S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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禊の対価

第二百七十六話 変化

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「家が……」

カレンとニーナと一緒になって建物を出ると、ゴゴゴと地響きを上げたかと思えば直後には建物が倒壊する。

「どうやらあれだけの戦いの規模に耐え切れなかったみたいね。生き埋めにならなくて良かったわ」

地下、その中にはまだサリナスの複製体、それが容器にいくつか入ったままだったのだが地下が崩れ落ちたのならもう無事では済まない。

「さようならサリーさん」

小さく呟くカレンの横顔には哀愁が漂っていた。

「……ごめんなさい。お兄ちゃん。カレンさん」

申し訳なさげに俯いているニーナの頭の上にポンっと手の平をヨハンが乗せる。

「いや、やっぱりこれで良かったんだよ」

サリーが最後に言っていたように、当人がそれで良いと言っているのだからこれ以上他者が介入すべきではない。

「そう、なの?」

サリーの最期のあの顔が物語っていた。全てを終わらせてくれたことへの感謝。

「じゃあ帰るわよ。ドグラスについても話さないといけないから」
「それは、つまりドグラスが魔族だったってことですか?」

神妙な面持ち。カレンのその様子から察する。

「……ええ」

サリー……――サリナスの記憶の中に姿を見せていたドグラス。レグルス侯爵と共にこの農園を訪れていたこともそうなのだが、それよりも遥かに前、シトラスと会話をしていたその男がドグラスに他ならない。

「ルーシュが危ないわ」

その狙いが何にせよ、ルーシュに近付いたことには何か目的があるはず。
真っ直ぐにドミトールへと戻ることになった。


◇ ◆ ◇


ドミトールに戻るまでの間に、カレンとセレティアナによってその過去の話を聞かされる。
そこにはレグルスと一緒になって農園の屋敷を訪れていたドグラスの姿。

「カレンさん。そのドグラスって実際どういう人なんですか?」
「優秀な男よ。メイデント領近郊の生まれだとは聞いてはいたけど、この分だとレグルスとの繋がりは最初からあったみたいね」

ルーシュの側付きになったのはここ数年の話。それ以前はメイデント領で官僚をしていたのだと。それがいつからか帝都に来た後に外交官へ任命されたのはメイデント領のこともよく知っているということから。

「でも、この分だと全て仕組まれていたみたいね」

旧ドミトール王国の再建。
レグルスが提示してきたその話の裏にドグラス、魔族であるドグラスが関与しているのであればただの独立話では済まないはず。

「どうしてそんなことを?」
「レグルスは利用されているのよ」

記憶の中から得られたその情報。シトラスと会話をしているドグラス。

「アイツの本当の名前はガルアー二・マゼンダ」

唇を噛み締めながらカレンはその名前を口にした。

「それが……魔王の復活を示唆していた」

ヨハンが小さく呟くのをカレンが横目にチラッと見る。

「そういえば魔王がどうのこうの言っていたわね?」

その言葉を拾い上げたカレンは疑問に思い問い掛けた。

「それは…………」

思わず口籠るのは、シグラム王国に伝わる伝承。魔王というそれはエルフの森にある世界樹に封印されたという不確かな存在。ローファス王やエレナがその呪いを受けているという話らしいのだが、実際のところは定かではないどころか口外するのも憚られる。カレンにどう説明すればいいのかわからなかった。

「――……世界を統べる悪しき存在。それが魔王さ」

不意に言葉を吐くのはセレティアナ。

「ティア? あなた知っているの?」
「もちろんだよ。魔王はボクらと似たような存在だからね」
「ティアと、ということはその魔王っていうのも精霊なの?」
「精霊とはまた別さ。アレはアレで唯一無二の存在だからね」

実体を持たない精霊と同じような存在である魔王は似て非なるもの。精霊とは一線を画す。

「まさか現代でアレが目覚めるなんてね」

腕を組み、セレティアナは思案に耽っていた。

「でも僕が聞いた話では、まだ目覚めるのは先のことだと」
「それはそうだね。さすがに今すぐにでも復活するとなればボクもその存在を認識できるはずだから。でも今はまだソレを感じない」

セレティアナによると、規格外の存在である魔王の復活はセレティアナ達のような精霊には認識できるらしいのだと。

「そぅ。よくわからないけど、要はとんでもないことが起きるかもしれないということね?」
「……はい」

目線が合わないヨハンの小さな返事を受けたカレンはその横顔をジッと見る。

「(何かありそうねこの様子は)」
「(エレナ、無事だといいけど)」

思わず魔王に関連させてエレナの笑顔が脳裏を過った。そのため思わず気のない返事をしてしまっていたことをカレンは見抜いている。

「そういえばお兄ちゃんありがとね」
「なにが?」

突然のお礼。ニーナは満面の笑みを浮かべていた。

「お兄ちゃんがあたしのことを考えていてくれたのわかってたよ」

肩を寄せて来た途端にギュッと腕を組まれる。

「あー……もしかして、あの時のこと?」
「当り前じゃない!」

グッと顔を近付けるニーナ。
あの時のこと。サリナス達の記憶がニーナに入った結果、ヨハンと敵対してしまっていたこと。

「嬉しかったなぁ。お兄ちゃんも大変だっただろうに、あたしのことを考えてくれたんだから。それに、お兄ちゃんはやっぱりすっごい強かったしねぇ。自分で言うのもなんだけど、あの時のあたし、相当強かったはずだよ?」
「いやいや、実際めちゃくちゃ強かったよ。さすがニーナって感じだった」
「えへへ」

ヨハンの言葉を受けたニーナは破顔した。

「ちょ、ちょっとあなたたち、近付き過ぎじゃないかしら?」

あからさまに不服そうなカレンはヨハンと腕を組むニーナの反対の腕をグイっと引っ張って引き離す。

「何するのさっ!」
「兄妹でいちゃいちゃするんじゃないわよっ!」
「なんでよ! お兄ちゃんのことが好きなんだからいいじゃないっ!」
「す、好きって! あなたとヨハンは本当の兄妹じゃないでしょ! だからそんなにひっつくのもおかしいじゃない!」
「好きだから別にいいじゃないさっ!」

カレンの腕を振りほどいたニーナは再度ヨハンの腕を取った。

「(ちょ、ちょっとニーナ。あ、当たってるから)」

ふんわりとした胸の感触を得ることで妙な恥ずかしさがヨハンを襲う。

「それに、カレンさんがどうしてそんなに怒るのさっ!」
「ぅぐっ!」

ニーナの言い分にカレンは言葉を返すことができない。

「あー。わかった。カレンさん、お兄ちゃんのこと、好きになったんでしょ?」
「なっ!?」

にんまりと笑いながら口にするニーナの言葉を受けたカレンは途端に赤面させた。

「そそそそ、そんなわけないでしょ! どうしてわたしがこんな子どもにっ! いたっ!」

早口で捲し立てたことで思わず舌を噛んでしまう。

「いったぁ」
「ほらっ、動揺しているじゃないのさ!」

舌をチョロッと出しながら痛みを堪えるカレンに対してニーナは追い打ちをかけるようにフフンと追及した。

「な、何言ってるのよ! わわ、わたしには兄さんがいるのだからねっ!」
「「「…………」」」

慌てて口にしたことでニーナはおろか、ヨハンもセレティアナも黙ってしまう。

「カレンちゃん?」
「な、なによっ!」
「わかってるのかな。それ、特大のブーメランだよ?」
「ブーメランって、何が?」

セレティアナの言葉を聞いて疑問符を浮かべた。

「…………あっ」

しかしそれにすぐに気付く。
自分が今何を口にしたのか、改めて冷静になって考えてみた。

先程ヨハンにニーナがくっついたことに言及した理由が兄と妹なのだと言っているのだが、それを自分が今正に全く同じことを口にしてしまっている。それも、ラウルとカレンは半分血が繋がっていた。

「――っぅ!」
「あっ、カレンさん!」

すぐに理解したカレンはバッと走り出す。そのまま少し前で立ち止まるとプルプルと肩を震わせながら僅かに顔だけ振り返った。

「もうっ! 知らないわよっ!」

半べそを掻きながら再び前方に向けて走り出す。

「ねっ。可愛いでしょ、カレンちゃん」

セレティアナが嬉しそうに話した。

「……そうですね」

軽く同意してみたのだが、確かに可愛らしくもある。

「いや、どっちかというと面白いんじゃないかな?」

ニーナの言葉にも頷けた。
コロコロと変わるその態度。公務とそうでない時のその差があまりにも大きい。

そうした一幕を挟みながら程なくしてドミトールに着こうとしていた。


◇ ◆ ◇


ドミトールの外の平原には数百人もの帝国兵が陣取っている。その中には帝国兵だけに留まらず、レグルスの私設兵に加えてアッシュ達やドミトールの現地冒険者の姿もあった。

「なにかあったのかな?」

何の気なしに疑問を口にするニーナ。

「いや、違うみたいだね」

野営をするにしては妙な組み合わせ。

「もしかして、非常事態かしら?」

どうにもその様子がおかしい。兵たちは明らかな戦闘準備に入っている。


「来たぞッ!」

前方の兵がヨハン達の姿を認識するなり、指揮官らしき男に耳打ちしていた。

「弓兵、かまえぃッ!」

そのまま後方の弓兵部隊に号令を掛けている。

「えっ?」

一体どういうことなのか。
キョロキョロ見回しても周囲にはヨハン達以外の誰の姿も見当たらない。それどころか、その弓がどう見てもヨハン達のいる方角に向けられていた。

「はなてぃッ!」

指揮官が軽く腕を振り下ろすのと同時に、弓兵達が一斉に弦を放す。
そのまま放たれる矢は雨の様にヨハン達へ降り注いだ。

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