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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
異世界お宅訪問編 エルフさんのお宅から ⑫ ※※
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「私はもう、あっちの世界と繋がっている颯太の存在でしか―――私を血の繋がった姉だと呼んでくれる弟の言葉でしか、『支倉麻衣』だってことを確認できないかもしれないのに……。
ねぇ、私は…あんたと同じ家で生まれ育った、普通の日本人だったよね?」
「…姉ちゃん?」
迷子になった子供のような小さな声で、間近に迫る俺に話しかけているようでいて、遠くの誰かに向かって尋ねている様だった。
「私は―――『お姉ちゃん』でいたい。
私を色々な呼び方で呼ぶ人たちは多いけど……ずっと変わらず…本当の家族として『お姉ちゃん』なんて呼ぶ人間は…もう、出てこないから。
それは、仕方ないことなのかもしれないけど……。もう一緒に育った家族はいないと思ってたから…ちょっと寂しかった。
あんたは―――そんなに私が『家族』じゃないほうが良い……?」
乱れた髪の隙間から昏い瞳を覗かせ、感情の籠もらない声でうわ言のように訴える姉の問いに、俺は直ぐに答える事ができなかった。
元々、流されやすいようでいてマイペースな人だった。
だから、一人で転移してきてからこの世界に慣れるまでは、言っている以上に大変だったんだろうけど、根幹が大きく揺らぐ程の動揺もなかっただろうことも想像がつき―――数日も一緒に暮らしていけば、それは確信に変わっていた。
多分、以前「この世界でも、楽しく過ごしてるよ」と言っていた通り、この世界に居着いたまま馴染んでいることだって、嘘じゃないのだ。
しかし、酒に酔ってぶち撒けたこの感情も、偽ることのない本心の一つであることも確信できて―――奥深くに閉じ込めてきたであろう、姉の孤独に触れた気がして、無性に胸が苦しくなった。
俺が描いた理想も、姉に対する想いも……今の姉ちゃんには受け入れ難く、不要なモノだったと言うことが―――分かってしまったから。
『弟』の俺は、きっと『支倉麻衣の人生』を立証するために、何よりも大切な家族として必要とされている。けれども―――『男』としての俺は―――今は必要とされていないって。
しかしそれでも俺は―――例え一生このままの関係だったとしても、この想いを諦めたくはなかった。
姉の心からの吐露を聞いても尚、自分のことばかり考えている自分の小ささを自覚しても、無くしたくない。
今だって、酔って弱くなった姉の弱みを突いてる自覚はある。ていうか、それがなかったら、いくらなんでもここまで容易く事は運ばなかっただろう。
ていうか警戒心強いくせに、スキが多すぎるのもいけないのだ……根本的に。自分もワンチャンあると思っちゃうだろ普通。
だから俺は―――唯一あの夫達とは違うベクトルで抜きん出ているという、昏い優越感も確かに感じていたわけで……。
「ああっ…クソっ!!」
色々な感情が乱れ―――重い頭で何も考えられないとばかりに、俺は思考をかき消すように頭を振って声を上げた。
そしてその声の大きさにビクッと体を揺らし、正気を取り戻して驚いた顔で俺を見上げる姉を見下ろすと、ニヤリと笑い返し―――
「もう、なんでもいいや。もう色々考えるの、面倒臭い。
酔いが醒めても覚えてるか、わかんないけど、俺の本気を少しでも感じてくれればいいや……今はな。
だから…もう……手加減とか、やめるわ」
そう言うが早いか、返事も待たずにグチュンっと大きく腰を打ち付けた。
「――ひっ…!?
……あっ、まっ……やっ…そう…た!?」
突然の状況の変化に戸惑う姉の制止の言葉も、最早聞く気はなかったし、これ以上否定の言葉も聞きたくなかった。
だから俺は、何も気づかないふりをしてズンズンと腰を打ち付けながら腕を押さえつけ、声を塞ぐように姉の唇を奪った。
「…んっ……ふぁっ……っ」
薄く開いた唇をこじ開け、荒く口腔内を舐め回して舌を吸い上げると、飲みきれない唾液が口の端から溢れていく。
ジュルジュルと唾液を啜る音と共に、バチュンバチュンとヌメる蜜穴を穿つ音が耳を犯していけば、既に快楽に満たされていた体は直様
ナカで出入りする俺の性器をキュウキュウと締め上げた。
あ―――…やっぱ、すっげぇ気持ちいいわ……さすが、めがみさまw
まるで抵抗なく俺を受け入れ、蠢くように収縮を繰り返す蜜穴の奥へ無心に腰を穿てば、思わず腰が溶けてしまいそうな程の深い快楽が襲ってくる。
腰を前後に動かしながら痙攣するようにピクピク小さく揺れる体を抱きしめると、腕の中に収まる温もりの小ささや柔らかさに――自分がこのメスを支配しているという、錯覚に酔った。
「あっあっあっ……ひっ……も、…無理……だめぇ……っ」
容量を超える程の快楽に恐怖を感じているのか、小さな悲鳴をあげながらイヤイヤと力なく首を左右に振る。
しかし、開かれた脚を小脇に抱える様に左右に開いて、遠慮容赦なくコツコツと子宮口あたりを重点的に性器で突けば、ビクビクッと静かに…されど大きく全身が揺れ、全身が弓なりになる。
「っ、ふぁっ……っ! あああ―――っ!!」
浮き上がった腰を掴んでグリグリと腹側のイイ所を擦ると、麻衣は部屋に響く程の嬌声を上げ―――絶頂の果てに意識を失っていった。
「……クッ…やば……って、ねえちゃん? イッた?」
「…………」
呼びかけるも、クタッと脱力した体は何の反応も示さない。しかし、本人は意識を消失してベッドに沈み込んでいるというのに、シーツまで蜜をダラダラ零しつつ俺のモノを貪り続けているので堪らない。
「…まぁ、ずっと俺のモノ咥えこんだままだったし、無理ない――ってか、あのテンションで良く保った方かもな。
―――じゃ、まだナカがゾワゾワしてる内に……俺もイクわ」
そう言うや否や―――単調なリズムでズチュズチュと音を響かせながら、俺は脱力した体であっても容赦なくズンズンと穿つ腰の動きにスパートをかける。
アルコールによって高まった興奮も、鋭敏になった性感も…効果はとうに尽きていたけれども、抱きしめた体の温もりに、自分の腕の中で全てを委ねられているのを感じていた。
―――自分の意志次第で姉の全てがどうとでもなるという支配感―――ソレだけで、イッてしまえる程気持ちは満たされる。
ただ、今は心の存在は考えたくなかった。
「ハッ…ハッ…ハッ……。
ククッ……寝てても、イケちゃう程気持ちいいって…スゲーな。やっぱ名器だわ。
…でも――…」
ググッと高まる射精感のまま放つことができたら、最高だっただろう。
少しでも姉が俺のことを男として見てくれていたら、遠慮なくナカに放ってやろうとすら思っていた。
だけど、そうはならなかった。だから。
「―――…流石に、知らない内に『弟』にナカに出されてたら……それこそ一生許してもらえないだろうからな―――。流石に今まで無遠慮に生でブッパしたことないし。
本番は……またの機会に……ってことで」
まだ硬さを保っている状態でズボッと膣から取り出したチンコを、姉の腹に擦り付けて……焦らされ続けて溜め込んでいた精液をドビュッとぶち撒けた。
「ははっ……すっげー量。…てか、エロ……」
腹の上にぶち撒けられた白濁は、これまでの経験からしてもかなり多い量だったので、どんだけ我慢してたのかと思って笑ってしまった。濃厚な白い液は姉の全身を犯すように広がり、薄く開いた口から覗く赤い舌が艶めかしい。
膝を立てたまま意識を失っているので、ダラダラと愛液を零す蜜口が丸見えだった。そのため、そこに収められていたものを再び求めるように、物寂しそうにクパクパする姿がとても淫らなものに見えた。
姉ちゃんの意識があって、もう少し俺のテンションも高かったら、もう一回…ってイってる所だよ、この姿。
――――――いや、スマホに収めておくべきか? この体験を家でもう一回反芻するために………なんてな。
家に帰ってからこの記憶が色褪せないうちに記念撮影すべきだろうか…なんて、半分本気で考えながら姉の姿を足元から上へのアングルで見下ろし、この姿を清浄魔法で清める事に名残惜しさを感じていた。すると―――
『ニャ――んだ。結局子種はご主人に放てなかったニャ……つまらんニャ―。
途中参戦するのも我慢して、黙って見てて損したニャ。
――折角邪魔なヤツが消えると思ったのにニャ―――……』
眠そうな話し方をする、小さな子供のような声が聞こえて、反射的に振り向いた。
その間抜けな喋り方には覚えがあるっていうか、こんなあざとい喋り方する声なんて、あのクソ猫しかいないので。
いつの間に近づいたのかまるで気付かなかったけれども、振り向いた先に、同じベッドの端っこに小さな白い猫が寝そべっていたことに、驚きは少なく。むしろ、…やっぱりなと得心する。
一応この部屋に入った時に、こいつらだけでなく他の何かが接触すれば感知できるよう魔法で結界を張っていた。
……使い慣れなくて拙いものだったかもしれないが、それでも俺たち以外の何かが近づけば、何も気づかないことはなかったはずだ。
それなのに、まるで気配を悟らせずに現れた猫の存在に何故か納得していたけども―――その言葉の内容や俺を見上げる視線に、殺意のようなものを感じて…背筋がゾクっとした。
「よう、化け猫。
来るのがちょっと遅かった気がするが……邪魔なやつが消えるってどういう意味だ?」
『どういうって…そのままの意味ニャ。ニャハハっ』
白猫は楽しそうに笑いながら、ゆっくりと落ち着いた動きで立ち上がると、猫科特有の体重を感じさせない軽やかな足取りで姉の頭元まで移動した。
そして、クンクンと飼い主に甘えるペットのように鼻を擦り寄せ、ぺろりと姉の口元を舐める。そして、味を確かめるように目を閉じてフンフンと頷いていると、不意に細く目を開け、チェシャ猫の様にニヤリと嗤った。
『ああ、やっぱり。思ったとおりニャ。ヌッフッフ……』
一体何をしているのか、俺にはよくわからない。しかし、俺にとって良いことだとは到底思えないほど、その笑い顔は不気味で禍々しく見えた。
『ご主人から与えられるものであっても……やっぱ他のオスの精液はないニャー……。
それでも……お前の精液なら――ご主人の蜜には遠く及ばないにしても―――まぁ、それ程抵抗なくイケるニャ』
「キモいこと言ってんじゃねぇ。愛玩動物が」
その言葉で、姉の口元にまで飛んだ俺の精液を舐め取っていたと気づいたが、他の男とは言え猫姿の存在にされたことに、言う程生理的な嫌悪感は浮かばなかった。しかしその言葉を受け―――
『ヒャハハハハハっ。吾輩が愛玩動物なら……お前は従属人間ニャ。いや、ご主人やお前のような『人間』の定義って何ニャのか、精霊に聞いてみたいものニャ―。ニャハハハハっ!
―――…ホント、自覚がニャいってのは、愚かで滑稽で……いっそ…憐れにすらなるものニャー……ヒヒヒ』
「……………」
弾けるように爆笑する猫の姿に狂気じみたものを感じ…その言葉の内容を促すように、口を噤んだ。
『女神』などと言われている姉はともかく……俺が何だというのか?
『ヒヒヒ……そんなに警戒しなくても…別に何もしニャいニャ。お前はご主人の可愛い可愛い『弟』ニャんだから。
……当然、ご主人からは『お前を守る』様に命令されているニャ。
『夫』である我々とは種類が違うとは言え――それでもご主人の中で『唯一』を生まれながら勝ち取っているお前をニャ……。
……疎ましいことであるが、命令は絶対ニャ……ニュフフフフ……』
……別に意外でもなんでも無いことだ。
俺がこの世界に来ると、体格も年齢も不安定になるので、姉が自分の護衛ペットに俺も守らせているのは知っていた。
そうと言われた訳じゃないが、森の中を散策している時だって、タロウという犬魔獣がボディガードのように離れずついて来ていたし。
奴らがペット兼夫だと言うのなら、姉に言い寄る弟の存在など邪魔でしかなかっただろうことも悟っていた。
…それだけに、時々飛んでくる嫉妬の念を鼻で笑って、余計やつらを煽っていたわけなんだけど。
「…俺がいる間はイロイロ我慢させられてるってのは、知ってたけど。その恨み言言いに来たわけじゃないんだよな…?
主人の言うことは絶対なんだろ? まさか、それを当の俺に言われても……なぁ」
ただ、そんなわかりきったことを言いたいだけでは無いらしいので、俺は目を細め、煽り気味に言葉の続きを促した。
すると、禍々しい笑みを隠しもしないで深めると、
『…ヒャハハ……ホント己を知らない分、狐よりも可愛げのないガキニャ。
流石に血を分けた姉を寝取ろうとするだけあって、図太くて憎たらしいニャー』
『狐はよりも…』ってのはこの世界の慣用句みたいなものかもしれないが、本当にクソウザい笑い方をする奴だ。
血を分けた姉…ってあたりは、自覚あるから今更こいつに言われた所でピクリとも心は動かない。
それらを差し引いても、俺は断然飼うなら犬派なので、猫のこういう人をバカにした様な態度は受け入れられなかった。
『そうそう、お前が酔って淫乱になったご主人を連れ込んで来たことも、吾輩は知ってたニャ。
耳長どもの神殿で酒が出るとは思わニャかったが、この家に入った瞬間、ご主人が酔っていたのは分かってたからニャ。何せ、そもそも我輩はずっとここで気配を消して寝ていたからニャ。
…フフフ、酔ったご主人は攻め気質でイケイケになるので、一人じゃ随分持て余してたのニャ~…。
―――とは言え、吾輩はむしろご主人にメチャクチャにされたいから、嬉しいご褒美だけどニャー』
「姉ちゃんが酔って淫乱になるのは激しく同意するが……何のカミングアウトしてんだよ、お前。別にお前の性癖なんて知りたくねぇわ。
ていうか、だったら何で今…終わってから出てきた?
もっと早く…それこそ寝室に移動した時に出てこれば、俺が姉ちゃんを―――……」
『抱くこともなかっただろう―――って?』
言い淀んだ言葉を引き取られ、俺はグッと口を閉ざした。
マーリンは、そんな俺の顔を覗き込むように見上げると、一際大きな声で『ヒャハハッ!』と嗤った。
『それこそ、一番の敵を葬る最良の手段だったのに、邪魔するわけニャいだろ!
ご主人のナカに子種を放てば……お前の存在は消えて無くニャるのだから!』
その言葉の内容と狂気じみた笑い声に、俺は言葉を失って呆然と高笑う猫を見下ろした。
気のせいか距離が遠くなり、猫の体が大きくなったようだったが、それどころではなかった。
『お前、自分が何故ご主人の体液で体が成長すると思っていたニャ!?
転移してきた最初の姿―――赤ん坊の体こそが、本来のお前の姿であるのに!
ご主人の魔力が飽和すること無く馴染み、その身に受け取れるのは、流石に血族の為せる業ニャ。
…であっても―――成体を維持するのに、ご主人の魔力を必要とするお前は……ご主人がいなければ、この世界で生きていくことも敵わニャい、脆弱な生命であると、気づいていたのかニャ?
そして、ご主人の魔力で生命を維持しているお前がご主人のナカにその魔力を放ったら―――ご主人の意図に反していても、そのまま無意識に全てを吸い取られて消えていくだろうニャ―――……。
ご主人のナカはものすごく貪欲に搾り取ってくるからニャ……ィヒヒヒ……』
そう言い終えると、笑いの余韻を残しながら立ち上がり、猫はもう一度ペロリと姉の頬を舐め、その白い雫を見せつけるように舌を出したかと思うと、味わうように飲み下した。
『ヒャハハ……ご主人の蜜と同じ魔力の味がするニャ。
ただそれだけに、ご主人の胎内はさぞかし遠慮なく……外に溜めてあった魔力が無くなるまで吸い上げただろうニャー…。元は自分のものなんだから、そりゃ遠慮も無くニャ。
それこそ、お前の存在が無に帰るほどに………ホント、ヘタレで助かったのニャ……。
―――忌々しいことにっ!』
猫が吐き捨てるように言葉を切り、無詠唱で姉の体を清浄する。
うるさく騒ぎ立てる猫の声にも清潔魔法にも無反応に、姉はスヤスヤと寝息を立てていた。
立て続けた性交の疲労と酔いで深い眠りに落ちているらしい。
「……じゃあ、何か? 俺はこの先一生姉ちゃんを抱くことは叶わないってことか?」
あれだけの事を言われて、ショックがなかったわけじゃないのに、何故か俺の気持ちは凪いでいた。
賢者モードってわけじゃないと思うけど、何だかこの猫たちが必死になって俺を除外しようとする気持ちも理解できたし、ここで口論したって…何もならないと分かってたから。
だからって、このまま黙って退場なんてしてやんねーけどな。
姉の体を汚すように撒き散らされた俺の体液を全て消し去られ、全裸のままスースーと寝息をたてる顔は、幼い頃見た時のままに見える。
ベッドの隅で丸まっていたシーツを小さくなった手で引き寄せ、そっと姉の上に掛けてやると、猫はトンと姉の腹の上に顎を乗せた。
思いの丈をぶち撒けたせいか、その顔は毒気が抜けてスッキリしてるように見えた。
いつの間にか――って言っても、さっき放った精液にも魔力が籠もっていたのだから不思議でもなんでも無いのだが、俺の体はやっぱり縮んでいる。
そして今、姉の傍らで寝そべる俺の体は、姉の半分程の大きさしかないため、すっぽりとその腕の中に収めることができた。この感じは、小学校低学年位だろうか。
『……命を賭ければ、一回位なら…ってことニャ。――ていうか、子作りを伴わない性交など、ただの戯れニャ。
正気のご主人が『弟』であるお前と子作りすることを肯定するとも思えないニャ―――…』
「だからこそ、俺のことを見逃して来たってわけか。……動物は、即物的なだけに寛大……なのかね?」
『フン……お前の魔力や匂いがご主人と類似していたから、そんなに不快な匂いにならなかったニャ。
それに、お前への態度は、『子』に対するそれにしか見えニャかっただけニャン。
……ただ、そのたった一回でご主人が『弟』を殺すニャ。……流石に図太いご主人でも―――それは、心を壊すかもしれニャいので、推奨はできないニャ。
ただ、ご主人が壊れても―――吾輩は同じ様に愛せるから、命令に反する程のことでも無いのニャ』
「………ゴム使えば……」
『……それが何かわからニャいけど、それはこの辺り一体を崩壊させるに足る魔力を防ぐ力があるモノなのニャ?』
「………針一本で致命傷になる物じゃ無理か………。
いくら現代技術の粋を集めたとは言え、うすうすの0.01㎜に姉ちゃんの心の安定や俺の命は賭けられねぇな……」
『…ホント、何言ってるかよくわからニャいが……お前……あんなに嫌がられておきながら、まだ―――…』
「うっせぇ……あれのどこが嫌がってんだよ。泣きながら悦がって腰振ってたじゃん―――って、酒のせいって分かってるって。
……とは言え、取り敢えず、自分の力で大人のまま押し倒せるようになってからってのは、よく分かった」
『いや、その前にもう『弟』の『夫』なんて必要とされてニャいってあれほど―――…』
「それこそ、巨大なお世話だって―――………」
などなど―――何故か、セックス直後に相手の女ではなくペットの猫とピロートークを交わすという、おかしな事態になっていたのだが、俺達は穏やかに…されど有る種奇妙な連帯を持って言葉を交わしあっていた。
『ひょっとしたら、お前はご主人の強い願いによって引き寄せられたのかもしれニャいが……ムニャムニャ……』
日がな一日昼寝しているような猫が眠りに落ちながら言った言葉は、耳に入っていても脳には留まらずに通り過ぎていく。
そして、それと同じ様に、幼くなった俺も姉ちゃんの温もりに包まれつつウトウトと、両目を閉じようとしていたその時だった。
スヤスヤと眠りに落ちていたはずの姉が突然カッと目を見開いた気配に覚醒し、クククと低い笑い声の不気味さに、俺はビクッと体を震わせた。
ただまっすぐに俺の瞳を見つめる姉の目は……まるで深淵を覗き込んだ様に昏い。
「………姉の部屋に女引っ張り込んでヤッてる男なんか、弟じゃ無ければブッ殺なんだよ………」
……一瞬、何を言われたのか分からなかった。
誰の話を…と言うには、身に覚えがある話だったけども、それがいつの時のことだったか、思い出すのに時間が掛かる。
しかし、大きく瞳孔が開き、闇の様に昏い瞳に見つめられ続けると、何故か言い訳の言葉も浮かばなくて、
「えっと……あの……いつのことだったかアレですが……なんていうか、スミマセン……」
ダラダラとよくわからない汗が額や背筋を滑り落ちていくが、妙なプレッシャーに圧されて俯きながら只管謝った。すると―――
「………ムニャムニャ……」
ふと体にのしかかっていた圧が解かれて顔を上げると、谷底から響くような声を震わせていた姉は、薄い腹の上に顎を乗せて寝そべる猫と同じ様なうわ言を言いながら、再び目を閉じて眠りについていた。
そのあまりにも呑気な寝顔と、それまでの雰囲気の格差に、俺は一瞬夢でも見ていたのかと思った。
「…………何アレ? ………なんかよくわからん…。けど……疲れたな…。
ふぁあ……俺も寝るわ……」
今日はあまりにも色々な事が起きすぎた。
精神的にも、肉体的にも。
取り敢えず、もうこれ以上考えるのは無理なので、寝ることにする。
あれだけ好き放題やっておきながらと思うけども、最終的には姉の腕の中で眠りに落ちる幸福は、やっぱり捨てられない…と思いながら。
結局どうあっても、俺って末っ子気質なんだろうな…とか考えながら、そのまま意識が無くなっていった。
そうして、今日という長い長い一日が幕を閉じたのだった。
ねぇ、私は…あんたと同じ家で生まれ育った、普通の日本人だったよね?」
「…姉ちゃん?」
迷子になった子供のような小さな声で、間近に迫る俺に話しかけているようでいて、遠くの誰かに向かって尋ねている様だった。
「私は―――『お姉ちゃん』でいたい。
私を色々な呼び方で呼ぶ人たちは多いけど……ずっと変わらず…本当の家族として『お姉ちゃん』なんて呼ぶ人間は…もう、出てこないから。
それは、仕方ないことなのかもしれないけど……。もう一緒に育った家族はいないと思ってたから…ちょっと寂しかった。
あんたは―――そんなに私が『家族』じゃないほうが良い……?」
乱れた髪の隙間から昏い瞳を覗かせ、感情の籠もらない声でうわ言のように訴える姉の問いに、俺は直ぐに答える事ができなかった。
元々、流されやすいようでいてマイペースな人だった。
だから、一人で転移してきてからこの世界に慣れるまでは、言っている以上に大変だったんだろうけど、根幹が大きく揺らぐ程の動揺もなかっただろうことも想像がつき―――数日も一緒に暮らしていけば、それは確信に変わっていた。
多分、以前「この世界でも、楽しく過ごしてるよ」と言っていた通り、この世界に居着いたまま馴染んでいることだって、嘘じゃないのだ。
しかし、酒に酔ってぶち撒けたこの感情も、偽ることのない本心の一つであることも確信できて―――奥深くに閉じ込めてきたであろう、姉の孤独に触れた気がして、無性に胸が苦しくなった。
俺が描いた理想も、姉に対する想いも……今の姉ちゃんには受け入れ難く、不要なモノだったと言うことが―――分かってしまったから。
『弟』の俺は、きっと『支倉麻衣の人生』を立証するために、何よりも大切な家族として必要とされている。けれども―――『男』としての俺は―――今は必要とされていないって。
しかしそれでも俺は―――例え一生このままの関係だったとしても、この想いを諦めたくはなかった。
姉の心からの吐露を聞いても尚、自分のことばかり考えている自分の小ささを自覚しても、無くしたくない。
今だって、酔って弱くなった姉の弱みを突いてる自覚はある。ていうか、それがなかったら、いくらなんでもここまで容易く事は運ばなかっただろう。
ていうか警戒心強いくせに、スキが多すぎるのもいけないのだ……根本的に。自分もワンチャンあると思っちゃうだろ普通。
だから俺は―――唯一あの夫達とは違うベクトルで抜きん出ているという、昏い優越感も確かに感じていたわけで……。
「ああっ…クソっ!!」
色々な感情が乱れ―――重い頭で何も考えられないとばかりに、俺は思考をかき消すように頭を振って声を上げた。
そしてその声の大きさにビクッと体を揺らし、正気を取り戻して驚いた顔で俺を見上げる姉を見下ろすと、ニヤリと笑い返し―――
「もう、なんでもいいや。もう色々考えるの、面倒臭い。
酔いが醒めても覚えてるか、わかんないけど、俺の本気を少しでも感じてくれればいいや……今はな。
だから…もう……手加減とか、やめるわ」
そう言うが早いか、返事も待たずにグチュンっと大きく腰を打ち付けた。
「――ひっ…!?
……あっ、まっ……やっ…そう…た!?」
突然の状況の変化に戸惑う姉の制止の言葉も、最早聞く気はなかったし、これ以上否定の言葉も聞きたくなかった。
だから俺は、何も気づかないふりをしてズンズンと腰を打ち付けながら腕を押さえつけ、声を塞ぐように姉の唇を奪った。
「…んっ……ふぁっ……っ」
薄く開いた唇をこじ開け、荒く口腔内を舐め回して舌を吸い上げると、飲みきれない唾液が口の端から溢れていく。
ジュルジュルと唾液を啜る音と共に、バチュンバチュンとヌメる蜜穴を穿つ音が耳を犯していけば、既に快楽に満たされていた体は直様
ナカで出入りする俺の性器をキュウキュウと締め上げた。
あ―――…やっぱ、すっげぇ気持ちいいわ……さすが、めがみさまw
まるで抵抗なく俺を受け入れ、蠢くように収縮を繰り返す蜜穴の奥へ無心に腰を穿てば、思わず腰が溶けてしまいそうな程の深い快楽が襲ってくる。
腰を前後に動かしながら痙攣するようにピクピク小さく揺れる体を抱きしめると、腕の中に収まる温もりの小ささや柔らかさに――自分がこのメスを支配しているという、錯覚に酔った。
「あっあっあっ……ひっ……も、…無理……だめぇ……っ」
容量を超える程の快楽に恐怖を感じているのか、小さな悲鳴をあげながらイヤイヤと力なく首を左右に振る。
しかし、開かれた脚を小脇に抱える様に左右に開いて、遠慮容赦なくコツコツと子宮口あたりを重点的に性器で突けば、ビクビクッと静かに…されど大きく全身が揺れ、全身が弓なりになる。
「っ、ふぁっ……っ! あああ―――っ!!」
浮き上がった腰を掴んでグリグリと腹側のイイ所を擦ると、麻衣は部屋に響く程の嬌声を上げ―――絶頂の果てに意識を失っていった。
「……クッ…やば……って、ねえちゃん? イッた?」
「…………」
呼びかけるも、クタッと脱力した体は何の反応も示さない。しかし、本人は意識を消失してベッドに沈み込んでいるというのに、シーツまで蜜をダラダラ零しつつ俺のモノを貪り続けているので堪らない。
「…まぁ、ずっと俺のモノ咥えこんだままだったし、無理ない――ってか、あのテンションで良く保った方かもな。
―――じゃ、まだナカがゾワゾワしてる内に……俺もイクわ」
そう言うや否や―――単調なリズムでズチュズチュと音を響かせながら、俺は脱力した体であっても容赦なくズンズンと穿つ腰の動きにスパートをかける。
アルコールによって高まった興奮も、鋭敏になった性感も…効果はとうに尽きていたけれども、抱きしめた体の温もりに、自分の腕の中で全てを委ねられているのを感じていた。
―――自分の意志次第で姉の全てがどうとでもなるという支配感―――ソレだけで、イッてしまえる程気持ちは満たされる。
ただ、今は心の存在は考えたくなかった。
「ハッ…ハッ…ハッ……。
ククッ……寝てても、イケちゃう程気持ちいいって…スゲーな。やっぱ名器だわ。
…でも――…」
ググッと高まる射精感のまま放つことができたら、最高だっただろう。
少しでも姉が俺のことを男として見てくれていたら、遠慮なくナカに放ってやろうとすら思っていた。
だけど、そうはならなかった。だから。
「―――…流石に、知らない内に『弟』にナカに出されてたら……それこそ一生許してもらえないだろうからな―――。流石に今まで無遠慮に生でブッパしたことないし。
本番は……またの機会に……ってことで」
まだ硬さを保っている状態でズボッと膣から取り出したチンコを、姉の腹に擦り付けて……焦らされ続けて溜め込んでいた精液をドビュッとぶち撒けた。
「ははっ……すっげー量。…てか、エロ……」
腹の上にぶち撒けられた白濁は、これまでの経験からしてもかなり多い量だったので、どんだけ我慢してたのかと思って笑ってしまった。濃厚な白い液は姉の全身を犯すように広がり、薄く開いた口から覗く赤い舌が艶めかしい。
膝を立てたまま意識を失っているので、ダラダラと愛液を零す蜜口が丸見えだった。そのため、そこに収められていたものを再び求めるように、物寂しそうにクパクパする姿がとても淫らなものに見えた。
姉ちゃんの意識があって、もう少し俺のテンションも高かったら、もう一回…ってイってる所だよ、この姿。
――――――いや、スマホに収めておくべきか? この体験を家でもう一回反芻するために………なんてな。
家に帰ってからこの記憶が色褪せないうちに記念撮影すべきだろうか…なんて、半分本気で考えながら姉の姿を足元から上へのアングルで見下ろし、この姿を清浄魔法で清める事に名残惜しさを感じていた。すると―――
『ニャ――んだ。結局子種はご主人に放てなかったニャ……つまらんニャ―。
途中参戦するのも我慢して、黙って見てて損したニャ。
――折角邪魔なヤツが消えると思ったのにニャ―――……』
眠そうな話し方をする、小さな子供のような声が聞こえて、反射的に振り向いた。
その間抜けな喋り方には覚えがあるっていうか、こんなあざとい喋り方する声なんて、あのクソ猫しかいないので。
いつの間に近づいたのかまるで気付かなかったけれども、振り向いた先に、同じベッドの端っこに小さな白い猫が寝そべっていたことに、驚きは少なく。むしろ、…やっぱりなと得心する。
一応この部屋に入った時に、こいつらだけでなく他の何かが接触すれば感知できるよう魔法で結界を張っていた。
……使い慣れなくて拙いものだったかもしれないが、それでも俺たち以外の何かが近づけば、何も気づかないことはなかったはずだ。
それなのに、まるで気配を悟らせずに現れた猫の存在に何故か納得していたけども―――その言葉の内容や俺を見上げる視線に、殺意のようなものを感じて…背筋がゾクっとした。
「よう、化け猫。
来るのがちょっと遅かった気がするが……邪魔なやつが消えるってどういう意味だ?」
『どういうって…そのままの意味ニャ。ニャハハっ』
白猫は楽しそうに笑いながら、ゆっくりと落ち着いた動きで立ち上がると、猫科特有の体重を感じさせない軽やかな足取りで姉の頭元まで移動した。
そして、クンクンと飼い主に甘えるペットのように鼻を擦り寄せ、ぺろりと姉の口元を舐める。そして、味を確かめるように目を閉じてフンフンと頷いていると、不意に細く目を開け、チェシャ猫の様にニヤリと嗤った。
『ああ、やっぱり。思ったとおりニャ。ヌッフッフ……』
一体何をしているのか、俺にはよくわからない。しかし、俺にとって良いことだとは到底思えないほど、その笑い顔は不気味で禍々しく見えた。
『ご主人から与えられるものであっても……やっぱ他のオスの精液はないニャー……。
それでも……お前の精液なら――ご主人の蜜には遠く及ばないにしても―――まぁ、それ程抵抗なくイケるニャ』
「キモいこと言ってんじゃねぇ。愛玩動物が」
その言葉で、姉の口元にまで飛んだ俺の精液を舐め取っていたと気づいたが、他の男とは言え猫姿の存在にされたことに、言う程生理的な嫌悪感は浮かばなかった。しかしその言葉を受け―――
『ヒャハハハハハっ。吾輩が愛玩動物なら……お前は従属人間ニャ。いや、ご主人やお前のような『人間』の定義って何ニャのか、精霊に聞いてみたいものニャ―。ニャハハハハっ!
―――…ホント、自覚がニャいってのは、愚かで滑稽で……いっそ…憐れにすらなるものニャー……ヒヒヒ』
「……………」
弾けるように爆笑する猫の姿に狂気じみたものを感じ…その言葉の内容を促すように、口を噤んだ。
『女神』などと言われている姉はともかく……俺が何だというのか?
『ヒヒヒ……そんなに警戒しなくても…別に何もしニャいニャ。お前はご主人の可愛い可愛い『弟』ニャんだから。
……当然、ご主人からは『お前を守る』様に命令されているニャ。
『夫』である我々とは種類が違うとは言え――それでもご主人の中で『唯一』を生まれながら勝ち取っているお前をニャ……。
……疎ましいことであるが、命令は絶対ニャ……ニュフフフフ……』
……別に意外でもなんでも無いことだ。
俺がこの世界に来ると、体格も年齢も不安定になるので、姉が自分の護衛ペットに俺も守らせているのは知っていた。
そうと言われた訳じゃないが、森の中を散策している時だって、タロウという犬魔獣がボディガードのように離れずついて来ていたし。
奴らがペット兼夫だと言うのなら、姉に言い寄る弟の存在など邪魔でしかなかっただろうことも悟っていた。
…それだけに、時々飛んでくる嫉妬の念を鼻で笑って、余計やつらを煽っていたわけなんだけど。
「…俺がいる間はイロイロ我慢させられてるってのは、知ってたけど。その恨み言言いに来たわけじゃないんだよな…?
主人の言うことは絶対なんだろ? まさか、それを当の俺に言われても……なぁ」
ただ、そんなわかりきったことを言いたいだけでは無いらしいので、俺は目を細め、煽り気味に言葉の続きを促した。
すると、禍々しい笑みを隠しもしないで深めると、
『…ヒャハハ……ホント己を知らない分、狐よりも可愛げのないガキニャ。
流石に血を分けた姉を寝取ろうとするだけあって、図太くて憎たらしいニャー』
『狐はよりも…』ってのはこの世界の慣用句みたいなものかもしれないが、本当にクソウザい笑い方をする奴だ。
血を分けた姉…ってあたりは、自覚あるから今更こいつに言われた所でピクリとも心は動かない。
それらを差し引いても、俺は断然飼うなら犬派なので、猫のこういう人をバカにした様な態度は受け入れられなかった。
『そうそう、お前が酔って淫乱になったご主人を連れ込んで来たことも、吾輩は知ってたニャ。
耳長どもの神殿で酒が出るとは思わニャかったが、この家に入った瞬間、ご主人が酔っていたのは分かってたからニャ。何せ、そもそも我輩はずっとここで気配を消して寝ていたからニャ。
…フフフ、酔ったご主人は攻め気質でイケイケになるので、一人じゃ随分持て余してたのニャ~…。
―――とは言え、吾輩はむしろご主人にメチャクチャにされたいから、嬉しいご褒美だけどニャー』
「姉ちゃんが酔って淫乱になるのは激しく同意するが……何のカミングアウトしてんだよ、お前。別にお前の性癖なんて知りたくねぇわ。
ていうか、だったら何で今…終わってから出てきた?
もっと早く…それこそ寝室に移動した時に出てこれば、俺が姉ちゃんを―――……」
『抱くこともなかっただろう―――って?』
言い淀んだ言葉を引き取られ、俺はグッと口を閉ざした。
マーリンは、そんな俺の顔を覗き込むように見上げると、一際大きな声で『ヒャハハッ!』と嗤った。
『それこそ、一番の敵を葬る最良の手段だったのに、邪魔するわけニャいだろ!
ご主人のナカに子種を放てば……お前の存在は消えて無くニャるのだから!』
その言葉の内容と狂気じみた笑い声に、俺は言葉を失って呆然と高笑う猫を見下ろした。
気のせいか距離が遠くなり、猫の体が大きくなったようだったが、それどころではなかった。
『お前、自分が何故ご主人の体液で体が成長すると思っていたニャ!?
転移してきた最初の姿―――赤ん坊の体こそが、本来のお前の姿であるのに!
ご主人の魔力が飽和すること無く馴染み、その身に受け取れるのは、流石に血族の為せる業ニャ。
…であっても―――成体を維持するのに、ご主人の魔力を必要とするお前は……ご主人がいなければ、この世界で生きていくことも敵わニャい、脆弱な生命であると、気づいていたのかニャ?
そして、ご主人の魔力で生命を維持しているお前がご主人のナカにその魔力を放ったら―――ご主人の意図に反していても、そのまま無意識に全てを吸い取られて消えていくだろうニャ―――……。
ご主人のナカはものすごく貪欲に搾り取ってくるからニャ……ィヒヒヒ……』
そう言い終えると、笑いの余韻を残しながら立ち上がり、猫はもう一度ペロリと姉の頬を舐め、その白い雫を見せつけるように舌を出したかと思うと、味わうように飲み下した。
『ヒャハハ……ご主人の蜜と同じ魔力の味がするニャ。
ただそれだけに、ご主人の胎内はさぞかし遠慮なく……外に溜めてあった魔力が無くなるまで吸い上げただろうニャー…。元は自分のものなんだから、そりゃ遠慮も無くニャ。
それこそ、お前の存在が無に帰るほどに………ホント、ヘタレで助かったのニャ……。
―――忌々しいことにっ!』
猫が吐き捨てるように言葉を切り、無詠唱で姉の体を清浄する。
うるさく騒ぎ立てる猫の声にも清潔魔法にも無反応に、姉はスヤスヤと寝息を立てていた。
立て続けた性交の疲労と酔いで深い眠りに落ちているらしい。
「……じゃあ、何か? 俺はこの先一生姉ちゃんを抱くことは叶わないってことか?」
あれだけの事を言われて、ショックがなかったわけじゃないのに、何故か俺の気持ちは凪いでいた。
賢者モードってわけじゃないと思うけど、何だかこの猫たちが必死になって俺を除外しようとする気持ちも理解できたし、ここで口論したって…何もならないと分かってたから。
だからって、このまま黙って退場なんてしてやんねーけどな。
姉の体を汚すように撒き散らされた俺の体液を全て消し去られ、全裸のままスースーと寝息をたてる顔は、幼い頃見た時のままに見える。
ベッドの隅で丸まっていたシーツを小さくなった手で引き寄せ、そっと姉の上に掛けてやると、猫はトンと姉の腹の上に顎を乗せた。
思いの丈をぶち撒けたせいか、その顔は毒気が抜けてスッキリしてるように見えた。
いつの間にか――って言っても、さっき放った精液にも魔力が籠もっていたのだから不思議でもなんでも無いのだが、俺の体はやっぱり縮んでいる。
そして今、姉の傍らで寝そべる俺の体は、姉の半分程の大きさしかないため、すっぽりとその腕の中に収めることができた。この感じは、小学校低学年位だろうか。
『……命を賭ければ、一回位なら…ってことニャ。――ていうか、子作りを伴わない性交など、ただの戯れニャ。
正気のご主人が『弟』であるお前と子作りすることを肯定するとも思えないニャ―――…』
「だからこそ、俺のことを見逃して来たってわけか。……動物は、即物的なだけに寛大……なのかね?」
『フン……お前の魔力や匂いがご主人と類似していたから、そんなに不快な匂いにならなかったニャ。
それに、お前への態度は、『子』に対するそれにしか見えニャかっただけニャン。
……ただ、そのたった一回でご主人が『弟』を殺すニャ。……流石に図太いご主人でも―――それは、心を壊すかもしれニャいので、推奨はできないニャ。
ただ、ご主人が壊れても―――吾輩は同じ様に愛せるから、命令に反する程のことでも無いのニャ』
「………ゴム使えば……」
『……それが何かわからニャいけど、それはこの辺り一体を崩壊させるに足る魔力を防ぐ力があるモノなのニャ?』
「………針一本で致命傷になる物じゃ無理か………。
いくら現代技術の粋を集めたとは言え、うすうすの0.01㎜に姉ちゃんの心の安定や俺の命は賭けられねぇな……」
『…ホント、何言ってるかよくわからニャいが……お前……あんなに嫌がられておきながら、まだ―――…』
「うっせぇ……あれのどこが嫌がってんだよ。泣きながら悦がって腰振ってたじゃん―――って、酒のせいって分かってるって。
……とは言え、取り敢えず、自分の力で大人のまま押し倒せるようになってからってのは、よく分かった」
『いや、その前にもう『弟』の『夫』なんて必要とされてニャいってあれほど―――…』
「それこそ、巨大なお世話だって―――………」
などなど―――何故か、セックス直後に相手の女ではなくペットの猫とピロートークを交わすという、おかしな事態になっていたのだが、俺達は穏やかに…されど有る種奇妙な連帯を持って言葉を交わしあっていた。
『ひょっとしたら、お前はご主人の強い願いによって引き寄せられたのかもしれニャいが……ムニャムニャ……』
日がな一日昼寝しているような猫が眠りに落ちながら言った言葉は、耳に入っていても脳には留まらずに通り過ぎていく。
そして、それと同じ様に、幼くなった俺も姉ちゃんの温もりに包まれつつウトウトと、両目を閉じようとしていたその時だった。
スヤスヤと眠りに落ちていたはずの姉が突然カッと目を見開いた気配に覚醒し、クククと低い笑い声の不気味さに、俺はビクッと体を震わせた。
ただまっすぐに俺の瞳を見つめる姉の目は……まるで深淵を覗き込んだ様に昏い。
「………姉の部屋に女引っ張り込んでヤッてる男なんか、弟じゃ無ければブッ殺なんだよ………」
……一瞬、何を言われたのか分からなかった。
誰の話を…と言うには、身に覚えがある話だったけども、それがいつの時のことだったか、思い出すのに時間が掛かる。
しかし、大きく瞳孔が開き、闇の様に昏い瞳に見つめられ続けると、何故か言い訳の言葉も浮かばなくて、
「えっと……あの……いつのことだったかアレですが……なんていうか、スミマセン……」
ダラダラとよくわからない汗が額や背筋を滑り落ちていくが、妙なプレッシャーに圧されて俯きながら只管謝った。すると―――
「………ムニャムニャ……」
ふと体にのしかかっていた圧が解かれて顔を上げると、谷底から響くような声を震わせていた姉は、薄い腹の上に顎を乗せて寝そべる猫と同じ様なうわ言を言いながら、再び目を閉じて眠りについていた。
そのあまりにも呑気な寝顔と、それまでの雰囲気の格差に、俺は一瞬夢でも見ていたのかと思った。
「…………何アレ? ………なんかよくわからん…。けど……疲れたな…。
ふぁあ……俺も寝るわ……」
今日はあまりにも色々な事が起きすぎた。
精神的にも、肉体的にも。
取り敢えず、もうこれ以上考えるのは無理なので、寝ることにする。
あれだけ好き放題やっておきながらと思うけども、最終的には姉の腕の中で眠りに落ちる幸福は、やっぱり捨てられない…と思いながら。
結局どうあっても、俺って末っ子気質なんだろうな…とか考えながら、そのまま意識が無くなっていった。
そうして、今日という長い長い一日が幕を閉じたのだった。
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