S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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再会の王都

第三百七十四話 閑話 魔灯石採掘護衛依頼④

一方ヨハン達がジャイアントアントの襲撃を受けていたその頃、鉱山入り口で見張り番をしているのはレインとニーナ。

「あーあ、暇だなぁ。俺も一緒に行けば良かったなぁ」
「ほんとですよねぇ」

特に周囲に変化があるわけでもない。ただ時間だけがのんびりと過ぎていた。

「そういやニーナ知ってたか?」
「なにを?」
「この辺りにはちょっと珍しい果物が実っているらしいんだとよ」

商人の父に以前聞いたことのある話。枯れた土地に芽吹くことのある鉱山サボテンの果実。それは珍味として紹介されている。

「なにそれ!?」

途端に目を輝かせるニーナ。

「いやでも結構な荒地にあるからたぶんここだと崖とかかもしれねぇぞ?」

明らかに期待に膨らんだ眼差しにレインは嫌な予感を抱いた。

「…………周りの様子を見ておくのも必要ですよね?」
「それはそうだけどお前……――」

途端に鉱山の上、山の頂上付近に目を向けたニーナはニヤリと笑みを浮かべる。

「あたしちょっと周りの様子見て来るね!」
「あっ、お、おいっ!」

素早く跳躍すると一足飛びに山の頂上目掛けて駆け出していった。

「やべっ、俺もしかして余計なこと言ったかも……」

後を追おうにももう既にニーナの姿を見失ってしまう。

「……ちゃんと帰ってこいよな」

その場に一人取り残されるレインはどうすればいいのかと頭を悩ませた。せめて迷子にならないように、と。


◇ ◆ ◇


ニーナが一人鉱山サボテンを探しに行ったその内部、鉱山内では。

「お、おい! 本当に行くのか!?」

危険性を示したつもりがまるで臆さないヨハン達。

「ええ。それが一番確実ですから」
「か、確実だとッ!? おお、お前たちは何を言っているのかわかっているのか!? 学生達で対応などできん! お前たちが多少戦えるのはわかったが無理はするな!! こんな危険なものは騎士団かベテランの冒険者に任せれば良いのだ!」

エレナとカレンの見解ではグスタボの言う通り恐らくこの奥にジャイアントアントの巣がある可能性は高いと。
他に洞窟内に踏み込む者が出る前に討伐する方が余計な被害を生まなくて済むと考えている。

「わかったわよ。じゃあ危なくなればすぐに逃げるということでどうですか?」

モニカの発言にグスタボは口をポカンと開けた。

「……いや、そういう問題ではないのだが?」
「だったらグスタボさんは応援要請の為に戻るとかは?」

続けざまのカレンの言葉に思わず耳を疑う。

(こやつら、どういうつもりだ?)

世間知らずなのか、自信過剰なのか、それとも無謀なのか、全く判断がつかない。
それでもわかっていることは無理矢理連れて帰れそうにないこと。急いで応援要請を出しに戻ったとしても再びここに帰って来るまでには数時間を要する。そうなれば生存確率は著しく低いという見解。

「正直お前らに依頼を出したことを後悔するぞ。ここまで人の言うことを聞かないとは。このままではお前らは中に突っ込むのだな?」
「まぁそうなりますわね」

誰一人として怖気づかない様子が殊更奇妙にも見えた。
グスタボは仕方なしとばかりに大きく溜め息を吐く。

「では、本当にどうにもならんと判断したらすぐに逃げる! これを約束しろ!!」

語気を強めたグスタボの発言にヨハン達は顔を見合わせた。

「そうですね。すいません、僕たちも自信がないわけじゃなかったんですけど、わかりました。危なくなったら必ず逃げます」
「本当だな?」

ジッとヨハンの目を見つめるグスタボは真剣な眼差し。自分の依頼の所為で学生達が何人も命を落としたとなれば寝覚めも悪い。

「はい。約束します。みんなもお願い」

周りを確認するヨハンに応えるようにエレナ達も頷く。

「じゃあいきますね」

グスタボの許可も出たところでヨハン達は気兼ねなく洞窟の奥に進むことになった。

(本当に大丈夫なのかこいつら)

軽快な返答を真に受けて良いものなのか頭を悩ませる。

それから先、洞窟をさらに奥深くに進んでいくと眼前からギチギチと鋏を鳴らしたジャイアントアントに何度も襲い掛かられる。ヨハン達はそのジャイアントアントを問題なく斬り倒していった。

「……こやつら、確かに強い」

小さく呟くグスタボは目の前でジャイアントアントを掃討していくヨハン達の実力をそう評する。とてもDランクには見えない。

「お前達、本当にDランクか?」

疑問を抱き問い掛けたのだが、返事は返って来ずに妙な間が空いた。

「えっと……――」

ヨハンが口にしようとしたところでエレナがヨハンの肩を掴む。

「エレナ?」
「申し訳ありません。言い忘れていましたが、わたくし達はBランクですわ」
「なんだと!?」
「本当よ」

スッと前に出たモニカがギルドカードをグスタボに見える様に提示した。

「……どうやら本当のようだな」

まるで信じられない。
グスタボの工房は王都で代々続く工房。生まれた時から王都で生活していることもあり、こうした依頼も時折出しているので学生達に関する造詣もそれなりにある。学生の内にB級に到達するということがどれだけ凄いということか、一握りの実力者なのだということを。

「それがどうしてDランクの依頼など?」

わざわざ低ランクの依頼を受ける理由が思い当たらない。

「別に不思議なことではないですわ。あちらの彼女が最近冒険者として活動しましたのでその補助を。わざわざ説明する必要もありませんでしたので省いておりましたが」
「……なるほどのぉ」

確かに冒険者にはそういう一面もあった。しかしそれは一人前の冒険者が新人にする行いのこと。学生の身分でそんなことをするなど聞いたこともない。

(そういうことね)

エレナと目が合ったカレンは軽くウインクされることでその意図を正確に汲み取る。

「申し訳ありません。わたしが最年長なのですが、なにぶん自分のランクが一番低いなどとは言い出しにくくて」

ヨハンのランクが実はS級に達しているなどということはこの場では言えない。グスタボが王都で吹聴してしまえば騒ぎになるのは目に見えていた。
ようやく落ち着いた生活をわざわざかき回すようなことは避けたい。

「しかしそういうことは最初に言って欲しいものだ」
「はい」
「だが女王がいれば危険なのは変わりないぞ?」
「もちろんですわ」
「…………フンッ」

ようやくグスタボは目の前の学生達の自信を理解する。学生のBランクともなれば実質的に最上位に位置するということだと。

(果たして女王相手に通じるものなのかどうか)

同時にそれが慢心を生んでいる可能性も視野に入れた。

それからしばらく内部を探索するようにして進んでいく。天然の洞窟というよりも明らかに人間以外の生物が掘り進めているという見解を抱けるその内部。構造からしても間違いなく巣があるだろうと。

「本当に多いわね」

真上に向けて剣を振るうモニカ。
ザンッと両断されたジャイアントアントがドサッと絶命して床に落ちた。

途中からは天井にいくつも穴が開いており、不意討ちを仕掛けられるようにしてジャイアントアントが降り注いでいる。それだけでなく、ところどころで挟み撃ちにも遭っている。

「魔法が使いにくいのが欠点よね」
「そうですわね。ここのような狭い洞窟内部で魔法を使うと崩落を招く恐れがありますしね」

魔法が使えればより簡単に対応できるのだが、現状武器を用いた近接戦でも問題は見られない。時折慌てふためくグスタボの姿があるのみ。

「でもこの蟻、一匹一匹の強さはたかが知れているから問題ないわね」
「まぁこの程度ですしね」

狭い洞窟内で魔法を使うことの危険性は十分に理解している。
経験の少ない冒険者が追い詰められたことで焦って魔法を使ってしまい、結果崩落して生き埋めになるということも少なくはない。

(モニカもエレナもかなり強くなってる)

剣筋が明らかに滑らかで、以前と比較してもかなり向上していた。
何気なく対処しているその姿は頼もしさすら感じられる。

(本当に強いわねこの子達)

それはカレンも同様で、全力を出していないにも関わらずこの強さ。

(シェバンニ先生の言っていた通りなのね)

他の学生と比較しても抜きんでた強さ。授業で見る他の学生達の頼りなさとは比較にならない。

(さすがラウル様の妹さんですわね)

カレンの度胸の据わり具合。物怖じしない姿勢を見ても行動を共にする分には問題は見られない。

(障壁の強度はもしかしたら一番かも)

グスタボを守る為に囲う障壁の見事さ。モニカには成し得ないどころかエレナでも恐らくできないという見解。
そうして各々がいくつか確認し合う中、内部のマナが一層濃くなる。それは魔灯石の輝きから見ても明らか。

「ほう、ここまで深く潜るとこれほどの質の魔灯石があるのか」

いつの間にか余裕すら生まれているグスタボ。命の危険を感じなくなってしまっていた。
そうして職業柄目を送るのは周囲に埋まっている魔灯石へ。その鑑定を行う。純度の高い魔灯石がそこかしこに見られ、つい喜んでしまっていた。

「気を付けてくださいませ」
「ん?」
「そろそろですわ」
「なにがだ?」

埋め込まれた魔灯石を掘り起こしたい衝動に駆られ、グスタボはエレナの言葉に空返事を返す。

「グスタボさん!」

ヨハンの語気を強めた言葉にビクッと身体を揺らせた。

「ど、どうした!?」
「グスタボさんはカレンさんが守りますけど、勝手に動かれると守りにくいので」
「…………」

いつの間にか真剣な顔つきになっているヨハン。思わず目を疑う。

(これがさっきの小僧だと?)

ゴクッと息を呑むのは、目の前の学生が警戒心を高めていたから。

「明らかに周囲に漂う気配が変わりましたわ」
「ええ。少し気を引き締めるわよ」
「カレンさんはグスタボさんをお願いします」
「任せておいて」

グスタボには何かが変わったようには思えなかったのだが、ヨハン達には感じられていた。
明らかに目の前の細道の奥からの蠢くような気配。グスタボに緊張が走る。

「……いくよ」

そうしてゆっくりと、慎重に歩を進めた。

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