S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
374 / 724
再会の王都

第三百七十三話 閑話 魔灯石採掘護衛依頼③

しおりを挟む

「こ、これは…………」

明らかに異常な気配。とても一匹や二匹には思えない程の音。それがグスタボにもはっきりと聞こえる。

「来ますわ!」
「カレンさん!」
「わかってるわ!」

ヨハンの声にすぐさま反応する様にカレンは自身とグスタボの周囲に魔法障壁を展開させた。

「こ、こいつは!? ジャイアントアントッ!?」

思わず目を疑うグスタボ。突如として姿を見せた音の正体。
視界を埋め尽くさんとする黒い塊。まるで大きな塊に見えるそれは、実際には一匹一匹が独立している巨大な蟻。人間の身体ほどある。

「ギギギッ!」

それがギチギチと顎の鋏を鳴らしていた。

「行くわよ!」
「うん!」
「ええ!」

モニカの声に同調するヨハンとエレナ。
勢いよくジャイアントアントの群れに躊躇なく踏み込む。

「お、おいっ!」
「危ないから出てはダメよ」
「だがあの子らがっ!」

あれだけの数の魔物、ジャイアントアントに踏み込んでいくなど自殺行為。

「大丈夫よ。安心して」

冷静に答えるカレンなのだが、グスタボは尚も信じられない。どうしてこれほど冷静でいられるのか。

(ヨハンが頼りになるって言ってたぐらいだから、これぐらい問題ないみたいね)

ジャイアントアントの討伐ランクはD。しかしそれは一匹の場合。
独特の性質を伴うそのジャイアントアントと洞窟内で遭遇すればBランクに相当する。それは目の前の光景、集団で一斉に襲われることから。

「わたくしが切り開きますわ」

ジャイアントアントの群れに最初に飛び出したのはエレナ。背丈よりも大きな薙刀を大きく振るう。
ドバっと勢いよく振り払われた薙刀によってジャイアントアントは迫る勢いを削がれた。

「いくわよヨハン!」
「うん!」

ヨハンとモニカ、剣を手にしてジャイアントアントの群れに踏み込む。

「はあッ!」
「ふッ!」

一匹一匹的確に一撃の下に斬り払った。
しかしあまりにも数が多い。その中で二匹がヨハン達の下を潜り抜けてカレンとグスタボの下に到達する。

「しまった!」

モニカが声を漏らすのだが、心配はいらない。

「大丈夫だよ」
「え?」

ここにいる誰よりもヨハンがそのカレンの障壁の強度を信頼していた。この程度では問題ないのだと。

「――っ!」

障壁の外に迫り来るジャイアントアントにグスタボは思わず目を瞑る。
しかしすぐさま驚愕に目を見開いた。

「へぇ。やるじゃない」

モニカが大きく感心するのはその魔法障壁の強度。
カレンとグスタボに向けて襲い掛かったジャイアントアントはすぐさまジュッと音を立てて焼け焦げる。

「このまま一気に殲滅しよう」
「ええ」
「わかったわ」

それから間もなくして数十匹いたジャイアントアントを一匹残らず殲滅した。

「……ふぅ」
「結構多かったわね」
「そうですわね」

まるで何事もなかったかのようなその口調にグスタボは口をあんぐりと開ける。まるで想像以上の実力を目の前の学生達は持ち合わせていた。

「早く引き上げるぞ!」
「え?」

しかしグスタボはそれどころではない。慌てて声を掛ける。
ジャイアントアントがいたとなると懸念することがあった。

「まさかこんなところにジャイアントアントが巣食っておったのか!? これはまずいぞ!」

ジャイアントアントが集団で行動するということは、巣が近くにあるかもしれない可能性。
捕えた獲物を巣に持ち帰り、女王蟻に献上するという特性がある。女王蟻がいるとなれば討伐ランクは跳ね上がる。しかもそれだけでなく、女王蟻を討伐しない限りジャイアントアントはその数を無限に増殖させるといった傾向があった。

状況がひどく悪い。
こうなっては王都に帰って騎士団の派遣依頼でも行わなければいけない国家的な規模の依頼。

「どうして慌てているのよ。さっきの私達を見たでしょ?」
「何をバカなことをいっておる! それが余計に悪いのではないか!」
「なっ!?」

護衛として正当に依頼をこなしているにも関わらず突然の罵倒。モニカが不快感を露わにするのだが、エレナがその肩を掴む。

「落ち着きなさい」
「でも私達何も悪いことしてないじゃない」
「違うわよモニカさん。彼はさっきのジャイアントアントが先遣隊と言いたいのよ」
「えっ? 先遣隊って?」

エレナとカレンはグスタボが声を荒げた意図を理解していた。

「ほぅ。そちらの二人はよくわかっておるようだな。お嬢さんと違ってよく勉強しておる」

問題なのはここが巣に近いかもしれない可能性。
先遣隊であるその蟻達が殺されると、その殺された仲間の臭いに釣られて女王蟻の近くにいる蟻たちが自分たちの巣への危機を感じ取る。
そうなるとその数を激増させ、再び襲い掛かられることになる。

「急いで帰るぞ!」

つまり、グスタボは近くに巣があると判断していた。すぐに国に討伐派遣依頼を出さなければいけない。

「えっ? 魔灯石の採掘はもういいんですか?」
「何を悠長なことを言っておる! そんなことを言っておる場合ではないッ!」
「でもさっきの私達の実力を見たでしょ?」
「だがお主たちに女王蟻は倒せんだろうッ!」

声を荒げるグスタボに対してヨハン達は顔を見合わせる。

「どうなのエレナ?」
「そうですわね。倒せないとは思いませんわ」

巣の規模によるがAランクに相当する。騎士団であれば一個中隊を要する規模。

「ヨハンさん、ジャイアントアントはその特性上、女王蟻を倒さないと餌がある限り無限に増殖しますのよ。ですので、今一番の解決策は女王蟻の討伐になりますわ」
「そうなんだ。じゃあその女王蟻を倒しに行こうか」
「よし、決まったわね!」
「仕方ないわね。恐らくわたしには女王蟻は直接対処できないでしょうしね」
「は?」

全く理解できない。どうしてそういう発想に至るのか。

「ば、馬鹿なのかお前たちは!?」

依頼当初のランクはDランク。もう既にその域ではない。

「今すぐに帰って新しく依頼を出さんと、こんなもんとてもDランクの依頼ではないわ!少なくともBランク以上、いや、巣があればAランクだぞ!?」
「そうなんですね。でもこのままだと他の人に被害が出るかもしれないですよね?」
「そ、それはそうだが、それがどうかしたのか!?」
「僕たちに対応できる範囲だと判断したので、他に被害が出る前に倒しますね」

ニコッと微笑むヨハンに対してグスタボはポカンと口を開ける。

(こ、コイツラは何をいっておるのだ?)

どうしてこれだけの事態に対して未だに冷静でいられるのか理解できなかった。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...