S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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エピソード スフィア・フロイア

第百十一話 閑話 騎士団入団②

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「――――ブライ、第四中隊所属」
「はい!」

「トーマス・ナイトハルト、第六中隊所属」
「はい!」

アマルガスが書簡を手に持ち広げ、新人騎士達の所属を順次読み上げていく。
呼ばれた騎士が大きく返事をすると、所属することになる隊の中隊長が都度一歩前に出ていた。

「アスタロッテ・プリスト……第一中隊」
「やった!――はい!」

スフィアよりも先にアスタロッテの名前が呼ばれる。
アスタロッテは小さく声を発して喜び、笑顔で手を挙げて返事をしていた。

アスタロッテが所属する隊は、スフィアが先程嫌悪感を抱いた白金の髪が中隊長をしている隊であり、中隊長である白金の髪の男が一歩前に出て、小さく首肯する。

「(アスティが第一中隊……となると私は…………)」

それが示すことは、スフィアの配属中隊がどうなるのかということ。

アスタロッテの所属先が白金の髪の男の中隊になったということなので、先に聞いていたアスタロッテの言葉が事実であるのならばスフィアの配属先が第一中隊となるということだった。

つまり、拒否権のない新人騎士は嫌々でもその隊に所属しなければならない。

そうして次々と新人騎士達の名前が読み上げられるのだが、読み上げる前に中隊長の紹介を簡単にされていた。

第一中隊の隊長はアーサー・ランスレイという名前だとのこと。

そして――――。

「――スフィア・フロイア、第一中隊」

「……はい」

予想通りの結果が生まれた。

「やったねスフィアちゃん!これで同じだよ!お父さん上手くやってくれたみたいね!」
「……そうね」

仄かな期待を抱きながら配属先が他の中隊になることを望んだ。
そうなってしまうとアスタロッテと離れることに多少の寂しさはあったのだが、アスタロッテの裏工作が失敗に終わることに期待してしまっている自分がいた。

しかし、結局それは叶わなかった。

笑顔のアスタロッテを横目に、視線をアーサー・ランスレイに向けると再び目が合いウインクされる。

「(……どう見てもあの人軽薄そうなのよねぇ)」

溜め息混じりに多少の恨み言が言いたくなった。



――――そして全員の配属先を告げ終わる。

「ではこれより先は各々、各中隊長のところに集まってもらうことになるのだが、その前に騎士団長、マクスウェル団長からの言葉を頂戴する」

そこでアマルガスが後ろに下がった。
代わりに前に出て来たのはマクスウェル団長。

「えー、では私からは少しだけ…………」

騎士団長という立場の人物が一体どのような言葉を掛けるのかと、新人騎士達はゴクッと息を呑む。

「これより君達は我が王国を護る立場になる。中にはこれまで守られてきた者もいただろうがこれからは立場が変わる事を自覚して、その誉れ高き任に就くことに信念と勇気をもって臨んでくれたまえ。 以上」

そうしてマクスウェルは後ろに下がった。

「えっ?それだけ?」

アスタロッテが呆気に取られている。スフィアも同様に思っており、微妙に肩透かしを食らった。

マクスウェルが背後に振り向こうとしたところで足を止め再び正面にいる新人騎士団員を見る。

「あー、そうそう。騎士団領内で私を見かけたら遠慮なく話し掛けてくれよな」

笑顔で話すその姿に新人たちは一気に気を抜かれた。

「まったくあなたは…………」

アマルガスはマクスウェルの軽い態度に呆れて物も言えない。
最初が肝心の新人たちの気をこれから引き締めないといけないというのに、団長がそんなに軽い態度でどうするのかと小さく首を振る。

「ま、まぁとにかくだ。これから君達は各中隊長のところで今後のことについて指導を受けてくれ」

アマルガスが場を閉めるとその場は解散となった。

随時案内のままスフィアとアスタロッテも第一中隊の集合場所に集まることになる。



「どうだった私の言葉は?」

鍛錬場が緊張から解き放たれて新人騎士達でわいわいとざわつき始める中、マクスウェルが後ろに居た第一中隊隊長であるアーサーに笑顔で声を掛ける。

「団長らしくて良いと思いますよ」
「うむ、君ならそう言ってくれると思っていたよ」
「私はね、ですが」

アーサーがチラリとマクスウェルの背後にいる副団長に視線を送ると、副団長の二人は明らかに不服そうな顔をしていた。

「君たちは不満かい?」
「当たり前です!もう少し威厳のある発言をして頂かないと新人たちへの示しがつきません!」
「相変わらず固いなぁモラス君は。君もアーサー君みたいになってくれればどれだけ楽か」

マクスウェルにポンと肩を叩かれるモラスは尚も厳しい表情を浮かべている。

「自分は彼みたいにお気楽には出来ません!さ、まだ仕事は残っているのですからさっさといきますよ!」
「はいはい。相変わらず人使いが荒いなぁ」

モラスがマクスウェルの背中を押しながら通路の奥に向かう中、モラスはアーサーに侮蔑の眼差しを向けた。
アーサーは両手を肩ほどに挙げてとぼけた様子を見せる。

「随分とモラス副団長に嫌われてるようだな」
「アマルガス殿」

アーサーの横にアマルガスが立ち、肩に手を置いた。

「まぁ仕方ありませんよ。孤児の私が騎士団の中隊長、それも第一中隊長なんて職に就いているのを面白く思ってないのなんてモラス副団長だけではありませんからね。今でこそ家名を頂いていますが、その時にも散々後ろ指さされましたし、別に今更ですので気にしていませんよ」

笑って話すアーサーにアマルガスは神妙な顔つきになり口を開く。

「そうか。それならいいのだが…………。 あぁそれよりも、お前の隊に配属された新人の――」
「アスタロッテ・プリストと…………スフィア・フロイアのことですね?」
「ああ。わかってるなら良い。伯爵令嬢とジャン殿の娘だ。プリスト伯爵から話はあったが元々お前の隊に送るつもりだった。他の隊に送るよりはよっぽどいいからな」
「また面倒なことを回されましたね」
「やり方は任せるからあとは頼んだぞ」
「仕方ありませんね。承りました」

アーサーの肩を軽く叩き、そうしてアマルガスも通路の奥に姿を消していった。

「さて、どうしてやろうかな、あの子達」

アーサーは鍛錬場を見やり、新人騎士達の姿、スフィアとアスタロッテを視界に捉える。



――――しばらくの時間を空けて、集まっているのは騎士団本部第一中隊の詰所。

木製の長机と椅子が多く配置されているその詰所は、二百人規模で構成される中隊の全員が集まれる程広く作られているわけではないので、今回集まったのは新人騎士が十八名と中隊長を務めるアーサーを始めとした小隊長の任に就いている者が八名。

新人騎士の中にはスフィアやアスタロッテのことを知る学校での同級生もいるにはいたのだが、第一中隊への配属ではスフィアが知っているのはアスタロッテのみだった。他は歳の近い者もいれば少し歳の離れた大人もいた。

「ようこそ我が第一中隊へ。先の紹介の通り、私が隊長のアーサーだ。正式にはアーサー・ランスレイという名なのだが、家名は慣れてなくてな。察してくれたら助かる」

その言葉の差す意味をほとんどの者が理解している。生まれ持った家名なのではないということを。

「なんだ、中隊長っていっても生まれは平凡か。せっかく第一中隊に決まって喜んだのにぬか喜びじゃないかよ」
「ほんとだよ。なら他の権力のある隊の方が良かったな。気に入られれば口を利いてもらえて昇進の近道だったのに」

スフィアとアスタロッテの近くにいる新人騎士二人がひそひそと話していた。

「なによあいつら!」
「ちょっとアスティ、静かにしなさい」

聞こえてきた話に怒りを示すアスタロッテをスフィアは小声で宥める。

「だってあいつら全く理解してないじゃない!むしろ平民があの若さで第一中隊長を務めてることの方が変に権力を持ってのし上がった奴よりよっぽど凄いっていうのに!」
「まぁ……それは確かに…………」

怒りを露わにするアスタロッテなのだが、スフィアもまた同じ疑問を抱いていた。
アスタロッテがスフィアと同じ隊になるように口を利いて貰ったように、騎士団内部では権力による忖度が横行している。

そんなアーサーが第一中隊の、それも隊長職に就いていることが疑問でならなかった。
視線をアーサーに向けると再び目が合い、小さく微笑まれる。

「あっ!今ウチと目が合った!」
「(もしかして……雑食の好色?)」

アスタロッテが喜んでいる中、アーサーがゆっくりと全体を見渡して口を開いた。

「さて、君たちも知っての通りだと思うが、まずは改めて騎士団の概要、特に中隊について説明をする」

そうして説明されたのはスフィアも知っている通りのこと。

騎士団の中隊が二百人規模で構成されており、遠征や集団訓練以外は中隊規模での行動をすることがほとんどなく、普段は調査や見廻りなどといった任務に応じて小隊単位で行動するということ。

その小隊は基本的には各隊二十人程度で構成されており、どの隊にも小隊長が配置されているということ。時には十人程度の小隊を編成することがあるということ。

他には、王都に家がある者は自宅からの通いで問題がないこと。家が無い者は宿舎があるのでそちらを利用すること。勤務時間中の寝食は小隊単位で行うこと。などといった内容。

「――とまぁこんな感じで、あとはこれから君達が命を預け合う、所属する小隊についての割り振りに関してだが、そのために君達の騎士団でも目標や抱負を聞かせてもらいたい。それに応じて小隊の所属を考えようと思ってな」

突然抱負を聞かせて欲しいと言われ戸惑う新人騎士達だった。

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