恋に不器用な俺と彼女のすれ違い

干支猫

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巡って来た機会

021 創作ダンス

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それから数週間は日常の学校生活が流れていった。
初々しかった新入生もだいぶ学校に慣れてきた様子で、もう学校の流れを把握している。

授業の合間を縫って体育祭に向けて取り組んでいるのだが、学生生活は何も体育祭だけではないのは誰もが知るところ。勉学やクラブ活動に勤しんでいる者も多くいる。


そんな中―――。


「なんで俺はこんな委員に立候補したんだよ」
「文句ばっかり言ってないで早く覚えてよ!」

潤と花音は昼の休み時間に空き教室で体操服に着替えて身体を動かしていた。
目の前には三年生の先輩が数人いてダンスを踊っている。

ダンス参加希望者は学年やクラス毎に人数の差はあれど、その全員が同じ時間に集まれるはずなどなかった。実行委員で三年生の人達が考えたダンスを覚えてそれを自学年や一年生に時間を見つけては教えるというものだった。一年生には基本的に三年生が教えるのだが、時間があれば二年生も教えることになっている。

もちろんダンスを覚える代役を立てても良かったのだが、潤は自分でダンスを覚えることにした。

正確には潤に対して代役を申し出るクラスメイトもいたのだが、潤としてはその立場を譲る気にはなれない。なにしろ隣には花音が一緒にダンスを覚えているので、そのクラスメイトの目的も花音にお近付きになろうと考えているかもしれないのだから。

「(こいつ、未だに振りまくっているらしいしな)」

一年生の時に振り続けた花音なのだが、二年生になっても花音に告白する男子は未だに後を絶たないらしい。しかしその誰もが玉砕する噂を潤も耳にしているので花音には彼氏がいるのかもしれないと噂もあった。その中には他校や年上に彼氏がいるのではないかと憶測もされていることもある。
だが、仮に潤がそのことについて確認するように聞いたとしたらいつかのカラオケの時のように怒らせてしまうのも既に経験済みだ。

どうして振るのか聞くに聞けないもどかしさを感じているのだが、今は隣に立っている。体育祭実行委員を一緒にすることでいつの間にかこうしてまた中学の時のように話せるようになっただけでも前進したと思うことにしていた。


「―――ふぅ、思ったよりも大変ね」

ダンスの休憩中に汗を拭きながら独り言のように呟いているのに見惚れてしまっていた。動き易いように長い髪を束ね、体操服に着替えた状態で目の前で汗をかいている花音が可愛らしいのだから。その胸の膨らみにもお尻の曲線にも思わず目がいってしまう。

「どうしたの?」
「い、いや、相変わらず運動神経良いよなと思って」

花音の身体つきを見ていたなんて正直に言えるはずがないので記憶の中の花音と今の花音と合致する部分でかつ怒らないだろう内容を即座に思い浮かべる。

「まぁ身体を動かすのは昔から好きだったしね」
「俺は、ダンスはやっぱちょっと苦手かな」
「えっ?そんなことないわよ?十分踊れていると思うわよ?」
「そうか?」

嬉しそうに話す花音に対して、潤は苦手意識を持つダンスなのだが、花音はそれを否定する。

「うん、それに深沢君って足速かったよね?ほら、中学の体育祭のリレーでごぼう抜きをしてたじゃない」
「よく覚えているなそんなこと。クラスも違ったのに」
「そ、そりゃ、あれだけ目立った走りしたら印象に残るわよ!それで私のクラス負けたんだから!」

花音は中学の時の出来事を引き合いに出すのは、潤がクラスリレーで最後方から一気に前を抜き去ってトップに躍り出た話だった。潤としても爽快な出来事だったので記憶に残っているのだが、花音が覚えていてくれていたことを嬉しく思う。

「まぁこれでも一応サッカーしてたしな。それに野球もちょっとかじってるし」
「へー、野球かぁ、サッカーは知ってたけど野球は知らなかったなぁ」
「小学生の時の話だけどな」

潤も運動は好きなので何かしら運動はしていたのだった。花音も潤が中学でサッカー部に入って夏に引退していることは知っている。

「どうして高校では何もしないの?」
「んー、まぁ自分の限界を知ったからかな?世の中には上手いやつはいくらでもいるってさ」

高校で部活に入っていないことについて聞かれるのだが、当時のことを思い出す様に遠くを見つめる。

「そっか、その気持ちわからないでもないかな。でも無駄なことじゃなかったでしょ?」
「それはそうだろ。何かに取り組めばその分自分の力になってるよ」
「じゃあ今こうしてダンスを頑張るってことも無駄なことじゃないから頑張ろ♪」
「あ、ああ(やばいな、可愛さが中学の時の比じゃないぞ)」

花音は潤が見てきた中でもかなり気持ちを掻き立てられるほどの笑顔を向ける。
中学の時も同じように笑顔を向けられることは何度もあったのだが、その時と今では精神的な成長度合いが違うとは思っているのはもちろんのこと、花音の変わりようが一際その笑顔を引き立てた。

「(けど、例え俺が告白したとしてもあの出来事があったしなー。どうせ無駄だろ)」

潤が負い目を感じている出来事、花音と疎遠になるきっかけになった出来事。花音のことをタイプじゃないといった手前、今の花音に対して気持ちをぶつけてしまうと花音の外見が変わったから告白してきたと思われかねないと考えてしまっていた。
それどころかせっかく話せるようになった今の関係を再び簡単に壊してしまうことは花音が多くの男子を振ってきていることからもわかる。

潤は思わず思案気な表情を浮かべるのだが、その様子を見た花音は不思議そうにしている。


「はい、じゃあそろそろ休憩終わって次のパートにいくわよ」

「はーい。 どうしたの? ほら次の練習始まるよ?」
「……ああ。なぁ、最後に一つだけいいか?」

ふと疑問が頭の中に浮かび上がった。質問しようかどうか迷ったのだが聞くことにした。

「なに?」
「いや、大したことじゃねぇんだけど、二人きりだと意外と前みたいに話せるもんなんだなーって」
「!? なに急に変なこと言ってるのよ!ほ、ほら早く練習始めるわよ!」
「(今の反応は前のカラオケの時と違い、たぶん大丈夫だよな?)」

微妙に目線を泳がせながら前を向いて振り返る花音の背中を見て潤もどこか嬉しくなり、気分が高揚してしまう。
そうして三年生主導でダンスを時間の許す限り練習するのだが、そこから先のダンスは覚えられないでいた。



―――翌日の昼休み。

「大変そうだな、実行委員」
「ああ、こんなに大変だと思ってなかったよ」

今日は三年生からのレクチャーはなかったので真吾と教室でのんびりして過ごしていた。

「花音ちゃんはどうなの?」
「うーん、私は思ってたよりも楽しくしてるよ?ダンスも女子の先輩が考えている振付はかわいいところも多いし」

隣の席では凜が花音に話し掛けているのは真吾の言葉を受けてだった。潤から見る限りでは花音の言葉の通り、ダンス練習をしている花音の様子は確かに楽しそうにしているのはわかった。

「(本当に身体を動かすの好きなんだなー)」

と、机に片肘を着きながら花音を眺める程度にはもう真っ直ぐに花音を見る事が出来ていた。これも実行委員を一緒にしたおかげだよなと、大変だとは思いつつも感謝もしている。

「―――浜崎さん」
「なに?」

クラスメイトの女子が花音に話し掛けてきたのだが、特別普段から仲良くしているという子ではなかった。

「なんかね、一年生の子が浜崎さんを呼んで欲しいって。ほらあの子達」
「えっ?一年生?」

花音に対して用事がある様子で教室の入り口の方に目を向ける花音だが、少しばかり表情を曇らせたのだがすぐに笑顔を作り直していたのは潤にはわかった。
花音は席を立ち、教室の入り口に向かう。

「なんだ?とうとう一年生にも告られるのか?」
「まさか……」

そんなことを言う真吾を呆れたようにまさかと返すのだが、その可能性を否定しきれない。頻度が少ないとはいえ、最近ダンスを通じて一年生との接点が生まれていたからだった。一年生の花音に向ける視線は明らかに憧れが込められている。

「お、おい、あの子ら一年生の美少女コンビじゃねぇか!」
「本当に可愛いよねあの子達。けど真ちゃん?わかってるよね?」
「大丈夫だって、可愛い子は素直に可愛いって言ってるだけだって」
「うむ、ならよろしい」

隣でバカップルがアホな会話をしてるなと思い呆れるのだが、潤はその言葉で教室に誰が尋ねて来たのか確認しなくてもすぐにわかった。

「(杏奈のやつ何しに来たんだ?それも瑠璃ちゃんも連れて)」

杏奈と瑠璃はその見た目の可愛さだけでなく、いつも行動を共にしていることですぐに噂になる程度に認知されていたのだった。形容するのが『美少女一年生コンビ』と。

結果、花音に対して一年生男子からの告白ではないと安堵するのだが、教室に姿を見せたのが妹と瑠璃であるのに呼び出されたのが兄である自分ではなく花音なのだから尚更不思議に思う。

じっと見ていると、花音と杏奈がいくらか話している様子が見えるのだが、距離があるので当然話の内容まではわからない。

「潤はどう思う?」
「何が?」
「あの子らに決まってるだろ?」
「まぁ可愛いんじゃないか?」
「お前、女子に対してそんな淡泊だったか?」
「(だってなぁ―――)」

真吾に問われても、返す内容はそれ以上なかった。毎日見ている妹とよく家に来る妹の親友なのだから。

そんなことより何を話しているのかと思いじっと見ていたのだが、杏奈が両手を上げて喜んでいる姿しかわからない。隣に立っている瑠璃はどこか複雑そうな表情なのだが平静を装っているように見えた。

「(なんか決まったのかな?)」と思うのだが、そこで杏奈と目が合った。手を振られたので軽くひらひらと手を振りかえした。杏奈が瑠璃の手を持って更に振って来たので、何がしたいんだあいつはと思いながらも両手で手を振りかえした。

途端に周囲の大半の目が自分に集中するのが手に取るようにわかったので妙な寒気に襲われたのだった。

集中する目の中には花音もあり、花音は潤を見た数秒後に驚いた様子で杏奈を見ていた。

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