恋に不器用な俺と彼女のすれ違い

干支猫

文字の大きさ
19 / 112
巡って来た機会

019 体育祭実行委員

しおりを挟む

学校が始まり、授業はこれまでと変わらず可もなく不可もなくといった程度に進んでいく。特に難しいと感じることはない程度に潤も勉強は出来る方だった。

そうした中、ホームルームでざわざわとしたホームルームの最中でクラスメイト達は「お前やれば?」「めんどくさそうだよね」などといった声が口々に聞こえて来ていた。

「(……体育祭実行委員)」

潤の高校では年度初めに体育祭の実行委員を決めることになっている。
それはそういう役割なのでいいのだが、中学の体育委員の良い思い出と苦い思い出を同時に思い出すのは隣に浜崎花音がいるためだろうと考える。
チラリと隣に視線だけ向けるが綺麗な横顔をただ眺めるだけだった。

体育祭の実行委員などというのはめんどくさそうという印象しかないので誰も立候補したがらない。
いい加減話を進めないとなと溜め息混じりに担任が提案する。

「誰も立候補がないなら部活をしていないやつからくじ引きにするからな」

途端に歓声と不満の声が同時に漏れだした。

「んなこと言ってもしょうがねぇだろ、じゃあ誰かやるやついないか?最後だ。これで誰も挙手しなければくじ引きにするからな」

部活をしている側の人間からすれば貴重な放課後の時間を委員会に取られる可能性を排除されたのに対して、帰宅部の面々は嫌々放課後残らされることになるのだから。

「(ったく、仕方ねぇな。どうせ帰っても暇だしな)」

体育委員をしていた中学時代のことを思い出したせいと、新学年早々クラスの雰囲気が悪くなってもなんだしなと思い、仕方なく手を挙げるのだが、歓声も何もなく、ただただ数秒ばかりの沈黙が流れた。

なんだなんだ、一体どうしたんだ?と思うのだが、教室の中を見渡してもクラスメイト達は呆けた表情をしている。それが主に男子だったということに気付いたのは一瞬後だった。女子は意外と安堵の入り混じった表情を浮かべているのだから。

「んー、じゃあ立候補は深沢と浜崎の2人だな。よし、じゃあ決まりな。二人は委員会で体育祭の会議に出席するように」
「(はぁ?)」

担任は何を言ってるんだと思うのだが、潤は視界を向けていた教室の中央のクラスメイト達から窓際に座っている花音に振り返る。花音も潤と同様に手を挙げていたみたいで今まさに下ろしたところが目に入って来た。

「えっ?」

そこで目が合った。
小さく漏れ出た声に対して、花音も潤に聞こえる程度に小さく「よろしく」とだけ呟いていた。花音のよろしくという声が聞こえた中に混じって他の男子から「浜崎さんがするんなら俺がすれば良かった」「ちっ、深沢のやつ運がいいな」などといった羨む声や僻む声が微かに聞こえて来たのだった。

状況の整理がはっきりつかないままそのままホームルームを終える。平静を装っていたのだが内心では平常心とは程遠いところにあった。
実行委員が決まる時の出来事を思い返すと、わかることは状況的にほぼ同時に手を挙げたのだろうということだけだった。

潤は花音がどういうつもりで立候補したのか推測できないまま放課後体育委員の会議に出席することになる。


「……じゃあ深沢君、行くわよ」
「あ、ああ……。(一体どうなってんだ?)」

花音は潤に一言だけ声を掛けて委員会をする部屋に向かい先に歩いて行く。その小さな背中を見送るのだが、潤の記憶の中の花音と重ねても正確に重なり切らないのは花音が中学の時と大きく変わっているせいだということは理解していた。

「(偶然にしろなんにせよ、せっかくのチャンスだ)」

降って湧いて来た花音と再び距離を縮める機会を大事にしなければと決心する。


会議では体育祭の実行委員の話を聞いていたはずのだが、潤は隣に座っている花音に気を取られてしまい、ほとんど聞いていなかった。

「(しまった、何をすればいいのか聞いていなかった)」

委員会が終わり、各々部屋を出るのだが潤は立ち上がらない。
花音も立ち上がって部屋を出ようとするのだが、俯いたまま動かない潤を横目に見て座りなおした。

「ねぇ?」
「…………」
「もしかして……話…………聞いてなかったの?」
「うっ!」

花音の質問が的を射すぎているのでぐうの音も出なかった。普通委員会の話を聞いていなかったとしても、通常なら相方の花音に聞くのが一番良い。
しかしどうやって聞いたらいいのかわからず動けないでいたのだった。

「ぷっ!」

悩んで考え込んでいたところで、横から吹き出して笑うのを我慢している花音がいることに気付いた。

「なんだよ?」
「えっ?いや、そういうところ全然変わってないなぁって。ほら、中学の時も何か考えていて話聞いてなかった時があったでしょ?何考えていたのよ?」
「う、うっさいな!そういう浜崎こそ、そ、その、色々と変わり過ぎてねぇか!?その髪とか眼鏡をコンタクトにしたこととか―――」

笑われたことを恥ずかしく思い、少しばかりの羞恥とみっともない男としてプライドを見せながら何を言ったらいいかわからずに、思わず花音の容姿が中学と高校で劇的に変わっていることについて言及してしまった。
潤の言葉を受けるや否や表情を落とした花音を見て潤はすぐに自分の発言が失言だったことに気付いた。

なんとか取り繕うとするのだが、言葉が出てこない。だが、潤が言葉を探しているよりも先に花音が口を開いた。

「そうね、高校生にもなればおしゃれのいくらかぐらいはするようになるわよ」

強気な表情を向けながら潤に笑いかけるのを見て、いくらか安堵するのだが、先程の失言を脳内で反芻するように反省する。

容姿の劇的な変化について聞いてしまったことがカラオケの時と同じようにまたやらかしてしまったのかと思うのだが、今回はそこまでではなかったらしい。それは今潤に向けられている笑顔から察することが出来た。
だとしたらさっきの表情が意味することは一体何なのかと考えを巡らせるのだがわからないままだった。

「それよりもさ、体育祭の創作ダンスのことだけどさ」
「ん?あ、ああ、去年もやってたな。確か縦割りの創作ダンスだろ?三年生が考案するっていう」
「うん、それの説明に私らが一年生のところに行かなければならないんだよ?」
「えっ?それって一年二組にか?」
「それ以外のどこに行くっていうのよ?」
「いや、そらそうだよな」

花音が話したのは、この学校では体育祭で三年生の創作ダンス班がダンスを考案して学年毎に有志を募って体育祭でダンスを発表するというものだった。
まだ入学間もない一年にその説明をする役割に当たるのが二年の体育委員なのだった。

潤も一年前のことを思い出して、そういやホームルームに先輩が説明しに来ていたなと思い出すのだが、同時に脳裏を過るのが縦割りの一年っていえば「(杏奈と瑠璃ちゃんのクラスじゃないか)」とすぐに理解していた。

別に特段花音と何がどうというわけではないのだが、気恥ずかしさはもちろんのこと、よりにもよって杏奈はまだしも瑠璃ちゃんがいるのかと考えてしまう。

「(瑠璃ちゃん、浜崎のこと覚えているのは電車の中の反応でわかったしな)」

自分の気持ちははっきりと瑠璃に伝えているので気を遣うことはないと思いつつも、瑠璃には説明する必要があるのだろうなと考えてしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

婚約破棄のために偽装恋人になったら、ライバル店の天才パティシエに溺愛されすぎています

草加奈呼
恋愛
大学生の佐藤天音は、 “スイーツの神の舌”を持つことで知られる、洋菓子店の一人娘。 毎年、市内のスイーツコンテストで審査を務める天音は、 そこで出会った一人のパティシエのケーキに心を奪われた。 ライバル店〈シャテーニュ〉の若きエース イケメン天才パティシエ・栗本愁。 父に反対されながらも、どうしてももう一度その味を 確かめたくて店を訪れた天音に、愁は思いがけない言葉を告げる。 「僕と、付き合ってくれないか?」 その告白は、政略的な婚約を断つための偽装恋人の申し出だった。 そして、天音の神の舌を見込んで、レシピ開発の協力を求めてくる。 「報酬はシャテーニュのケーキセットでどうかな?」 甘すぎる条件に負け、 偽装恋人関係を引き受けたはずなのに── いつの間にか、愁の視線も言葉も、本気の溺愛に変わっていく。 ライバル店×コンテストでの運命の出会い×契約恋人。 敏腕パティシエの独占愛が止まらない、 甘くて危険なシークレットラブストーリー。 🍨🍰🍮🎂🍮🍰🍨 ※恋愛大賞に参加中です。  よろしければお気に入り、いいね、  投票よろしくお願いいたします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完】ベッドの隣は、昨日と違う人

月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、 隣に恋人じゃない男がいる── そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。 こんな朝、何回目なんだろう。 瞬間でも優しくされると、 「大切にされてる」と勘違いしてしまう。 都合のいい関係だとわかっていても、 期待されると断れない。 これは、流されてしまう自分と、 ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。 📖全年齢版恋愛小説です。 しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。 📖2026.2.25完結 本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。 気になった方はぜひそちらもどうぞ!

処理中です...