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神の名を冠する国
第六百三 話 閑話 アイシャの過ごし方①
しおりを挟むシグラム王国の中央区の屋敷。その屋敷の中で面白くない顔をしている少女が一人。
「あーあ。今頃ヨハンさん達、他所の国を楽しんでるんだろうなぁ」
机に顔を突っ伏しながら、足をぷらぷらと揺らして項垂れているのはアイシャ。
「パルスタットかぁ……。どんなところなんだろう? 行ってみたかったなぁ」
ここまで保護者として旅を共にしたミモザとアリエルの姿も当然そこにはなく、王都のヨハンの屋敷に一人おいて行かれていた。
「アイシャ様。どうかされましたか?」
手拭いで指を拭いながらネネが問い掛ける。
「ネネさん。そのアイシャ様っていうの、なんとかならないですか?」
王都を訪れて四日目。ずっとこの調子であった。
アイシャ自身、元々ただの村娘であり、孤児になった今では尚更そう呼ばれることがむず痒くて仕方ない。
「なんともなりません。アイシャ様はご主人様の大切なお客様ですので、丁重におもてなしを致しませんと。それが例え年端もいかない女の子であろうとも変わりはありません」
「…………はぁ」
盛大な溜息を吐く。
その様子を見るネネは僅かに周囲を見回した後、そっとアイシャの耳元に口を近付ける。
「イルマニ様には内緒ですよ?」
「え?」
「先程はああ言いましたが、アイシャ様さえよろしければ、いくらか不満を解消させることならできますが?」
「不満を解消させるって?」
「ええ」
僅かに小首を傾げるアイシと顔を離しながらニコリと微笑むネネ。不満の解消とは一体どういうことなのだろうか、と。
「少し、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「はぁ……? 別に暇してるので時間ならいっぱいあるんだけど?」
「ではすぐに手配してまいります。しばらくお待ちくださいませ」
そうしてニコリと微笑んだネネは軽く頭を傾けるとすぐに部屋を出て行った。
「手配って……なんの?」
まるで理解できないまま待たされることになる。
◆
それからおよそ一時間後。ネネに呼び出されるなり外に連れて行かれた。
屋敷の外、玄関で待ち構えていたのは馬車。見慣れない御者が手綱を握っていたのだが、明らかに気品が漂っているのが見て取れる。
そうしてわけもわからないまま乗せられる馬車はガラガラと走っていった。
「――……ここって…………?」
そうして少しの時間を要して来られたのはヨハンの屋敷よりも遥かに大きな屋敷。比べるのがおこがましい程の大きさ。門構えからして格が違っていた。
「こちらはランスレイ家のお屋敷になります」
「こんにちはネネさん!」
馬車を降りるなりランスレイ家の邸宅から駆けるようにして姿を見せたのは見た目アイシャと同じ年頃の少女。
「突然の訪問、失礼しますセリスお嬢様」
「そんなことないですよ。私もお待ちしておりました!」
「えっと……?」
困惑するアイシャの前に来るセリスは後ろ手に腕を組んで微笑む。
「こんにちは。私はセリス・ランスレイと申します。あなたのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「…………」
問い掛けられたのだが、アイシャは思わずその美しさに見惚れてしまっていた。
どう考えても気品溢れる衣装だけでなく、屋敷の規模からして大貴族なのだろうということは容易に想像できるのだが、それ以上に目を惹かれるのはバランスの取れた目鼻立ちに屈託のない笑顔。その笑顔を引き立てる綺麗な金色の髪。
何もかもが違う。似たような年頃のはずなのに、こうまでも自分と違うものなのだろうかと思わず卑下してしまう程。
「あの?」
そのアイシャの顔を覗き込むようにして疑問符を浮かべるセリス。
「聞いていますか?」
「え? あっ、何をでしょうか?」
「もうっ。やっぱり聞いていないじゃないですか。お名前を教えて頂けますか?」
「あっ……――」
チラリと困惑した眼差しで背後に控えるネネを見るのだが、目が合うネネは小さく微笑んでいるだけ。
「――……えっと…………あ、アイシャ、といいます」
「まぁ。素敵な名前ですね! ではよろしくお願いしますね、アイシャさん」
グッとアイシャの手首を握るセリスは力強く引っ張る。
「こちらです」
「ど、どこに!?」
半ば強引に屋敷の中へ連れられ、長い廊下を勢いよく走っていった。
「こらこらセリス。廊下は走るものではないよ」
「ごめんなさいアーサー叔父様」
「って、返事だけじゃないかい。お転婆もほどほどにねセリス」
「はぁい!」
廊下ですれ違う騎士姿の男の注意を意にも介さず駆け抜ける。
「そんなことだと、お嫁に行きそびれるよ」
その言葉を聞いたセリスは僅かに立ち止まり、衣装を靡かせながら軽やかに振り返った。
「その時はアーサー叔父様がもらってくださぁい! 振られたって聞いていますよ」
そのまま意地悪な笑みを向ける。
「それは違うよセリス。彼女には振られたというよりも、既に想い人がいただけの話さ」
「そういうのを振られたっていうんですよ、お・じ・さ・まっ」
「まったく。セリスには敵わないね。お友達に迷惑はかけないようにね」
「はぁい。行きましょ。アイシャさん」
溜息を吐くアーサーは背を向けて廊下を歩いて行った。
(あのアーサーって人、確かヨハンさん達の話に出て来ていた)
変わらず腕を引かれながら顔だけ振り返る。
全てを聞いたわけではないのだが、シグラム王国に戻ったヨハンが騎士隊長であるアーサーとも戦ったという事実。他にも聞くいくつもの戦いの数々は、学生という身分でありながらも特異な功績を残していた。
(こんなところに出入りしている人を相手にしていたなんて)
だからこそ今もああしてパルスタット神聖国へと向っている。結果自分一人だけ王国に置き去りにされていた。
(でもこれで何を解消できるっていうのかしら…………?)
未だに説明がない。わけもわからず連れられ、着いた場所は大貴族の屋敷。一体何が始まるのか不安でならない。
「ここですわ」
「い、いったいなにを?」
「あら? 聞いていませんの?」
目の前には大きな扉。セリスは両腕を使ってゆっくりとその扉を押し開ける。
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