712 / 724
神の名を冠する国
第 七百十一話 アスラ・リリー・ライラック
しおりを挟む(やはりここが障害となりますか)
視力を失ったアスラに伝わる空気感。唯一ここだけが不安材料だった。
(ここが分岐点……ですね)
今はもう光を失っているアスラの両の眼である魔眼。
左の魔眼の効力は未来視。神の声が聞こえると噂されていたアスラなのだが、その理由はこの魔眼による未来視によるものであった。
未来視の魔眼はアスラが先天的に持って生まれたものである。
そしてもう一つの右目の魔眼の効力は魔力の譲渡。他者の魔力をも移すことができるそれは云わば外法。ゲシュタルク教皇と魔族の共謀によりアスラへと埋め込まれた後天的な魔眼。
右目の魔眼を用いて教皇へ魔王因子を移していたのだが、魔王因子ともなる巨大な魔力を移すともなれば、代償に対価として魔眼を差し出さなければならなかった。
しかしアスラは未来視の魔眼を先に差し出している。それにも理由があった。そうしなければ、この局面に辿り着くことはなかったためである。
教皇と魔族によりアスラを傀儡としようとすることは未来視の魔眼により察知できていた。逃げることを許さないのはそれが未来視であるからこそ。断片的にしか視ることのできないその未来は、いくつか分岐があるにせよ選んだ未来に確実に進む。
仮に逃げていたとすれば、捕まった後に自分は本当に意識を失くした人形にされ、最終的には死にゆく運命。
そうなれば、予め傀儡のように振る舞えばいいだけ。その先の未来にこそ希望があるのだから。
そして左の魔眼に関しては、表向きには未来視とは伝えておらず、魔力を透視できるとだけ伝えていた。
実際、アスラは生まれつきその能力を備えているのだが、それは魔眼によるものではなく、魔力を肌で感じるのみ。元々五感が他者より遥かに敏感だったこともあり、それを紐付けて尤もらしい理由を擁していた。取って付けた理由に過ぎない。
そうしたことにより、未来視ができるアスラからすればここまでの局面は想定内。
確かに聖都のこの状況に心が痛まないこともない。だが、それよりも凄惨な状況を未来視により何度も視てしまっているのだから。それらの未来に比べれば今の状況の方が遥かにマシ。正直なところ死人も少ない。
しかし、ここから先は未知の領域。予め未来視で視ることができたのはここまで。
『あなたは仲間の力を借り、この局面を打開します』
ヨハンにああは言ったものの、確証はない。素直に言うなれば、これでダメならば幾つもあった世界崩壊の未来へと繋がっている。
「アスラ様」
そのアスラの不安を感じたリンガード・ハートフィリアが小さく声を掛けた。アスラは小さく首を振る。
「私たちに出来ることはもうありません。それよりも、あの魔族は?」
「はっ。それが、どこにも奴の気配はありません」
「…………」
あの魔族――ガルアー二・マゼンダはどこかに姿を消しているのだが、状況的に必ずどこかで見ているはず。
「気を緩めず、周囲の警戒を」
「はっ!」
リンガード・ハートフィリアは、もう一人の黒鎧の第二聖騎士と共に周囲の索敵を行っていた。
「神様。どうか私たちに明るい未来が訪れますように」
天に届けるように、錫杖の音を鳴らしてアスラが祈りを送る。
「――……だめ。やっぱり私にはできないわ」
ヨハンの背に手を重ねているカレンは小さく首を振った。
「ごめんなさい、こんな大事な時に」
「ううん。カレンさんのせいじゃないよ」
「でも……」
声を掛けてくるヨハンなのだが、その優しさがまた胸に突き刺さる。
「僕がやってみるよ」
「……お願い」
そっと背中から手の平の感触が離れるのと同時に、光属性の魔力を練り始めた。
(――…………ダメだこんなんじゃ。上手く魔力が練れない)
ただでさえ六人の魔力を受け止めている状態で、二つ目の属性である光属性の魔力を練ることが出来ないでいる。
それだけでなく、下手に体内の魔力を動かそうとしようものならば、ここまで蓄えた魔力が暴発する気がしてならない。
(くそっ!)
何か他に方法はないものかと、思考を巡らせるのだが良案が思いつかない。
「……ヨハンくん、どうしたの?」
その状況を小さく呟きながらも静かに見守っているサナ。
「え?」
チラと視線を向けた左手のブレスレットなのだが、青白い光を放っていた。
「ちょ、ちょっとどういうこと!?」
気付く範囲だけで、ここに至るまで何度か光を放っていることはあり、そのどれもがウンディーネが反応をしているのだと、ようやく理解している。
「どうかしたの? サナ?」
「そ、それが、ウンディーネさんが――」
ナナシーの問いかけに応えようとした瞬間、ブレスレットは一際大きく光り輝く。
「う、ウンディーネ……さん?」
全く魔力を流し込んでいないというのに、ウンディーネは既にその場へ顕現していた。
「これは…………どういうことじゃ、サナ?」
「え? これって?」
明らかに深刻な声色を見せているのだが、眼前のウンディーネは視線を後方へと向けており、その顔は薄く笑みを浮かべている。
「まさか、こんなことが起きようとは」
「何を、言ってるの?」
言葉の意味が理解できず、ただただウンディーネの視線の先へと顔を向けると、そこには本来であれば立ち上がることのできない人物がゆっくりとこちらへ向かって歩いて来ていた。
周囲も突然ウンディーネが姿を見せたことに驚きつつも、同じように視線を向ける。
「どう、して……?」
カレンも釣られて思わず視線を送ったその先には、悠然と歩いて来る水の聖女の姿があった。ぽつりと小さく呟く。
「しん、じ……られ、ない。どうして、どうして今なのよ…………――」
同時に抱くその感覚。衝撃に身を包まれ、複雑な表情を浮かべながら頬を伝うのは一筋の滴。
「――……ティア」
13
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる