S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第五百八十四話 難解な条件

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「――……そっか、ラウルさんが頼んでくれてたんだ」

ミモザとアリエルの下に送られていた手紙を見せてもらっている。
そこにはこう書かれていた。

『すまないがヨハンを助けてやってくれないか。二人の経験が必要になる場面もあるはずだ。詳しい話は手紙では記せないのでヨハンから聞いて欲しい。ヨハンにはそれとなく話してくれればいいのだが、もし話してくれないようであればその時は息抜き程度の小旅行として、この件は気にせず、アイシャと一緒に王都観光でもしていれば良い。どちらにせよアイシャもヨハンには会いたいだろうからな』

と。

「だから、私達も何がなんだかわからないのよねぇ」
「それにだ。それとなく手伝えと言われても、内容がわからないことには手伝いようがないのでな。見てもらった方が話は早い」

ネネに連れられアイシャが席を外している中で話が進んでいた。

「でも……」

ローファスの言葉の意味は理解したのだが、果たして話して良いかどうかは当事者が決めること。

「別に良いわよ? ラウルさんからの紹介だし、頼りになるのは当然として、ヨハンとニーナがお世話になった人たちでしょ? ねぇエレナ?」
「もちろんですわ。それにお父様も知っている方のようですし、何も問題ありませんわ」

モニカ達からすれば、話に聞いているだけで既に頼りがいがある元S級冒険者。

「うん。わかった。すいませんミモザさん、アリエルさん、少し長くなると……それと驚かれると思いますけど、聞いてください」

そうして事の成り行きを説明することになる。



一通り話し終えたところで、ミモザもアリエルも共に深刻な表情を浮かべていた。

「すいません、突然こんなこと言われても困りますよね」
「あっ、ううん。それは別にいいの。世の中にはとんでもない話があるのは当然だし」
「ああ。だが、その中でも特級の話だから流石に驚いていたのだ。だが話はわかった。要は私達はそこのお嬢さんが王女としてなりすましをする護衛に入ればいいということだな」
「はい。お願いできますか?」

ヨハンの言葉を受けるミモザとアリエルは互いに顔を見合わせる。そのまま二人してヨハンを見た。

「ラウルからのお願いってこともあるからもちろん受けるつもりだったけど、そもそもヨハンくんが困っているなら力になるわ。ねぇアリエル?」
「ああ」
「でも、一つだけ条件があるの」
「はい。なんでも言ってください」
「だがこれは難しい条件だぞ。果たしてクリアできるかどうか……――」

重たい口調でアリエルが話し始め、一体何を提示されるのかと遠巻きに見ていたレインが息を呑んだところで応接間のドアがガチャリと開かれる。

「楽しいご歓談中のところ、失礼します」

そこへネネが入ってきたのだが、久しぶりに会ったというのにどうしてこれだけ重たい空気になっているのだと。一体何事だとばかりに疑問符を浮かべるのだが、ここに至ってはネネは淡々と業務をこなすだけ。そのまま窓側へと向かうと、カーテンを開くなりすぐに窓を大きく押し開いた。外は既に夜。

「皆様……――」

同時に部屋の中に舞い込むのは香ばしい匂い。

「――……お話の途中だとは思いますが、食事の準備が整いました。温かい間にお召し上がりください。それと、生憎食堂だと全員分の席数が足りませんのであちらの方にご用意させて頂いております」

窓の外、街灯に照らされる庭に並べられたいくつものテーブルの前で大きく手を振るアイシャは満面の笑み。

「正直お客様にお料理を手伝っていただくなどということにはいくらか気が引けましたが、お客様自身が強く希望されましたのでああしてお手伝いして頂いております」

庭のテーブルに所狭しと並べられている食事。ネネはもちろん、アイシャお手製の料理の数々。

「これが条件だ」
「え?」
「私たちの歓迎会、開いてよね?」

指を立てるミモザが笑顔で言い放った。

「……もちろんですよ!」

難しい条件を提示する、とうそぶかれたのだと。
そうしてそれからは懇親を兼ねて、ミモザとアリエルとアイシャの歓迎会が開かれた。

「うそっ!? これアイシャちゃんが作ったの!?」
「信じられねぇ。こんなちっさい子が」

モニカやレインが舌鼓を打つ料理の数々。使用人として料理も作るネネも舌を巻く程。

「凄いでしょアイシャちゃん」
「どうしてあなたが威張るのよ」
「カレンさんにはできないもんねぇ」
「わ、わたしにだってできるわよ!」
「はいはい」
「だったら証明するために今から作ってくるわよ!」
「や、それは遠慮します」
「どうしてよ!」

軽妙な掛け合いをアイシャが口に手を当てながら笑っている。変わらないやりとり。

「楽しそうにしているようね」
「ああ。あの子も自然体でいられるようだしな」

笑顔で談笑するヨハンとカレン達の姿を見て満足気に頷くミモザとアリエル。

「でも、まさかそんなことあるだなんてねぇ」
「しかしそれだと私達を頼る事にも納得できるな」

護衛に関しては後付けの理由ともなるのだが、ローファスからすれば幸い。
護衛を兼ねられる実力があることは前提として、口外できない事情。元々孤児であった二人ではあるが、ラウルが信頼のおける二人であるならば、と。それは二人共に背景的な事情も理解していた。

「しかしまさかこの歳になってまたあの国に行くことになるとは思ってもみなかったな。厳密には帰る、と言った方が正しいのだろうがとても祖国だと呼べはしないからな」
「……そうね」

ミモザとアリエル、二人の生まれ故郷でもある国。パルスタット神聖国。

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