651 / 724
神の名を冠する国
第六百五十 話 ……二つの蛇
しおりを挟む「フム。何やらいやらしい魔力の波動を感じるな」
未だにサナが疑問を抱く中、サナへ笑みを向けたウンディーネは即座に振り返ると手をかざした。その先にいるのはまるで魔獣と化したサラマンダー。
「去れッ。この痴れ者がっ!」
ぽぽぽっと、いくつもの泡が生み出されると、サラマンダーの身体へと取り付いて行く。
「ギャ?」
突然泡が付着したことにより、周囲は疑問符を浮かべるのだが、その疑問はすぐに目の前で起きたことによって払拭される。
「魔族に影響を受けるなど、恥ずべきことと知れ」
ぎゅっと手の平を握ると同時に、泡はサラマンダーの身体を宙に浮かせた。ぶくぶくと泡に包まれサラマンダーの身体を覆い隠したかと思えばそのまま泡が大きく弾け飛ぶ。
「なっ!?」
バニシュが驚きに声を上げるのは泡が弾けた先、自身の召喚獣であるサラマンダーの姿がどこにもなかった。
「貴様が術者か。邪魔なのでアチラへ帰ってもらったぞ」
「…………」
アチラ――ウンディーネが差す言葉の意味。精霊も召喚獣も生まれ落ちる先は同じ。精霊界とも呼ばれる異界。人間には未知の領域なのだが、それは確かに存在する。
「……人語を話す召喚獣だと?」
憎悪の視線をウンディーネへ向けた後にサナへ向ける火の聖女バニシュ・クック・ゴード。
「まさかあのような小娘がこれだけ高等な召喚獣を使役できるとは…………」
ふよふよと高慢な態度を見せながら宙に浮くウンディーネはバニシュの言葉に目を細めた。
「ふん。貴様は我を召喚獣と呼ぶか。だがそれもまた良し。そういう者がいることは我も承知しておる」
「ちっ。何をごちゃごちゃと言っているさねッ!」
ゆらめく炎を纏うバニシュはその炎を格段に大きくさせる。まるで薪を盛大に燃やすかのようにパチパチと弾けさせ、火の粉が宙を舞っていた。
「マズいッ!」
大きく声を発すカレンなのだが、防御障壁の展開がもう既に間に合わない。
「神罰をその身に刻むがいいッ!」
カッと辺りを包み込む光。周囲を舞っていた火の粉のどれもにバニシュの魔力が込められていた。
「あーっはっはっはっは!」
高笑いを上げるバニシュ。これで全てを燃やし尽くしたのだと。
「――……は?」
しかしバニシュの思惑通りにはならなかった。
「ど、どうして何も起きないさね!?」
宙を舞う火の粉はいつの間にか青白い光沢に包まれている。それはウンディーネが生み出した無数の泡。
「愚かな人間よ。我を前にその程度で何をするつもりだったのだ?」
「ぐっ! 舐めるなッ! 神の力がこの程度なわけがないさねッ!」
ゴオッっとゆらめく炎を真っ直ぐ上方へと伸ばす。
「地獄の業火は天上の生物をも焦がし尽くす。どれだけ生命を燃やし続けようとも尽きぬことのない憤怒の炎よ」
炎のゆらめきはまるで生き物かのように見える動きを見せていた。同時に炎は嫌悪感と悍ましさを見せている。
「ほぅ。なるほど、魔の力を宿しておるのだったな」
バニシュから伸びる炎は黒く変色し、巨大な蛇を形作っていた。
「我、バニシュ・クック・ゴードの名の下に命ずる」
目を血走らせ、重く呟くバニシュ。
「火愚殱血。この場を燃やし尽くせ」
テトとサナとカレンが呆気に取られる程の禍々しさ。それはまるで地獄の業火。
「そこの精霊使い」
「え? わ、わたし?」
突然声を掛けられたカレンが間の抜けた声を発す。
「死にたくなかろう」
「え、ええ」
「ならば我に力を貸せ。アレだけのものともなればサナとこの地のマナだけでは少しばかり足りんようでな」
「…………」
その言葉の意味をテトとサナには理解できなかったのだが、カレンにははっきりと理解できた。
「できぬのであればお主等を連れてこの場を離脱する」
「できるわ」
即答。迷う必要もない。精霊に関することは誰よりも理解している自負がある。
(そうよね、ティア)
胸元の翡翠の魔石を握りしめ、ウンディーネの魔力の波動を感じ取った。
「サナ」
「大丈夫。わかってます」
数瞬遅れてウンディーネがカレンに掛けた言葉の意味を理解するサナ。
「うむ。やはりお主はサーシャによく似ておる」
「え? サーシャって?」
聞き覚えのない名。しかしオウム返しかのように呟いた名が誰なのかということまではわからずとも、それがかつてウンディーネと深い絆にあった者の名なのだということはウンディーネが浮かべている柔らかな笑みを見ればすぐに察せられる。
(ありがとう。ウンディーネさん)
この局面を打破するための力を貸してくれて。
(そう。私は誰かと一緒に強くなる)
自分だけで届かなければ誰かと手を取り合えば良い。
「カレン先生」
「違うわよサナ」
「え?」
「今は生徒と教師ではないわ。あなたとわたしは共に戦う仲間よ」
その言葉を聞いて思わず呆気に取られるのだが、移り変わるのは笑顔。
「……はいっ! カレンさん。お願いします」
「うん」
返事を返すカレンも笑顔。そうしてサナの横に並び立ち、互いの手の平を重ね合わせた。
「やるわよ」
「任せてください!」
同時に最大限に魔力を練り上げる。水の操作術に関しては随分と上達したものだと思うのは、あの学年末試験で最後に繰り出した魔法【水流の顎】。
あの時点ではあれが生み出せる最大の魔法だと思っていたのだが、ここに至ってはその先、まだ上を目指せるのだと。
(わかる)
何を説明されなくとも、何をしなければならないのか、を。
左手のブレスレットを通してウンディーネの魔力が教えてくれる。右の手の平を通して感じるカレンの魔力がそれを可能にしてくれる。
「いきますっ!」
「ええ」
不思議とその言葉が胸の奥から込み上げて来た。カレンにとっては二度目の感覚。
「生命の源たる水よ」
「生きとし生ける者達へ届けられる愛の水よ」
二人で紡ぐ言霊。
「どれほど小さな命であれども育むことを厭わない水」
「時には名もなき一輪の花を照らし」
「その道筋を華々しく煌めかす」
「運命を導く役割を担う水」
共に反対側の手を前方に押し出し、手の平を重ね合う。
その結果、二人の左右の手の平が互いの手の平と繋がれる。円を描くようにして流れるように二人の間を循環する淀みのない魔力。その流れによって二人の目の前に生み出されるのは純粋な水の塊。
「時には荒ぶる牙となりて」
「自らが生み出した生命をもその手に掛ける」
大気中の水分すらもその塊の中に粒子として取り込み、瞬時に凝縮させていった。
「なにをしようとしているのか知らないが、お前達はここで神の力を得たウチによって死ぬしか道は残されていないさねッ!」
バニシュが錫杖を大きく振りかざし、赤黒い炎の蛇【火愚殱血】が動き始める。
「神の愛をその身に刻み、永久の眠りに落ちるがいいッ!」
怒声を発しながら火愚殱血の炎が視界を埋め尽くした。
「我、サナの名の下に生まれ落ちん」
「我、カレンの名の下にその名を与えん」
直後、凝縮させた水の塊が形作るのは青白く輝く水の蛇。
「おおっ。これはなんと見事な」
その輝きを見るテトが心奪われる程の美しさ。神々しさを感じさせる。
(サナっ!)
(カレンさん!)
共に横目にチラと目線を合わせる。大きく息を吸い込み、生み出されたその神秘的な水蛇の名を口にする。
「「――……彲」」
11
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる