S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百十七 話 裏側の動き

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ヨハン達がトリアート大森林で辿り着いた集落はイヌ耳族の村。
獣人の中でも穏健派であるイヌ耳族。

「ほぅ。ローズ殿が認めるということは相当な腕のようだな」
「ええ」

族長にヨハン達を紹介していた。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

族長の使用人であるイヌ耳族の女性によって差し出されるスープとお茶。

「ちょっとニーナ。行儀悪いわよ」
「だって美味しそうだもん!」
「ふふふ。遠慮なく食べてください」
「いっただきまーす!」

満面の笑みでスープをすすり始めるニーナに呆れるカレンは獣人の女性に小さく謝罪をしている。

「それに竜人族の娘に精霊使いか。これはまた奇妙な組み合わせだの。まぁせっかく訪れたのだ。ゆっくりとしていきなさい」
「はい。ですがすいません」
「ん?」
「そう言って頂けるのはありがたいのですが、僕たちがここに来たのは探している人がいたからなんです」

獣人の集落を訪れることが目的だったわけではない。

「どういうことだ?」

族長が疑問符を浮かべる中、チラとローズの顔を見る。

「実は、僕たちは数日前にシグラム王国からこの国に来ているのです」
「ふむ。これはまた遠方から」
「それで、この国の人たちが獣人の人達……赤狼族の人達と揉めている場面に二度遭遇しているんです」
「…………ふむ」

フォーレイの町の事件と先日の大森林の中で起きたイリーナの一件。

「確かに赤狼族が町を襲撃した結果、返り討ちに遭ったという報告は受けている。あれほど手を出すなと忠告をしておいたのだがな。しかしそれがどうかしたか? 他国の者であるお主等には関係なかろう?」
「私達が助けに入ったことがわかったからでしょ? ヨハンくん?」
「はい」

ヨハンの言葉を補足するようにローズが言葉を差し込んだ。

「なるほど。それで既知の仲であるローズ殿を訪ねて来たというわけだな」
「はい。そうなんです。でも、どうしてローズさんがここに?」
「それは、私がここの護衛をしているからよ」
「ペガサスが護衛、ですか?」
「うーん。厳密にはちょっとだけ違うのよ」
「ローズさんがこのイヌ耳族の村で、他の三人も別の村の護衛に回っていることですよね?」

自身の器を取ろうとしているニーナの頭を押しのけ、カレンが口を開く。

「その通りです。カレン様」
「えっと、それって?」
「他の三人の気配が村のどこにもないもの。そうなると可能性は出払っているか、他の集落にいるのかのどちらか」

くいッとスープを飲み干し、ニーナが口を半開きにさせてがっくりと頭を落とす中、指を一本立てるカレン。微精霊を使って集落の雰囲気を探っていた。

「で、昨日のことを踏まえると、他の集落に向かっていると考えるのが妥当よ」
「ええ」
「ただ、わからないのがその目的ね。この感じだと、赤狼族を助けに入ったのは他からの依頼ではないのかしら?」
「流石ですカレン様。仰る通りです」
「それってつまりこういうことですか? 人間と敵対関係にある赤狼族を止めに入るように依頼を出されているけど、既に問題が起きていたから、とにかく救出だけをしたって」
「大筋はあっているわね」
「その依頼を出したのは、儂なのだが、問題も多くてな」
「聞かせてもらってもいいですか? 僕たちが受けた依頼と無関係ではないのかもしれませんので」

水の聖女クリスティーナ・フォン・ブラウンから受けた依頼。この国で起きている不穏な動きの原因を捉えるということ。
首都パルストーン――引いてはミリア神殿でその気配は見られるのだが、この様子だと獣人とのいざこざが無関係とも思えなかった。

「ふむ。では話してやろう」
「いいのですか?」
「構わんさ。彼らは先日奴らを止めに入ったのだろう?」

射抜くようにヨハンへと視線を向けるイヌ耳族の族長。すぐさま笑みを浮かべる。

「であれば、赤狼族に代わって恩を返さねばなるまい。あ奴らが素直に応じるとも思えんでな」

そうして先日のやりとりに至る経過を聞くこととなった。





ミリア神殿内にある広大な空間。
その中央で、カツカツと足音を鳴らしながら階段を一段ずつゆっくりと上がっていく女性。風を連想する紋様の刺繍が入ったローブを揺らしている。
長い耳を隠すことなく、翠と紅の二色の髪色はパルスタット国内に留まらず、他国でも相当に珍しい。
小さく口角を上げながら階段を上がるイリーナ・デル・デオドール。

風の聖女であるイリーナ。上り切った先は周囲を見下ろせる高さであり、誉れある聖女がまるで高説でもするかのような場所。しかしそうならないのは誰もが知っていた。

「まさかこんなに早くこの場所に立とうとはな」

小さく漏らすイリーナの声。いつかこの場所に立つかもしれないということは覚悟していた。しかし思惑はまるで違っていた。予定では獣人の地位を確立させるための答弁の時のため。

(すまないクリス。こんなことになって)

正面を見ると、イリーナよりも少し高くに複数の人物。顔を見るためには僅かに顎を上げる必要がある。左右の離れた場所にはまるで観覧席かのような人影。何人もの神官。

「それでは間もなく開廷します」

響く声は大神官のもの。
イリーナが顎を上げ、ただひたすらに見つめるのは真正面の二つの場所。その一つには声の主である大神官と、パルスタット国王であるピーター・ヒューストン。隣の椅子に並ぶのは教皇ゲシュタルク・バウ・バーバリー。

「これもいつぶりになるか」
「テトの時以来になりますな」

ゲシュタルク教皇がチラと視線だけを向けるのは並べられた五つの椅子が置かれた場所。その内の一つは空席になっている。

「あらあらぁ。イリーナは堂々としているわねぇ。もう少し戸惑っていると思っていましたのにぃ、さすが聖女の一角ですわねぇ。ねぇクリスティーナ」
「…………はい」
「さて、どういった弁解をするのか見物さね」
「三人とも。判決は厳正に、公正にお願いしますね」

並び座っているのは四人の聖女。
光の聖女アスラ・リリー・ライラック。土の聖女ベラル・マリア・アストロス。火の聖女バニシュ・クック・ゴード。水の聖女クリスティーナ・フォン・ブラウン。
その背後にはそれぞれの筆頭守護聖騎士が立っていた。

(カイザス。どうして何も言わない?)

空席の後ろにはイリーナの第一聖騎士であるカイザス・ボリアス。無言を貫いている。

「リオン。貴様の出番はない。大人しくジッとしていろ」
「……はい」

リオンを睨み付けながら声を放つのは、水の聖騎士のリオン・マリオスの兄であるユリウス・マリオス。

「あらあらぁ。ユリウスは相変わらず弟さんに厳しいのねぇ。もう少し優しくしてあげたらいいのにぃ」
「申し訳ありませんベラル様。なにぶん、出来損ないにつける薬を持ち合わせておりませんので」
「まぁまぁ。そんなこと言わないで、弟君もここまで頑張って努力したのよぉ? そこは認めてあげなさぁい」
「はっ! 善処します!」

軽く頭を下げるユリウスはそのままリオンを睨みつけていた。

「それではこれより風の聖女、イリーナ・デル・デオドールに対する裁定。聖女裁判を開廷する!」

エチオーネ大神官の声が響き渡る。

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