S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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学年末試験 二学年編

第四百二十六話 ヨハンvsナナシー

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闘気を流し込んだヨハンの剣が仄かに黄色い光を帯びている。

「なに、あれ?」

それはナナシーが見たことのない光景。

(見たところ、闘気のようだけど……――)

ヨハンの一挙手一投足に注視しながら動向を確認するのだが、次の瞬間思わず目を疑った。
そこには大きく剣を振りかぶるヨハン。遠く離れた場所から何をするつもりなのかと。

(――……マズい!)

ヨハンが剣を振り下ろすのと同時に即座に横っ飛びする。
元居た場所を通過する鋭い斬撃。ズバッといくつもの木々を切り裂いていた。

「ヨハン?」
「なに?」
「あまり自然を壊すものじゃないわよ?」
「ごめんね」
「うーん。誠意が感じられないわよ」
「そんなことないよ」

軽く会話を交わすのだが、内心は冷や汗もの。およそ考えられない威力が込められているその斬撃は剣閃。ナナシーは初めて目にする。

(今の動き、剣閃なら)

ヨハンはナナシーには手の打ちようがないだろうという感覚を得ていた。
殺傷能力の高い剣技なのである程度の威力は抑えないといけないのだがその配分はもう十分に掴めている。

「だったら」

飛燕であれば優位に運べるはず。そう考え、剣に微量の闘気を流し込み、素早く斬撃を放った。

「え?」

しかしナナシーは動く気配を見せず、いくつもの小さな剣閃である飛燕はザクッとナナシーを切り裂く。その光景に驚きを隠せないのだが、その理由はバサッとその場に舞う木の葉。

「ひっかかったわね」

突如として背後から聞こえる声。

「ぐっ!」

すぐさま後方から振り切られる蹴りに対して即座に反応を示したのだが大きく横に吹き飛ばされた。

「いまのは……?」

即座に思考を巡らせる。
確かにナナシーはそこにいたのだが実際はいなかった。その可能性で考えられるのは幻覚か、木の葉が舞ったことからもしくは――――。

「にせもの?」

小さく呟いたヨハンの言葉を耳にしたナナシーは薄く広角を上げた。

「さすがね」

そのままナナシーの両横にヌッと立つのはナナシーと全く同じ姿かたち。

空蝉うつせみという名の技よ」
「幻覚、とは違うんだね」
「ええ」

存在感は確かにそこにあるのだが、実際は実体を伴っていないということ。

(やっかいだなぁ)

いつそれを使っているのか判断が難しい。今のように目の前で使われればその違いの区別はつくのだが、流動的な戦いの中でそれを使われれば見落としかねない。
結果的に今のように虚を突かれてしまう。

「仕方ないね」

となれば近接戦で常に距離を保つしかない。
ダンッと勢いよく地面を踏み抜いて真っ直ぐに駆け出した。

「ねぇヨハン?」
「なにナナシー?」

繰り出す剣戟を躱しながらの問いかけ。

「まだ本気じゃないよね?」
「……うん」

いくら模擬戦ではないとはいえ、殺し合いではない。本気の度合いが異なる。

「残念だわ」
「っていうと?」
「私じゃヨハンの本当の意味での本気が見られないじゃない」
「…………」

そこでナナシーは腰元の剣を引き抜いて重ね合わせる様に剣を合わせた。辺り一帯に響く鋭い金属音。
グッと互いに押し合いながら、僅かな静寂が二人を包み込む。

「…………」
「…………ナナシー」

バッとその場を互いに離れて距離を取り直した。

「その本気の僕だけど、僕はそれがない方が良いと思ってるんだよ」

仲間同士で本気を見せるなど、無い方が良いに決まっている。しかし唯一それをナナシーが目にすることがあるかもしれない。

「でも、もしナナシーたちエルフにまた人間が危害を加えるようなことがあれば、その時は僕も本気でナナシーたちを守るよ」

かつての両親達がしたこと。他種族であったとしてもナナシーたちエルフは間違いなく意思疎通ができる。人間と共存できるのだということを証明してくれていた。

「……ありがとう、ヨハン」

僅かに顔を伏せるナナシーは万感の思いを胸に抱く。

(やっぱり、あなた達に出会えたことは私にとって幸運だったわ)

里の反対を押し切って人間の世界に出ての今があった。かつて長であるクーナもしたことがあるというので後押ししてくれたのだが、不安がなかったといえば嘘になる。

(お母さん。私、元気にしているよ)

今は会えない母への気持ちを心の中で呟き、目の前に立つヨハンを見た。

「じゃあ、決着をつけましょうか」
「うん」

グッと地面を踏み抜こうとしたナナシーは不意に周囲へ張り巡らせていた植物から見知った気配を感じ取る。

(あれ? これってレインと、マリンちゃん?)

予め仕掛けておいた探知魔法で感じ取るのはレインとマリンが近くにいること。
識別できるようにしていたのですぐにどこにいるのか察した。

(もうっ、しょうがないわね)

一体どういう理由でここに居合わせているのかは不明なのだが、今は単独でヨハンを倒しきるのは不可能だと判断する。
すぐさま加勢を表す赤の矢を上空に射かけると、矢は木々より高く上がったところで大きく破裂した。

「あれは……?」

その様子を訝し気に見るヨハンなのだが、直接的な攻撃ではないと判断する。ぐんっと一直線にナナシーに向かっていった。
再び響く金属音と共に、ナナシーが口を開く。

「ごめんねヨハン。今回も私たちが勝たせてもらうわ」
「え?」
「こういうこった!」

背後に姿を見せたのはレイン。振り下ろすように両手の短剣を大きく振るっていた。

「なる、ほどっ!」

大きくその場で跳躍して木の枝の上に立つヨハン。しかし、見下ろすよりも早く前後から再びナナシーとレインが襲い掛かってきている。
応戦するよりも、回避することを優先してその場から飛び退いた。

「くっそ! すまんナナシー。ミスった!」
「ううん。ヨハンが相手だもの。むしろしょうがないわ」

入れ替わる様に木の上に立つナナシーとレイン。その二人をヨハンは地面の上に立って見上げる。

「レインとナナシーかぁ」

二人を相手にするかどうかを思案した。

「いや……」

ナナシー一人で十分驚異的な強さ。それに加えて両親達の手ほどきを受けたレイン。もしかしたら何か知らない力があるかもしれない。
思考を巡らせながら周囲の気配を探知していると、この場にいるのはレインとナナシーの二人だけではない。もう一人いる。

(サナは離れたみたいだし、今はこれで十分)

稼げるだけのポイントを稼げばそれで良い。
口元に手の平を持っていき、レインとナナシーに向けて大きく口を開いた。

「ごめんね二人とも! 次は最終戦で!」
「「え?」」

目を丸める二人なのだが、ヨハンは横に向けて大きく駆け出す。

「あ……」

そこにはマリンの姿。まるで警戒していない。

「あぐっ」

腹部に拳を突き上げるとうめき声を上げた。

「しまった!」
「くそっ!」

慌てて木の上から飛び降りるナナシーとレインはマリンの下に駆け寄った。既にマリンは意識を失っている。

「油断したわね」
「すまん。俺のせいだ」

もう既に周囲にヨハンの姿はない。探知もできないほど離れられている。
騒音を聞きつけて駆けつけた先で戦っていたナナシーとヨハン。レインはナナシーの赤の矢とそれを受けたマリンの指示のもとナナシーの加勢に加わったのだが、ヨハンが自分たちを相手にすることなくマリンに狙いを定めるとは思ってもいなかった。

「大丈夫よ。まだ取り返しはつくわ」

だからこそマリンは一回戦でリーダーをやり過ごしていたのだから。二回戦のリーダーはレイン。マイナスポイントは避けられている。

「それに最終戦、私がリーダーなのよ」

ナナシーはニコリと笑みを浮かべた。

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