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巡って来た機会
019 体育祭実行委員
しおりを挟む学校が始まり、授業はこれまでと変わらず可もなく不可もなくといった程度に進んでいく。特に難しいと感じることはない程度に潤も勉強は出来る方だった。
そうした中、ホームルームでざわざわとしたホームルームの最中でクラスメイト達は「お前やれば?」「めんどくさそうだよね」などといった声が口々に聞こえて来ていた。
「(……体育祭実行委員)」
潤の高校では年度初めに体育祭の実行委員を決めることになっている。
それはそういう役割なのでいいのだが、中学の体育委員の良い思い出と苦い思い出を同時に思い出すのは隣に浜崎花音がいるためだろうと考える。
チラリと隣に視線だけ向けるが綺麗な横顔をただ眺めるだけだった。
体育祭の実行委員などというのはめんどくさそうという印象しかないので誰も立候補したがらない。
いい加減話を進めないとなと溜め息混じりに担任が提案する。
「誰も立候補がないなら部活をしていないやつからくじ引きにするからな」
途端に歓声と不満の声が同時に漏れだした。
「んなこと言ってもしょうがねぇだろ、じゃあ誰かやるやついないか?最後だ。これで誰も挙手しなければくじ引きにするからな」
部活をしている側の人間からすれば貴重な放課後の時間を委員会に取られる可能性を排除されたのに対して、帰宅部の面々は嫌々放課後残らされることになるのだから。
「(ったく、仕方ねぇな。どうせ帰っても暇だしな)」
体育委員をしていた中学時代のことを思い出したせいと、新学年早々クラスの雰囲気が悪くなってもなんだしなと思い、仕方なく手を挙げるのだが、歓声も何もなく、ただただ数秒ばかりの沈黙が流れた。
なんだなんだ、一体どうしたんだ?と思うのだが、教室の中を見渡してもクラスメイト達は呆けた表情をしている。それが主に男子だったということに気付いたのは一瞬後だった。女子は意外と安堵の入り混じった表情を浮かべているのだから。
「んー、じゃあ立候補は深沢と浜崎の2人だな。よし、じゃあ決まりな。二人は委員会で体育祭の会議に出席するように」
「(はぁ?)」
担任は何を言ってるんだと思うのだが、潤は視界を向けていた教室の中央のクラスメイト達から窓際に座っている花音に振り返る。花音も潤と同様に手を挙げていたみたいで今まさに下ろしたところが目に入って来た。
「えっ?」
そこで目が合った。
小さく漏れ出た声に対して、花音も潤に聞こえる程度に小さく「よろしく」とだけ呟いていた。花音のよろしくという声が聞こえた中に混じって他の男子から「浜崎さんがするんなら俺がすれば良かった」「ちっ、深沢のやつ運がいいな」などといった羨む声や僻む声が微かに聞こえて来たのだった。
状況の整理がはっきりつかないままそのままホームルームを終える。平静を装っていたのだが内心では平常心とは程遠いところにあった。
実行委員が決まる時の出来事を思い返すと、わかることは状況的にほぼ同時に手を挙げたのだろうということだけだった。
潤は花音がどういうつもりで立候補したのか推測できないまま放課後体育委員の会議に出席することになる。
「……じゃあ深沢君、行くわよ」
「あ、ああ……。(一体どうなってんだ?)」
花音は潤に一言だけ声を掛けて委員会をする部屋に向かい先に歩いて行く。その小さな背中を見送るのだが、潤の記憶の中の花音と重ねても正確に重なり切らないのは花音が中学の時と大きく変わっているせいだということは理解していた。
「(偶然にしろなんにせよ、せっかくのチャンスだ)」
降って湧いて来た花音と再び距離を縮める機会を大事にしなければと決心する。
会議では体育祭の実行委員の話を聞いていたはずのだが、潤は隣に座っている花音に気を取られてしまい、ほとんど聞いていなかった。
「(しまった、何をすればいいのか聞いていなかった)」
委員会が終わり、各々部屋を出るのだが潤は立ち上がらない。
花音も立ち上がって部屋を出ようとするのだが、俯いたまま動かない潤を横目に見て座りなおした。
「ねぇ?」
「…………」
「もしかして……話…………聞いてなかったの?」
「うっ!」
花音の質問が的を射すぎているのでぐうの音も出なかった。普通委員会の話を聞いていなかったとしても、通常なら相方の花音に聞くのが一番良い。
しかしどうやって聞いたらいいのかわからず動けないでいたのだった。
「ぷっ!」
悩んで考え込んでいたところで、横から吹き出して笑うのを我慢している花音がいることに気付いた。
「なんだよ?」
「えっ?いや、そういうところ全然変わってないなぁって。ほら、中学の時も何か考えていて話聞いてなかった時があったでしょ?何考えていたのよ?」
「う、うっさいな!そういう浜崎こそ、そ、その、色々と変わり過ぎてねぇか!?その髪とか眼鏡をコンタクトにしたこととか―――」
笑われたことを恥ずかしく思い、少しばかりの羞恥とみっともない男としてプライドを見せながら何を言ったらいいかわからずに、思わず花音の容姿が中学と高校で劇的に変わっていることについて言及してしまった。
潤の言葉を受けるや否や表情を落とした花音を見て潤はすぐに自分の発言が失言だったことに気付いた。
なんとか取り繕うとするのだが、言葉が出てこない。だが、潤が言葉を探しているよりも先に花音が口を開いた。
「そうね、高校生にもなればおしゃれのいくらかぐらいはするようになるわよ」
強気な表情を向けながら潤に笑いかけるのを見て、いくらか安堵するのだが、先程の失言を脳内で反芻するように反省する。
容姿の劇的な変化について聞いてしまったことがカラオケの時と同じようにまたやらかしてしまったのかと思うのだが、今回はそこまでではなかったらしい。それは今潤に向けられている笑顔から察することが出来た。
だとしたらさっきの表情が意味することは一体何なのかと考えを巡らせるのだがわからないままだった。
「それよりもさ、体育祭の創作ダンスのことだけどさ」
「ん?あ、ああ、去年もやってたな。確か縦割りの創作ダンスだろ?三年生が考案するっていう」
「うん、それの説明に私らが一年生のところに行かなければならないんだよ?」
「えっ?それって一年二組にか?」
「それ以外のどこに行くっていうのよ?」
「いや、そらそうだよな」
花音が話したのは、この学校では体育祭で三年生の創作ダンス班がダンスを考案して学年毎に有志を募って体育祭でダンスを発表するというものだった。
まだ入学間もない一年にその説明をする役割に当たるのが二年の体育委員なのだった。
潤も一年前のことを思い出して、そういやホームルームに先輩が説明しに来ていたなと思い出すのだが、同時に脳裏を過るのが縦割りの一年っていえば「(杏奈と瑠璃ちゃんのクラスじゃないか)」とすぐに理解していた。
別に特段花音と何がどうというわけではないのだが、気恥ずかしさはもちろんのこと、よりにもよって杏奈はまだしも瑠璃ちゃんがいるのかと考えてしまう。
「(瑠璃ちゃん、浜崎のこと覚えているのは電車の中の反応でわかったしな)」
自分の気持ちははっきりと瑠璃に伝えているので気を遣うことはないと思いつつも、瑠璃には説明する必要があるのだろうなと考えてしまった。
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