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廻り合い、交差
第百四十六話 天災への分類
しおりを挟む「ま、まさか……」
アマルガスもその黒い粒が徐々に大きくなるのを見て目を疑う。
すぐさま背後を振り返った。
「スフィア!」
怒鳴るような大声を発す。
「はっ! すぐに学生達の避難を始めます!」
「頼む! アレが相手だとここにいてはさすがに死人がでてしまうッ!」
スフィアはアマルガスと目が合うなり何を伝えようとしているのかその意を汲み取った。
「なんだ?」
「急に大声だすからびっくりしたなぁ」
わけもわからず困惑している学生達に向かって次にスフィアが大きく声を掛けのだが、学生達はアマルガス達が突然慌ただしくしている姿を不思議に思う。
「みなさん!すぐに街の中に戻ってください!最後尾は私達が務めますので!」
「えっ?」
スフィアはそのまま他の騎士に振り返った。
「ほらっ!」
騎士達は一体何事が起きたのかと目を合わせるのだが、間髪入れずにスフィアの怒声が響き渡る。
「ぼーっとしてないであなた達も早く誘導に入りなさい!」
「は、はっ!」
騎士達は言われるがまま学生達の避難誘導に入った。
「なんだなんだ?一体何が起きたってんだ?」
クルドはヨハン達が見ている方向。その先を、眉の辺りに手を添えて遠くを見たのだが、徐々にソレが何なのかを理解すると同時に膝をガクガクと震わせ怯えながら指を差した。
「あっ…あああ……。あ、あ、あれは……りゅ、竜、じゃないのか……?」
クルドの言葉を他の学生達が半信半疑でそれぞれ視線を移していくのだが、それが疑念から確信へ、そして恐怖に移るまではそれほど時間は掛からない。
次の瞬間、クルドの発言を断定する出来事が起きた。
遠くの空、黒い粒のその眼下。そこには大きな森が広がっている。
黒い粒がその森に対して何かを吐き出す。
しかしそれは目視でもわかるほどの炎の塊。それが空から森に降り注いだ途端に大きな火柱になった。
巨大な火柱が立ち上ると同時に瞬く間に森は大きく燃え広がる。
レイン達も避難する中に入っているのだが、突然の事態に困惑していた。
「おいおい、一体何がどうなってやがんだ?」
「あれって、もしかして飛竜?」
ようやくどうして避難することになったのか理解する。
しかし、モニカにも疑問が過る。
「でも……飛竜にしては大きくない? まだ遠目だからはっきりとはわからないけど……」
「……ええ。あれは……規格外ですわ…………」
思わずエレナの額に一筋の汗が流れた。
どう見ても通常の飛竜とは一線を画するその巨体。それがもたらす脅威がどれほどのものなのか、想像するだけで恐ろしくなる。
「(わたくしにできること……――)」
エレナは即座に思考を切り替えた。避難よりもすることがある、と。
ここは王都、王国で一番大きな街であり国の要。これだけの脅威が迫る中で王族として何らかの対応をしなければならないと考える。
そのまま視線を動かして周囲を見るのだが、一番近くにいる者達は混乱の極致に陥っていた。
「わあああああああッ!」
「竜だぁあああああああ!」
「落ち着いて、まだ十分に距離があるわ!」
叫び走り出す学生達を落ち着かせようとスフィアを始めとした騎士達が右往左往と動き出している。
「(学生達はスフィアが、騎士の方達が……――)」
そうして次に視線を向けるのはヨハン達。
「(あちらにはラウル様がいますし、アマルガス大隊長も。ヨハンさんもいますことですし……――)」
となるとこの場をすぐに駆け抜けて王家に報告に向かわなければならないのかと僅かに思考を向けるのだが――。
「(スフィア?)」
そこでスフィアと目が合った。
小さくウインクされ、微かに首をヨハン達の方向に向けられたことでその意図を汲み取る。
「レイン? モニカ?」
判断をしかねているレインとモニカに声を掛けた。
「なんだ?」
「どうしたの?」
「わたくし達はヨハンさんと一緒にいますわよ」
決意の眼差しを二人に向ける。
「えっ? いいの?」
「ええ。緊急事態です。仕方ありませんわ」
「まぁ……わかったわ」
レインとモニカも顔を見合わせて深く頷く。
そこでエレナ達は学生達の中を抜け出し、ヨハンの下に向かった。
「エレナ? どこにいくつもりなの?」
ふとマリンの視界に飛び込んで来たのは流れとは逆に向かって動き始めたエレナ達。
「どうしました?マリン様?」
「……カニエス。私達もいくわよ!」
「えっ?は、はい!……って、どこにでしょうか?」
エレナ達の後を追うようにしてマリンも走り出す。
「……エレナのあの様子。恐らくなにかあるわね」
それは幼い頃からエレナを見続け、一挙手一投足を注意深く見ていたマリンだからこそ断定できた。
「へ?えっ?エエッ!?」
カニエスはマリンの後ろ姿を追いかけるのだが、逃げ惑う学生達の流れに逆らうその進行方向を見て驚愕する。
どう見ても竜に近付くように走っていた。
「(いやいやいや。おいおい、いくらなんでも危険地帯に居続けるなんてできないぞ?)」
そのまま内心では焦りを覚える。
ポケットの魔石、魔力を増強させる魔石を握りしめた。しかし同時に考えるのは、例えこれがあったところで自分の魔力では何もできはしないということは理解出来る。
「はぁ。ここらが潮時ですかね」
散々弄ばれた相手だが、これ以上付き従っていても死んでしまっては元も子もない。逃げるタイミングだけは逃さないよう、算段を付け始めた。
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