S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都訪問編

第百九十五話 帝都の冒険者

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孤児院を出て、アッシュに付いて歩く。

「さて、まずは冒険者ギルドに行こうか。昨日も言ったけど、仲間を紹介するよ」
「仲間は何人なんですか?」
「あと二人だね。最近魔物が増えて三人じゃ何かと大変なことが増えて来たから即戦力を探していたのだよ。それでヨハン君に声を掛けさせてもらったわけ」

そこでアッシュはニーナを見た。

「ニーナちゃんは……ごめんね、ちょっと様子を見させてくれないか」
「りょーかいでーす」

冒険者ギルドは国を跨いで多くの国に設立されている。
国とギルドの繋がりによる情報提供によって互いに利益を得られるように幾らかの規定が設けられていた。

「さて、着いたな」

アッシュが足を止めた三階建ての建物は、周囲と同じような石造りの建物なのだが、他の建物よりも一際大きく構えている。

「へぇ。立派だねぇ」
「うん」

さすが帝都のギルドだなと他愛もない感想を抱いてそのままアッシュに付いてギルドの中に入ると、広々とした待合に依頼が貼り出されている掲示板があるのはシグラム王国のギルドと似たようなもの。
見た目戦士や剣士に魔導士などといった格好をしている冒険者達が掲示板の前に立ち、どの依頼を受けようかと悩ませていた。

ギルド内は待合と休憩所も兼ねている酒場でもあり、朝から酒を飲んでいる者もいる。

「なんだアッシュ?子守りの依頼でも受けたのか?」

歩き始めたところで唐突に野太い声を掛けられた。
声の方向を振り向くと、黒髪で無骨な男が数人で食事をしており、ふんぞり返りながらくちゃくちゃと咀嚼しながらアッシュを見ている。

「なんだ。ゼンか」
「おいおい。間違えるなよ。ゼンさん、だろ?」

アッシュに呼び捨てにされたことでゼンは眉間に皺を寄せてあからさまに不快な表情を見せた。

「俺はお前より早くBランクに上がってんだ。いつまでも対等と思うな。上の人間にはきとんと敬意を払えよ」
「そうだね。近い内に俺たちもBランクに上がるから待っていてよ、ゼンさん」

対してアッシュは意に介さない様子の笑顔で応える。

「チッ、いまいち面白くねぇな。おい、そろそろ行くぞ」
「へい」

アッシュを小馬鹿にしてみせるが、挑発に乗ってこないことが面白くない様子でテーブルを囲んでいた仲間三人に声を掛けてどかどかとギルドを出て行った。

「今の人達は?」
「ああ。俺と同期でゼンっていう奴だけど、最近Bランクに上がったことで調子に乗ってるのだよ」
「大して強くなさそうなのに?」

ゼンが出て行った出口を見ながらニーナが不思議そうに口を開く。

「ゼンが強くないだって?」
「うん」

アッシュは驚きニーナを見た。

「とんでもない。Bランクに上がった者の中でも異例とまではいかなくともかなりの速さで昇格しているのだよ。認めるのも癪だが実際にそれに見合うぐらいアイツは強い。既に闘気を扱い始めたとも聞くしな」
「それだけですか?」

首を倒しながらニーナは再度問い掛ける。

「あ、ああ。そうだが?」
「……ふぅん。そうなんですねぇ。ならやっぱり大したことないですね」
「は?」

しかしニーナから見る見解はそれでも変わらない。
そう判断するニーナは魔眼を通してジッとゼンの魔力を視てみたのだが、魔力量は一般の冒険者よりも少し多い程度。

「(アレじゃあお兄ちゃんどころかあたしより弱いね、確実に)」

アッシュから受けた話でも特筆すべき点は見当たらない。
他に何か特殊な力を持っているのであれば話はまた違うと考えるのだがその様子も見られない。

「どうかしましたか?」

目を丸くさせるアッシュがニーナを見るのだが、同時にチラリと視線をヨハンに向け疑問に思うのはそのあまりにも反応のなさに対して。

「きみも、そう思うかい?」
「まぁ……そうですね」

とても強そうには見えない。

「い、いや、自信があることはいいことだけど、過ぎると命取りになるよ?」

兄妹二人してゼンの力を見誤る分には構わない。ただ自信過剰が過ぎると一緒に活動していて困ることがあるかもしれない。

「いつ何が起きるかわからないから心しておくように」
「はい。わかってます」
「あたりまえじゃない」

冒険者学校でシェバンニに何度も言われたその言葉。

「そ、そうか。ならいい」

あまりにも軽いその返事がアッシュに一層の不安を抱かせた。

そうしてギルドの奥に行くと、皮鎧に身を包んだ男性と黒い茶色いローブを身に纏ったそばかすの女性がいる。

「待たせたね」

皮鎧の男がアッシュの姿を確認し、同時に横に目を向けると盛大に溜め息を吐いた。

「おいおいアッシュよ。かなり強いのを誘えたって言ってたからどんなやつかと思えば……――」

男は再度ヨハンとニーナを見て指差す。

「なんだよ。まだ子どもじゃないかよ」
「あらあら、可愛らしい子ですこと」

対してローブの女性は机に肩肘を着いて柔らかな笑みを浮かべた。

「まぁあそう言うな。とりあえずお互いに紹介するよ。こっちがモーズで、あっちがロロ。まぁお前らが不安に思うのもわかる。実際俺もちょっと自信失くしたとこでね。一応見た目以上に強いと思うが、その辺りは俺もこれから確認するところなんだ」
「チッ。大丈夫かよそんなんで」
「あたいは別に構わないけどねぇ」

モーズは明らかに不服そうな態度を見せている。

「まぁ疑いたくなる気持ちはわかるよ。俺もあの動きを見ていなければこの見た目で声を掛けることなんてまずないからね」
「ほんとかよ」
「だからとりあえず最初の依頼は軽めの依頼、実力を確認するための…………そうだな。Ⅾランクの依頼を受けて様子を見るのでどうだ?」
「ちっ。まぁ人手が足りないのは事実だし。しゃあねぇ、それでいいさ」

モーズは立ち上がり、依頼を見繕いに掲示板の方に歩いて行った。

「なんだか歓迎されてないみたいですけど?」
「別に珍しいことじゃないさ。君達に限らず、新しく組むパーティーなんてのはみんな互いの実力を知らないから懐疑的になるものだからね」
「なるほど」
「そういうもんなの?じゃあどうするの?」

アッシュの説明にいくらか納得したのだが、ニーナは理解できていない。

「簡単な話さ。つまり、信頼してもらうためには実力を見せろってことだよ」
「なんだ。そんなことか」

掲示板に向かって歩きながら話し、そこでようやくニーナも理解し笑みを浮かべる。


「さて、どの依頼にしようかな?ヨハン君は得意なことはあるかい?」

ヨハンも掲示板を見てどれがいいのか考えるのだが、土地勘がなければ依頼の傾向もわからない。

「うーん。そうですね。僕は特に苦手なことはないですよ?」

ただ、余程困難な依頼でもなければその通りなのだが、それでも一応ザっと見渡した感じDランクの依頼で困難を要するようなものはなかった。
目ぼしいのは森での薬草の採集、地下水路の魔物の討伐、護衛依頼などといった特に代わり映えのない依頼。

「はっはっは。それは頼もしいねぇ」
「ねぇ、もしかしてお兄ちゃんを馬鹿にしてます?」

高笑いを上げるモーズにニーナが食って掛かる。

「いやいや、君のお兄ちゃんは頼りがいがあるなぁ、って思っただけさ。まぁ期待しているよ。怪我しない程度で程々にな」
「へぇ。そうですかぁ……――」

モーズの態度に微妙にイラっとするニーナは依頼書を見回したあとに勢いよく一枚の依頼書を剥がした。

「ん?」

バンっとモーズの前に勢いよく差し出す。

「じゃあこの依頼、あたしとお兄ちゃんだけでこなしてみせるわよ!」

堂々と言い放つその依頼書には『地下水路で発生した魔物の討伐』と書かれていた。

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