【R18】知らない人からもらった飴ちゃんを不用意に食べてはいけません

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知らない人からもらった飴ちゃんを不用意に食べてはいけません

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 その夜、私はとっても酔っていた。
 自覚はなかったけどそうとしか思えない。
 普段からお酒を飲む方じゃなかったし、そんなに飲める方でもなかったけれども、今夜ばかりは多少飲みすぎてもいいだろうと、自分のリミッターを外すことを許可してみたのだ。
 そのため、自宅の最寄り駅を降りて散歩がてらに歩いて帰ったが、程よい加減に酔っ払って、上々の気分で家路についていたと思う。

 しかし、だからと言うわけじゃないが……ちょっと昨夜の記憶が怪しくて……

「すみません、あなた、誰ですか?」

 自室のベッドの上でムクリと起き上がり、目の前でニコニコ微笑む淡い金髪で緑の瞳のキレイなお兄さんに尋ねると、自分がマッパで寝ていたことに気づいて、「ひっ」と悲鳴を飲み込んで枕を抱きかかえた。

 なにこれなにこれっ!?
 何で私裸なのよ!?
 とうとう欲求不満が天元突破して、行きずりの男を持ち帰ってワンナイトラブしちゃったってこと!?
 全く記憶にございませんがっ!

 問われたお兄さんは、私のものではない―――簡易だけれども仕立ての良い―――部屋着のようなものを着てベッドサイドで私を見下ろしてカーペットに正座して座っていたのだが、途端にへニョンと肩を落して悲しそうな顔をする。
 その様子があまりにも哀れじみてて、すぐに自分の言葉選びを間違えたと悟った。

 ……ていうか、なんか左右の側頭に小さなアンモナイトみたいな羊の角(?)がついてる……?

「貴方に召喚されて、昨夜はあんなに情熱的な一夜だったと言うのに…何も覚えていないのですか…?」

 そうして切れ長でキレイな綠色の瞳を潤ませながら、目の前に20cmに満たない一本の棒を差し出されると……ジワジワと昨夜の出来事を思い出し…

「ふぉぉっ!!」

 と、叫びながら両手で顔を覆って、羞恥と後悔に苛まれながら、成り行きを思い出していった。




 私、杉下綾女29歳は、しがない独身OL…いや、会社員である。

 会社についての詳しい説明は省くが、とりあえずブラックというほどひどい労働環境ではない中堅どころの機器メーカーだと思ってもらえると幸いである。
 しかし、いくら労働環境がそれなりに整っていた所で、それぞれの社員の人生を襲うアクシデントというものは纏めてやってくるらしく、ここ1ヶ月程度は限定的にブラック企業の仲間入りをしていたと言っても過言ではなかった。

 同僚・先輩・後輩諸々が突然のおめでた・病欠・忌引により一人…また一人と欠けていくという過酷な状況でも、無情に差し迫る納期は待ってくれない…というか、待たせることなど出来ない。
 獄長様―――じゃなく、課長様の『ワンチームで頑張ろう』という、今となっては使い古された感のある言葉の圧をヒシヒシと感じながら、残業に次ぐ残業のデスマーチでもう2日も家に帰っていない。

 まあ、帰った所で風呂入って寝たらまた出勤なんだけど。

 そんな自分の存在意義すら見失うような多忙な日々に、衝動的に何度も『こんな仕事辞めてやらぁっ!!』と…資料コピーしながら心の中で絶叫した。

 できないけど。

 見積もり資料を修正するために、カタカタとPCのキーボードを叩きながら、ふと『私達は何のために生きてるんでしょうか?』と聞けば、『会社の良き奴隷となるためだ』と、何の感情も籠もらない声でバッサリと、私以上に濃いクマを常駐させている先輩に断ち切られて、ギュッと疲れた目頭を抑え込んだ。

 夜中に泊まり込んだ所で人気のないオフィスでエッチしてるような不倫カップルも見つけられず、意識消失して机に突っ伏している所を見回りの守衛さん(62歳)にそっと肩を揺すられて覚醒し、机に置かれたコーヒーに涙を流すような情緒不安定な夜には人間辞めたくなってくるものだ。

 いや、最早人ではなく、社畜という名の獣であったかもしれない。

 しかし、そんな日々はもう終わったのだ。
 来週からは病欠の同僚たちも戻って来てくれるはずだ。
 課長の『みんな、少ない人員を強いられた中、よく頑張ってくれた。先方からも、満足していただくことができた』なんて、捻りのないシンプルな労いの言葉がジワジワ心に染み込む程、私達は心も体も蝕まれていた。

 仕事帰りに、死闘となった戦いを共に戦ってきた戦友たちと打ち上げに繰り出したのだが、体は思ったよりも疲労を訴えていたためか、誰もはっちゃけることもなく、『俺たち、良く生き残ったな』…的な、互いの苦労を労い合う程度の、思ったよりもシットリとした会となった。
 そして程よく酔った数時間後に会はお開きになり、心地よくそれぞれの家路についていった。


 私はというと、いつもより多少酔っていたかもしれないが、優しい新婚ホヤホヤの先輩に

「杉下、お前タクシー呼んで送ってってやろうか?」

 なんて言葉を掛けていただいたものの、当の先輩も何日も家を明けて心配している妻の元へ、早く帰らないといけない。
 なので、

「一人でダイジョーブでぇっす!
 今日は満月で明るいし、電車乗って帰ります。
 お疲れ様でしたーーっ!」

 なんて、ほろ酔い気分の軽い調子で先輩の言葉を断って、スタスタと駅の構内へ入っていった。
 程よく酔ってて気分は良いし、開放された頭もちょっと陽気になってしまっているだけなので、普通に電車で帰れると思ったのだ。



 そして無事に終電前の電車に乗って、最寄りの駅から徒歩15分程離れた我が家へ向かって歩いていた時だった。

『もしもし、ちょっとそこのお姉さん』

 いつも通る小さなお社の横の路地から、アヤシイ占い師のような格好の女性?から声を掛けられた。
 頭からローブを被って姿が見えず、声も何やら籠もっていて高いんだか低いんだかもわからないのだ。

「んーー? 私? うぉっ、わかり易い位にアヤシイ人だ!」

 ……私も大概酔っていたと思う。
 怪しい人に『アヤシイヒトだ』と指を刺して声を上げるんだから、危機感の欠如も甚だしい。
 しかし、その人物は私の反応など全く気にせず…と言うか、まるで何かに追われているかのような、やたら危機感を感じさせるような余裕のない笑顔で笑いながらグイグイと距離を詰めて迫ってきた。

『こんばんは。
 アヤシイものではありませんよ、私。
 お姉さん、今日も一日頑張ってお仕事されたようで、お疲れさまです。
 そんなお疲れなお姉さんに、私、とっても良いものを差し上げたいと思います。
 もらっていただけますか? いただけますよね? ありがとうございます!』

 酔って回らない頭では反応も遅れるものだが、それにしてもその人物の早口な口調で迫りくる接近スピードは早かった。
 身長は私と変わらない程度だったが、ローブの頭部はボコボコと動物の耳のような2つの尖りができてて、なんか可愛いと思っていたら、反応が遅れてしまったのだ。

「ふぇ?」と、数秒遅れて言われた言葉を反芻しているうちに、いつの間にか手の届く距離にまで近づかれ、気づけば反射的に体を引く前に手の中に一本の棒を握らされていた。

「ちょっと…これ、なに?」

 すぐに体を離してくれたし、別にそれ以上変なことをされたわけでもないので特に慌てることもなく、私は手の中の棒を上から下から眺めて首を捻る。
 見た感じ…小さい頃どこかのテーマパークで買ってもらった、フランクフルトみたいな大きな棒付きキャンディの様に見えた。
 アメの色は全体的にほんのりピンク色で、ピーチミルクかストロベリーミルクといったところなんだけど…
 なんかピンク色のチョコバナナの様な見た目が、そこはかとなくエロい物の様に見えるのは、私の心が穢れているからだろうか?

 でもさー…子供の頃、強請って買ってもらったペロリンキャンデーって、最初は大きなアメに喜んで食べ始めるんだけど、食べきったことないのよね。
 大体、食べてる途中で飽きて、ラップに包んで冷蔵庫にしまってたはずなんだけど、何日も経ってから「続き食べるの?」って聞かれて、「いらなーい」って言って捨てられるパターンがほとんどで。

 そんな思い出に耽っていると、ローブを被った人物は、

「あなたの運命の伴侶が現れる、魔法のアメです。
 お家に帰ってお風呂に入って疲れを取ってから…ゆっくりじっくり味わってください。
 うふふふふ……」

 なんて、大変如何わしい笑いをこぼしながら、スッと暗闇に消えていった……と思ったのだが、

「うーーーん……食べきれないからいらない。捨てちゃえ」

 と言って、道端に放り投げようとすると再び姿を表し、必死になって私の手を両手で掴んでくるのでビクッとなった。

「ちょちょちょ……待って、待ってください!
 それ、ほんっとぉに大事なものなの。
 捨てちゃだめ。捨てないでください!
 後生ですから、お願いしますぅぅうっ!」

 と、家族が人質にでも取られてるのか、自分の命でも掛かってるのかと思うほど必死になって頼み込んでくるので、その気迫に押されて

「う、うん。わかった。ごめん、捨てないから。
 ダイジョブ、ちゃんと持って帰るから…泣かないでクダサイ…」

 と、カクカクと首を振りながらバッグにしまい込んだのだった。

「ありがとう…ありがとうございますぅぅ…」

 そうして、うっうと泣きながら、ローブの人は今度こそ暗闇に姿を消す。
 私は、半ば夢でもみてるんじゃなかろうかと思いながら呆然と立ちすくんで、怪しい人物が消えた先を見守っていたのだった。

 その後ぽつんと残された私は再びノソノソと路地を離れると、そのままその棒付きキャンディ風のアヤシイものを捨てもせずに持ち帰り……

「フハーーー…、生き返るぅ…」

 なんて、酔い醒ましにミネラルウォーターを飲みながら、風呂上がりのホカホカした体でベッドに腰掛け、カサカサとアヤシイ棒付きキャンディの包みを開いていた。
 その頃には酔いなんてすっかり覚めていただろうに、ローブの人物があまりに怪しすぎて、不用心にも逆に好奇心が刺激されたのだ。

「しっかし、怪しかったなあ、あの人。
 あれ、マジ泣きしてたよね…? 何があった?
 でも、あそこまで頼み込んでくると、逆にこれが何か気になるわ…。
『運命の伴侶』ねぇ…
 はは、胡散くせーーーー……」

 …齢29歳の女一匹。
 仕事一筋のアラサーにもなると、この程度の安い謳い文句じゃ夢も見られなくなるというもので。
 彼氏と別れてから早5年…
 すでに『仕事が恋人』と言ってしまいそうになる危険水域まできている自覚があり過ぎて、涙も出ない。

「『運命』かぁ…どこかにいるんなら、早く出てきてほしいよねー……」

 トサッとベッドに上体を倒し、乾いた声でつぶやきながら、アメの側面をぺろりと舐めて、チュルリと口に含むと、優しいミルクの味がして……思った以上に美味しくて驚いた。

「あれ?
 なんか、すごく美味しい、このアメ。
 やだ、寝る前だって言うのに、止まらないじゃない」

 ペロペロ…チュルチュル…

 ほんのりフルーツ風味のミルク味。
 そんなありきたりで飽きない味だけども、しつこさのない後味は口に残る甘みも程よく、思った以上に美味しくて、私は夢中になって舐めしゃぶった。

 口の中にいっぱいに頬張って、ジュルジュルと音が立っても、一人だから気にならない。
 上から咥えても下の方は届かないので、幹の部分も余さず舐め上げる。

「……なんか、結構ヤラシイことしてない……?」

 夢中になって舐めていたものの、ふとガラスに映る自分の姿が目に入り、まるでディルドを咥えているような卑猥な絵面にハッとするも、その手は何故か止められなかった。

「ん…はぁ…。やだ…止まらない…。 それに…暑い…」

 アメを食べているだけなのに、まるで発情したように体が火照ってきてたまらない。
 お風呂上がりだからだろうか?
 そして、何故か胸の先が薄いパジャマの布地を押し上げるほど形を露わにし、股間が滑っているのを感じていた。
 まるで自慰でもしてるような感じの濡れ方だった。

「やだ…ヤダ…これ、やっぱりおかしなものだったんじゃないの?」

 流石にココまで来ると、このアメの怪しさに危機感を覚える。
 アメにしては溶けるのが早くてほとんど食べてしまっていたが、ヤバい薬でも含まれているかもしれないので、今更ながら捨ててしまおうと思った。

 その時だった。

「あ…っ……もっと奥まで……」

 不意に頭の上から男の声が聞こえた。

「っ!?」

 自分一人の部屋のはずなのに、聞いたことのない声がして、ビクッとして顔をあげようとするのだが、逆にグイッと頭を抱え込まれる様に押さえつけられ、かろうじて口に含んでいたモノが、より大きく太く…質量を増したことに驚いた。

「―――っ!!」

「待って、もう少しでイクから……んぁっ!」

 そう言うや否や、口に含みきれないほど大きくなったソレは熱く、ドクンドクンと脈打って、ズコズコと私の口を出入りしては喉奥まで蹂躙してくるので嘔気いて息苦しい。

「んぐっ! ぅぷっっ!」

 そして数回出入りすると、口の中にブシャーっと何かの汁を吹き出すので反射的に飲み込むも、その後も口の中を占領しているモノがビクンビクンと震えているのを感じた。

「あ…あ……な、なに……?」

 状況の変化に対応しきれず、ボンヤリと自分の頭を包み込む存在を見上げると、先程まで私の口の中にあったモノがペチリと私の頬に当たってハッとする。

 ……この血管が浮き出てビクンビクンと微かに振動する、太くて長いモノ……
 …完全に臨戦態勢になったおちんぽ様だよ…。

 目の前でそそり勃つモノの存在を確認すると、あまりの展開に一瞬クラリとめまいがした。

「すみません、あんまり気持ちよくて」

 上の方で聞こえてくるのは、目の前のグロテスクなモノと相まって、涼やかで低い男の声。

 誰…?
 いえ、そんなことよりも……

 私は、見知らぬ男が突然現れた恐怖に悲鳴を上げることや、その男が同じベッドの中で全裸で自分に寄り添っていることよりも何よりも、目の前のモノをもう一度口に含むことを優先して押し倒し、股の間からそそり勃つ幹をペロペロと舐め上げた。

「…んっ。…ああ…また咥えてくださるんですね……ぁっ…」

 …男のモノを口に含んだことがないわけじゃないが、頼まれもしないのに自分から率先して咥えたのは初めてだ。
 まして初対面の、こんなにアヤシイ男だと言うのに。
 いや、如何わしければ如何わしいほど、ゾクゾクと背筋に悪寒が走ると同時に興奮してくる。

 おっかしいなぁ…そんなに欲求不満だったんかなぁ…うふふふ…

 なんてひっそりと嗤いながら肉棒とも呼ぶべきモノに両手を添えて、かつてないほど積極的に、口に含みきれない程そそり立つ昂りの先をジュルジュルとしゃぶる。
 ビクビクと反応を返す下半身に、ニヤリと口角を上げながら顕になる幹の部分を扱いていくと、ダラダラと溢れる精液が口内に溢れた。
 その味は、先程まで舐めていたアメの味に似て、甘くて美味しい。
 男の精液が甘くて美味しいなんて、エロアニメかAVの幻想だって知っているけれども…何故か美味しいと感じていた。

「ん……チュプ…何で…何でこんなに美味しいの…?」

「はっ……ぁっ……私達が…これ以上ない程…相性の良い伴侶だから………」

 余裕なくハァハァと吐息を漏らしながら答えられる内容に思わず笑いが溢れ、先端の窪みを尖らせた舌でほじる。

「あっ…あっ……んぁっ!」

 刺激を与える度に小刻みに震える腰が可愛らしく、奉仕される間も私の頭を優しくなでて、髪を梳いてくれる仕草にときめいた。

 そして、ジュウっと上から吸って半ばまで口に含み、吸引をやめるタイミングで先端まで戻す動きを何度か繰り返していると、ジュゴジュゴと卑猥な水音が部屋に響く。
 ぐねぐねと無意識に腰を蠢かせる体が離れていかないように押さえつけると、今度は上下に動き出すので、私の動きに合わせてオネダリされているようだった。
 そして徐々に限界が近づいてきたのか、さわさわと指で弄っていた陰嚢がキュッと引き上がってきたのを感じると、どんな表情になってるのか見たくなって上目遣いで見つめるも、顎を反らし腰を跳ね上げられたので顔は見えなかった。

 うん、イッていいよ

 心でそう言いながら、より激しく先端を吸い上げて手の動きを早めていくと、

「あっあっあっ……イクっ…ぁあっ!!」

 鼻に掛かった高い声を上げながらビクビクと腰を痙攣させ、再び私の口の中に白濁をぶちまけた。
 そして、多くの精液を放った後ですら昂りを失わずにビクビクンと震える性器を再びジュルっと吸い上げると、

「ま、まって…っ! ンぁあっ!!」

 焦った様に悲鳴を上げながら私の頭を股間に押し付けるように抱きかかえられ、口から溢れてダラダラと滴りそうになる精液を、零さないようにゴクリと飲み込む。
 いわゆる、お掃除フェラというやつだが、イガイガすることもなく、やたらとのど越しも良いので驚いた。

 やっばい…これ、ジョッキで全然飲めるわ。

「な…なんてことなさるんですか!?
 大丈夫ですか!?」

 そう言って心配そうに覗き込む顔は、ちょっと年上の様で、見たこともない位整っていて綺麗だと思ったけど、やっぱり知らない男の顔だった。

 ていうか、彫りの深い目鼻立ちにちょっと長めの淡い金髪と緑の瞳なんて…あからさまに外人じゃないの。
 いや、それより何より…頭の左右についてるグルグルのヤギだか羊だかの角って…
 …コスプレじゃないんだろうなぁ……つなぎ目わかんないわ
 ……何者なんだろ、この人……

 そんな事を考えながら、一度じゃ飲みきれずに口の中に残る精液を再びゴクリと飲みこむと、微かに残っていた理性さえも再び消え去っていく。

 …やっぱり、この人の体液は私には毒だ…

 そう思ったが…やめられない、麻薬のような甘い毒。
 口に残る甘みを味わいながら、ボンヤリと…そしてウットリと目の前の男の顔を見つめると、相手も発情して私を見つめているのを理解した。

「…本当に……私の伴侶は、なんて淫らで可愛らしい………」

 ふと気づくと口の中や体のベトベトが消え去って、微かな消失感を感じた瞬間、逞しい腕に抱きしめられる温もりに包まれながら、今度は私がベッドに押し倒されていた。
 どんな技を使われたのか、風呂上がりに着ていた寝間着も消え去って、ショーツ一枚になって抱きしめられていたけれども、全く寒さは感じない。

 私が食べられる番なんだろう。

 そう思いながら唇を舐めて湿らせると、うっとりとするように目を瞑り、両手を広げて温かい重みを迎え入れた。



 最初は確かめるように、顔や首筋なんかにチュッチュと触れるような口づけを落とされ、くすぐったさにクスクスと笑いを漏らしていると、徐々に口づけが長く深くなり、同時にモニモニと胸を揉まれながら首筋や耳元をレロレロと舐められだすと、思わず色めいた吐息が漏れる。

 浅く開いた唇を、舌でこじ開けられて差し込まれ、口の中の感じる部分を探られるように舐め回されると、こちらも応えるように舌を差し出した。
 そして、互いに確かめ合うようにザラつく舌をこすり合わせると、ジュプジュプと淫らな水音が口内に響いて耳を犯す。

 口づけだけですっかり濡れた股間をモゾモゾと蠢くように動かしていると、クスリと嗤われた気配を感じて居た堪れなくなる。

「キスは好き? 気持ちいいですか?」

「ん。すき。もっと…」

 そう言って、流し込まれる唾液を嚥下すると、口蓋を愛撫するようになぞられて、ジュッと吸い上げられた舌を甘噛されれば、ビクビクと腰が震える。
 口の中に広がる唾液ですら甘く、私の興奮を掻き立てる媚薬のようだと思った。

「ふふ…トロンとして可愛い……。
 キスと軽い愛撫だけで、もうドロドロに濡れているのですね。
 蜜の溢れる堪らない匂いがしてきます…
 それもとも私のモノをしゃぶりながら、すでに興奮していましたか?」

 その言葉に返すように、見つめ合うために少し離れた上体を引き寄せ、頭を抱えて背中に指を這わせると一瞬ビクッとしていたが、クスクスと笑いながら耳元にジュッと吸い付かれた。そして、首元から耳裏までヌメヌメと舐め上げられて、「ンぁっ…」と声が漏れる。

「ああ…貴方は…体中どこもかしこも甘くて…芳しい匂いがする…」

 そう言って、私の両腕を頭の上でベッドに押し付けると、首筋に顔を埋めて匂いを吸い込まれているのを感じて、その吐息にフルリと体を震わせ、舌を這わせながら脇の窪みに鼻を押し付けられて、羞恥に身悶える。

「や、やだっ。 そんなトコ嗅がないで……っ!」

「お風呂に入った後だからか、あまり匂いがないのが残念ですが…ここからも貴方の体液を含んだ色濃い匂いがします…。
 伴侶のオスを惑わす匂いだ…」

 言いながらペロリペロリと、暑さで汗ばんだ腋窩を舐められて胸の膨らみに指を這わされると、堪らず腰がクネクネと蠢いてしまう。

「はっ…あっ…やんっ……あんっ……ンっ…」

「ン…あぁ……なんて淫らがましい。
 ……もっと声を上げてください…。
 ココを舐めながら可愛い胸をいじられると、堪らないんですね」

「やっ…いやっ…そこだめっ!」

 そうして、上体を横向きにされて、思うまま横乳から腋窩までツーーっと何度も舌を這わされて、尖った胸の先端をヤワヤワとつままれると、反射的に体がビクビクと震えてしまう。
 しかし、逞しい腕に押さえつけられた体は、蝶の標本のようにどんなに暴れてもそれ以上は身動き取れないほど拘束されていた。

「んっ…はっ……駄目…そこだめだったらっ!」

 乳首も脇も、本当に駄目なのだ。
 片方の乳首を指で拗じられ押しつぶされながら、もう片方を舌で転がされて腋窩まで舐め上げられたら、何も考えられなくなる程キモチイイ…。

「ふふふっ…良いですよ。私も何度もイカされたのです。貴方もたくさんイッてください」

 その言葉を聞いて、頭で理解する余裕もないまま、

「あっあっあぁっ!」

 と、短い声を上げながら、一瞬フッと意識を失ったのだった。



 私が軽くイッたその後も、まるで責めは終わらず。
 何事もなかった様に仰向けに転がされて、ここ最近の過酷な日々のせいで痩せてしまった胸の谷間に口づけを落とされ、同時に両手で胸を揉みしだかれてると、切なくて腰が揺れる。
 そして中央に寄せたり持ち上げたりと弾力を楽しみながら、時折乳輪のきわどい部分を指でなぞられると、吐息が漏れた。

「んっ…やん…もっと………先っぽも……」

 はぁはぁと息を乱して、胸元の頭に指を差し込んでサラサラな髪をくしけずりながら訴えると、ニッコリ微笑みながら顔を上げられて、ドキッとする。
 作り物のようだと思った角は、あまりにリアルな質感で、ひんやりと体温より冷たく滑らかな手触りが気持ちよかった。

 そして、ニヤリと淫靡な笑いを浮かべつつ、上目使いで見せつけるように、いやらしく蠢く舌先で固くなって肥大した乳首をヌルヌルと弄ぶ姿を見せつけられてはジュッ吸い付かれて口内に含まれると、それだけで触られない下半身にキュッと力が入る。

「んっんっ……イイ…それ、すきぃっ」

「固くなって吸われるのを待っている、やらしい乳首ですね……。
 ああ、こんなところまで甘くて芳しいなんて……やっぱり貴方の体は本当に相性が良い…
 ………もう、あなたしかいない……」

 そうして、ガチガチに固くなった乳頭を長くて厚い舌に絡め取られて扱かれるように蹂躙されながら、反対側の先っぽも男性にしては長くて細い指に摘まれ、プルプルと弾かれると

「あっあっ……やっ……ンっ……ちくびだけでイッちゃうっっ、イクぅっ!」

 なんて、鼻にかかったか細い声で嬌声を上げながら絶頂したのだが、ビクビクと余韻に浸る間もなく、その後も責め苦は滞りなく続行される。
 ペロペロと乳首を舐め転がされてチュルチュルと口に含まれながら、ツーっと指先を臍下までたどられると、ゾクゾクと腰に悪寒が走って忙しなく揺らめくが、その指がおへそをくるりとなぞって、ほじられると、その刺激にビクッと腰が跳ねた。
 そして、そのまま指が下着の上から隘路をなぞり始め…布越しなのにクチュクチュと粘る水音が耳に入って、居た堪れなくなる。

「ふふふ…すっかりびしょ濡れになってます。もう、ドロドロで、下着の意味も無くなっていますね」

 なんて、ペロペロと乳首を舐め転がしながら、クチュクチュと下着の上から一本の指で暴くようになぞられると、それだけで腰が跳ねた。

「やっ…あっ……もう、いやぁ……焦らさないで…っ」

 私と言えば、体中の性感を刺激され、グズグズになった状態で涙を零しながら、されるがままに喘ぐしかないわけで。
 もう、これ以上弄ばないで、止めを刺して楽にしてほしいという、瀕死の獲物のような気持ちだったが、力なく投げ出された脚から下着が引き抜かれたのを感じて、くっと息を止めた。

 胸元から舌を這わせながら下方へ移動していった男の体が、いつの間にか足の間に移動しており、ドロドロになった花弁を見つめているのがわかって、羞恥と期待に打ち震える。

「ああ…堪らない匂いがします。
 ふふふ……ココに舌を這わせて蜜を啜ったら……私はどうなってしまうんでしょうか……」

 穏やかな口調に反して、その目は獲物を前にした肉食獣のようにギラギラと輝き

「ん…好きにして…」

 私はそんな彼に捧げられた供物のような…全てを受け入れる気持ちになっていた。

「ああ…いただきます。あなたの全てが私のものです……」

 私の気持ちが正しく理解されたのだろうか、そんな囁きが聞こえると…花弁を指で押し開かれた感触がしてすぐ、熱くてヌメヌメとしたモノに、ぬるつく隘路を舐め上げられて、ビクっと腰が跳ねた。
 そして、何度も下から上へと往復されて、敏感になっている陰核を舐め転がして吸われると、

「あっあっ…きもちい……そこっすきぃっ!
 やっ、ぁっ……おかしくなっちゃうぅっ………んっ!」

 と、顎を突き出して腰を跳ね上げるように体を反らし、全身で快感を享受するように、彼に与えられる刺激を受け止めようとするも、受け止めきれずに腰を何度も跳ね上げた。

「ああ…なんて甘い……力が溢れるようだ……。たまらない……」

 私の腰を両手で抱え、鼻面を突っ込むように顔を押し付けると、ヒクヒクと蠢く蜜孔に舌を差し入れて、後から後から溢れ出す蜜を啜られる。

「……どんなに舐めても啜っても……キリがない…。
 ふふふ…もっと乱れて、私に溺れてください。
 離れられなくなるほど……」

 そうして、陰核を舐め転がされながら夢中になって暴力的な快楽に落とされていると、何を言われているのか気づかない内に膣孔に指が差し込まれ、

「あぁっ……んっ…あっあっ…イヤっ…そこっ……」

 快楽に溶かされた頭は最早思考する力も失って、陰核に吸い付かれて2本3本と増やされた指にぐじゅぐじゅとかき回されながら、鼻にかかった甘い声を上げるしかできなくなっていた。

「やだっもう……だめっ!……イッてるっ…もうイッてる…っ」

 ダラダラと涙を零しながら、まるで違う生き物のように全身をビクつかせて訴えるも、グジュグジュと蜜孔を蹂躙する動きはやまず、何度も何度も奥のイイ所を探り当ててはしつこく責められる。

「…うふふ…泣きながら訴える顔も、可愛らしい……」

 ともすれば、ウットリと見惚れてしまいそうなほど美しく艶めかしい笑顔だと思ったかもしれないが、絶え間なく責め立てられながら言われては、それどころではない。

「ぁあああっ!」

 程なくして、私は全身の筋肉を緊張させながらビクビクと痙攣を繰り返すように、絶頂を極め……ハアハアと息を乱しながらベッドに崩れ落ちたのだった。



「そろそろ私を受け入れる準備も整ったようですね……。
 貴方の体のイイ所を把握してるだけだというのに、もう、私も我慢の限界です」

 ……準備なんて……こんなに念入りにヤッてくれなくてもいいのに……

 すでに疲労困憊で起き上がることも出来ないほどイカされたというのに、これからが本番だというのだろうか…
 これから待つ責め苦のことを考えるだけで期待に下腹部がキュンとしつつも、背筋に寒気がしてくる。

「ちょ…もう駄目……」

 息も絶え絶え、顔だけ上げて訴えるのだが、本当に嬉しそうに微笑む笑顔が眩しくて……それ以上の言葉を飲み込んでしまった。

 細めだけれど引き締まって逞しい体躯に、体と対比すると大きめの性器の姿は、最初に私が散々舐め尽くした時より固く大きくなったように見えるのは錯覚だろうか?
 そして、その肉棒でヌルつく隘路をなぞられると、ビクッと反射的に力が入ってしまったものの、心配そうに見下される眼差しに気がついて、

「ん……来て……」

 と、思わず声をかけると、嬉しそうに微笑まれた。

「じゃあ、いきますね……」

 囁くように呟かれながら、ズブズブ…とゆっくり挿入されると、思った以上の質量に息が止まる。

「あっ………あっ………ンんっ……」

 ゆっくりゆっくりと押し入りながら、小さな声で囁かれ、不意に聞こえた声にキュンっと下腹に力が入った。

「ちょっ……まだ締めないでくださいっ…」

 収まりきらない途中で焦ったように言われるも、何とかしてあげられる余裕なんてなかった。
 こっちも、入れられるだけでイキそうで、いっぱいいっぱいなんだから。

「やんっ……きもちい…っ。もっと動いてっ……」

 そう言いながら、目の前の存在にしがみつくと、耳元で諦めたようなため息が聞こえ……

「は……っ。そんな煽って…っ」

 そんな呟きが聞こえた瞬間、ユルユルと腰を揺さぶられたと思ったら、徐々にその動きが忙しないものとなっていった。

「あっあっあっあっ………ンっ! そこ、もっと・・っ」

 腰を浮かされて正常位で抜き差しされながら、胸を揉みしだかれ、絶え間ない嬌声が部屋に響いた。

 このマンション、割と防音設備は整っているが、大丈夫だろうか?

 一瞬だけそんなことを考えると、

「他に意識を散らさないでください」

 なぜわかったのだろうか、獰猛な笑みを浮かべられながら注意されながら更に激しく奥まで突かれたので、思考は一瞬で霧散した。

「やぁんっ…そこっ…いやっ…」

 生理的な涙を零しながら、イヤイヤと体を揺すって過ぎた快感に身悶えると、抱き起こされて対面座位の体勢にさせられて、再び一瞬息が止まる。
 そして更に奥の方まで突かれ、さっきと違うイイ所を擦られて、弓なりに背を反らして嬌声を上げては、貪欲に貪るように腰を振ってついていく。

「あっあっあっ……そこっ、深いっ…奥までズコズコあたるっ……」

 喉が枯れる程声をあげ、下半身を揺さぶられながら不安定になった上半身を目の前の存在にしがみついて固定しようとすると、尖りきった胸の先に吸い付かれ、甘噛されながら突き上げられるという責め苦に、声も出せずに何度も絶頂した。

「くっ…絡みついて搾り取られる……っ」

「あっあっあっ……もうらめっ…らめっ……何度もイッてるのぉっ…っ」

「んっ……私ももう限界ですっ……一緒にイキましょう」

 そうして、お互いにどちらともなく口づけ、上からも下からも繋がり合いながら、ズンズンと腰を持ち上げられて落とされるのを繰り返し……絶頂に達して腕の中の存在にギュッとしがみついていると、ビュビュッと胎内に熱が放出されるのを感じながら、意識を失っていくのを感じていた。





 ああ、そういえば、そんな感じだったかしら……。

 私は、ベッドの上で上半身を起こした状態でこれまでのことを思い出し、片手を額に当てながら眉間にシワを立てつつため息を吐いた。

 正直なところ……やっちまったなあ……と。
 いや、処女でもあるまいし、もういい年してるし、一回ヤッただけで騒いだりしないけども…。
 それにしても………、何ナノこの状況…。

 考えてもよくわからず、二日酔いも相まって頭が痛む。

 その上、そんな過ちの証拠である人外風のイケメンは、ベッドサイドでワンコよろしくこちらを見下ろして、ニコニコ笑いながら私の様子を伺っている。
 大きくてクルンとした角が妙に愛嬌があるように見えて、キュンと来る。

 ぶっちゃけ……多分年上だと思うんだけど、大型犬みたいでほっとけない可愛らしさがある。
 白人好きってわけじゃないけど、それを差し引いても、俳優というよりはモデルも出来るくらいには綺麗な人だ。
 短めの淡い金髪に綠色の瞳とか、少女漫画の王子様のようで、むしろ現実味がない程のイケメン。
 頭についたグルグルの巻角も、なんかしっくりハマっていて、あまりにリアルで付け焼き刃のコスプレとも思えない。
 そんな人が、多少若作りで見た目は悪くないかもしれないが、ただの一般人でしかない女の家に泊まり込んでる不思議にめまいがする。

「えっと……すみません。
 今更尋ねるのも失礼かもしれませんが、どちら様…でしたっけ?」

 すると、青年は私に話しかけられて嬉しそうに微笑むと、

「申し遅れました。私はア―スガルドと申します。こちらとは違う世界からやってきました」

 なんて、おかしな話をぶっ込んできた。

 ……異世界だとぉ…?

 一瞬眉を顰めそうになったが、ぐっと堪えて一応最後まで話を聞こうと、先を促す。

「ええ。こちらの方々は、異世界と言われても、あまり馴染みがないと思われますが、私達の世界はある種の存在だけは、特定の条件下で界を渡ることができるのが通説です。
 その条件というのも、極めて稀なことなのですが、支配者階級の力ある者が同一界に伴侶を得られず、他界でその存在を感知した時のことを言います。
 私はもう、200歳を超えるのですが普通は100歳までにはどこかしらで伴侶の気配を察知できるものなのです。
 しかし、100歳を超えても一向に伴侶の気配を感じることができず、他の界にまで少しずつ捜査の輪を広げていったのですが…どこにも見当たらない。
 私は焦り、どこでも良いからとその力の殆どを費やして…ようやく私の界から遠く離れたこの世界で…あなたを見つけることができた。
 見つけた瞬間、貴方を攫ってでも連れてい行こうと思っていたのですが……あまりに遠すぎて、自分一人の力ではこちらの界に移動できたとしても、すぐには連れ帰ることができないと思い至ったのです。
 なので、こちらの界で偶然見つけた小者を利用して、私の体液を魔法で固めたアメを貴方の体内に取り込んでなじませてから、私の存在を親しいあなたに召喚してもらったのです」

「……召喚って…、あの、アメ?」

「ええ。私の精液を魔法で加工して、棒の部分に召喚陣を組み込みました」

「精液………うぇぇ……」

 ジュルジュルと美味しそうに舐めていたアメの正体が、まさかのアレ……
 ……想像するだけで吐き気が襲ってくる。

「そんな顔しないでください。
 体に力が沸き起こる程、美味しかったでしょう?
 遠く離れた私をノーリスクで召喚できるほど……」

 そんな風に悲しそうに言われましても……いや、やけに美味しかったけど……精液舐めてたとか、シラフに戻った今は考えたくないです。
 てか、どんな顔して自分の精液加工してたんだろう、この人…
 …いや、言わなくていいです。

「……それで、私が伴侶だと仰るわけですが……私に何をしろと?」

 若干嫌な予感がヒシヒシとしていたが、一応聞いてみた。

「私の界に移り住んで伴侶となり、私の子を産んで一緒に暮らしてください!」

「…ですよね―――……。いや、なんとなくそうかと思っていましたが……そうですか……」

 むむむと眉間に浮かんだシワを揉み込んで、これからの事を考える。
 ハッキリ言って、なんか胡散臭い気はするけど、外見は好みだし、えっちも気持ちよかったので体の相性も良いのだろう。
 支配者階級と言っているので、お金の心配はないが…めんどくさい親戚や関係各者の柵は大変そうな気がする。
 そして自分の仕事と家族のことをどうするか…

 えっ? 
 食い気味に『だが断る!』って言うんじゃないの?って?
 いやいやいや、アラサー女子のチャンスの女神は前髪しかないものですよ?
 だからといって即飛びつく程呑気じゃないけど、瞬発力は衰えてしまっている、少々面倒くさいお年頃なのです。
 さてさて、今後どの様にするべきか……

 なんて考えようとしていると

「今の所、両親も他界して、姉弟も遠く離れた国に嫁いだ姉が一人と、叔父夫婦しかおらず、私も寂しいのです。
 長年仕えてくれる臣下は幸い私を慕って、命令に逆らうことはありませんが…私は共に人生を歩んでくれる人が欲しい。
 貴方の存在を感知して見守る内に、あなたとなら、穏やかで温かい家庭を作れると思ったのです。
 しかし、このまま遠くから見守っているだけでは何も得られないと思い…貴方の家の近くに存在するモノを使って、貴方を騙すような事をいたしました…。
 それが許せないと言うのであれば、何度でも謝罪します。
 しかし、許されるならば、私と将来を共にしていただくことを考えてはいただけ―――『よっしゃ!承知した!』 …え?」

「良いでしょう。嫁ぎます」

 何度も言おう。
 チャンスの女神さまは前髪しかないのである。

 本人の言葉だけとはいえ、これだけの好条件を出されては、考えている暇が惜しい。
 両親はなく、遠く離れて嫁いでいった姉と、親戚の叔父夫婦のみの家族構成に、管理職で部下との関係も悪くない。
 何より、本人の人柄が誠実で控えめな、好みの美形とくれば、結構他の欠点はなんとか目を瞑れるものじゃないでしょうか?
 後はもう、フィーリング。

 実は、なんだかんだグネグネ考え込もうとしながらも、最初に「これだ」と思ってしまったのだ。
 彼とのえっちが…気遣われながら責められるエッチも、すごく、良かったのだ。
 割と大事だと思う、マジで。

「えっ…えっ……あの、良いのですか?
 私が言うのも何ですが、異世界ですよ?
 こちらの世界では、馴染みがない概念だったんじゃないんですか?
 私の言うこと……信じてもらえるのですか?」

 あんなに強引にやりたい放題ヤッておいて、今更ながらに躊躇うヘタレ加減が…実は結構好きだったりする。

「うん、いいの。
 幸せにしてくれるんでしょ?
 貴方が、嘘つきじゃないって信じられると思ったし」

 そう言ってニカッと笑うと、ギュッと苦しいほど抱きしめられて、息が止まる。

「はい…はい…っ。必ず幸せにしますからっ」

 あまりの包容の腕の強さに、背中をタップして助けを求めたが、しばらくその腕が緩むことがなかった。





 そうして、あれよあれよと言う間に、職場には結婚退職すると説明すると、惜しまれつつも退社することが叶い、家族にも海外に嫁ぐので、あまり頻繁に連絡することはできないかもしれないけど、時々顔は見せるから、心配しないでと言い含めて、私はめでたくアースガルドの治める国に嫁ぐこととなった。


 治める国って……そっか、支配者階級って、国王ってことなのね……。
 でもさ……それが魔王だったなんて、聞いてなかったんだけどっ!!


『臣下一同、末永くお仕えいたします、王妃さまっ!!』

 そう言ってひれ伏す獣型、人型、不明な人外さんたちの群れを一段高い玉座から見下ろすと、やっぱりこれは夢なんじゃなかろうかと思って白目を剥いたのだったが、そっと隣に立つ夫に腰を抱き寄せられてニッコリと微笑まれると、引きつりながらも同じ様に笑いを返し、再び気合を入れ直したのだった。
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