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想像以上の夏
053 夏のやり残し(後編)
しおりを挟む「じゃあちゃちゃっと済ませましょうか」と、花音が潤と瑠璃に声を掛け歩き始めようとする。
「瑠璃ちゃん、怖かったらやめてもいいんだよ?」
「い、いえ、大丈夫です!」
瑠璃に声を掛けるとそっと瑠璃は耳打ちした。
「それとも、もしかしたら二人きりにした方が良かったですか?」
「いや、そういうわけじゃないよ。本当に怖かったらやめていいってこと。それに気を遣わなくて良いって言っただろ?気にしない気にしない」
「そうですか、わかりました」
瑠璃に小さく声を掛けるのだが、返って来た言葉は遠慮の言葉だった。思ったよりも普通に話せていることに安心するのだが、花音が花火の時に誰といたのかをまだ確認できていない。機会があるまで考えないことにしていた。
「何してるの?早く行くわよ」
「はーい、すぐ行きます!」
先に歩き始めていた花音は振り返り潤達を呼ぶ声が聞こえるので瑠璃が小走りで追いかける。
「(瑠璃ちゃんと花音も仲良くしてくれるといいんだけどな)」と勝手な願望かもしれないなと思いつつ、好意を向けてくれた相手と好意を向けている相手の後ろ姿を見送った。
そうして潤も後を追いかけるように歩き始めたのだが―――。
「こらっ!男子の潤が先頭を歩かないでどうするのよ!」
「わかってるって!ってか花音が勝手に歩いて行ったんだろ?」
少しばかりの悪態を吐きながら溜め息を吐いて花音と瑠璃に追い付いた。
そうして足場の悪い石畳が砕けた割れ目から雑草が生えている上を踏み歩いて行くこと5分ほど、奥に行けば行くほど更に足場が悪くなり、徐々に木々の背丈が大きくなり暗闇が増していく。
「確かに段々雰囲気が出て来たな」
「ちょっと、先に行かないでよ!」
「先輩早いです!」
「えっ!?」
周囲を観察しながら歩いていると、いつの間にか花音と瑠璃を少し置いていってしまっていた。
振り返った先では微妙に縮こまりながら潤に追い付こうとする花音と瑠璃がいる。
「おいおい、瑠璃ちゃんは正直に怖いって言ってただろ?花音も怖いなら怖いって正直に言えよ?」
「ふ、ふん、全然怖くないわよ!」
「ほんとか?」
「ほ、ほんとよ!」
「ほんとにほんとか!?」
「うっ……ぅう、ほ、ほんとは少し怖いわ」
「うむ、正直でよろしい」
そういえばと、海水浴に行った夜に花火を買いに行った際も少し怖気ている様子を見せていたことを思い出す。あの時も薄暗い夜道を少し怖がっていたなと思いながら問い掛けた。
「なぁお化けとか苦手なのか?」
「ちょ、ちょっとだけ、ね」
「ふーん、で、どうする?」
「じゃ、じゃあ、私がこっちを掴ませてもらうから、花音先輩はそっちを掴んだらいいんじゃないんですか?」
「えっ――」
怖がっている花音をどうしたものかと考えるが、そもそもどうして欲しいのかだ。
問いかけに対して様子を見ていた瑠璃が潤に近付き、潤の服の裾をそっと摘まんだ。
「これなら潤先輩に置いて行かれることがないから安心です」
にこりと微笑む瑠璃。
「……あっ、あー、なるほど!じゃあ私もこっちを――」
「ちょ、ちょっと待てって!」
潤の両サイドで服の裾を摘まむ瑠璃と花音。
「ったく仕方ないな。まぁ肝試しだしこういうこともあるか」
ふぅと息を吐き数歩歩き始める。
しかし、数歩歩いたところですぐに足を止めた。
「なるほど、これが両手に花ということか。なるほどなるほど…………って、歩きにくいわ!」
歩き始めて実感するこの後ろに引っ張られる感覚。ただでさえ歩きにくい足場に加えてこの感覚。歩くのに普段の倍の疲労を感じてしまう。
「ちょっとぐらい我慢してください!後輩が頼ってるんですよ!」
「そうよ!こういうとき女子に気遣いできることが男の甲斐性でしょ!」
「ぐっ!くそっ、その説得の仕方は卑怯だぞ!」
不満を口にするのだが、すぐにそんな不満は一蹴されてしまった。
振りほどこうと思えばすぐに振りほどけるのだが、ここで振りほどいてしまう程愚か者でもない。
「そんなに怖いならどうして肝試しに参加したんだよ?」
「そんなの、そもそも肝試しってこういうものでしょ」
「そうですよ」
ぐうの音も出なかった。
正に二人の言う通りなのだから。だからこそお化け屋敷というアトラクションが興行として成立しているのだ。花音と二人ならもっと違う考えに至るのだが、瑠璃もいる手前そんな空気になるはずがないので余計なことを考えないようにしていた。
「はぁ、わかったよ。じゃあゆっくり歩いて行くぞ」
「さすが!」
「だから先輩好きなんですよ」
「「えっ!?」」
しょうがないとばかり再び歩き始めるのに花音と瑠璃が声を掛ける。瑠璃の言葉を聞いた花音は驚き目を丸くした。
「も、もちろん先輩としてですからね!変な勘違いしないでくださいよ!」
「ははっ、わかってるよ」
瑠璃は慌てて誤解しないようにと言葉を差し込んできた。
潤も笑いながら平然と受け答えするのだが、内心では動揺を隠せない。それは瑠璃の気持ちを知っているので勘違いでもなんでもないのだから。上手く誤魔化せただろうか。
瑠璃も上手く誤魔化せたかと思い、花音の顔をチラッと見ると複雑な表情をしており、目が合うとにこりと微笑まれた。微笑みの意図がわからなかったので、瑠璃も微笑み返すしかなく微笑み返した。
「はぁ、やっと着いた(もう肝試し以上に心臓に悪いから早く帰ろ)」
結局最後まで裾を摘ままれたままお堂に着いたのだが、お堂は聞いていた通り確かに雰囲気は抜群だった。
木造建ての建物はもう既に表現のしようがないほどにボロボロだった。いつ倒壊してもおかしくはないほどにあちこち穴が開いている。
「早くボール取って帰りましょうよ」
「そうよ、こんなとこ一秒でも長居したくないわ!」
潤の背中に隠れる花音と瑠璃に周囲を観察する余裕がないのはここに来るまで変わらない。だから当然全く気付かない。
潤に予定のボールを取る様に声を掛けるのだが、潤は周囲をキョロキョロと見渡す。
「いや、それがだな、どこにもそんなボールがないんだよなー」
「「えっ!?」」
そんなことはないはずだ。一組目の光汰と凜がボールを置いて来て二組目の真吾と杏奈はそのボールを持ち帰って来ていた。
しっかりとその様子を見て確認しているので間違いはない。
「おっかしぃなぁ、どこにもないぞ?」
「そんなはずないわ!早く見つけてよ」
「見つからないならもう帰りましょうよ」
花音と瑠璃は潤の服の裾を離しており、なるべく周囲に目を向けないようにしながら声を掛ける。
「しかしなぁ、ちゃんと見つけて帰らないとあいつらのことだ。なんか証拠がないからって罰ゲームを仕掛けて来るかもしれないぞ?」
三人が脳内で想像する。うん、確かにその可能性は否定できない。むしろ高いとすら思えた。
罰ゲームとなれば今の状況よりもひどいことを要求されるかもしれない。花音と瑠璃は目を合わせて頷き合う。
勇気を振り絞って潤と一緒になって指定のボールを探すのだが、一向に見つからない。
十数分探したところで結局見つからないのと同時に我慢の限界が来た。
「はぁ仕方ないな、もう帰ろうか」
「けど罰ゲーム要求されたらどうするのよ!?」
「そうですよ!杏奈ちゃんたぶん容赦しないですぅ」
「(ってか、おかしいだろ君達)」
わざわざ思い出させる必要もないので口にはしなかったが、どれだけ罰ゲーム恐いんだよ。と、既に霊的な怖さと罰的な恐さが入れ替わっているじゃないかと思いなら呆れてしまう。
「いいよ、罰ゲームって言われたら俺が責任を取って引き受けるから花音と瑠璃ちゃんは気にしなくていいから」
「そんな、そんなの先輩に悪いです!」
「やった、さすが潤!頼りになる!」
「「えっ?」」
潤の言葉に対して真逆の返答をした。
「いいのいいの、潤に任せましょ!」
「けど……」
「いいって、瑠璃ちゃんは気にしないで。むしろ花音に瑠璃ちゃんの優しさを見習ってほしいけどな」
「十分優しいわよ?潤に男を見せるチャンスをあげてるんだから」
「なるほど、そんな見方もできるのか。さすが首席様は違うな、物は言いようだ」
「なんか嫌味っぽいわね」
「んなことないって、感心してるだけ」
「ほんとにぃ?」
「当り前だろ」
中学時代に何度と繰り返されていたそんな潤と花音の気安いやりとり、瑠璃は黙って見ているのだが、ぎゅっと唇を噛み締める。しかし、潤と花音に気付かれない内にすぐに笑顔にして声を掛ける。
「じゃあ先輩に全部押し付けちゃいますね!よろしくお願いします!」
「お、おぉ、それだけ堂々と言われるといっそ清々しいな」
「えへっ」
胸を張って応える潤に対して瑠璃は喉元まで出かかった気持ちを呑み込んだ。
そうして帰り道、花音と瑠璃は周囲の薄暗さにも慣れてきてもう潤の服は摘まんでいない。行きと帰りでは圧倒的に速さは違ったのだが時間の経過はそれ以上経っている。
「遅かったな、何やってたんだ?もうちょっとで見に行くところだったぞ」
「すまんすまん、いや、それがだな―――」
光汰や杏奈たちが待つところまで戻る。当然見つからないボールを探していた分時間が掛かっていた。
そのまま時間が掛かってしまった事情を話す。
「おかしいな、俺達の時は二つともボールあったぞ?なぁ杏奈ちゃん?」
「うん、私も見たというより手にしたもん。 そっかそっか、じゃあ見つけられなかった罰として三人にはなにしてもらっちゃおうかなぁ」
来た、とばかりに身構える三人。
予想通りの展開過ぎて覚悟はしている。「あのな杏奈―――」とこれも予定通り責任を潤が負うつもりで声を掛けようとしたのだが―――。
「――あっ!」
杏奈は突然驚いたように声を発して周囲を見渡す。そして全員の顔を見た後にポケットから丸い物体を取り出した。
それが何かを全員が知っている。
見つからないはずだ。だって杏奈が持っていたのだから。
「いやぁ、ごめんごめん、そういや真吾君と私と同時にボール持ってて、二つはいらないと思ってポケットに入れちゃったみたいね」
「お前な!そういうこと間違えるなよ!めちゃくちゃ探したんだぞ!」
「だからこうやって謝ってるじゃない!」
少しは悪びれるのだが、誠意のこもっていない謝罪に憤慨する潤と苦笑いする一同だった。
こうして夏休みの最後のイベントは終わり、そうして数日過ぎると夏休みが終わる。そうなると必然的に二学期が始まる。
「あれ、そういや二学期って修学旅行があるのか」
二学期のイベントを考えてしまっていた。
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