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想像以上の夏
048 視界の中に
しおりを挟む―――花火大会開始の約6時間前。
「なぁ、かーのーん。花音ってばぁ」
「しつこいな!行かないってば!行きたいなら一人で行けばいいじゃない!プレゼントもあげたでしょ!」
「プレゼントは嬉しいよ。けどせっかくこうしてお兄ちゃんが帰って来たんだからもうちょっとぐらい付き合ってくれてもいいじゃんかよー。一人で行ったって寂しいし」
花音は自宅ソファーで膝を折り曲げながら座ってのんびり本を見て過ごしていたのだが、その横では寝転がり懇願する様に花音に話し掛けている背が高くて明るい茶髪の男がいる。その容姿も整っており、大きな目は花音と通ずるものがあった。
「なんで高校生になってまでお兄ちゃんと花火大会に行かないといけないのよ!それに行きたいならその辺に住んでる友達誘って行けばいいじゃない!」
「あいつら彼女と行くって言ったり、大学で一人暮らししたりして今日は誰も捕まらなかったんだよ。 それにそんなこと言ったってお前、昔は兄ちゃんの後をちょろちょろと付いて回って来ていたし、兄ちゃんが高校生の時に連れと花火大会に行くって言ったら付いて来ようとしていたじゃんかよ」
「そ、そんな昔の話を掘り返さないでよ!(ふぅ、潤と杏奈ちゃんってなんであんなに仲良いんだろ?)」
そう思うのは、自分の状況と比較してだった。
年齢差以外は性別も男女の順番も同じなのに歳を重ねても変わらず仲良くしていられる潤と杏奈のことが不思議でならない。羨ましいとは思うものの、仮に兄とそういう仲の良さを発揮する事を想像すると恐ろしくもあった。
「それにお前、彼氏いないんだろ?」
「っつぅぅぅ! もう絶!対!に行かないからね!」
「おいおい、そんなこと言ってもいいのか?あれ発動するぞ?」
「あれって…………もしかしてあれ!?今使うの!?」
兄の言及に憤慨するも、兄はにやりと笑う。
「だってまぁ別に使いどころないし、せっかくだから使わないとな」
「だからってこんなところで使わなくてもいいでしょ!」
あれという単語だけでお互い理解し合う。
「ふふん、兄ちゃんの妹はこんなに可愛いんだぞって自慢したいしな。ほら兄ちゃんの言った通りにしたら可愛くなっただろ?だから昔から言っていたじゃねぇか、花音はちゃんとすればめちゃくちゃ可愛いんだって」
「くぅっ!……確かにそのことについては感謝しているけど、まだ結果出てないんだから!」
「ふぅーん、それ結果出るの?」
「う、うるさいな!」
兄が言うのは、中学時代の花音のことだった。
花音は中学時代の地味な自分を変えるために高校進学前の春休みになんとかしようと決心する。
地味な自分を変えようと思い取り組もうとしたのだが、今まで何もしてこなかったのだ。何をどうしてどこからどう手をつけて良いか全くわからなかったので、兄にオシャレについて教えてもらうことにした。
教えを願いたいほどに花音から見ての兄はオシャレであり、近所からの評判もすこぶる良かったのだ。男女の違いはあれど、そんな兄の助言は自分で考えるより確実だろうと考える。
そうしてすぐに、大学に通い始めてから一人暮らしをしていた兄に連絡を取り助言を乞うたのだが、ただでは教えてもらえなかった。
助言の代わりの条件というのが、一度だけ兄からも花音に対してお願いを要求することが出来るというものだ。それが今発動されようとしている。
又、その際花音は兄にどうして急に変わろうとしたのか事情を問われているのだが、頑なに理由を話さない。話さなければ協力しないと言われたので仕方なく『好きな人に振り向いてほしい』とだけ控えめに伝えていた。
それだけ聞いた兄は満足する。それだけで十分だった。
これまでオシャレや色恋沙汰に興味のなかった花音がそういうことで変化を求めることに嬉しくなったのだ。
結局その時のやり取りに兄が持ち得た権利、強権発動によって花音は仕方なく花火大会に兄と一緒に行くことになった。
「それにしても、そいつも見る目ねぇよな」
「えっ?」
「こんなに可愛い花音が振り向かせられないんだろ?ったく、どれだけ高望みなんだよ。 その浴衣も似合ってるぞ。可愛い可愛い」
「いや、それは……」
水色を基調として青の水玉柄を着ているのは兄による要求だった。
花音にとって誤算だったのは、自分が思っていた以上に周囲の見る目が変わったことだ。
自分でも外見の変化に伴っていくらか自信が湧いたのだが、高校入学以降尋常ではない数の男子に告白される。そのどれをも断ると同時にある種の疑念が生じて来た。
『前より可愛くなったとは思うけど、好みじゃなかったらどうしよう』『もし好きな人がいたらどうしよう』
偶然同じ高校に通うという事は中学を卒業間近に知ったこと。
進学後クラスも違えば中学も一時以外は親しく接してこなかった。遠目に見るだけで最近までどうやって振り向かそうかと思ってもやり方がわからなかった。というよりも、そもそもどうやって声を掛けたらいいのかすらわからなかった。自分が思っていたよりも周囲の扱いが加速度的に変化していることに戸惑う。
もしこれで接点のない潤に気安く声を掛けてしまうことで、どれだけの迷惑を掛けてしまうかわからなかった。
隣で歩きながら満足さと不満さを同居させる兄の言葉でふと昔のことを思い出してしまう。
だが、二年になったことで変化が生まれた事を嬉しく思う。
瑠璃のこと、あれこれには驚いたものの、安堵もしている。
そうした中、花火大会に向かう途中、潤と瑠璃と同じ電車に乗っていることに花音は気付かない。
駅を出て花火会場に向かう道中、兄がより満足そうにしているのは周囲の反応だった。
「ほら見てみ?身内びいき抜きにしても花音を見る男いるだろ?それに高校では何人振った?」
「……数えてない」
「大体何人以上だ?」
「……たぶん、30人以上…………」
「ちなみに中学では?」
「……ゼロ。 もういいでしょ!?」
恥ずかしいと思いつつ仕方なく言いにくそうに答える。答えないと答えるまで聞いて来ることはわかっている。
「いいことないって。 なっ。普通はそんだけモテないって。そんだけモテるやつ兄ちゃん一人しか知らないからな」
「いるじゃん」
「まぁあいつは本当に可愛かったから特別だな」
「ふぅーん、そんなに可愛かったんだ」
花音の兄はどこか懐かしそうに思い出すように話す。
「けど今の花音の方がよっぽど可愛いけどな!いやぁ、兄冥利に尽きる」
「もうほんとに今日だけだからね!もう要求権ないからね」
「おう、もう十分満足した」
「はぁ」
それでも花音の方が可愛いと譲らないのはそれが本心であるからだ。そんな兄の満足そうな笑みを見て呆れてしまう。
「それにしても懐かしいな」
「何がよ」
「ほら、花音が中学卒業した春休み、最初自分の変化に慣れなくてこうして何度も一緒に出掛けだろ?最初恥ずかしがって全然顔をあげなかったけど、今じゃこんなに堂々としてるもんな」
「おかげさまで。その節はお世話になりました!」
花音はその劇的な変化に気持ちが付いて行かなかったのだが、兄の後押しもあって春休みの間にその変化を克服していた。
そうこう話す間に花火大会の会場に着く。
花音と兄は一緒に一通り花火を見るのだが、強権が使用されたとはいえどうして兄と見なければいけないのか不満で仕方がなかった。
「(はぁ、花火は綺麗だったけど、こんなことならやっぱり声を掛ければ良かったかな。けどお兄ちゃん誕生日だったしなー)」
そう思いながら花火を見終わり帰ろうとしたところ、周囲のカップルに目を送る。
―――視界の中に潤と瑠璃の姿が飛び込んできた。このままでは鉢合わせてしまう。
「(えっ?潤と瑠璃ちゃん?どうして?)ちょっとお兄ちゃん!」
「なんだ?」
「いいからこっちこっち!早く帰るわよ!」
「おいおい、引っ張るなって!人多いんだから!ぶつかるだろ!」
足早に潤と瑠璃から距離を取り駅に向かう。帰りの電車も別に時刻に乗りたかったのですぐさま電車に飛び乗り帰宅した。
疑問が生じる。どうして瑠璃と一緒にいたのか、夏休みでもああして出掛けていたのか、他に誰か、例えば杏奈ちゃんや光汰君はいたのか、など。しかし確認した所でどうしようもない。
さらに面倒なのが兄の存在だ。鉢合わせて会話でもしようものなら兄のことだ、何を言い出すのかわからない。ならいっそ離れてしまえばいい。
「どうした?そんなに不機嫌そうな顔して?」
「別に、何もないわよ」
兄は花音の心情がわからず嘆息する。
「(どうして瑠璃ちゃんと一緒にいたのかしら?実はやっぱり付き合っているとか?そんなことないはずよ、けど、瑠璃ちゃんのあの嬉しそうな顔はやっぱり……)」
花音は潤と瑠璃に会わずに済んだと思い少し安心するのだが、その日は悶々と悩むことになった。
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