550 / 724
紡がれる星々
第五百四十九話 時見の水晶
しおりを挟む「つまり、時見の水晶を使えば魔王の呪いが何かわかるということですわね?」
周囲から向けられる僅かの含みを持つ視線を意にも介さず、エレナは平静を装い気丈に振る舞った。
「いや、あくまでもわかるかもしれないということだ」
「それは――」
「まぁ聞け。ここに至るまでの経緯だが、俺が最初にガルドフに依頼を出したのが今回こうして集まることになった始まりだ。そのきっかけはもちろん世界樹の輝きが落ちているのが確認されたからだということはお前達も見て来たとおりだ」
ローファス王は事の成り行きを事細かにヨハン達に話して聞かせる。
これまで代々受け継がれてきたその話は何百年も年月を重ねることで風化してしまったその話。現代に置いては伝承程度。王家の血筋であってもほとんど信じられてさえいない。
しかし事実世界樹の輝きが落ち始めていることは見過ごせない。
「そのため、スフィンクスに極秘裏に依頼を出しておいた」
その手掛かりとして、当時――その時代を生きていたであろう古代竜、人語を話せる漆黒竜グランケイオスに話を聞きに行った。
(そう、なんだ……)
話の内容がまるで雲の上の話、伝記に聞こえる。レインはあんぐりと口を開けていた。
「で、俺も後で知ったんだが、お前が倒した飛竜、あれこいつらのせいだったらしい」
「え? それって……」
「それは今は関係ないだろ?」
「直接はなくとも間接的にはあるだろう?」
「ん、まぁ、な」
軽く会話しているラウルとアトムの言葉に対する理解がまるで追い付かない。
結局詳細は話されなかったが、その結果によって大賢者の存在を知ったのだと。大賢者パバールの持つ持ち物によってそれを知る可能性が示される。
「それが……――」
先程提示された魔道具。それとその効力を上げるための宝珠。
(――……だったら、もしかしたらあれがあればもっと助かるのかな?)
そうしてヨハンは卓上に置かれた赤と青の宝玉を見る。鞄に入っている黄の宝珠と酷似している。
「つまり、スフィンクスはそれらを揃えに行っていたと。その時見の水晶というので魔王の呪いがわかるかもしれないということですよね?」
「ああそうじゃ。お主たちには儂の不在で苦労を掛けたと思うがその辺りはシェバンニが上手くやったことだろう。少し気掛かりな事案は起きたようだがな」
ガルドフにジッと見られるのは魔族とゴンザのことだろうということはわかった。
「でもどうしてそれでわかるのですか?」
しかし今はその問題は横に置く。魔族が関与していることで魔王とも無関係ではないのだが今は関係ない。
「この時見の水晶は私の師、当時の賢者が作った物でな」
パバールが周囲を見回しながら口を開いた。
「魔力を流すとその者が探している物を見つけることができるという物なのじゃ。それは例えその者が忘れている事、思い出せないことであっても記憶の奥底にある見たこと聞いたこと知ったこと経験したことのあることを掘り起こして思い起こさせることが可能なのじゃ。ただし、それがわかるのは水晶を使用した本人のみじゃがな」
「なるほど。確かにそれは素晴らしい魔道具ですわ。ですが、それはその人、個人が経験したことに限られるわけですわよね? どうしてそんな大昔のことまでわかるのでしょうか?」
「ああ。いくらなんでも千年前から生きてる人間なんているわけないじゃないすか」
「何を言っておるレイン。ここにおるだろう」
憎々し気に隣を見るシルビア。
「え? じゃ、じゃあパバール、さま、が?」
「うむ。それなりに歳を重ねておる」
「ババアじゃババア」
ボソッと呟くシルビアを睨みつけるパバール。
確かに年齢を感じさせる容姿をしているのだが、まるで想像以上のその事実に対して驚愕せずにはいられなかった。
「じゃあパバール様が時見の水晶を使うんですか?」
ヨハンの問いかけに小さく首を振るパバール。
「いや、違うな。確かに私が使えば記憶のもう遠い向こう側にある当時の記憶を思い起こすことはできるであろうが、私自身は呪いを受けておらんのでどうせ詳細はわからずに終えるだろう。それだと何も変わらない。まぁ無論、私が記憶していない深層意識に何かが刻まれておれば別だがその可能性も低い」
「じゃあ、誰が?」
「さて、当然そういう話へと問題は帰結することになる。しかしここにはそれに最も適した人物がいるだろう?」
「それって……」
「私もこれは知らなんだが、どうやらグランケイオス曰く、先の話に出たその宝珠とやらがあれば、血を遡って過去の、つまりは先祖の記憶を追体験できるらしい」
「そんなことが…………」
「それができれば現在と合わせて、過去の勇者が受けた呪いがわかるやもしれぬ」
血を遡る記憶、それこそ血に刻まれた呪いと同等の様に感じられた。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる