ自身は気が付いていなかったのだが、闘気を纏いながら体内を巡る魔力が薙刀に伝わっていき、薙刀は薄っすらと青い光を灯す。


「――――はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

声を発し、そして単眼目掛けて一直線に下りていくと、ドンッ、ザブ、グサンっと鈍い音を立てた。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ………………」

断末魔をあげるサイクロプスの単眼に深々と突き刺すと、サイクロプスは耳を劈くような絶叫を上げる。

大きく手足を上げ、地面にバタンと落とした後はピクリともしない。
ヨハンはその横に力なく落ちるのだが――。

「――よっと!」

レインが受け止め抱きかかえる。

「ったく、今回は相当無茶しやがったな」
「へへへっ」
「(ほんととんでもないやつだぜこいつは)」

レインは呆れながらも感心した。

モニカも近付き横たわったサイクロプスを見上げると、サイクロプスの単眼に突き刺した薙刀を握りやっと立っていたエレナは薙刀を握る力をなくしてしまい離すとずるりと滑り落ちる。

「エレナ!」

地面に落下するエレナをモニカが慌てて受け止めた。

「モ……ニカ?……わた、くし――」
「よく、よくやったわねエレナ!」

目尻に涙を浮かべてエレナを強く抱きしめるモニカ。
それだけでエレナははっきりと理解した。

サイクロプスを倒したのだということを。

しばらくするとサイクロプスの身体はプスプスと音を立て泥状になって土に還っていく。

そして完全に溶け切ったあと、サイクロプスの単眼があった場所にはサイクロプスを象っていたもののような青く光る魔石があった。

その横では地面に突き刺さっている一本の薙刀。

それは、ところどころ刃こぼれして原型をなんとか保っている程度に損壊しているボロボロになってしまっていたエレナの薙刀だった。

その薙刀は役目を終えるように地面に突き刺さっている。

まるで墓標のように。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

処理中です...