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紡がれる星々
第五百五十 話 水晶の使用者
しおりを挟む「その宝珠にはそれ程の力があるのでしょうか?」
疑問を投げかけたのはその話に該当する当事者である人物。この場には二人。ローファスとエレナのみ。
「詳しい力は一度も使ったことないので断言はできないが、この宝珠は元々蓄えられている魔力もさることながら、使用者の魔力を尋常じゃない程に引き上げるものらしい。その強大さから秘匿され続けていたと父上は言っていた」
「ああ、俺も先代国王からそう聞いている」
ラウルとローファスにより告げられるそれは、以前ヨハンがカニエスから借り受けた魔力を底上げする魔石、その根源とされている。
「そして、これからその時見の水晶と宝珠を用いて確認しようというのが、今回の集まりだ」
「その場に僕たちがいても構わないのですか?」
ナナシーとサイバルはエルフであることからしてまだしも、他は当事者ではない。
「ああ。クーナ達にしてもそうだが、お前たちももう全く無関係というわけではない。それどころかエレナの仲間だ。そして……――」
そのまま視線を彷徨わせたローファスは大きく溜め息を吐いた。
「――……いや、これ以上の細かい話は不要だ。いくら口で説明したところで理解はできない、というかしてもらえないだろう。とにかくあとは確認が終わってからだ」
そのまま立ち上がり、赤と青の宝珠を手に取る。
ゆっくりとエレナの方へと向かって歩いた。
「何を知ろうとも、決して目を背けるでないぞ」
パバールが水晶を覆うようにして手を当てている間に言葉を差し込むガルドフ。
「あの、父さんたちは何かを知っているんですか?」
「一応俺からいくらか説明はしたが、確実なことは今は言えん」
そうしてローファスは円卓の向こう側、親しい間柄の面々に顔を向けて頷き合う。その後、深刻な表情を浮かべ続けていたジェニファーの顔を見ては小さく笑みを浮かべた。
「お父様?」
「……エレナ、お前にも真実を見てもらいたい」
そうして青の宝珠を手渡す。
「それがお前への、いや、お前たちへの俺の償いでもある」
「わたくし……たち? それは一体どういうことでございましょうか?」
誰を対象にしているのか、先程目線を合わせていた王妃、勇者の血筋ではないその親愛なる母への言葉なのか、それともパーティーメンバーとして巻き込む形となってしまったヨハン達に対してなのか。
「……これが終われば全て話すことを約束しよう」
つまり、隠している何かがあるのだと。それは王妃を始めとした父の周囲はそれを聞かされているのだと。
「だが、まずは可能であればその目で真実を確かめて欲しい」
僅かの沈黙。ジッと見つめ合うローファスとエレナ。
「……わかりましたわ。何を知らされようとも、わたくしは全てを受け入れることを誓いますわ」
笑みを向け立ち上がる。
「大丈夫だよエレナ」
「ヨハンさん?」
肩に若干の重みを感じたエレナが背後を見ると、そこには笑顔のヨハン。レインはグッと親指を立てていた。
「何があろうとも僕たちはエレナの味方だから、これからも絶対に力になるよ」
「だなっ」
「ええ。だから安心してエレナ」
ヨハンの後ろで満面の笑みを浮かべるモニカ。
「ええ。よろしくお願いしますわ」
頼れる仲間がこれだけいるのだから。父がアトム達を頼ったように、自身にも信頼できる親友がいる。
「お父様がどういうつもりでわたくしにそれを確認するように言われるのかその真意がわかりかねますが、やらなければ先に進まないようですわね」
「…………ああ」
どうにも感慨深げにエレナ達を見ているローファス。
「それで、魔力の流し方に違いはあるのでしょうか?」
「いや、通常の魔道具と同じでいい」
「わかりましたわ」
エレナはそこで周囲を見回す。誰もこれから何が起きるのかということは知らない。
「では準備はいいな?」
「ああ」
「よろしくお願いしますわ」
パバールが水晶へ魔力を流し込み、光、輝きを放ち始めた。その声に同調するようにしてローファスとエレナも宝珠へと魔力を流し込む。
(いよいよ呪いの謎が解けるかもしれないんだ)
何度も疑問に思ったその呪いについて考えを巡らせていたところ、耳元に小さく聞こえる声。
「ねぇヨハン? あの王国と帝国の宝珠ってさ、遺跡の中にあったやつとそっくりよね?」
「うん、僕もそう思ってたんだけど……」
これまで言い出すタイミングが全くなかった。流石に持っているわけにもいかなさそうなので終われば折を見て渡そうと考えている。
そっと鞄の中に手を送り、遺跡で手に入れた黄の玉を手の平に握った。
(これがそんなに凄い魔道具なんだ)
もうローファスとエレナはそれぞれが持つ宝珠へと魔力を流し込んでいる。
「す、すげぇな」
ぽつりとレインが呟くのは、輝きを放ちだした宝珠は互いに呼応するように反応をしており、時見の水晶はローファスとエレナの間で宙に浮いていた。
二人を包み込む光。宝珠を媒体として水晶が血に刻まれた記憶を掘り起こし始めている。
(へぇ。魔力が膨張しているんだね)
指先で黄の玉をいじりながら、感じるのは魔力の波動。
通常、魔道具を使用すると魔力は消費するもの。しかし、目の前のエレナとローファスは魔力を消費するというよりも増長させているように見えた。
(だったら、これがあればもっと良かったのかな?)
一つよりも二つと言っていた。であれば二つよりも三つなのかと、軽く魔力を流し込む。
(え?)
瞬間、感じるのは指先から得る魔力の波動。暴発するかのような波動は自身のものではない。ヨハンを中心に大きく輝きを放った。
「何が起きたっ!?」
ガタンと勢いよく立ち上がるアトム。
しかし事態の確認をするよりも先に円卓の間全体を水晶の輝きが覆い尽くす。
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