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神の名を冠する国
第 七百十六話 変化
しおりを挟む「本当、便利ね飛空艇って」
「だね」
風に揺れる髪をかき上げるモニカと二人、甲板に出て二度目の空の旅を堪能していた。
(クリス……元気でね)
ヨハン達冒険者学校の学生たちも手伝えるだけの復興に協力していたのだが、それはあくまでも短期的なもの。飛空艇の準備が整った約十日後にはシグラム王国に向けて出立している。
しかし行きと違い、帰りはパルスタット神聖国の見知った顔が誰一人としていない。要職に就いている人たちが国を空ける暇もないほど復興に向けて尽力しなければならない。それはヨハン達の誰もが知るところ。結局クリスティーナとは忙しい中、僅かに時間を割いてもらって簡単な別れの挨拶しか交わせなかった。
『本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいものか…………』
口籠り、視線を彷徨わせるクリスティーナの肩に手をかける。
『気にしなくても良いよ。大変なのはそっちの方だと思うから。それに、なんか色々と融通をつけてくれたみたいだし』
詳しいことはわからないのだが、国家間で今回の一件を取り扱う必要があるのだと。
「でも、僕はどうなるんだろ?」
一抹の不安を拭えないのは、騒動を収めたことに見合う褒賞を国が用意し、それは断ることができないとマリンから断言されていた。
「前例からすれば、報奨金や爵位の授与になるかと思いますわ。あとは、一定の土地や領地の進呈などになりますが、そもそもそれは爵位あってのことになりますので」
独り言のように呟いていたヨハンの声が聞こえていたエレナが歩いてくる。
「そっかぁ……」
エレナはそう言うのだが、正直なところ、断れるものであれば断りたい。
「お前が嫌なら断ったっていいんだぜ?」
「またあなたはすぐにそんなことを言う。それはヨハンが決めることよ」
「父さん。母さんも」
笑顔で姿を見せる両親。
(そういえば、父さんも断ってたんだっけ)
両親の伝記であるアインツの冒険譚。あの中にその部分は克明に描かれている。侯爵令嬢である母を娶るのであればそれなりの地位に就かなければならないのだと。
(うーん……――)
確かに父のように、なりふり構わないのであれば断りたい。しかしそれを迷わせるのは隣に立つエレナの浮かない表情。王女であるエレナの顔を潰してしまうことをしてしまってもいいものなのか、と。
(――……まぁ、まだどうなるか決まったわけじゃないし、またその時に考えればいいか)
そもそも、褒賞が何かはまだ定かまっていない。レインはどんな褒賞がもらえるのかと期待に胸を膨らませているのだが。
「おにいちゃーん!」
不意に遠くから聞こえる小さな声。そこには気持ち良さそうに空を飛んでいる巨大な翼竜。
「…………ははは。そういや、この問題も持ち帰るんだった……」
何も頭を悩ませるのは一つだけではない。
ニーナがギガゴンと名付けた巨大翼竜はシグラムへと連れて帰ることになっていた。ニーナはその背に乗り、広大な空を目一杯に楽しんでいる。
しかしギガゴンの気難しさもまた問題となっているのは、ニーナ以外の人間は認めていないのだと。厳密には、あの場で戦っていた一同はそれなりに認めているらしいのだが。
そうなると風の部隊ではこれ以上の面倒は見られなく、野に放つしかないという結論に至ったのだが、それはニーナが猛反対しており、シグラム王国に連れて帰ると言って聞かなかった。
結局、人間の姿に変化できるということもあり、王都が近づけば人間の姿に変わるのだと。このまま王都に向かえば間違いなく飛空艇が襲撃されていると捉えられかねない。
「はぁ……。もうどうなってもいいや」
考えれば考える程に疲れるだけ。
ヨハンが盛大な溜息を吐く姿を見て、モニカとエレナは顔を見合わせて小さく笑い合っていた。
◆
そうしてシグラム王国へ帰還して早一か月。エレナやマリンから報告を受けたシグラム王国は大きく混乱を来していた。
それもそのはず。王位継承権を持つエレナがそれだけの事態に巻き込まれていただけでなく、ローファス国王は魔王の魂が消滅したことによる嬉しさのあまり第二王女であるモニカの存在を一部に明かしてしまったのだから。
いくら酒に酔った勢いとはいえ、国家機密に相当する事態に国が混乱しないはずがない。その場ではなんとかモニカの存在は四大侯爵を始めとした上位貴族だけに留められていた。
「ほんと、びっくりよ」
だがそれだけの噂に歯止めがかかるはずもなく、それから徐々にモニカの下へは幾人もの貴族や使者が訪れることとなる。
「お疲れさま。紅茶を淹れておいたわ」
「ありがとう、ナナシー。うーん、良い匂い」
カップを手に持ち、匂いを嗅ぐと同時に口をつけるのは、モニカはほとぼりが冷めるまでヨハンの屋敷で寝泊まりしていた。
「そういえばヨハン、確か明日よね? 王宮に行くのって」
呆れ眼で問いかけるのは、翌日ヨハンは王宮へと召喚されている。パルスタット神聖国に於ける今回の一件の総評を下すのだと。
◆
翌日、揃って全員で王宮へと足を運んでいた。
いつものように王宮へと入っていくのだが、これまで以上に幾つもの視線を感じる。
しかし注目を浴びているのはヨハンだけではなかった。
「あの子が隠し子だってよ」
「隠し子っていっても正式な王女様なんだろ?」
「魔王の魂の器となった子、ねぇ」
王宮に出入りしている者にとっては知らない者などいない程。
「一気に有名人になった気分よ」
「ははは」
「まぁ実際有名人になったんだろ、剣姫さん」
「うるさいわよレイン!」
「おぉ、こえぇこえぇ」
レインの軽口に対して睨み付けるモニカは、薄く口角を上げる。
「そんなことより、レインの方こそどうなったのよ、マリンさんと」
「えぁ!?」
不意打ちを受けたレインは途端に視線を彷徨わせた。
「その様子だと、逃げ回ってるようね」
「…………」
モニカの推察通り、レインはヨハンの屋敷に隠れるようにして度々逃げ込んでいる。
「だってよぉ、アイツ怖いんだぜ。急に人が変わったようにさ。なぁヨハン」
「…………ははは」
苦笑いでしか返す事ができない。逃げ込んでくるレインの理由はいつも同じ。
『お、おいっ! 今日も匿ってくれ!』
『またなのレイン?』
『しゃあねぇじゃねぇか!』
『もう諦めたら?』
『バカなこと言うなっての! 来やがった!』
窓から外を見ては身を隠すレイン。それはマリンによる求愛が激しい時だった。
パルスタットでの騒動の直後はマリンも公務に追われていたのだが、落ち着いた頃からその態度はこれまでとは一変していた。授業が再開した学内でも同じであり、周囲の学生たちは訝し気に見ているのだが、その発端となった出来事をレインは具体的には言いたがらない。
しかしヨハンはその場に居合わせていたシンとナナシーとリオンからいくらか聞いている。
(それにしてもあのレインがねぇ)
女性に対してはいつも鼻の下を伸ばしていたのだが、いざ言い寄られるとひどく身構えていた。公女とは身分が釣り合わないだとかなんとか言っているのだが、想い人が別にいるのもその理由らしいというのはカレンがこっそりと教えてくれている。
これまでのレインの態度を思い返してみても、確かにそのような節は何度となく見られていた。ナナシーの前で見せていた態度とも符合する。
(でも、実際どうするつもりなんだろ?)
レインはマリンの感情も一時の気の迷いだろうと言っていたのだが、日を重ねるごとにマリンの行動が激しくなっていることからして、少なくとも当分は冷めるとも思えない。
「ヨハンも他人事じゃないわよ」
「……うん」
そっとカレンが耳打ちするのは、ヨハンの下へ訪れる貴族の数も以前の比ではない。数で云えばモニカよりも上。それもほぼ全てが婚姻関係。正室にカレンを迎えると触れ回っているにも関わらずその数が日に日に増しているのだから不思議でならなかった。
「なんか、嫌な予感がするなぁ」
ポツリと小さく呟くのは、先日執事のイルマニがどうやら嬉し涙を流して手拭いで拭っていたことからして、本日の褒賞に関係していそうなのだと。
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