S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
197 / 724
帝都訪問編

第百九十六話 セレティアナ

しおりを挟む

ヨハンがアッシュと冒険者ギルドに出てしばらく後、ラウルは孤児院を訪れていた。
応接間に腰掛け、隣には妹であるカレンがいる。

「別に城で待っていても良かったんだぞ?」
「いえ、兄様が帝都にいる間は補助をするのもわたしの仕事ですので」
「……そうか?」

表情の割には妙に笑顔のカレン。
兄の補助をするというのを口実にラウルに付いて来ていた。

「(ほんとこの子、ラウルのこと好きよねぇ)」

カレンの動機にラウルは気付いていないがミモザは見抜いている。

「まぁいい。それでヨハンはとりあえず冒険者として活動することにしたのだな?」

冒険者としての先輩が面倒を見てくれるのなら丁度良かったかと考えた。

「ええそうよ。その先輩は悪い人ではなさそうだったけど、ちょっと頼りない感じだったかなぁ」

見送った時のことを思い出しながら抱いたアッシュの印象。

「そうか。まぁその辺りは特に問題ないだろうな」

ヨハンの実力は保証済み。
よっぽど不測の事態が起きない限り危機に瀕するということは考えられない。

「それに、もう少し帝都に滞在することになったからヨハン達のことをどうしようかと思っていたのだ。それならばしばらくは暇な時間はなさそうだな」

城での会議の時の話。
帝国に帰還したラウルが取り扱う問題がまだ決まっていない。実際的にはほぼほぼ北方領土の調査に向かうことは決まっているのだが、情報の収集にもうしばらくの時間を要している。

「ではとりあえず俺が来たことだけ伝えておいてくれないか?」
「ええ」
「それと、もし何か困ったことがあれば城に直接来てもらい、俺の名前を出してくれればいい、と」
「いいの?」
「ああ」

それだけヨハンとニーナのことを気に掛けているのだと、ミモザは僅かに嫉妬の目を向けた。

「(はぁ)」

だが目の前の男はそれに気付く素振りを一切見せずにいることに小さく溜め息を吐く。

「わかったわ。それは構わないわ。ただ、あなたがいない時はどうするのよ?あの子達だけで城になんて入れないわよ?」
「俺が不在時は…………そうだな。カレン宛に話をしてくれればいい。いいな?カレン」
「はい、お兄様。お兄様の役に立てることでしたらどんなことでも厭わないです」

笑顔で応えたのだが、カレンは内心で焦りを覚えた。

今いる場所が孤児院であり、ラウルの連れの名前がヨハン。それも昨日から帝都に来ていると言っていたのを思い出す。

「(いやいやいや。もしかして、昨日のあの子のことじゃないの?)」

むしろ他の理由を探す方が難しかった。

「(っていうか、もしかしなくてもそうなのだろうけど)」

偽名を名乗ったことを一瞬後悔する。

「(……まぁ別にどうでもいいわね)」

あとでなんとでも言い訳すれば良いと考えた。
そもそもとして、言い訳する必要性すら感じないし、もう一度会うかどうかもわからない。
ただ、兄と一緒にいれば会ってしまう可能性はある。その時ティアのことをどうしようかと過る。

「(どうせあの子にティアは見えないでしょうしね)」

そこだけ若干の面倒くささを感じた。

「さて、そろそろ戻るか」
「はい」

そうしたことを一通り話したあと、ラウルとカレンは孤児院を出る。

「(ねぇ。ボクのことはいつお兄さんに紹介してくれるのさ)」

ラウルが前を歩く中、カレンは不意に聞こえて来た声に対して立ち止まった。

「(待ちなさいってば。兄さんは帰って早々で忙しいからもうちょっとゆっくりした時にするわよ。こういうのはタイミングがあるのよ!)」
「(昨日は突然で驚かすって言ってたじゃない!なら今でもいいでしょ!)」
「(事情が変わったのよ!)」
「(ったく、勝手だなぁ)」

セレティアナが不貞腐れるのを感じるのだが、こればかりは仕方ない。
頬の横の髪を指先でくるくると巻き取って心の中で言葉を交わす。

「そういえばカレン」

ラウルも立ち止まっており、ジッとカレンを見ていた。

「なんでしょうかお兄様?」

首を傾げながらも髪から指を離さずに笑みを浮かべながら問い掛ける。

「俺に何か隠してることでもあるのか?」
「えっ!?」

観察する様に見られているラウルの洞察力に背筋をグッと伸ばした。

「どどど、どうして、でしょうか?」
「いや、カレンの様子を見ているとそう感じてな」

これまで何度となく帝都に帰る度にカレンの様子を気にかけている。
幼かった頃はその一挙手一投足に注目して可愛がったもの。

「カレンが髪をいじっている時はだいたい何か言いたがっている時だからな」

当時から変わらないその癖。

「あっ……――」

すぐさま髪から手を離した。
顔を傾けながら髪を指先で巻き取るその癖はいつもどういう時に見せるのか決まっていた。

何かを言いたげにしている時、小さい頃から変わっていない、いつも見せていたその仕草。

「――……はぁ。兄様には敵いませんね」

妙に恥ずかしかったのだが、兄が癖を覚えていたことがどこか嬉しくもある。

「もうっ。もっと特別な時に見せて驚かそうとしていたのに。結局驚かされたのはこっちかぁ」

ラウルに応えるようにして手の平を水平に伸ばして手の平を上に向けた。

「ティア。出ておいで」

ぽぅっと薄い光がカレンの手の平を包み、ポムっと姿を現したのは背中に羽の生えた青い髪を結った人の形。

「ほぅ。精霊か」

一目でわかるその人外ならざる者。

「お初にお目にかかります。ボクはカレンと契約を交わしましたセレティアナ。以後お見知りおきを」

セレティアナはカレンの手の平の上で可愛らしくお辞儀をする。

「なるほど、これは凄いな。自我を持っている精霊と契約を交わすだなんて。一体どうやったのだ?」

想像以上のことに驚いた。
ラウルが不思議に思うのも無理はない。

一般的に精霊魔道士と呼ばれる存在は通常の魔道士とは一線を画する。生来の特殊な才能が必要となり、努力でどうにかなるものでもない。後天的に精霊魔導士になるには特殊な条件を必要としていた。
加えて、通常の精霊魔道士は微精霊と呼ばれる精霊を使役する者であり、自我を持つ精霊と契約を交わしている者など探しても見つかるものでもない。

そのため、カレンがどのようにしてセレティアナと契約ができたのか不思議でならなかった。

「えっ?いやぁ、ははは……――」

ラウルの問いかけに対してカレンは目が泳ぐ。

「あっ。それはですね――」

セレティアナが指を一本立てて口を開こうとしたところでカレンの手がグッと握られた。

「ティア?それ以上言ったら……――」
「ちょ、ちょっとカレン!」

カレンの表情は笑っているのだが目が笑っていない。

「こ、こらっ! い、痛いってば!」

それどころかセレティアナの表情が苦悶に歪み始めている。

「どうかしたのか?」
「い、いえっ」

そこで手の力が抜け、セレティアナはヒュッと空に浮かんだ。

「カレンのばーっか!」

セレティアナはカレンに向かって大きく舌を出す。

「(くっ!あとで覚えておきなさいよ)」

微妙にセレティアナを睨みつけるのだが、宙を浮くセレティアナの方が現状有利。

「仲は良くないのか?」
「そんなことありませんよ」

手を後ろに組んで美しい笑みをラウルに向けた。

「なら良いが……」

その笑顔からはこれ以上の追及をしないで欲しいというのが見て取れる。

「まぁその様子だとカレンにも色々とあったようだな」
「え? え、ええ…………」

気まずそうに僅かに視線を落とすカレン。

「とはいえだ。それだけの精霊と契約を交わせたということは凄いことだ」
「でっしょお!そうなのよ。もっと言ってやってよ!」

カレンの目の前に下りて来るや否や、中空でえへんと小さな胸を張るセレティアナ。

「何を偉そうに言ってるのよ、あ・な・たはッ!」
「い、いたいってば」

セレティアナの両頬を指先で軽く摘まむ。

「(精霊との契約条件……何があったか)」

どんな条件が生まれたのか気にはなったのだが、それでも目の前の二人。喧嘩していても仲良さそうにしている二人の様子をラウルは笑顔で見た。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...