S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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再会の王都

第三百七十三話 閑話 魔灯石採掘護衛依頼③

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「こ、これは…………」

明らかに異常な気配。とても一匹や二匹には思えない程の音。それがグスタボにもはっきりと聞こえる。

「来ますわ!」
「カレンさん!」
「わかってるわ!」

ヨハンの声にすぐさま反応する様にカレンは自身とグスタボの周囲に魔法障壁を展開させた。

「こ、こいつは!? ジャイアントアントッ!?」

思わず目を疑うグスタボ。突如として姿を見せた音の正体。
視界を埋め尽くさんとする黒い塊。まるで大きな塊に見えるそれは、実際には一匹一匹が独立している巨大な蟻。人間の身体ほどある。

「ギギギッ!」

それがギチギチと顎の鋏を鳴らしていた。

「行くわよ!」
「うん!」
「ええ!」

モニカの声に同調するヨハンとエレナ。
勢いよくジャイアントアントの群れに躊躇なく踏み込む。

「お、おいっ!」
「危ないから出てはダメよ」
「だがあの子らがっ!」

あれだけの数の魔物、ジャイアントアントに踏み込んでいくなど自殺行為。

「大丈夫よ。安心して」

冷静に答えるカレンなのだが、グスタボは尚も信じられない。どうしてこれほど冷静でいられるのか。

(ヨハンが頼りになるって言ってたぐらいだから、これぐらい問題ないみたいね)

ジャイアントアントの討伐ランクはD。しかしそれは一匹の場合。
独特の性質を伴うそのジャイアントアントと洞窟内で遭遇すればBランクに相当する。それは目の前の光景、集団で一斉に襲われることから。

「わたくしが切り開きますわ」

ジャイアントアントの群れに最初に飛び出したのはエレナ。背丈よりも大きな薙刀を大きく振るう。
ドバっと勢いよく振り払われた薙刀によってジャイアントアントは迫る勢いを削がれた。

「いくわよヨハン!」
「うん!」

ヨハンとモニカ、剣を手にしてジャイアントアントの群れに踏み込む。

「はあッ!」
「ふッ!」

一匹一匹的確に一撃の下に斬り払った。
しかしあまりにも数が多い。その中で二匹がヨハン達の下を潜り抜けてカレンとグスタボの下に到達する。

「しまった!」

モニカが声を漏らすのだが、心配はいらない。

「大丈夫だよ」
「え?」

ここにいる誰よりもヨハンがそのカレンの障壁の強度を信頼していた。この程度では問題ないのだと。

「――っ!」

障壁の外に迫り来るジャイアントアントにグスタボは思わず目を瞑る。
しかしすぐさま驚愕に目を見開いた。

「へぇ。やるじゃない」

モニカが大きく感心するのはその魔法障壁の強度。
カレンとグスタボに向けて襲い掛かったジャイアントアントはすぐさまジュッと音を立てて焼け焦げる。

「このまま一気に殲滅しよう」
「ええ」
「わかったわ」

それから間もなくして数十匹いたジャイアントアントを一匹残らず殲滅した。

「……ふぅ」
「結構多かったわね」
「そうですわね」

まるで何事もなかったかのようなその口調にグスタボは口をあんぐりと開ける。まるで想像以上の実力を目の前の学生達は持ち合わせていた。

「早く引き上げるぞ!」
「え?」

しかしグスタボはそれどころではない。慌てて声を掛ける。
ジャイアントアントがいたとなると懸念することがあった。

「まさかこんなところにジャイアントアントが巣食っておったのか!? これはまずいぞ!」

ジャイアントアントが集団で行動するということは、巣が近くにあるかもしれない可能性。
捕えた獲物を巣に持ち帰り、女王蟻に献上するという特性がある。女王蟻がいるとなれば討伐ランクは跳ね上がる。しかもそれだけでなく、女王蟻を討伐しない限りジャイアントアントはその数を無限に増殖させるといった傾向があった。

状況がひどく悪い。
こうなっては王都に帰って騎士団の派遣依頼でも行わなければいけない国家的な規模の依頼。

「どうして慌てているのよ。さっきの私達を見たでしょ?」
「何をバカなことをいっておる! それが余計に悪いのではないか!」
「なっ!?」

護衛として正当に依頼をこなしているにも関わらず突然の罵倒。モニカが不快感を露わにするのだが、エレナがその肩を掴む。

「落ち着きなさい」
「でも私達何も悪いことしてないじゃない」
「違うわよモニカさん。彼はさっきのジャイアントアントが先遣隊と言いたいのよ」
「えっ? 先遣隊って?」

エレナとカレンはグスタボが声を荒げた意図を理解していた。

「ほぅ。そちらの二人はよくわかっておるようだな。お嬢さんと違ってよく勉強しておる」

問題なのはここが巣に近いかもしれない可能性。
先遣隊であるその蟻達が殺されると、その殺された仲間の臭いに釣られて女王蟻の近くにいる蟻たちが自分たちの巣への危機を感じ取る。
そうなるとその数を激増させ、再び襲い掛かられることになる。

「急いで帰るぞ!」

つまり、グスタボは近くに巣があると判断していた。すぐに国に討伐派遣依頼を出さなければいけない。

「えっ? 魔灯石の採掘はもういいんですか?」
「何を悠長なことを言っておる! そんなことを言っておる場合ではないッ!」
「でもさっきの私達の実力を見たでしょ?」
「だがお主たちに女王蟻は倒せんだろうッ!」

声を荒げるグスタボに対してヨハン達は顔を見合わせる。

「どうなのエレナ?」
「そうですわね。倒せないとは思いませんわ」

巣の規模によるがAランクに相当する。騎士団であれば一個中隊を要する規模。

「ヨハンさん、ジャイアントアントはその特性上、女王蟻を倒さないと餌がある限り無限に増殖しますのよ。ですので、今一番の解決策は女王蟻の討伐になりますわ」
「そうなんだ。じゃあその女王蟻を倒しに行こうか」
「よし、決まったわね!」
「仕方ないわね。恐らくわたしには女王蟻は直接対処できないでしょうしね」
「は?」

全く理解できない。どうしてそういう発想に至るのか。

「ば、馬鹿なのかお前たちは!?」

依頼当初のランクはDランク。もう既にその域ではない。

「今すぐに帰って新しく依頼を出さんと、こんなもんとてもDランクの依頼ではないわ!少なくともBランク以上、いや、巣があればAランクだぞ!?」
「そうなんですね。でもこのままだと他の人に被害が出るかもしれないですよね?」
「そ、それはそうだが、それがどうかしたのか!?」
「僕たちに対応できる範囲だと判断したので、他に被害が出る前に倒しますね」

ニコッと微笑むヨハンに対してグスタボはポカンと口を開ける。

(こ、コイツラは何をいっておるのだ?)

どうしてこれだけの事態に対して未だに冷静でいられるのか理解できなかった。

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