恋に不器用な俺と彼女のすれ違い

干支猫

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巡って来た機会

024 電話

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―――瑠璃の偽彼氏になって一週間が過ぎた。

「おいおい!大活躍じゃねぇか!」
「……あぁ、まあな」

体育祭当日、グラウンドの隅で休んでいたところ、満面の笑顔で話し掛けてくる真吾に対して潤は表情を落としている。
真吾が言うのは、潤が縦割りリレーに参加して後方から前にいた4人をごぼう抜きしたのを初めとして、その後もその運動神経をいかんなく発揮していたのだった。

「どうしたんだ?最近元気ないじゃねぇか」
「ちょっとな」
「まさか校内で噂になったことずっと気にしてんのか?そりゃああんだけ可愛い子と付き合えたら羨ましいやつなんていっぱいいるだろ?っていうかそもそも俺には先に教えておいてくれよな」
「(まぁそうだろうけどちょっと違うんだよな)」

潤と瑠璃が付き合っているという噂が流れたのは、駅でのあの一件を見られていたということだった。
その場をやり過ごすためとはいえ、咄嗟に口をついて言ってしまったことなのだが、瑠璃に付きまとっていた男がいた手前否定できずにいた。

そしてそれは当然花音も耳にすることとなるどころか、最近やっと花音との距離を縮められたと思ったらこの展開だ。話せない方が良かったのではないのかと思うのは、花音の口から笑顔で直接言われることの苦しさが思いのほか大きかった。自分の行動の結果のせいだとはいえどうしたものかと思い頭を悩ませる。

「おっ、噂をすれば! おい、ほらぼーっとするなよ!彼女が出ているぞ!」
「(……彼女ねぇ)」

真吾がグラウンドを指差し、その先には瑠璃がトラックを走っている。

―――その豊満な胸を揺らしながら。


「(可愛いのは間違いないし性格も良いし、スタイルも……まぁ惹かれるものは確かにある。不満はないけどさぁ)」

そんな瑠璃の様子を眺めながら考えるのだが、花音への思いを捨てきれない。


「ほんと可愛らしいけどある意味憎たらしいわね」

潤と真吾のところに凜と花音が仲良く歩いて来るのだが、凜は憎々し気に瑠璃のことを話している。

「おぉ凜。ないものねだりするなって」
「あっ、言ったなー!そのない胸にいつもお世話になっているのは誰よ!」
「ちょ、ちょっと凜!声が大きいって!!」

真吾が凜の胸と瑠璃の胸を比べて話したことに憤慨するのを横に居た花音が恥ずかしそうに慌てて制止している。

「(浜崎も胸それなりに大きいよな。着痩せするタイプなんだよな)」

話題が女子の胸の大きさになっているので思わず花音の胸に視線を送ってしまう。最近はもう何度も見ているその体操服。制服以上に体操服は普段以上に体型がある程度わかる。

「あっ、潤が花音ちゃんの胸見てるー!」

「「えっ!?」」

凜が潤の視線の先に気付いてにやにやするのだが、潤は慌てて視線を逸らすことに対して花音は両手で胸を押さえた。

「おいおい、早くも浮気かー?」
「ばっか、ちげぇよ!」

囃し立てる真吾に対して慌てて取り繕うのだが、花音は恥ずかしそうに頬を赤らめている。

「……深沢君は…………大きい胸が好き……なの?」

顔を少しだけ上げながら上目づかいで潤を見る花音。胸のサイズの好みを尋ねる花音の顔が可愛すぎて直視できない。

「(いきなりどうしてそんなこと聞くんだよ!?)ま、まぁそら男としては、だな、思うところはあるよ。なぁ?」
「どうして俺に聞くんだよ?俺には凜ちゃんので満足しているぞ!」
「のでって何よ?なんか含みのある言い方ねー」
「そう、なんだ……」

どうしてそんなことを聞くのか疑問に思いながら横目で花音へ視線を向けると花音は潤の方を見ていない。視線の先を確認すると瑠璃がちょうどグラウンドから退場するところだった。

「(あっ、もしかして瑠璃ちゃんのことを言ってるのか?)あー、でもそれが理由ってわけじゃないぞ?」

否定できることはこれしかなかった。いっそ本当のことを言った方がいいのではないのかと思うのだが、言うにしてももう少しほとぼりが冷めてからの方が良いだろうと判断した。どちらにしろ今否定したところで花音と付き合えるわけではないのだからと必死に自分に言い聞かせる。

「そういや今日のは行くんだよな?」
「ん?今日のって……ああ、打ち上げか。まぁな」

真吾が思い出したように口にするのはクラスで打ち上げと称して焼き肉店を貸し切っているというのだった。

そんなことを話していると遠くの杏奈と瑠璃が潤たちを見つけて手を振った。それぞれが手を振り返している。



創作ダンスは得票率一位を獲得して最優秀に輝いたのは花音と瑠璃と杏奈の活躍もあるのかもしれないと思っていた。
三年生は最優秀に輝くためになりふりかまわず二年と一年の美少女達を遠慮なく前面に押し出してきたのだった。表向きには三年だけが前面に出るのではなく、皆の体育祭だという綺麗ごとを並べていたのだが。
とにかくそれが功を奏したと評するのは真吾の談なのだが潤も概ね同意していた。
実際はどうなのかわからないのだが、それほどに前で踊る三人は魅力をだしているのだから。


体育祭も盛況で終えた夜、貸し切っていた焼き肉店に着いたのだが、花音は男女問わずに多くの人間に囲まれていた。

「凄い人気だよなぁ」
「ああ」

そんな花音を眺めているのは潤と真吾と凜だった。

「そういや妹さん達、今日はどうしてるんだ?」
「ん?今日は家に居るってさ」
「そっか、一年はまだこういうのないクラスもあるもんな」
「いや、あるらしいが行かないってさ」
「へぇ、なんで?」
「まぁ色々あるみたいだ」

杏奈と瑠璃はクラスの集まりには声を掛けられているのだが断っている。杏奈は瑠璃に彼氏がいるということが広まると次には杏奈に対してモーションをかけてくる男達を煩わしく思っていたのだった。


「でもさ、ほんとどうして誰とも付き合わないんだろうな?」
「さぁ?その話を花音ちゃんにしたら目が怖いんだよねー。特に最近は」
「その言い方だと何度もしているように聞こえるぞ?」
「えっ?何度もしているよ」
「お前な……」

真吾が花音の人気を目の当たりにしながら呟くように疑問を口にするのだが、その疑問を解消する答えを誰も持っていない。だが、凜は何度となくその系統の話をしている様子で潤は呆れ、真吾は笑っていた。

そんな中、潤はぼーっと花音の表情の変化を見ている時に疑問が浮かんだ。

「なぁ、浜崎困ってると思うんだ」
「えっ?笑ってるぞ?」
「いや、やっぱり困ってると思う。なぁ凜?浜崎を呼んで来てくれないか?」

多くのクラスメイトに囲まれている花音は笑顔で応えているのだが、表情の変化の中に微妙にぎこちなさを感じた。
学年一の美少女を呼び出すなどということをしたらどんな目で見られるのかわからない。ただでさえ最近瑠璃との噂で色々と目立ってしまっているのだからここは凜に頼むことにする。


だが―――。

「えっ?いやよ。私だったらあの中から花音ちゃんを連れだせると思ってるの?」
「うっ!いや、そりゃまぁそこは頑張ってもらうしか……」
「あっ!じゃあさ、こうしたら?潤ちょっとスマホ貸して!」
「は?」

凜に断られてどうしようかと思う。なんとか凜に頼み込もうとしようとしたのだが、凜は何かを思い立った様子で潤にスマホを要求する。
わけもわからないまま何をするのかと思うのだが、とりあえず悪用されるわけではないので凜にスマホを手渡した。

画面をタップして自分のスマホと見比べて何か操作しているのだが、すぐに「はい、じゃあ外に行っといで」とだけ言ってスマホを潤に返す。

一体何をしていたんだと思うのだが、画面を確認すると電話のコール画面になっていた。

「ちょっ!?お前これどこに電話してんだよ!?」
「そんなの花音ちゃんに決まってるじゃない。ほら、早く外に行かないと皆にこの距離で電話しているのバレるわよ。それにいきなり終話したら不審電話に思われるからね!」
「くっそ、お前ふざけんなよ!」

淡々と語る凜に対して憤慨しながら店の外に慌てて出て行った。

「あいつ、なんであんなに怒ってんだ?」
「さぁ?そもそももうこれだけ仲良くなってるのにお互い連絡先も知らないなんてね」
「彼女に遠慮してんじゃねぇの?」
「あっ、じゃあ潤に悪いことしちゃったかもしれないね!あとで謝っといてね!」
「いやそこは自分で謝れよ」

凜と真吾は潤の様子を不思議に思いながらも、凜は責任逃れをして謝罪を真吾に委ねる。それを聞いた真吾は笑いながら返した。



焼き肉屋から外に出るのだが、まだ六月の夜。肌寒い風を感じながら電話のコール音が鳴り続ける中、途切れるのを待つ。

「そもそもこれ出なかったらどっちにしろ知らない番号からの不審電話になるんじゃねぇの?」

ふと脳裏を過る疑問を口にしながらコール音を聞き続けた。

プッと小さな音がしたので通話状態になったのだと理解する。
よくよく考えれば花音と電話で話などしたことがない。脈打つ速さが明らかに自覚を持ちながら加速度を増していく。

「(ってか、なにを話したら……)」

話す内容を全く決めていなかったのは余計なことに気を回していたからだ。だが相手は既に電話口に出ているので今からゆっくりと考える時間はない。

『……はい』

電話口の向こうの声は確かに潤の知る女性、花音の声なのだが明らかに警戒心を見せているのが容易に窺えた。

「あ、あのさ、お、俺―――」
『えっ!?どうして!?』

警戒心を見せているのがわかったので思わず言葉に詰まってしまったのだが、電話口の向こうでは慌てた様子を見せている花音の声が聞こえた。さらにその周りでは『どうしたの浜崎さん?』などと様子を確認するような声が聞こえたのだが、すぐに『ごめんね、ちょっと大事な電話だから外に出てくる』とだけ聞こえた。

「この反応は俺だってことがわかったのか?」と思っていると、電話の向こうの声が再び聞こえて来た。

『深沢君だよね?』
「えっ?そう……だけど」
『どうして?店の中に姿もないけど?』
「いや、ちょっと色々とあってだな」

少し会話を挟んでいると、焼き肉屋の扉が開かれて暖簾越しに花音がスマホを耳に当てながら困惑して出て来た。

「「あっ」」

潤と花音が顔を合わせてお互い耳にスマホを当てている。さらに声がシンクロするように重なった。

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