S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都武闘大会編

第三百四十 話 決心する想い

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「やるわねヨハンくん!」
「ミモザさんの方こそ!」

響き渡り続ける金属音。剣戟を交わしながらの会話。

「誰に言ってるのよ! まだ若い子には負けていられないわ!」
「僕も負けられません。カレンさんの為に!」
「ふぅん。妬けるわね全く」

互いの見解、ヨハンからすればミモザに再び距離を取られてまだ他の手を用意されることになれば困る。
だが、ミモザからすればもう勝ち筋に残していたはずの手の全てを使ってしまっていた。

(仕方ないわね)

そうなれば残された道は近距離戦。それも一撃の重さで負ける以上手数で大きく上回るしかない。
実際手数と速さに足捌きや経験ではミモザの方が上回っている。両手に持つククリナイフを駆使して回転力を上げて展開しているのだが致命打を与えられていない。

(近距離はあの子の得意分野なんだけどね)

チラリと目を送る観戦席に座るアリエル。
依頼を出されていたのは二人のどちらかに対して。仮にアリエルが承諾してさえいれば自分は今頃のんびりと観戦できたはず。
どうして引退した身の自分がこれだけ苦労してヨハンとカレンの前に障害として立ち塞がらなければならないのかと、剣戟を交わしながら改めて考えていると若干腹も立ってきた。

(このままなら私の負けね)

平静を装い強がっているものの体力がもう限界も限界。正直現役時代との違いをここまで実感することになるとは思わなかった。

(でも……――)

ただで負けてやるつもりもない。
戦っている内に思い出してきたこの感覚。負けず嫌い。負ければ悔しさが込み上げてくるのは目に見えている。それがどんな相手だったとしても。
昔、ラウルに認められたいという気持ちはあったとはいえ、元々はアリエルに実力で離されることが嫌で張り合うようにしてここまで強く、力を上げたのだが、それがいつしか二人一組として認められるなどとは当時は思いもしなかった。

(――……だからこそあの子の技は私が一番知っているのよ!)

そのかつての仲間の技をここで使う。爆撃を。
その為の布石として、後方に飛び退き、すぐさま両手のククリナイフに闘気を流して素早く腕を振るって左右に大きく投擲した。
弧を描くククリナイフは旋回しながらヨハンに向かって挟撃するように襲い掛かる。

「どう対処する?」

ヨハンの行動を見極めながら間髪入れずに右の拳に目一杯の闘気を集束させた。
爆撃と云われる程の爆発力は出せなくとも、本当の意味での【爆撃】は出せなくとも、隙を突けば模倣であろうとも一撃必殺に近しい程度の威力はだせるはず。

「よしいまッ!」

ヨハンが左側を向き、片方のククリナイフに向けて剣閃を放ったところで爆発的にその懐に向かって飛び込もうと地面を踏み抜いた。


◇ ◆


数十秒前。

(本当に強い、この人!)

先程までの逡巡、ミモザを相手にすることに対する迷いなどというものを抱く必要など全くなかった。それ程に強い。
全力で向かっているにも関わらず傷を負い続けているのは自分の方。手数で勝られる。的確に狙われる急所はなんとか避けているのだが、それでも剣を一振りする間に二振りされるミモザの速さは衝撃を受ける程。

(距離を取られれば流石に魔力が底を尽きる)

剣閃を使い過ぎた。
通常、闘気は魔力の消費を抑えられる身体強化の技法。剣閃はその矛盾。対極に位置する程に魔力の消費が大きい。だからこその一撃必殺。
連戦に次ぐ連戦でもうかなり魔力は消費してしまっている。これ以上飛燕を多用するなど愚策。魔力が枯渇してしまう。互いの底を正確に見定めなければならない。

(なんとかして隙を作らないと……――)

とはいえ、何か打開策があるわけでもない。速さも経験も相手ミモザの方が圧倒的に上。
念頭に置くその絶対的な条件の中でどうやって隙を見つけようかと剣戟を交えながら思考を巡らせるのだが、少しの間を置いてその考えを否定した。

(――……いや、作るんじゃない。作らせるんだ)

条件としてはかなり厳しい。一種の賭け。どうにも辟易してしまう。窮地に陥る度に自分の力不足を痛感することに。

(あとは上手くいくかどうか)

猛者を相手にして通用するのかどうか。僅かに不安が脳裏をかすめる。しかし、意図せずともその条件は整っていた。
ミモザのブランク、現役を離れたその身体。体力面に不安を残していたミモザが勝負を急いだことによってそれは生じる。

「え?」

僅かに後方に飛び退いたミモザ。
距離を取られるとマズいと思いつつ、すぐさま距離を詰めようと地面を踏み抜こうとしたのだが、既にミモザは大きく腕を振るってククリナイフを左右に投擲していた。

「狙いは?」

風切り音を上げながら襲い掛かるククリナイフに対して対応しなければいけないのは勿論なのだが、視界の端でミモザが拳に闘気を流し込んだのをヨハンは見逃さなかった。

(だったらこれを利用する!)

ほぼ確実だと確信を抱く拳に闘気を流し込んだ理由。状況的にそれしか考えられない。僅かに前傾姿勢になろうとしているミモザがこれからする行い。
つまり、二方向からのククリナイフによる攻撃、挟撃と思わせつつ実際は三方向。ミモザ自身が飛び込んで来るのだと正確に見抜く。

それでもククリナイフに対して慌てて対処する演技をしなければならない。それでなければ気取られる。条件が整わない。また戦いが長引くだけ。

「――っ!」

そのため、一瞬だがミモザからわざと視線を逸らした。目を離すことの恐怖を感じるのだが、こちらの気配を気取られると間違いなく警戒される。今は飛び込んで来るように引き付けなければならない。

シュルルと宙を舞い襲い掛かるククリナイフの一つに剣閃を放ち、撃ち落としたのと同時に反転して反対側のククリナイフを切り払おうとしたところで既にミモザはヨハンの懐に踏み込んで来ていた。

「やっぱりッ!」

狙いはこれなのだと。左右のククリナイフに対応している間に生まれる自身(ヨハン)の隙。
意表を突いた無手での攻撃。闘気を纏った拳による打撃。

「やっと隙を見せてくれたわね」

ニヤリと口角を上げているミモザ。戦局を大きく決定付ける一撃を見舞える隙。

「それはこっちのセリフですよ」
「え?」

しかしそれはヨハンにしても同じ。共にその隙を生み出そうとしていた。
飛来するククリナイフに向けて対処していたはずの意識、その双眸を動かして踏み込んで来たミモザを視界に捉える。
そのままククリナイフに向けていたはずの斬り払いの対象を即座に変更させ、回転するように片足を軸足にして、腰を回してミモザの胴に向けて振るった。

「あぐっ!」
「がはっ!」

同時に呻き声を上げるヨハンとミモザ。
刹那の瞬間、ククリナイフはザクッとヨハンの背に刺さっている。これはその覚悟。

「ぐうっ!」

痛みに堪えながらもミモザの先を見失わない。払われた剣を腹部にまともに直撃させて地面をゴロゴロと転がっている。

「――――」

地面を転がるミモザの姿を見届けながら、あまりの激痛に片膝を着いた。

「頼むっ! もう立たないでくれ!」

祈りにも似た懇願。
投擲されたククリナイフに対応する際に出来る隙を狙われたことを利用した反撃。肉を切らせて骨を断つといった半分は自滅を引き起こすような行い。
通常であれば愚策、愚行にも思われるような行いなのだが、そんなことでもしなければならない程の強者。でなければ決定的な一撃を見舞えるはずがない程にミモザは強かった。

地面に横たわっているミモザの指がピクッと動く。

(ダメか……)

まだ意識はあるのだと。そうなれば深手を負ったヨハンの方が不利な状況に陥ってしまっていた。
残された手は他に何があるのかと考えるのだがもう何も思いつかない。

「――……ぅぅっ」

そうしている間にミモザの指は地面を掴み、体を起こそうとしたのだがそこで動きが止まる。

「う……ぅっ…………――――」

力なくパタッと再び腕を地面に転がした。

「あっ……」

小さく漏れる声。
それがどういうことなのかとすぐに理解したのだが、カルロスも同時に理解する。会場はあまりにも壮絶な状況に息を呑んでいた。

「おおーっと、これはナイトメア選手、もう動くことが出来ない様子です! 優勝は、優勝は、ヨハン選手でーすっ!」

大きく発せられた勝者のコール。

「うおおおおおおおっ!」
「なんだあのガキぃ!」
「狙ってやがったのか今の!?」
「どっちにしたってすげえの見せてもらったぜ!」

途端に沸き上がる今日一番の大歓声。衝撃的な結末を目にしたことによる興奮に観客は大きく声を張り上げた。

「勝った……?」

背中に受ける痛みを必死に堪えながら、まるで信じられない状況。夢ではないのかとさえ思える状況を瞬きしながら呆気に取られる。

「ヨハンっ!」
「お兄ちゃん!」

選手入場口から走ってくるカレンと、観客席から慌てて飛び降りてくるニーナは同時にヨハンに抱き着く。

「なんて無茶なことしてるのよっ!」
「ほんとだよお兄ちゃん! またこんなことして!」
「ごめん」

言葉ではきつく責められのだが、理由ははっきりとしていた。心配させてしまったのだと。
カレンは半泣きになっており、ニーナは慌てて治癒魔法を施した。

「どうしても優勝したくて。カレンさんのために」
「…………」

ボッと顔を赤らめるカレンは慌ててヨハンから顔を逸らす。

「そ、それは、た、確かに嬉しいのだけど、か、考えてもみなさいよ! あなたが死んじゃったらわたしの婚約相手がいなくなるじゃない! それだと意味ないじゃない!」
「そうですね」
「だったらっ!」
「だから。僕はこれからも死ぬわけにはいかないですね。ねっ、カレンさん」
「…………そうね」

ニーナに治療されながら屈託のない笑みを向けられるとカレンはもう怒る気が起きない。
むしろ溜め息が出る。

(この子はこれからもわたしの為に、ううん、ニーナももちろんだし、そのシグラムにいるっている仲間の為にもきっと命を賭けるわね)

確信を持てた。
だったら自分がこれからも近くでよく見ておかないといけない。でないと今後も何度となく危険な行為に身を投じるのだと。仲間の為なら無茶な行いをするのだろうと容易に想像出来る。

「あなたは死なさないわ。決して。これからも。ずっと」

囁くように呟く言葉。
セレティアナとの契約の一端を失うわけにはいかない。

「ほんとなにやってんだか」
「だからごめんってば」

ニーナにも叱られシュンとしているヨハンを見て、まるで本当に聞こえてくるかのようなどこか小馬鹿にされるようなセレティアナの声を想像しながらギュッと胸元にある翡翠色の魔石を握りしめた。

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