恋に不器用な俺と彼女のすれ違い

干支猫

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後悔

011 初詣(前編)

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初詣に訪れた神社は入り口よりも前から既にかなり人通りが多かったのだが、入り口である鳥居に着いた時点でも人でごった返していた。

「普段はこんなに人の出入りはないのにやっぱ多いな。はぐれないように気を付けないと」
「そうだな、これだけ多いと見つけるのにも一苦労しそうだしな」
「じゃあ固まって歩こうよ!」
「えっ!?」

神社に入るところで潤が口にすると光汰が同意するように相槌を打った。その言葉を聞いた杏奈は目を輝かせて固まることを提案すると、いの一番に光汰に寄り添うようにピタッとあさましくくっついた。

「(おい妹よ、そこまで堂々とできる勇気を兄にも分けて欲しいぞ)」

潤が杏奈の行動を見ながらそんな感想を持つ。
人が多いので良くて2列になれる程度で、4人が横一列に並んで歩くことなどできるはずがなく、杏奈の行動によって必然的に潤は瑠璃と並んで歩くことになった。瑠璃は先程の杏奈の行動を見て仰天していたのと同時に、隣を歩く潤の肩と二の腕が触れ合っては離れてを繰り返していた。

「瑠璃ちゃん、大丈夫?もしかして人混み苦手?」
「は、はい、あっ、い、いえ、大丈夫です、人混みとかは得意ではないですけど、と、とにかく今は大丈夫です!」
「?」

光汰と杏奈の後ろを歩くことになった潤と瑠璃なのだが、瑠璃は俯いてしまっており微妙に顔を紅潮させている。その様子を見て横で歩いている潤は少しばかり心配になったので声を掛けるのだが、返って来た言葉を受ける限りでは大丈夫そうだとは思う。それでも本当に大丈夫なのかと疑問に思う程度に気になる素振りを見せている。

「そっか、大丈夫ならいいけど、もししんどくなったら言ってくれよな」
「は、はい、ありがとうございます!」

そうして左右に出店が立ち並ぶ中を進んで行くのだが、数百メートルもある中を人の垣根を搔き分けるように進んで行く中で前に巨漢の男達が視界を遮った。

「おっと――」

ドンっとぶつかりそうになるので慌てて歩みを止めるのだが、横から「きゃっ」と小さく聞こえたので振り向くと瑠璃がよろめいていたので潤は慌てて手を伸ばした。
瑠璃は未だに俯いていたので目の前に入って来た巨漢に気付かずぶつかってしまっていたのだった。

潤は伸ばした手を瑠璃の背中に回して倒れるのをなんとか支える。大勢が歩みを進める中で微妙に歩を止めた潤と瑠璃を何事かと横目に多くの人がチラチラ見ながら通り過ぎていく。

「大丈夫か?」
「す、すいません、ちょっとぼーっとしていて」
「やっぱり気分悪いんじゃ?」
「い、いえ、本当にそういうわけじゃないんです」

瑠璃を支えるために少しばかり立ち止まっただけで既に大勢が潤たちの前を歩いて行っている。

「んー、ならいいけど、瑠璃ちゃんみたいな小柄な子がこんな人混みの中は大変だよな、それに光汰と杏奈ともはぐれたし、どうするか……」

ずっと立ち止まっているわけにはいかなかったので瑠璃の様子を確認して再び歩き始める。瑠璃は潤の背中を追うように同じように歩き始めた。

「これだけ人が多いとさすがに歩きながら電話するわけにもいかないしな―――仕方ないか一度抜けて落ち着いたところで電話してみるか」


―――すると。

潤の背中に少しばかり引っ張られる感触を覚えるので歩きながら後ろの様子を確認すると、瑠璃が潤のコートの裾を摘まんでいた。

「どうした?」
「あのぉ、ちょっと、さっきぶつかってしまったから……」

潤は瑠璃の様子を不思議がって歩きながら小さく問いかけたのだが、瑠璃は何か言いたそうに口籠る。瑠璃は潤と目を合わせてすぐに視線を逸らしたのだが、ほんの少しばかり考えたところで瑠璃の行動の理由を潤は何となく察した。

「あー、そっか、ごめん気付かなくて、ちょっとごめんね――」

潤はそう言うと瑠璃の手を握って人混みの中を歩きながら端の方に瑠璃を引っ張って行った。
突然潤に手を繋がれたことで瑠璃は潤の顔を戸惑いながら見上げるのだが、潤は人混みの隙間を探しているので瑠璃とは目が合わない。瑠璃は繋いだ手に視線を落としてその手をしっかりと見つめると力強くぎゅっと握り返していた。

「(やっぱりこれだけ人が多いとちょっと怖くもなるよな。さっきもこけかけたし)」

前に視線を向けながら手に感じる瑠璃と繋ぐ手の力が少しばかり強くなったのを感じながら潤はそんなことを考えていたのだが、瑠璃は手に落とした視線を再び潤の後頭部に向けている。


「―――はぁ。光汰も杏奈も出ねぇな」

そうして少しばかり時間を掛けて出店の隙間から脇に出て潤はスマホを取り出して光汰と杏奈に電話をするのだが全く出る気配がない。

「しょうがないからメッセージだけ残しとくわ」

潤はそう言ってスマホに光汰と杏奈宛に待ち合わせをしたいという旨のメッセージを送る。

「まぁこのままじっと連絡を待っていてもしょうがないから俺達は俺達で初詣に行こうか?」
「は、はい、あの……」
「ん?どうした?」

ただ黙ってここで返信を待っていても仕方ないので、瑠璃に提案するのだが、瑠璃は同意しつつも困った表情を浮かべている。一体どうしたのかと問いかけるのだが、瑠璃は未だに繋がったままの手に視線を向けた。

「あっ、ごめん、ずっと手を繋いだままだったな」

瑠璃の視線の先に潤も同じように視線を向けるとその理由がわかった。潤は慌てて瑠璃から手を放そうとするのだが、瑠璃はほどけかけた手を繋ぎとめるように再び力強く握った。

「えっ!?」
「い、いや、あの、その……、もし先輩が良ければですが、このまま手を繋いでいてもらってもいいですか?」
「まぁ……瑠璃ちゃんが嫌じゃなければいいけど」
「むしろ先輩は頼りになるのでお願いします!」

潤が思っていた理由と反応とは真逆の要求をされたのでわずかに戸惑うの上に、潤としてはずっと瑠璃と手を握り続けるなどとは微妙に困ることもあったのだが、状況が状況なだけに仕方ないと捉えた。

潤が困ったのは、瑠璃は妹の杏奈の友達とはいえ潤から見ても美少女に間違いがないのであった。
杏奈が言うには瑠璃は学校でモテているそうで、去年まで通っていた潤の学年にも瑠璃とお近づきになりたいといった連中が何人か潤に聞きに来ることがあった。それは潤の妹もまた美少女であり、瑠璃と仲がいいのは周知の事実だったからである。杏奈が元気溌剌の運動系美少女とするなら瑠璃は大人しい清楚系の美少女といったところか。

さっきは人混みから抜け出すために思わず手を繋いでしまったのだが、改めて冷静になって考えるとそんな美少女と手を繋いでいたとなればいくらか考えてしまうこともあるし、ここから先も手を繋ぐとなると少しばかり恥ずかしくなる。

瑠璃の要求に潤が応えると瑠璃は力強く潤としっかり目を合わせてお願いした。そこには先程まで俯いて元気がなさそうな様子が一切感じられなかったので気分が悪くはなかったのだと改めて認識する。

「じゃあ俺達もはぐれないように気を付けようか」
「はい!」

そうして再び人混みの中に潤と瑠璃は手を繋いで入って行くのだが、先程までは肩と二の腕が接触していた程度なのだが、明らかに先程とは違う感触を得ていた。

「(……やばい、当たってる)」

潤は基本的には人混みを進むために視線を前に向けているのだが、チラッと視線を瑠璃の方向に向ける。
視線の先には手をしっかりと繋ぐ瑠璃がいて、両者同意の下で手を繋ぐことになったからか、先程よりも潤に寄り添って歩いている。そのために中学生とはいえ瑠璃の豊満な胸が潤の肘上の辺りに仄かに柔らかみを感じさせていたのだった。

触れては離れるというなんともこう口には出せないその状況をどうしたものかと思うのだが、人が多過ぎるので離れるわけにもいかないしどうしようもないことを理解して雑念を振り払う。

「(俺……初詣に来て神様の前で何考えてんだよ)」

そうして雑念混じりに歩いていると本堂の賽銭箱の前に着いた。

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