S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百八十九話 水の聖女の意地

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テトとバニシュとアリエルが戦う教皇の間は、飛び交う魔法により大きく損壊していた。
平時であればこれだけの騒ぎになればすぐに神兵が多く駆け付けるのだが、神都パルストーン自体にはもうそのような余裕などない。それほどの未曽有の事態に見舞われている。

「これは厄介だな」

そうした中、アリエルの目の前に立つ二人の光の聖騎士。白と黒の鎧。

「想像以上の強さだな貴女は」
「それはこちらの台詞だがね」
「我等二人を相手にして尚もそのような軽口を吐けるとは恐れ入る」
「そうしていないと耐えられないと思ってくれて構わないさ」

そうしてアリエルが向ける視線の先、聖騎士二人の後方には光の聖女アスラ・リリー・ライラックの姿。

「あなた程の武人、ここで死なすのは惜しいです」
「私が死ぬことが前提なのだな」
「ええ。違いますか?」
「死力を尽くしてでもそこは通らせてもらおう」
「そうですか。やはり対話は無駄なようですね。そもそも、ここで貴女が私たちを倒せたとしても、あなた達には彼女を救い出すことなどできないでしょう」
「言ってくれる」
「事実です」

確かに囚われているモニカとエレナを助ける手立てに思い当たることがあるわけではない。

「……そうかもしれないが、やってみなければわからないだろう」

とはいうものの、聖騎士二人の強さが相当なもの。アリエル自身ここへ来た時点ではまだ幾らか余裕はあったのだが二人同時に相手取ることがそもそも難しい。

「これは冗談ではなく、久々に死ぬ気でかからないといけないみたいだな」

時間的猶予が残されていないのは、光の聖女アスラの奥に浮かぶモニカとエレナが放つ光の規模からしても予想出来ていた。

「早くしてくれないかミモザよ」

反対側、自身の後方で捕らえられている元相方の姿を見る。
そこでは土の檻から脱出を試みているミモザ達の姿。

「これは!?」
「なにか見つけた?」

ミモザとカレン、二人で牢の解除の方法を探っていた。

「はい!」

力強く声を発すカレン。

「だったら、そっちは任せるわ」

すぐさま振り返るミモザ。

「ねぇニーナちゃん、お願いがあるの」
「ふぇ? お願いって?」
「ここを出た後のことよ。そっちのドラゴンにも手伝って欲しいの」
「ワレに何をしろと言うのだ?」
「勿論あなたにしかできないことよ」
「ふむ」

土の牢を解除したあとのことを、ミモザを中心として話し合っていく。

「それで、何を見つけたんですか?」

横からカレンに問い掛けるサナ。行っていたのは牢に流れる魔法式の解析。

「あの子、最後の力を振り絞って自分の魔力を紛れ込ませていたのよ」
「あの子って……――」

カレンの言葉の先の女性――それが誰の事なのかということはサナにもわかっていた。
水の聖女クリスティーナ・フォン・ブラウンを見るのだが、その姿に思わず胸を痛める。未だにクリスティーナは血を流したまま倒れていた。今は血を流し過ぎたのか、意識を失っている。

(あれ?)

しかしどうにも妙な感覚を得た。明らかに不自然。
地面を流れる血が、どうにも土の牢へと向かっている。そこから推測されるのは先程のカレンの言葉の意味。

「――……もしかして、自分の血を使って!?」
「その通りよ。ほんの小さな力だけど、あの子の力が綻びを生んでいるのよ」

複雑難解で強固な魔法式で展開された土の牢。
そこへクリスティーナの魔力が割り込むようにして介入していた。

(ほんと、恐れ入るわ)

生死を分かつこの状況に於いて、いくら水に秀でているとはいえ自身の血を操って土に混入させるなど。

(ありがとう)

水の聖女の成せる業。
これだけのことができるのであれば、たとえ自分自身への治癒魔法ができなくとも少なくとも自然治癒力を上げて意識を保つ程度であればできたはず。

(絶対にあなたも助けるわ。だから、今は我慢していて)

モニカとエレナだけではない。可能な限り多くの人を助ける。

「もう、あんな思いは絶対にしない!」

脳裏に甦る記憶。助けたくとも助けられなかったサリーのことを思い出していた。
あの時のような後悔をしないためにも、全員でここを生きて帰るのだと。
精神力と集中力を最大に発揮するカレンの決意と共に胸の翡翠の魔石が仄かに光を宿す。

「ここっ!」

瞬間、クリスティーナの血の魔力によって得られた綻びの中心部に辿り着いた。

「あとはここへ」

ようやく見つけた点。そこに魔法式を壊すための魔力を流し込めばいいだけ。だが強固に張り巡らされたこの魔法式へはカレンの魔力量ではまだ足りない。

「サナ? あなた魔力はあとどれくらい残ってる?」
「え? あっ、いえ、私はそんなに……」

伏し目がちになるサナ。地下水路での戦いで大きく消耗してしまっている。

「そう。それは仕方ないわ。あなたには十分助けられたから気にしないで」
「…………は、ぃ」

サナが負い目を感じないように声を掛けたのだが、それでもカレンは歯痒さが残った。

(自分の力不足が憎い)

それというのも、そもそもカレン自身の力不足によるもの。本来であれば不足している分の魔力は微精霊の力を使えば必要な量が足りるのだが、これだけ混沌とした場であるため微精霊は逃げるようにしてもうほとんどがこの場からいなくなっている。

「だったら、ニーナちゃんやあの人たちの魔力は使えないんですか?」
「難しいわね。できればサナの方が親和性が高いから良かったのだけど」

魔力自体にそもそも相性がある。個性とも言えるそれは魔力の波長が合わない者同士では相乗効果が薄い。サナとは合同魔法が扱えるほどに良かったのだが、ニーナとは明らかに合わない。というよりも、ニーナの場合は竜人族という種の特性上、魔力の流れが不規則であり、量もカレンに比べて膨大。荒れ狂う魔力の性質の制御をしなければなかった。時間をかければそれもなんとかなるかもしれないのだが、今はそのような余裕などない。人化したギガゴンにしても似たようなもの。
あとはミモザになるのだが、ミモザの場合は少ない魔力量を繊細かつ緻密な操作で扱っているので魔力が多くあるわけではない。

「こうなったら四の五の言っていられないわね」

とはいえ、他に手立てがあるわけではない。ミモザの魔力であれば恐らく少なくとも波長が合うはず。

「今の話、もしかしてアレがあれば解決するのかしら?」
「「え?」」

結論を出したところで不意に背後から聞こえる声。

「まったく。何をしていますのよこんなところで」

カレンが振り返った先、呆れるように声を発しているのはマリンだった。

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