S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都訪問編

第百九十七話 意外な強さ

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「グギャアアァァァ」

ドシャッとワニ型の魔物が絶叫をあげると同時に水音を立てながら果てる。

薄暗い地下水道。
帝都の生活用水を排水しているその地下水道にて依頼を受けたヨハン達は地下に潜っていた。

「へぇ。やるじゃん」

モーズが腕を組みながら感心して見る。
目の前で果てるワニ型の魔物をニーナが一太刀の下で斬り伏せていた。

「これぐらいなんともないよ!」

モーズに向かって指を二本立てて笑顔を向ける。

「って、お、おいっ!」
「大丈夫、わかってるって」

モーズの慌てた声に反応するよりも早くニーナは振り向くことなく横に一歩飛び退いた。

「ほっ!」

パチャっと水音を鳴らしながら、背後から迫る大顎を軽快な足運びで躱すと同時にすれ違い様剣を頭部に深々と突き刺す。

「グオゥ……――」

ワニ型の魔物はザブンッと水の中に頭を落として絶命した。

「甘いよ」

直後、立て続けに三匹に襲い掛かられることになるのだがなんなく討伐する。

「これで終わり、かな?」
「あ、ああ」

ニーナはシュッと滑らかな動作で剣を鞘に仕舞う。

「っていうか、全然手応えないんだけど」
「まぁモーズさんが納得してくれてるからいいじゃない」

結局ヨハンの出番はなかった。
圧倒的なまでのニーナの戦いぶりにアッシュ達は驚きを隠しきれない。

「いやいやいや!こいつは驚いた!」
「確かに想像以上だね」

いくらDランクの依頼といえど、目の前にいるのは見た目可憐な美少女。
それがいとも簡単に単独でやってのけたのだから。

「じゃあ終わったことだし帰ろうか」
「だな。今回は楽できて良かったぜ」

ニーナの実力を測る目的を兼ねた依頼を終えたことで帰り支度を始める。

「僕、戦ってないですけど?」
「まぁきみの実力は俺が保証するし、妹の彼女、ニーナちゃんがこれだけ認めているのだからヨハンくんも問題ないだろ」
「ならいいですけど」

前を歩くモーズも一定以上の納得を示していた。

「けどこれぐらいで調子に乗るなよ?」

モーズから肩越しに声を掛けられる。

「本番は明日からだからな」

今回はあくまでも難度の低い依頼を行っているということを強調された。

「いーだっ!」
「ちょ、ちょっとニーナ」

意地の悪い態度を見せるモーズに向かってニーナは指を口の両端に持っていって横に広げる。

「まぁそう悪いように考えないでくれ。モーズも君たちのことを心配してああいうことを言っているだけだから」

アッシュが苦笑いしながらモーズの姿勢を擁護するようにヨハンとニーナを宥めた。

「(ほんとかなぁ?)」
「あたいは結構納得したわ」

ヨハンが疑問を抱く中、魔導士のロロがアッシュの肩を抱く。

「そうかい?」
「だってこれぐらい歳であれだけ戦えるんだよ?それならちょっとぐらい難度が上がったところで付いて来れるはずよ。子どもだからって侮ってごめんなさいね」
「いえ、とんでもないです。そう思われても当然だと思っていますので」

極々自然な考え方だと理解していた。

「へぇ、謙虚だね。子どもでこれぐらいできればもうちょっと生意気になっても良いと思うのに。その歳で、これぐらい実戦で動ければ上出来さね」
「そう……かもしれないですね。でも油断すると命に関わりますので」

目指すところが朧気だが見えて来た今、これぐらいでは満足はしない。

「あら?謙虚じゃなく、臆病なのかしら?」
「お兄ちゃんは臆病なんかじゃないわよ。なに言ってるのよオバサン」

「……アッシュ?」
「な、なんだい?ロロ」
「あたい、この子のこと嫌いになりそうさね」

グッと握り拳を顔の前に持って来る。

「まぁまぁ抑えて抑えて。相手は子どもだからさ」
「こういう子をつけ上がらせると将来碌な子にならないんじゃないかい」

ニーナの無遠慮さにロロが腹を立てながら地上に戻っていった。


兎にも角にも地下水道の討伐依頼を終えた報告を行いにギルドに向かう。

「ハハハ」
「だっせぇ」

ギルドに入ったところでゼンをリーダーとするパーティーとすれ違った。
どう見てもアッシュ達を見て笑っている。

「おいおい、お前ら今さらⅮランクの依頼を受けてたらしいな。なんだよ、結局子供のお守りじゃないか」

ギルド内に響くぐらいの大声を発した。
待合にいた他の冒険者たちの視線が声の下に向けられる。

「チッ」
「わざわざ調べたのかい?」

モーズが舌打ちする中アッシュが問い掛けた。

「ん?まぁ偶然知っただけだ」

踏ん反り返りながらゼンが答える。

「だってさ」
「いやいや、アイツが嘘ついてるだけだから」

ロロが小さくヨハンとニーナに耳打ちした。

「わざわざ?」
「そういうことをする嫌味なやつなんさね」
「……ふぅん」

通常下のランクの依頼を受けることはほとんどない。報酬だけに限らずランク昇格の為に必要なポイントも少ないのだから。

「で?子守りは楽しかったか?」

尚も大きな声を発するゼンは子連れを周囲に聞かせ馬鹿にする。

「アッシュも落ちたな」
「ってことはゼンの勝ちか」
「さすがに子どもの面倒を見ている場合じゃないだろ」

そこら中で含み笑いや指差し小馬鹿にする声が聞こえてきた。

「そうだね。まぁ無理のない範囲でやらせてもらうよ」
「ハハハッ。せいぜい頑張りなッ」

ゼンは一通りアッシュを小馬鹿にすると仲間を引き連れてギルドを出て行く。

「ねぇ、あんなに言われて悔しくないの?」

ニーナがアッシュに近付き声を掛けた。
あそこまで言われたのが自分であればぶっ飛ばしていた自信はある。

「言いたいやつには言わせておけばいいのだよ。それに今はゼンの方がギルドランクは上だ。良くも悪くも冒険者はそうやって評価されている。今の俺が強がって言い返しても余計馬鹿にされただけだしね」
「ふーん。そういうものなんだね。冒険者って」
「まぁそういうものとも言い難いけど」

ニーナに苦笑いを向けた。

「ただ、何も悪いことばかりじゃないよ。これから君たちも冒険者の良いところいっぱい目にしていくはずさ。なんていったって冒険者は楽しんだ者勝ちだよ」
「うん。わかった」

アッシュの答えでニーナも一通り納得を示す。
もうどうでも良い様子で「なに食べよっかなぁ」とギルド内の食事に意識を向けていた

「(ほんとにそうなのかなぁ?)」

ヨハンが若干の違和感を覚えたのは先程のアッシュとゼンのやりとり。
周囲から聞こえてきた中にゼンの勝ちと言っていた言葉があった。

「僕が気にしても仕方ないか」

互いの何かしらの事情があるのだろうという程度に考えを留める。


そうしてアッシュが受付で依頼報告を終えた。

「では、今回の分配金だよ」

机に置かれた銀貨十枚。

「えっ!?そんなにいいですよ」

贅沢を控えて普通に過ごせば一週間近くも過ごせるだけの報酬。

「いやいや。今回はきみらの実力を見るために受けた依頼だし、正直なところ俺達は何もしていないし、それに……――」

苦笑いをしながら目線を送ったのは気持ちよく飲食しているニーナの姿。

「――……アレは大変だろう?」
「……そうですね」

もう見慣れてしまった上にこれまでお金に困ることはなかったので気にしなかったのだが、通常アレは暴飲暴食でしかない。
アッシュが苦笑いするのもよくわかる。帝都に来るまで一緒だったロブレンも面食らっていた。笑っていたのはラウルぐらい。

「わかりました。すいません。ではありがたく」

通常では一週間分のその報酬もニーナにかかれば三日ももたない。

「きみたちが生活のために冒険者をしているのは今日よくわかったよ」
「そうですね」

何か勘違いしている様子を見せているのだが、都合が良かったのでそのまま話を合わせた。

「では明日また迎えに行けばいいかな?」
「いえ、今日でギルドの場所も覚えましたし、直接ギルドに来ますよ」
「そうか。では明日もまたよろしく。明日からは今日とは違って難度も上げていくから気を引き締めてくれよ」
「はい。大丈夫です」

そうしてヨハンとニーナは帝都での初めての冒険者活動を終える。

翌日からはアッシュ達の難度に合わせたⅭランクの依頼を行っていくのだが、それもまた難なくこなしていった。

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