11 / 112
後悔
011 初詣(前編)
しおりを挟む初詣に訪れた神社は入り口よりも前から既にかなり人通りが多かったのだが、入り口である鳥居に着いた時点でも人でごった返していた。
「普段はこんなに人の出入りはないのにやっぱ多いな。はぐれないように気を付けないと」
「そうだな、これだけ多いと見つけるのにも一苦労しそうだしな」
「じゃあ固まって歩こうよ!」
「えっ!?」
神社に入るところで潤が口にすると光汰が同意するように相槌を打った。その言葉を聞いた杏奈は目を輝かせて固まることを提案すると、いの一番に光汰に寄り添うようにピタッとあさましくくっついた。
「(おい妹よ、そこまで堂々とできる勇気を兄にも分けて欲しいぞ)」
潤が杏奈の行動を見ながらそんな感想を持つ。
人が多いので良くて2列になれる程度で、4人が横一列に並んで歩くことなどできるはずがなく、杏奈の行動によって必然的に潤は瑠璃と並んで歩くことになった。瑠璃は先程の杏奈の行動を見て仰天していたのと同時に、隣を歩く潤の肩と二の腕が触れ合っては離れてを繰り返していた。
「瑠璃ちゃん、大丈夫?もしかして人混み苦手?」
「は、はい、あっ、い、いえ、大丈夫です、人混みとかは得意ではないですけど、と、とにかく今は大丈夫です!」
「?」
光汰と杏奈の後ろを歩くことになった潤と瑠璃なのだが、瑠璃は俯いてしまっており微妙に顔を紅潮させている。その様子を見て横で歩いている潤は少しばかり心配になったので声を掛けるのだが、返って来た言葉を受ける限りでは大丈夫そうだとは思う。それでも本当に大丈夫なのかと疑問に思う程度に気になる素振りを見せている。
「そっか、大丈夫ならいいけど、もししんどくなったら言ってくれよな」
「は、はい、ありがとうございます!」
そうして左右に出店が立ち並ぶ中を進んで行くのだが、数百メートルもある中を人の垣根を搔き分けるように進んで行く中で前に巨漢の男達が視界を遮った。
「おっと――」
ドンっとぶつかりそうになるので慌てて歩みを止めるのだが、横から「きゃっ」と小さく聞こえたので振り向くと瑠璃がよろめいていたので潤は慌てて手を伸ばした。
瑠璃は未だに俯いていたので目の前に入って来た巨漢に気付かずぶつかってしまっていたのだった。
潤は伸ばした手を瑠璃の背中に回して倒れるのをなんとか支える。大勢が歩みを進める中で微妙に歩を止めた潤と瑠璃を何事かと横目に多くの人がチラチラ見ながら通り過ぎていく。
「大丈夫か?」
「す、すいません、ちょっとぼーっとしていて」
「やっぱり気分悪いんじゃ?」
「い、いえ、本当にそういうわけじゃないんです」
瑠璃を支えるために少しばかり立ち止まっただけで既に大勢が潤たちの前を歩いて行っている。
「んー、ならいいけど、瑠璃ちゃんみたいな小柄な子がこんな人混みの中は大変だよな、それに光汰と杏奈ともはぐれたし、どうするか……」
ずっと立ち止まっているわけにはいかなかったので瑠璃の様子を確認して再び歩き始める。瑠璃は潤の背中を追うように同じように歩き始めた。
「これだけ人が多いとさすがに歩きながら電話するわけにもいかないしな―――仕方ないか一度抜けて落ち着いたところで電話してみるか」
―――すると。
潤の背中に少しばかり引っ張られる感触を覚えるので歩きながら後ろの様子を確認すると、瑠璃が潤のコートの裾を摘まんでいた。
「どうした?」
「あのぉ、ちょっと、さっきぶつかってしまったから……」
潤は瑠璃の様子を不思議がって歩きながら小さく問いかけたのだが、瑠璃は何か言いたそうに口籠る。瑠璃は潤と目を合わせてすぐに視線を逸らしたのだが、ほんの少しばかり考えたところで瑠璃の行動の理由を潤は何となく察した。
「あー、そっか、ごめん気付かなくて、ちょっとごめんね――」
潤はそう言うと瑠璃の手を握って人混みの中を歩きながら端の方に瑠璃を引っ張って行った。
突然潤に手を繋がれたことで瑠璃は潤の顔を戸惑いながら見上げるのだが、潤は人混みの隙間を探しているので瑠璃とは目が合わない。瑠璃は繋いだ手に視線を落としてその手をしっかりと見つめると力強くぎゅっと握り返していた。
「(やっぱりこれだけ人が多いとちょっと怖くもなるよな。さっきもこけかけたし)」
前に視線を向けながら手に感じる瑠璃と繋ぐ手の力が少しばかり強くなったのを感じながら潤はそんなことを考えていたのだが、瑠璃は手に落とした視線を再び潤の後頭部に向けている。
「―――はぁ。光汰も杏奈も出ねぇな」
そうして少しばかり時間を掛けて出店の隙間から脇に出て潤はスマホを取り出して光汰と杏奈に電話をするのだが全く出る気配がない。
「しょうがないからメッセージだけ残しとくわ」
潤はそう言ってスマホに光汰と杏奈宛に待ち合わせをしたいという旨のメッセージを送る。
「まぁこのままじっと連絡を待っていてもしょうがないから俺達は俺達で初詣に行こうか?」
「は、はい、あの……」
「ん?どうした?」
ただ黙ってここで返信を待っていても仕方ないので、瑠璃に提案するのだが、瑠璃は同意しつつも困った表情を浮かべている。一体どうしたのかと問いかけるのだが、瑠璃は未だに繋がったままの手に視線を向けた。
「あっ、ごめん、ずっと手を繋いだままだったな」
瑠璃の視線の先に潤も同じように視線を向けるとその理由がわかった。潤は慌てて瑠璃から手を放そうとするのだが、瑠璃はほどけかけた手を繋ぎとめるように再び力強く握った。
「えっ!?」
「い、いや、あの、その……、もし先輩が良ければですが、このまま手を繋いでいてもらってもいいですか?」
「まぁ……瑠璃ちゃんが嫌じゃなければいいけど」
「むしろ先輩は頼りになるのでお願いします!」
潤が思っていた理由と反応とは真逆の要求をされたのでわずかに戸惑うの上に、潤としてはずっと瑠璃と手を握り続けるなどとは微妙に困ることもあったのだが、状況が状況なだけに仕方ないと捉えた。
潤が困ったのは、瑠璃は妹の杏奈の友達とはいえ潤から見ても美少女に間違いがないのであった。
杏奈が言うには瑠璃は学校でモテているそうで、去年まで通っていた潤の学年にも瑠璃とお近づきになりたいといった連中が何人か潤に聞きに来ることがあった。それは潤の妹もまた美少女であり、瑠璃と仲がいいのは周知の事実だったからである。杏奈が元気溌剌の運動系美少女とするなら瑠璃は大人しい清楚系の美少女といったところか。
さっきは人混みから抜け出すために思わず手を繋いでしまったのだが、改めて冷静になって考えるとそんな美少女と手を繋いでいたとなればいくらか考えてしまうこともあるし、ここから先も手を繋ぐとなると少しばかり恥ずかしくなる。
瑠璃の要求に潤が応えると瑠璃は力強く潤としっかり目を合わせてお願いした。そこには先程まで俯いて元気がなさそうな様子が一切感じられなかったので気分が悪くはなかったのだと改めて認識する。
「じゃあ俺達もはぐれないように気を付けようか」
「はい!」
そうして再び人混みの中に潤と瑠璃は手を繋いで入って行くのだが、先程までは肩と二の腕が接触していた程度なのだが、明らかに先程とは違う感触を得ていた。
「(……やばい、当たってる)」
潤は基本的には人混みを進むために視線を前に向けているのだが、チラッと視線を瑠璃の方向に向ける。
視線の先には手をしっかりと繋ぐ瑠璃がいて、両者同意の下で手を繋ぐことになったからか、先程よりも潤に寄り添って歩いている。そのために中学生とはいえ瑠璃の豊満な胸が潤の肘上の辺りに仄かに柔らかみを感じさせていたのだった。
触れては離れるというなんともこう口には出せないその状況をどうしたものかと思うのだが、人が多過ぎるので離れるわけにもいかないしどうしようもないことを理解して雑念を振り払う。
「(俺……初詣に来て神様の前で何考えてんだよ)」
そうして雑念混じりに歩いていると本堂の賽銭箱の前に着いた。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
婚約破棄のために偽装恋人になったら、ライバル店の天才パティシエに溺愛されすぎています
草加奈呼
恋愛
大学生の佐藤天音は、
“スイーツの神の舌”を持つことで知られる、洋菓子店の一人娘。
毎年、市内のスイーツコンテストで審査を務める天音は、
そこで出会った一人のパティシエのケーキに心を奪われた。
ライバル店〈シャテーニュ〉の若きエース
イケメン天才パティシエ・栗本愁。
父に反対されながらも、どうしてももう一度その味を
確かめたくて店を訪れた天音に、愁は思いがけない言葉を告げる。
「僕と、付き合ってくれないか?」
その告白は、政略的な婚約を断つための偽装恋人の申し出だった。
そして、天音の神の舌を見込んで、レシピ開発の協力を求めてくる。
「報酬はシャテーニュのケーキセットでどうかな?」
甘すぎる条件に負け、
偽装恋人関係を引き受けたはずなのに──
いつの間にか、愁の視線も言葉も、本気の溺愛に変わっていく。
ライバル店×コンテストでの運命の出会い×契約恋人。
敏腕パティシエの独占愛が止まらない、
甘くて危険なシークレットラブストーリー。
🍨🍰🍮🎂🍮🍰🍨
※恋愛大賞に参加中です。
よろしければお気に入り、いいね、
投票よろしくお願いいたします。
∞
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。
入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。
しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。
抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。
※タイトルは「むげん」と読みます。
※完結しました!(2020.7.29)
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる