S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第 七百十五話 代理教皇

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かつてない未曽有の事態が起きた聖都パルストーンの騒動から三日後。
騒動を収めるのに多くの神官たちが奔走することとなる。そしてその陣頭指揮はテトが担っていた。本来指揮を執らなければならないゲシュタルク教皇は混乱の最中に命を落としたと伝えられており、嘆く神官も多数いた。しかし嘆いている暇もない程、聖都の立て直しを図らなければならない。犠牲は国中の至る所で見られている。
いち早くパルストーンから避難していた王族や貴族にも逃げ遅れによる多少の被害は生じているのだが、命に関する被害は国民や獣人の方が圧倒的に多かった。

「それにしても、父さんたちがそんなことをしていたなんて」

崩壊を免れた宿の内のひとつであり、その一室でベッドに腰を下ろしているのはヨハン。

『あとのことはこちらに任せて、ゆっくりと休んでいるといい』

ミリア神殿を出て街の事態を把握しようとしたところで止められる。十分以上に役目を果たしたのだと。騒動の収拾及び今後の対応については国家規模の案件になるため、他国の人間であるヨハンには出る幕がない。
それでも満身創痍の身体の中、道中で困っている人がいれば手を貸していた。
街中の至る所に姿を見せていた異形の者、魔族は程なくして掃討される。一時はその数を膨らませていたのだが、徐々に数を減らしていたのはシルビアの見解によると魔王の影響が沈静化されたことによるものだろう、と。

そうして聖都の状況で聞き及んでいることは、パルストーンの住人の大半が住居を失ってしまい、一時的に周辺の街々へ受け入れが要請されている。全員を受け入れてもらうことは困難だったのだが、これだけの事態が起きたにも関わらず、中にはトリアート大森林にある獣人の村々に身を寄せている者もいた。それらは元々獣人と懇意にしていた者達。

いくらかの反感があるのは、人間と獣人との軋轢が根強く残っているためだが、それでも反対を押し切って共存の道を探るのはイリーナとレオニルを始めとした働きかけがあったからこそ。獣人との共存を願っている者は水面下では大勢いる。これまで表立って先陣を切って動いていた風の部隊だけではなく、半分にも満たない数だが、多くの国民にとって獣人という存在は既に受け入れられていた。

それでも今後のことは慎重に話し合っていかなければならないのはたとえ陰謀があったとはいえ獣人がパルストーンに攻め入ったのは事実。このまま謝罪だけでは済まない部分もある。
ただ、既にアトムやイリーナ、レオニル達を始めとして、多くの人達が手を取り合って聖都の復興に取り組んでいた。
加えて、バンス・キングスリーが族長を降り、レオニル・キングスリーが次の族長に就いている。これが示す意思は、人間と友好関係を築くということに他ならない。
まだ共存への遠く険しい道は続くのだが、恐らくそれほど厄介な話にはならないのだろうということは先日お礼の訪問に訪れていたレオニルとイリーナの言葉によるもの。

「仲良くなれればいいけど」
「ヨハンさん。そろそろ行きますわよ」

部屋のドアがノックされ、姿を見せたのはエレナ。

「エレナ。もういいの?」
「ええ。わたくしの仕事はそれほど多くはありませんもの」
「でも大変だったんだよね?」
「それはもちろん」

エレナは騒動の翌日よりマリンと共にシグラムからの正式な外交官としての任に就いていた。騒動の中心にいたことと、シグラム王国の王族であることにより、二人の決定はシグラム王国の総意と見なされることとなる。これに関してはガルドフとシェバンニの口添えもあった。

「じゃあ、いこっか」

そうしてエレナと二人で向かう先はミリア神殿へ。
今後のことについて国家間の話し合いが行われることとなっていた。





「でも良かったね。クリスも無事で」
「ええ。さすがは精霊王様ですわね」

セレティアナによってなんとか命を繋ぎとめていたクリスティーナ。意識を取り戻したのは丸一日経ってから。まだ絶対安静のため直接会うことは叶っていないのだが、クリスティーナから離れてカレンの下に戻って来たセレティアナが断言するのだから間違いはない。
そうして思わず笑みがこぼれる。

「それにしても、エレナがティアのことを精霊王様って呼ぶと、きっと嫌がると思うなぁ」
「確かに聞いている通りの方でしたらそうですわね。正式に挨拶を終えればそれなりの関係でいさせてもらいますわ」
「うん。その方が良いと思うよ」

そうしてパルストーン内を歩いていった。
騒動からまだたったの三日。街中の至る所に被害が見られる。それでも精力的に働く人たちを見れば、この国は大丈夫なんだと。しっかりとした強さを持っているのだと感じた。

「へいそこのキミ達。さっきボクの話をしてたかい?」

不意に眼前に姿を見せる小さな少女。妖精と言われても受け入れられるほどの小ささ。

「してたけど……って、あれ? どうしてその大きさなの?」

精霊王としての力は取り戻しているはず。
セレティアナはヨハンの疑問に対して、腰に両手を当てると大きく踏ん反り返った。

「決まってるじゃないか。この方が可愛らしいだろ?」
「…………あ、そぅ」

堂々と言い放つ様に、エレナも呆れる。本当に聞いている通りの性格なのだと。

「ねぇティア。何を遊んでいるのよ」
「ちょ、ちょっとカレンちゃん!」

その首根っこをカレンが摘まむ。

「おはようヨハン。今日は兄さん達も来るみたいよ」
「おはようございます、カレンさん。そうなんですね」
「まぁ、さすがにこれだけの事態、わたしとエレナとマリンさんだけじゃ話をまとめきれないもの」

溜息を大きく吐くカレン。
カサンド帝国、元ではあるが帝位継承権第一位であったラウル・エルネライも本日の会議に同席するのだと。他にはエルフ族を代表してクーナが参加することになっていた。アトム達はめんどくさいので参加はしないのだと。復興に手を貸している。

そうして一時間後、三か国による会談が始まることとなった。





会談が終わるまでヨハン達はミリア神殿にて待機することになっている。それまでの間、神官より街の現状について聞けるだけの話を聞いていた。

「お待たせしましたヨハン様。こちらへどうぞ」

しばらく後、会談が終わり呼ばれた先は謁見の間。

「ん?」

中に入るのだが、明らかに空気が悪い。

「どうしたのレイン? なんか雰囲気が……」
「んあ?」

謁見の間には既にレイン達の姿があり、そこには他にも多くの人の姿もあった。

「よぅ。身体は大丈夫か?」
「うん。もうだいたい動けるよ」
「相変わらず頑丈だよなお前は」
「で、さっきのだけど」

目線を動かし、周囲を見る。明らかに睨みつけるようにしてこちら側を見ていた。

「あぁ、まぁ、俺のせいかな?」
「何かしたのレイン?」
「あん? 何にもしてねぇよ。ってか、なんもしてねぇのはあいつらか。だいたい、最初にあいつらが俺達にいちゃもんをつけてきたんだよ」

他国の人間が内政に口を出すな、と。

「ほんで腹立ったからさ、だからさ、お前達みたいに偉そうにしてるだけで国を守れんのかって言ってやったんだ」

再び聞かせるようにして大きく声を発すレイン。高位の衣服を身に纏う神官たちが殺意を抱く勢いでレインを睨みつける。
そもそもレインに言わせれば、我先に逃げ出した王族など形骸化した王族に過ぎなかった。
それにはヨハンも同意する部分はあるのだが、わざわざ声を大にして言うようなことではない。

「そりゃあ怒るだろうね」
「でも俺は絶対に間違ったことは言ってないぜ?」
「そうかもしれないけど…………」

だからといって、わざわざ火種を撒くこともない。憎悪を元に魔族が生まれるのであれば不要な争いをする必要もない。

「じゃあヨハンは悔しくないのかよ」
「悔しいとか悔しくないとかじゃないと思うんだよね。あの人たちも僕たちも今は再興するために何ができるかを考えないといけないと思うんだよ」
「ヨハン君の言う通りだ」
「リオンさん」
「そこの少年もまた手痛いことを口にしよる」

リオン・マリオスとテトが共に姿を見せる。リオンは変わらず聖騎士の鎧を身に付けているのだが、テトは教皇の衣装を着ていた。

「確かに言い過ぎよレイン」
「いてっ。何すんだよモニカ」

レインがモニカによって拳骨を落とされるところで苦笑いするテト。

「申し訳ありませんテト様」
「かまわんさ。お前達はこの国の英雄なのだからな。多少の非礼ぐらいは受け入れよう」

元々パルスタット神聖国に於いて権力は三等分にされている。王族と教皇と五大聖女の三権。
その中で、表向きの国家としての立ち位置では王族が筆頭なのだが、実際は教皇の方が大きく上回っている。教皇はこの国に於いて国の顔とも云うべき象徴。

「さて。そろそろ始めるとするか」

その教皇の法衣を現在はテトが着ているということがその全てを現していた。

(それだけ教皇の持つ権力って大きいみたいだね)

騒動の後の処理についても、王族は優柔不断な判断しか下せなく、結局は教皇代理としてのテトが全ての指示を出す始末。その話も騒動の翌日には既に聞いていた。

「ではまたあとでな」
「はい」

リオンを連れ、前に向かい歩くテト。
そうして謁見の間では今回の騒動に於ける事の顛末の報告及び今後の対応について話されることになる。

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